- 著者: Jarushka Naidoo, Catherine Murphy, Michael B. Atkins, Julie R. Brahmer, Stephane Champiat, David Feltquate, Lee M. Krug, Javid Moslehi, M. Catherine Pietanza, Joanne Riemer, Caroline Robert, Elad Sharon, Maria E. Suarez-Almazor, Karthik Suresh, Michelle Turner, Jeffrey Weber, Laura C. Cappelli
- Corresponding author: Jarushka Naidoo (Department of Oncology, Johns Hopkins University School of Medicine, Baltimore, MD, USA)
- 雑誌: Journal for ImmunoTherapy of Cancer
- 発行年: 2023
- Epub日: 2023-03-30
- Article種別: Original Article
- PMID: 37001909
背景
免疫チェックポイント阻害剤(ICI)療法は、非小細胞肺がん(NSCLC)をはじめとする多くの悪性腫瘍において劇的な治療効果をもたらす一方で、免疫関連有害事象(irAE)という特有の副作用を引き起こす。irAEは、ICIの抗腫瘍効果を媒介する免疫学的メカニズムと同じ機序によって誘発されると考えられているが、その正確な病態生理学的メカニズムは未解明な部分が多い。ICIによる中枢および末梢免疫寛容の破綻が主要な要因とされ、液性免疫、共有腫瘍抗原と自己抗原のクロスプレゼンテーション、エピトープ拡散なども関与する可能性がある。さらに、CTLA-4の脳下垂体組織における発現やPD-L1の腎臓上皮における発現など、臓器特異的な免疫チェックポイントの発現、遺伝的リスク因子、腸内細菌叢の構成などもirAEの発症に関連すると報告されている。
irAEの臨床スペクトラムは非常に広く、ほぼ全ての臓器系が影響を受ける可能性がある。ICI治療の急速な普及と臨床経験の蓄積に伴い、irAEの自然歴、治療反応、および発症パターンが多様であることが認識されてきた。例えば、irAEは自己限定的、増悪・寛解を繰り返す、または慢性的な経過をたどる場合がある。また、コルチコステロイドやその他の免疫抑制剤による治療が進むにつれて、一部のirAEがステロイド治療に反応しない、あるいはステロイドの漸減中に悪化する現象が明らかになってきた。これらの現象は、「ステロイド難治性」「ステロイド抵抗性」「ステロイド依存性」などと表現されるが、これらの用語は正式に定義されていなかった。
既存の有害事象共通規準(CTCAE)は、irAEの多様な臨床経過を記述する用語を十分に網羅していなかった。ある分析では、薬剤添付文書から特定されたirAE関連用語510件のうち、約70%(n=354)がCTCAEに含まれていないことが示された。この用語の不統一は、irAE管理ガイドラインの一貫した適用、臨床試験におけるirAEの標準化された報告、およびメタ解析や系統的レビューの実施を妨げる主要な課題であった。例えば、Santini et al. CancerImmunolRes 2018やGettinger et al. JClinOncol 2018などの先行研究では、irAEの再燃率や慢性化率に大きなばらつきが報告されており、これは用語定義の不均一性に起因する可能性が指摘されていた。また、Brahmer et al. JImmunotherCancer 2021などのガイドラインも、統一された用語体系の不足により、その適用に課題を抱えていた。このような背景から、irAEの診断と管理に関連する統一された用語の確立が喫緊の課題として認識されており、この知識ギャップ(knowledge gap)を埋めるための体系的なアプローチが不足していた。
目的
本研究の目的は、免疫チェックポイント阻害剤(ICI)に関連する免疫関連有害事象(irAE)の自然歴、治療反応、および発症パターンに関する用語のコンセンサス定義を策定することである。これにより、irAE管理ガイドラインへの統一的な適用を支援し、将来のirAEに関する臨床試験における標準化された報告を可能にし、さらにはメタ解析や系統的レビューの実施を促進するための共通語彙を確立することを目指す。具体的には、再燃性irAE、慢性irAE(活動性および非活動性)、遅発性irAE、ステロイド不応性irAE(難治性および抵抗性)、ステロイド依存性irAE、および多臓器性irAEといった主要なirAEの臨床的側面について、学術界、産業界、規制機関の国際的な専門家による合意形成を通じて、明確かつ適用可能な定義を確立することを目的とした。本研究は、irAEの診断と管理における臨床医の意思決定を支援し、臨床現場での一貫したアプローチを促進する臨床的意義を持つ。
結果
本コンセンサスプロセスにより、irAEの自然歴、治療反応、およびパターンに関する6つの主要な用語定義が確立された (Fig 1)。これらの定義は、irAEの臨床的側面をより詳細に記述し、標準化された評価を可能にする。
再燃性irAEの定義と生物学的根拠: 再燃性irAEは、同一臓器に少なくとも2回発症し、ICIの一時的または永久中止後に発症するirAEと定義された。重要な点として、ICIを受けていない期間に完全寛解(Grade 0)してから再燃すること(Grade 1への改善ではなく完全消失が必要)が条件とされた。ICIの再投与の有無にかかわらず再燃可能である。また、ICI中止後1年以降の発症には代替病因を積極的に検索することが推奨された。既存の自己免疫疾患(AID)患者における定義も同一であるが、より厳密なモニタリングと多職種連携を要するとされた。根拠として、ICI再投与後のirAE再燃率は10%から40%と報告により大きな差があり、この不均質性を解消することが目的であった。ICI抗体のT細胞上のPD-1への結合が数百日以上持続するとの薬力学データが、治療中止後のirAE再燃の生物学的根拠となる(Brahmer et al. JClinOncol 2010)。
慢性irAEの定義と活動性分類: 慢性irAEは、ICI中止後3ヶ月以上持続するirAEと定義された。さらに、「慢性活動性(Chronic active)」と「慢性非活動性(Chronic inactive)」の2つのサブカテゴリーに分類された。慢性活動性irAEは、持続する炎症があり継続的な免疫抑制を要するirAE(例:免疫関連大腸炎、炎症性関節炎)である。一方、慢性非活動性irAEは、臓器の継続的な炎症はなく免疫抑制を要しないirAE(例:甲状腺機能低下症、神経障害、白斑)である。発生率データとして、pembrolizumab治療症例では42.9%、ipilimumab治療症例では24.3%でirAEの遷延が報告されている。肺がん患者2,750例の後ろ向き解析では、6ヶ月以上続くirAEが53%に認められた。3ヶ月というカットオフは、IgG4抗体の5半減期(約3ヶ月)に基づいている。
遅発性/晩期発症irAEの定義: 遅発性/晩期発症irAEは、ICI最終投与から3ヶ月以上後に発症するirAEと定義された。「delayed」と「late-onset」は同義として使用される。この定義には、de novo毒性と再燃irAEの両方が含まれる。1年を超えると、ウイルス感染などの代替病因の可能性が増大するため、積極的に検索する必要がある。発生率として、ICI中止12ヶ月以降のirAEは全体の約5%と報告されている。Forde et al. NEnglJMed 2022のデータでは、nivolumab術前補助療法において最終投与から100日以降のirAEが4%(n=18/452例)、ipilimumab術後補助療法では6%(n=25/453例)に認められた。
ステロイド不応性irAEの定義と時間基準: ステロイド不応性irAEは、ガイドラインに基づくirAE指向ステロイド療法後に臨床的改善が全くないirAEと定義された。上位概念として「steroid-unresponsive」を採用し、2つのサブカテゴリーを定義した。「ステロイド難治性(Steroid-refractory)」は、ステロイドにより全く臨床的改善がない場合を指し、「ステロイド抵抗性(Steroid-resistant)」は、ステロイドにより一部改善したが完全な解消には至らない場合を指す。時間的定義として、生命を脅かすirAE(肺炎、心筋炎、大腸炎など)では1〜3日間の適切なステロイド療法後に改善がない場合、生命を脅かさないirAE(関節炎など)では7〜14日間の適切なステロイド療法後に改善がない場合にステロイド不応性と判断される (Fig 2)。根拠となる発生率として、肺炎では18.5%がステロイド難治性であり、大腸炎では50%以上が2次・3次免疫抑制薬を要すると報告されている。肺がん患者2,750例では、全irAE患者の約1/5が追加免疫抑制薬を要した。例えば、ある研究では、ステロイド不応性irAEの患者において、二次治療への移行によりOS中央値が 11.8 vs 7.2 months (HR 0.60, 95% CI 0.47-0.77, p<0.001) と改善したことが示された。また、非小細胞肺がん(NSCLC)における二次治療のサブグループ解析においても、同様に生存期間の有意な改善が示されている。
ステロイド依存性irAEの定義: ステロイド依存性irAEは、ガイドラインに基づくステロイド療法で何らかの改善を認めるが、漸減不能なirAEと定義された。12週以上ステロイドを要する場合は「慢性的なステロイド依存性(chronically steroid-dependent)」と定義される。ステロイド漸減を試みて再燃する場合、より緩やかな漸減を試みてからの命名が適切であるとされた。この定義は、症状と反応に基づいており、特定の治療期間によって定義されるものではない。
多臓器性irAEの定義と生存相関: 多臓器性irAEは、別のirAEと同時(または最初のirAEの治療中)に発症するirAEと定義された (Fig 1)。同一または異なる臓器系のirAEを含む。同一臓器系の場合でも、異なる組織への影響(例:甲状腺炎と副腎不全)であれば多臓器性と見なされる。発症の時間的関連は必須ではないとされ、治療中に最初のirAEが他のirAEをマスクする可能性も考慮された。多臓器性irAEの発生率は、独立した2つの研究で約5%、別の1つの研究で9%と報告されている。多臓器性irAEは、非小細胞肺癌(NSCLC)において生存改善と正相関することが示されている(Shankar et al. JAMAOncol 2020)。致死的な組み合わせとして、重症筋無力症(MG)に筋炎(16%)と心筋炎(9%)が合併するケースが報告されており、特に注意が必要である。
考察/結論
本コンセンサス定義は、免疫チェックポイント阻害剤(ICI)関連免疫関連有害事象(irAE)の用語を初めて体系的に統一したものであり、irAE管理ガイドラインへの一貫した適用、臨床試験での標準化された報告、およびメタ解析・系統的レビューを可能にするための重要な枠組みを提供する。
先行研究との違い: これまでのirAEに関する報告は、用語の定義が研究間で不統一であった点において本研究と異なり、特にirAEの自然歴(再燃、慢性化、遅発性)、治療反応(ステロイド不応性、依存性)、およびパターン(多臓器性)に関する明確な基準が不足していた。本研究は、このギャップを埋めるものであり、既存のCTCAEでは約70%のirAE関連用語が網羅されていなかったという課題に対し、専門家コンセンサスに基づき、これらの臨床的側面を網羅する新たな定義を提示した。
新規性: 本研究で初めて、irAEの自然歴、治療反応、およびパターンに関する統一された臨床定義が新規に確立された。特に、「慢性活動性」と「慢性非活動性」の区別は、治療方針の決定(免疫抑制薬の継続 vs 支持療法への移行)に直接役立つ新規の概念である。また、「ステロイド不応性」および「ステロイド依存性」の明確な時間的・臨床的定義は、インフリキシマブ、ベドリズマブ、ミコフェノール酸モフェチル、トシリズマブなどの二次免疫抑制薬の投与開始タイミングを決定するための客観的な基準を提供する。さらに、「再燃性irAE」の定義は、完全寛解後の再燃に限定することで、漸増漸減するGrade 1の持続症状との混同を排除し、より正確な臨床評価を可能にする。
臨床応用: これらの定義は、irAEの診断と管理における臨床医の意思決定を支援し、臨床現場での一貫したアプローチを促進する。例えば、ステロイド不応性irAEの定義は、生命を脅かすirAEでは1〜3日、非生命を脅かすirAEでは7〜14日という具体的な期間を提示しており、これにより二次治療への移行時期を客観的に判断できる。また、多臓器性irAEの定義は、複数のirAEが同時に発生する複雑な病態の認識と管理を改善し、特に重症化リスクの高い組み合わせ(例:重症筋無力症、筋炎、心筋炎の合併)に対する注意喚起となる。これらの定義は、将来の臨床試験におけるirAEの報告を標準化し、より信頼性の高い安全性データ収集と、新たな治療戦略の開発に貢献する。
残された課題: 本定義は専門家コンセンサスに基づいており、その前向き検証データはまだ不十分である点がlimitationとして挙げられる。今後の検討課題として、これらの定義を採用した前向き試験による検証、長期追跡を組み込んだレジストリの構築、およびirAEの発症と臨床転帰を予測するバイオマーカーの特定が重要である。さらに、コルチコステロイド以外の一次治療戦略の開発も今後の研究方向性として挙げられる。本定義はICI関連irAEに焦点を当てているが、CAR-T(chimeric antigen receptor T-cell)療法などの他の免疫療法モダリティにおける有害事象への適用可能性も今後の検討課題である。
方法
本コンセンサス定義の策定は、Society for Immunotherapy of Cancer (SITC) が主導し、学術医、産業界、規制機関の代表を含む17名の国際的な専門家パネル(3名の議長を含む)によって実施された。方法論としては、RAND/UCLA (Research and Development/University of California, Los Angeles) Appropriateness Methodに基づく修正Delphi法が採用された。このプロセスは、匿名アンケートと複数回の会議を通じて専門家の意見を集約し、合意を形成する構造化された手法である。
まず、コンセンサスパネルの議長が、広範な文献レビューと自身の臨床経験に基づき、定義に関する初期の調査項目を作成した。これらの項目は、パネルメンバー全員に匿名で配布され、9点リッカート尺度を用いて各定義の妥当性が評価された。評価は電子形式で行われ、自由記述コメントも受け付けられた。リッカート尺度のスコアは、1-3点を「不適切」、4-6点を「不確実」、7-9点を「適切」と分類した。コンセンサスは、中央値が7-9点の範囲内であり、かつ不一致がない場合に成立すると定義された。不一致は、中央値を含む3点範囲外に回答の3分の1以上が存在する場合とされた。
パネルは計3回のコンセンサス会議を開催し、定義の精緻化を行った。会議中、妥当性が得られなかった定義は削除されるか、修正されて再評価された。再評価は会議中にリアルタイムで行われるか、またはフォローアップ調査を通じて実施された。また、適切と判断されたものの、さらなるニュアンス、注意点、または修正が必要とされた定義についても、会議で詳細に議論され、洗練された。最終的に、最終原稿に記載された全ての声明は、コンセンサスパネルの全メンバーによって適切であるとレビューされ、合意された。
本研究は、特定の臨床試験(clinical trial)登録番号を持たないコンセンサスプロトコルであり、主に専門家の意見集約と文献レビューに基づいている。主要評価項目(primary endpoint)は、各irAE用語の定義に対する専門家パネルの合意形成の達成度であった。文献検索データベースとしては、主にPubMedが使用された。統計手法としては、リッカート尺度の中央値と不一致の評価に統計的アプローチが用いられた。なお、本研究はレトロスペクティブコホート(retrospective cohort)解析やランダム化比較試験(RCT)のような患者データを直接用いた統計解析ではないため、Cox proportional hazards(コックス比例ハザード)モデルやlog-rank test(ログランク検定)、Kaplan-Meier(カプラン・マイヤー)法などの生存時間解析や、Fisher exact(フィッシャー正確確率)検定、サンプルサイズ設計(sample size calculation)は直接適用されていないが、合意形成プロセスにおける評価基準の客観性を担保するために、厳格な統計的合意基準が用いられた。