• 著者: Shankar B, Zhang J, Naqash AR, Forde PM, Feliciano JL, Marrone KA, Ettinger DS, Hann CL, Brahmer JR, Ricciuti B, Owen D, Toi Y, Walker P, Otterson GA, Patel SH, Sugawara S, Naidoo J
  • Corresponding author: Jarushka Naidoo (Beaumont Hospital, Dublin, Ireland)
  • 雑誌: JAMA Oncology
  • 発行年: 2020
  • Epub日: 2020-10-29
  • Article種別: Brief Report
  • PMID: 33119034

背景

ICI (immune checkpoint inhibitor: 免疫チェックポイント阻害剤) は進行 NSCLC (non-small cell lung cancer: 非小細胞肺癌) の治療において中心的役割を担う薬剤となった。KEYNOTE-001 試験では pembrolizumab が PD-L1 (programmed cell death ligand 1) 発現 NSCLC において持続的抗腫瘍効果を示した (Garon et al. NEnglJMed 2015)。CheckMate 017 および CheckMate 057 試験では nivolumab が2次治療の扁平上皮・非扁平上皮 NSCLC において docetaxel 比で生存を有意に改善し (Brahmer et al. NEnglJMed 2015Borghaei et al. NEnglJMed 2015)、CheckMate 227 試験では nivolumab + ipilimumab 併用が1次治療において長期生存改善をもたらした (Hellmann et al. NEnglJMed 2019)。

これらの試験を通じて、irAE (immune-related adverse event: 免疫関連有害事象) の発症が腫瘍種を超えて患者の生存率改善と関連することが多くのシリーズ研究・メタアナリシスで示されてきた。しかし、既報のメタアナリシスや系統的レビューは個々の単一臓器 irAE を中心に解析しており、複数の臓器系に同時あるいは逐次的に発症する multisystem irAE (多臓器免疫関連有害事象) の臨床パターン・発症率・生存への影響については知見が手薄であった。筋炎・心筋炎・重症筋無力症症候群の特定の危険な組み合わせが報告された程度であり、最も頻度の高い個別 irAE が複合した場合のパターンと予後への定量的寄与は未解明のままであり、この問いに答える大規模多施設コホートデータが不足していた。このギャップを埋めるため、本研究は世界5施設の多施設コホートを構築して multisystem irAE の包括的な特徴づけを行った。

目的

NSCLC 患者において ICI 治療中に発症する multisystem irAE のパターンを記述するとともに、生存 (PFS・OS) への関連性および multisystem irAE 発症リスク因子を特定すること。

結果

患者特性と irAE 発症率:623例の NSCLC 患者のうち 375例 (60%) が男性、480例 (77%) が白人であり、中央値年齢は66歳 (範囲 58-73歳) であった (Table 1)。治療種別は ICI 単独療法 527例 (85%)、ICI 併用療法 96例 (15%) で、anti-PD-1 薬が 593例 (95%)、anti-PD-L1 薬が 30例 (5%) を占めた。irAE 発症状況は irAE なし 417例 (67%)、単一 irAE 148例 (24%)、multisystem irAE 58例 (9.3%) であった。Multisystem irAE 発症例は irAE なし群と比べ、良好な ECOG (Eastern Cooperative Oncology Group) PS (performance status: パフォーマンスステータス) 0/1 の割合 (95% vs 82%、P=0.03)、ステージ IV の割合 (98% vs 88%、P<0.001)、疾患制御率 (CR (complete response) + PR (partial response) + SD (stable disease): 74% vs 28%、P<0.001)、ICI 治療期間中央値 (27.9 週 vs 10.1 週、P<0.001) においていずれも有意に高値であった。

多臓器 irAE のスペクトルと発症時期:ICI 単独療法患者における単一 irAE で最も頻度が高かったのは肺臓炎 (pneumonitis: n=64、12%)、甲状腺炎 (thyroiditis: n=53、10%)、皮膚炎 (dermatitis: n=47、9%) であった。Multisystem irAE を発症した患者の 78% (n=40) が2臓器の irAE を有し、最初に発症した irAE は甲状腺炎 (n=22、38%) と皮膚炎 (n=13、22%) が多かった。ICI 単独療法における最も一般的な multisystem irAE パターンは肺臓炎+甲状腺炎 (n=7、14%)、肝炎+甲状腺炎 (n=5、10%)、皮膚炎+肺臓炎 (n=5、10%)、皮膚炎+甲状腺炎 (n=4、8%) であった (eFigure 3A)。ICI 開始から最初の irAE 発症までの中央値は1.6ヶ月 (範囲 0-36.7ヶ月)、第2の irAE 発症までは3.25ヶ月 (範囲 0-20ヶ月) であり、すべての multisystem irAE は逐次的に発症し、同時発症例はなかった。単一 irAE と multisystem irAE 群間で最初の irAE 発症時期に有意差はなかった (中央値 1.6 vs 1.8ヶ月、P=0.51)。ICI 組み合わせ療法では multisystem irAE パターンに一貫した傾向は認めなかった (いずれも n=1)。

生存アウトカム (PFS・OS):多変量解析において、単一 irAE 発症例および multisystem irAE 発症例は irAE なし例と比べて段階的な生存改善を示した (Fig A, Fig B)。PFS について、multisystem irAE 群の中央値は10.9ヶ月 (95% CI 5.7-13.0ヶ月)、単一 irAE 群は5.1ヶ月 (95% CI 4.1-6.6ヶ月)、irAE なし群は2.8ヶ月 (95% CI 2.4-3.3ヶ月) であり、群間差は有意であった (P<0.001)。多変量モデルによる aHR (adjusted hazard ratio: 調整後ハザード比) は、単一 irAE vs なし 0.68 (95% CI 0.55-0.85、P=0.001)、multisystem irAE vs なし 0.39 (95% CI 0.28-0.55、P<0.001) であり、irAE 数の増加と PFS 改善の間に有意な正の関連 (HR 0.67、P<0.001) が認められた (eTable 4)。1年 PFS 率は multisystem irAE 群 44% (95% CI 31%-57%)、単一 irAE 群 28% (95% CI 21%-35%)、irAE なし群 16% (95% CI 12%-20%) であった (Fig A)。OS においても類似した段階的改善が観察された。中央値 OS は multisystem irAE 群 21.8ヶ月、単一 irAE 群 12.3ヶ月、irAE なし群 8.7ヶ月であった (Fig B)。多変量モデルでは multisystem irAE vs なし aHR 0.57 (95% CI 0.38-0.85、P=0.005)、単一 irAE vs なし aHR 0.86 (95% CI 0.66-1.12、P=0.26) であり、multisystem irAE 群のみが有意な OS 改善を示した。irAE 数の増加と OS 改善の間にも有意な関連 (HR 0.79、P=0.003) が示された (eTable 4)。ICI 治療期間を調整後も生存改善は持続し、これは multisystem irAE 発症患者が長い治療期間だけでなく高い治療効果も経験していることを示唆する。

多臓器 irAE 発症のリスク因子:多変量ロジスティック回帰において、multisystem irAE 発症の独立リスク因子として良好な ECOG PS (0/1 vs 2;aOR 0.27、95% CI 0.08-0.94、P=0.04) および ICI 治療期間の長さ (aOR 1.02、95% CI 1.01-1.03、P<0.001) が同定された (eTable 2)。組織型・性別・年齢・喫煙歴は多変量解析で独立した予測因子とはならなかった。anti-CTLA-4 併用療法は単変量では multisystem irAE 群で高頻度 (9% vs 単一 irAE 群 2% vs irAE なし群 4%、P=0.01) であったが、多変量解析での独立性は確認されなかった。

感度分析と個別 irAE 寄与:Multisystem irAE を時変共変量として用いた感度解析、Hopkins/非 Hopkins の施設別層別解析、および ICI 単独療法限定解析のいずれにおいても主解析と一致した結果が得られた (eFigure 5-7、eTable 5-7)。個別 irAE と生存の関連を評価した探索的解析では、最も頻度の高い4つの irAE のうち下痢/大腸炎と皮膚炎が生存改善に主に寄与することが示唆された (eTable 8-9)。グレード分類別の解析では、全て低グレード (Grade <3) の irAE のみを有する患者と高グレード (Grade ≥3) を少なくとも1つ有する患者はともに PFS 改善を示したが、OS の有意な改善は全て低グレード irAE の群でのみ認められた (eTable 10、eFigure 8)。Schoenfeld 残差の検定では比例ハザード仮定は満たされていた。

考察/結論

本研究は NSCLC 患者における ICI 治療関連の multisystem irAE を多施設コホートで系統的に特徴づけた研究である。これまでの研究では個々の単一臓器 irAE の発症と生存改善の関連が報告されていたが、多臓器に逐次的に発症する multisystem irAE のパターンと生存への定量的寄与は明らかにされていなかった点でこれらの既報と異なる知見を提供している。ICI 単独療法において肺臓炎+甲状腺炎、肝炎+甲状腺炎、皮膚炎+肺臓炎、皮膚炎+甲状腺炎という複合パターンが特定され、これらは単一 irAE として最も頻度が高い臓器の組み合わせに一致することが示された。

新規の知見として本研究で初めて明確に示されたのは、multisystem irAE の発症が OS・PFS いずれにおいても irAE なし群と比べて有意かつ段階的な生存改善と関連し、この関連が ICI 治療期間を調整後も持続するという点である。単一 irAE では多変量 OS の有意差が認められなかった (aHR 0.86、P=0.26) のに対し、multisystem irAE では OS の有意な改善 (aHR 0.57、P=0.005) が確認されたことは、irAE が累積することで免疫系の活性化程度がより高く反映される可能性を示唆する。Das and Johnson (2019) のメタアナリシスは単一 irAE と抗腫瘍効果の正の関連を示したが、多臓器 irAE 発症が単一 irAE をさらに超えた生存利益と関連することは新規の発見である。また、multisystem irAE が HLA (human leukocyte antigen: ヒト白血球抗原) 遺伝型の多型や自己抗体の形成を介した共通の病態生理を持つ可能性も指摘されており、個別 irAE の組み合わせパターンの解釈において重要な示唆を与える。

臨床的意義として、multisystem irAE の発症は ICI 治療が高い免疫活性化をもたらしていることの一種のバイオマーカーと捉えられる可能性がある。臨床現場では、multisystem irAE が生じた際に単なる治療毒性として対症管理するだけでなく、治療継続の根拠となりうるシグナルとして解釈する視点が重要である。また、良好な ECOG PS と長期 ICI 継続が独立リスク因子として特定されたことは、実際の患者選択や治療計画立案においてモニタリング強化の対象患者を選定する指標を提供している。irAE 管理ガイドライン (ASCO・NCCN・SITC 各ガイドライン) に基づいた適切な irAE 対応と ICI 継続の意思決定において、multisystem irAE の存在が予後的意義を持つことを念頭に置いた臨床応用が求められる。

本研究には残された課題 (limitation) がいくつかある。まず multisystem irAE を発症した患者数は n=58 (9.3%) と少数であり、特定のパターン別解析では統計的検出力が制限される。後ろ向き観察研究であるため、選択バイアスや未測定交絡の影響を排除できず、また対象が主として白人 (77%) で男性 (60%) の ECOG PS 良好な患者に偏っているため、異なる人種・民族背景や低 PS 患者への結果の一般化には注意を要する。ICI 治療期間と irAE 発症の間には双方向の関連があり、「irAE が長い治療を可能にし、長い治療が irAE リスクを増す」という循環が解釈を複雑にする。今後の検討として、multisystem irAE の病態生理を解明する前向き研究、HLA 多型・自己抗体を含む予測バイオマーカーの探索、irAE パターン別の最適な管理アルゴリズムの開発、および multisystem irAE 発症後の免疫抑制療法が長期生存に与える影響の解析が求められる。

方法

本研究は2007年1月から2019年1月に世界5施設 (米国4施設、日本1施設) の academic center で実施した後ろ向きコホート研究である。対象は18歳以上、病理学的に確認されたステージ III/IV NSCLC を有し、抗 PD-(L)1 ICI を1回以上投与された患者。ICI 単独療法または ICI 併用療法 (抗 CTLA-4 (cytotoxic T-lymphocyte-associated antigen-4) 併用・化学療法併用・その他の実験的併用を含む) いずれも対象とした。各施設の IRB (institutional review board: 施設審査委員会) が同意免除を承認した。

irAE は担当腫瘍医が代替診断を除外したうえで、(1) 病理学的証拠、(2) ≥2名の腫瘍医による多職種判定、(3) irAE 指向治療による臨床改善、のいずれかに基づき優先順位をつけて定義した。Multisystem irAE は複数臓器系に関わる irAE と定義した。

主要エンドポイントは PFS (progression-free survival: 無増悪生存期間) および OS (overall survival: 全生存期間)。Kaplan-Meier 法で中央値生存を推定した。irAE 群間の PFS・OS の差異は多変量 Cox 比例ハザード回帰で評価した。ICI 開始から最初の irAE 発症までの時間は Wilcoxon rank-sum test で単一 irAE vs multisystem irAE 群間を比較した。Multisystem irAE の発症リスクは多変量ロジスティック回帰で調整後オッズ比 (aOR: adjusted odds ratio) として推定した。感度分析として、(1) multisystem irAE を時変共変量として用いた解析、(2) 施設 (Hopkins/非 Hopkins) 別層別解析、(3) ICI 単独療法限定解析の3つを実施した。Schoenfeld 残差で比例ハザード仮定を検証した。