• 著者: David Andrew Bender, Samuel P Heilbroner, Tony J C Wang, Catherine A Shu, Brigham Hyde, Catherine Spina, Simon K Cheng
  • Corresponding author: Simon K Cheng (Department of Radiation Oncology, Columbia University Irving Medical Center, New York City, New York, USA)
  • 雑誌: Journal for ImmunoTherapy of Cancer
  • 発行年: 2020
  • Epub日: 2020-09-14
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 33303578

背景

免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) は、CTLA-4、PD-1、PD-L1を標的とする薬剤であり、進行性悪性腫瘍に対する重要な治療選択肢として確立されている。しかし、これらの強力な免疫調節薬は、重篤かつ致死的な免疫関連有害事象 (irAE) を引き起こす可能性があり、その管理は臨床上の大きな課題である。そのため、自己免疫疾患 (AID) のような既存の合併症を有する患者へのICI療法適用には慎重な検討が求められる。主要な臨床試験では、安全性への懸念とデータ不足から、AID患者は一般的に除外されてきた経緯がある。しかし、実臨床においては、がん患者の約10%から25%がAIDを合併していると推定されており、これらの患者がICI療法を受ける機会は少なくないことが Khan et al. JAMAOncol 2016 によって報告されている。

これまでの複数の後ろ向き研究では、AID患者におけるICI関連irAEの発症率が非AID患者と比較して高いことが示唆されている。例えば、Johnson et al. JAMAOncol 2016Menzies et al. AnnOncol 2017 は、メラノーマ患者を対象とした研究で、AID合併患者におけるirAEの発生が一般的であることを報告している。また、Tison et al. ArthritisRheumatol 2019 による全国多施設共同コホート研究では、AID患者におけるICIの安全性と有効性が検討された。さらに、Abu-Sbeih et al. JClinOncol 2020 は、既存の炎症性腸疾患 (IBD) を有する患者において、消化器系irAEの発生率が有意に高いことを報告している。しかし、これらの研究は主にirAEの発症率や管理に焦点を当てており、大規模な医療請求データベースを用いて、AID合併がん患者におけるICI後の免疫抑制薬使用率や入院率といった実際の医療資源利用の増加を定量的に比較したリアルワールドデータはこれまで不足していた。そのため、実臨床におけるAID合併患者の管理実態、特に重症化に伴う医療負荷については未解明な点が残されており、このギャップを埋めることが本研究の目的である。

目的

本研究は、大規模な医療請求データベースであるDecision Resources Group (DRG) を利用し、自己免疫疾患 (AID) を有するがん患者と有さないがん患者において、免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) 療法開始後180日以内の免疫抑制薬 (経口プレドニゾン、IVメチルプレドニゾロン、ステロイド温存薬) の使用率および全原因入院率を比較することを目的とする。これにより、AID合併患者におけるICI療法の毒性リスクと医療資源への影響をリアルワールドデータに基づいて評価することを目指した。

結果

本研究では、2010年から2017年の期間にDecision Resources Group (DRG) データベースから特定された、肺がんまたはメラノーマと診断され免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) 療法を受けた患者集団について、自己免疫疾患 (AID) 合併の有無による免疫抑制薬の使用率および入院率が詳細に解析された。

患者背景と全体像: データベースからICI療法を受けた肺がんまたはメラノーマ患者19,693例が特定された (Figure 1)。医療請求解析の最終的な対象患者はAID群284例、非AID群3,230例であった (Table 1A)。医療-薬局請求解析 (経口プレドニゾン使用率の評価に用いられた) の対象患者はAID群124例、非AID群1,896例であった (Table 1B)。医療請求解析対象患者の8.1%、医療-薬局請求解析対象患者の6.1%が少なくとも1つのAIDを有していた。AID群におけるAIDの主な内訳は関節リウマチ (RA)、乾癬、炎症性腸疾患 (IBD)、シェーグレン症候群などであった (eTable 3)。がん種別では、医療請求解析においてメラノーマ患者がAID群127例、非AID群1,499例と最も多く、次いで肺がん患者がAID群109例、非AID群1,327例であった。ICI種別では、PD-1/PD-L1阻害薬 (nivolumab, pembrolizumab) が多数を占め、イピリムマブの投与回数中央値はPD-1阻害薬と比較して低く、PD-1阻害薬で2~5回であったのに対し、イピリムマブでは各サブグループで1回であった。肺がん患者に対するイピリムマブ単独療法は、解析期間中に承認されていなかったため、解析対象外とされた。

PD-1阻害薬投与後の免疫抑制薬使用率の増加: PD-1阻害薬の投与を受けた全がん種統合解析において、AID群は非AID群と比較して、ICI投与後180日以内の免疫抑制薬の使用率が有意に高かった (Figure 2)。経口プレドニゾン使用率はAID群で16.7% (16/96例) であったのに対し、非AID群では8.6% (131/1573例) であり、AID群で約1.9倍の有意な増加が認められた (p=0.0048)。IVメチルプレドニゾロン使用率はAID群で8.4% (16/190例) であったのに対し、非AID群では3.7% (81/2191例) であり、AID群で約2.3倍の有意な増加が認められた (p=0.0012)。ステロイド温存薬 (経口免疫抑制薬や生物学的製剤) の使用率もAID群で非AID群より高い傾向が示されたが、統計的有意差は報告されていない。これらの結果は、AID合併患者がPD-1阻害薬治療後にirAE管理のために、より頻繁に免疫抑制療法を必要とすることを示唆している。

がん種・ICI種別サブグループにおける免疫抑制薬使用率の差異: がん種およびICI種別のサブグループ解析でも、AID群における免疫抑制薬使用率の増加傾向が認められた (Table 2)。メラノーマのPD-1阻害薬群では、経口プレドニゾン使用率がAID群で24.0% (6/25例) と、非AID群の9.9% (32/323例) と比較して有意に高かった (相対リスク [RR]=2.4, p=0.03)。肺がんのPD-1阻害薬群では、IVメチルプレドニゾロン使用率がAID群で11.0% (15/136例) と、非AID群の4.3% (74/1711例) と比較して有意に高かった (RR=2.6, p=0.0004)。興味深いことに、イピリムマブ単独療法を受けたAID患者では、PD-1阻害薬を受けた患者と比較してコルチコステロイド治療および入院率が低い傾向が認められた (Table 2, Table 3)。これは、イピリムマブの既知の毒性プロファイルにより、医療提供者が処方や継続に慎重になり、結果として治療サイクルが少なくなり毒性が軽減された可能性が考えられる。

入院率の顕著な増加とICI中止との関連: ICI投与後180日以内の全原因入院率も、AID群で有意な増加が認められた (Table 3)。メラノーマのPD-1阻害薬群では、AID群の入院率は24.1% (13/54例) であったのに対し、非AID群では5.8% (28/480例) であり、AID群で約4.2倍の顕著な増加が認められた (RR=4.2, p<0.0001)。メラノーマのイピリムマブ-ニボルマブ併用療法群では、AID群の入院率は42.9% (3/7例) であったのに対し、非AID群では9.8% (4/41例) であり、AID群で約4.4倍の有意な増加が認められた (RR=4.4, p=0.0234)。肺がんのPD-1阻害薬群では、AID群の入院率は38.2% (52/136例) であったのに対し、非AID群では32.5% (556/1711例) であり、AID群で約1.2倍の増加が認められた (p<0.05)。全がん種統合解析では、PD-1阻害薬投与後の入院率はAID群で34.2% (65/190例)、非AID群で26.1% (572/2191例) であり、AID群で有意な増加が認められた (RR=1.3, p<0.05)。IVメチルプレドニゾロン投与を受けた患者 (全がん種・ICI統合で109例) におけるICI初回投与日からIVメチルプレドニゾロン初回投与日までの期間中央値は79日であった。IVメチルプレドニゾロン投与後、68.9%の患者は同じICIの治療を再開しなかった。入院した患者の85.4%は、入院後に同じICI治療を受けなかった。これは、重篤な有害事象が入院やICI中止につながる可能性を示唆するが、医療請求データのみからは直接的な因果関係を断定することはできない。また、個々の自己免疫疾患の種類によるコルチコステロイド使用率や入院率の傾向は認められたものの、各疾患のサンプルサイズが限られていたため、詳細な解釈には限界がある (eTable 3)。

考察/結論

本研究は、大規模な医療請求データベースを用いて、自己免疫疾患 (AID) を合併するがん患者が免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) 療法を受けた後に、非AID患者と比較して免疫抑制薬の使用率および入院率が有意に高いことをリアルワールドデータで初めて定量的に示した研究である。

① 先行研究との違い: これまでの多くの後ろ向き研究、例えば Johnson et al. JAMAOncol 2016Menzies et al. AnnOncol 2017Tison et al. ArthritisRheumatol 2019 は、主に腫瘍専門施設でのirAE発症率を報告してきた。これまでの報告と異なり、本研究は市中病院を含む広範な施設からの医療請求データを用いることで、より包括的な実臨床の安全性プロファイルを提示している。特に、メラノーマ患者のPD-1阻害薬使用時において、AID群の入院率が非AID群の約4倍 (24.1% vs 5.8%, RR=4.2, p<0.0001) に達したことは、AID合併患者における重篤な有害事象のリスクが顕著に高いことを強く示唆する。また、先行研究で炎症性腸疾患 (IBD) 患者における消化器系有害事象の増加が報告されているが、本研究はより広範なAID患者集団における全身性免疫抑制薬の使用と入院という、より広範な医療資源利用の増加を定量化した点で相違がある。

② 新規性: 本研究で初めて、AID合併がん患者におけるICI後の医療資源利用 (免疫抑制薬使用と入院) の増加を、大規模な医療請求データセットから定量的に評価した。これにより、従来の臨床試験では捉えきれなかった実臨床における医療負荷の側面が明らかになった。免疫抑制薬の使用をirAEの代理指標として用いることで、大規模なリアルワールドデータセットからICI毒性に対する臨床的反応を評価する新規なアプローチを提供した。特に、IVメチルプレドニゾロンの使用はより重篤な毒性、経口コルチコステロイドは中程度の毒性を示すと解釈できる。このアプローチは、限られた臨床データしかない状況下で、広範な患者集団におけるICIの安全性プロファイルを評価する上で新規な知見をもたらした。

③ 臨床応用: 本研究の結果は、AID合併がん患者へのICI投与を検討する際に、より厳格なリスク評価とモニタリング体制が必要であることを臨床現場に示唆する。ICI開始前には、腫瘍内科医とリウマチ科医による多職種カンファレンスを通じて、患者のAID活動性や重症度を考慮した個別化されたリスク評価を実施することが不可欠である。また、ICI開始後は、irAEやAIDフレアの早期発見と早期介入のために、定期的な診察、炎症マーカーのモニタリング、および患者への症状早期報告の徹底が求められる。重篤な有害事象が入院やICI中止につながる可能性が高いことから、これらの患者群では特に注意深い管理が臨床的に重要である。

④ 残された課題: 本研究にはいくつかのlimitationが存在する。第一に、医療請求データベースの性質上、irAEの重症度 (CTCAEグレード) や、irAEとAIDフレアの明確な区別、免疫抑制薬の投与適応 (irAE管理、AIDフレア管理、その他の理由) を識別することが困難である。第二に、ICI開始前のAID活動状態や免疫抑制薬使用状況に関する情報が不完全であるため、活動性AID患者と非活動性AID患者のリスクを層別化できなかった。先行研究では、活動性AID患者がirAEのリスクが高い可能性が示唆されており、この点は今後の検討課題である。第三に、後ろ向き研究であるため因果関係を断定することはできない。入院や免疫抑制薬の使用がICI毒性以外の要因 (がんの進行など) に起因する可能性も否定できない。特に、肺がん患者の入院率はメラノーマ患者よりも高かったが、コルチコステロイド使用率は同程度であったことから、入院が必ずしもICI毒性のみに起因するとは限らない。第四に、解析期間 (2010-2017年) におけるICI適応症の急速な拡大が、患者背景の多様性に影響を与えた可能性がある。また、データベースのデータ完全性に基づく組み入れ基準により、重篤な治療関連毒性により180日以内に死亡した患者が除外された可能性があり、これにより毒性発生率が過小評価されている可能性も残された課題である。今後は、前向きレジストリ研究を通じて、AIDの種類や活動性に基づいた入院リスク予測モデルを開発し、より個別化された治療戦略を確立することが求められる。

方法

本研究は、Decision Resources Group (DRG) 医療請求データベース (2010年3月から2017年4月までのデータ) を使用した後ろ向きコホート研究として実施された。DRGデータベースは、米国全土の市中病院および学術施設から収集された医療請求データ、電子カルテデータ (入院および外来)、および薬局/薬剤データの組み合わせを含む大規模な患者データベースである。患者情報は匿名化されており、研究利用のために提供された。

対象患者の特定と分類: データベースから、悪性黒色腫 (メラノーマ) または肺がん (非小細胞肺がん [NSCLC] および小細胞肺がん [SCLC]) の診断を受け、かつ免疫チェックポイント阻害薬 (ipilimumab, nivolumab, pembrolizumab) のいずれかの投与記録を有する患者を特定した。腎細胞癌、膀胱癌、頭頸部癌の患者も含まれたが、主要解析はメラノーマと肺がん患者に焦点を当てた。医療請求解析の組み入れ基準として、最初のICI投与日の60日前までに少なくとも1件の請求記録があり、最後のICI投与日の180日後までに少なくとも1件の請求記録がある患者が対象とされた。これにより、データベース内のICI投与患者全体の17.8%が医療請求解析に組み入れられた。 患者は、国際疾病分類第9版/第10版 (ICD-9/ICD-10) 診断コードに基づいて既存の自己免疫疾患 (AID) を有するか否かで、AID群と非AID群に分類された (eTable 2)。特定のAIDに関連する診断コードがデータベース内に1件でもあれば、その患者は当該AIDを有すると仮定された。AIDの定義には、関節リウマチ (RA)、乾癬、炎症性腸疾患 (IBD)、シェーグレン症候群、多発性硬化症、自己免疫性甲状腺炎などが含まれる。イピリムマブとニボルマブの併用療法を受けた患者は、両薬剤の請求日が30日以内である場合に併用療法群と定義された。

評価項目と解析コホート: 主要評価項目は、ICI開始後180日以内の以下のイベントの発生率とした。

  1. 経口プレドニゾンの処方: 薬局請求データを含む医療-薬局請求解析で評価された。この解析には独自の組み入れ基準が適用され、免疫療法期間薬局重複 (Immunotherapy Period Pharmacy Overlap; IPO) 値が0.4を超える患者が対象とされた。これは、薬局請求データが治療期間を十分にカバーしていることを確認するためである。この基準により、データベース内のICI投与患者全体の10.3%が医療-薬局請求解析に組み入れられた。
  2. IVメチルプレドニゾロンの投与: 医療請求解析で評価された。
  3. ステロイド温存薬の処方: 経口メトトレキサート、アザチオプリン、ミコフェノール酸モフェチル、ヒドロキシクロロキン、生物学的製剤 (TNF阻害薬、IL-6阻害薬、vedolizumabなど) が含まれた。
  4. 全原因入院: 医療請求解析で評価された。

ICI投与前の免疫抑制療法使用の有無にかかわらず、患者は解析に含められた。医療-薬局請求解析と医療請求解析では、異なる組み入れ基準が適用されたため、解析対象患者集団が異なっている。医療請求解析の最終的な対象患者はAID群284例、非AID群3,230例であった (Table 1A)。医療-薬局請求解析 (経口プレドニゾン使用率の評価に用いられた) の対象患者はAID群124例、非AID群1,896例であった (Table 1B)。

データ解析: 免疫抑制薬の使用率と入院率は、がん種別 (メラノーマ vs 肺がん) およびICI種別 (抗CTLA-4阻害薬 [ipilimumab] vs 抗PD-1/PD-L1阻害薬 [nivolumab, pembrolizumab]) によるサブグループ解析も実施された。群間比較にはN-1カイ二乗検定が用いられた。サービスの実際の日付の代わりに、請求支払日をサービス日として代用した。全ての解析はMATLABソフトウェア (Mathworks, Natick, Massachusetts, USA) を用いて実施された。