• 著者: Hamzah Abu-Sbeih, David M. Faleck, Biagio Ricciuti, Robin B. Mendelsohn, Abdul R. Naqash, Justine V. Cohen, Maclean C. Sellers, Aanika Balaji, Guy Ben-Betzalel, Ibraheim Hajir, Jiajia Zhang, Mark M. Awad, Giulia C. Leonardi, Douglas B. Johnson, David J. Pinato, Dwight H. Owen, Sarah A. Weiss, Giuseppe Lamberti, Mark P. Lythgoe, Lisa Manuzzi, Christina Arnold, Wei Qiao, Jarushka Naidoo, Gal Markel, Nick Powell, Sai-Ching J. Yeung, Elad Sharon, Michael Dougan, Yinghong Wang
  • Corresponding author: Yinghong Wang (The University of Texas MD Anderson Cancer Center)
  • 雑誌: Journal of Clinical Oncology
  • 発行年: 2020
  • Epub日: 2019-12-04
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 31800340

背景

免疫チェックポイント阻害剤(ICI)は、細胞傷害性Tリンパ球抗原-4(CTLA-4)、プログラム細胞死1(PD-1)、およびプログラム細胞死リガンド1(PD-L1)を標的とし、メラノーマや非小細胞肺癌(NSCLC)を含む様々な進行癌患者の生存期間を延長する上で有効性が示されているHodi et al. NEnglJMed 2010。しかし、これらの治療は、免疫関連有害事象(irAE)と呼ばれる広範な炎症性毒性を引き起こす可能性があり、これには消化管(GI)に関する副作用も含まれるPostow et al. JClinOncol 2015。irAEはあらゆる臓器系に影響を及ぼし、ICI療法の継続を制限し、稀に致死的となる場合もある。irAEの分子メカニズムや細胞メカニズムは十分に理解されておらず、その発症を予測する危険因子も未解明な点が多い。特に、既存の自己免疫疾患を有する患者は重篤なirAEを発症するリスクが高いとの懸念から、これまでICIの臨床試験から系統的に除外されてきた。

小腸および大腸粘膜の炎症(免疫介在性腸炎)は、CTLA-4またはPD-1/PD-L1阻害に関連する最も一般的な有害事象の一つである。免疫介在性腸炎は、潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患(IBD)に類似した多くの特徴を持つ、明確な臨床的および病理学的実体である。CTLA-4およびPD-1/PD-L1がIBDにおいて果たす役割は不明確な点が多い。CTLA-4のハプロ不全は、GI管を含む臓器の重篤な炎症と関連しておりKuehn et al. Science 2014、CTLA-4遺伝子の多型はアジア人集団における潰瘍性大腸炎のリスクと関連付けられている。PD-1およびPD-L1は結腸上皮細胞によって発現され、IBD患者ではPD-1/PD-L1の表面発現がより高いため、潜在的な制御機能が示唆される。

いくつかのメタアナリシスでは、既存の自己免疫疾患を有する患者において、CTLA-4阻害剤イピリムマブまたはPD-1/PD-L1阻害剤によるICI療法は、活動性が低いか未治療の場合には概ね安全であることが示唆されているJohnson et al. JAMAOncol 2016Menzies et al. AnnOncol 2017Leonardi et al. JClinOncol 2018。しかし、これらの報告は、報告された自己免疫疾患間の異質性によって限界がある。既存のIBDを有する患者におけるICI療法後のGI有害事象のリスクは、これまでの少数の研究では低いとされてきたが、患者数が少なく、既存のIBDの臨床的特徴が不十分であったため、これらの知見の一般化可能性は限定的であった。特に、より活動性の高いIBDを有する患者におけるデータが不足しており、この領域には依然として知識のギャップが残されている。IBD患者は、ICIの適応となるいくつかの悪性腫瘍のリスクが高いことから、ICI療法がIBD患者にどのように影響するかを理解することは極めて重要であり、これらの免疫制御経路がIBDにおいて果たす役割をさらに解明する可能性がある。

目的

本研究の目的は、既存の炎症性腸疾患(IBD)を有するがん患者において、免疫チェックポイント阻害剤(ICI)療法に伴う消化器(GI)有害事象のリスクと特徴を評価することである。具体的には、ICI療法後のGI有害事象の発生率、重症度、関連するリスク因子、および治療転帰を明らかにすることを目的とした。本研究は、既存のIBDを有する患者におけるICI療法の安全性プロファイルをより詳細に理解し、臨床現場での意思決定を支援するための重要な情報を提供することを目指す。特に、重篤なGI有害事象の発生率とその要因を特定し、適切な管理戦略の策定に貢献することが期待される。

結果

患者特性とIBDの背景: 本研究には、CTLA-4またはPD-1/PD-L1阻害剤によるICI療法を受けたがんおよびIBD患者102名が組み入れられた(Table 1)。患者の年齢中央値は65歳(IQR 54-74歳)で、男性が68%を占めた。ほとんどの患者(83%)はPD-1/PD-L1阻害剤単剤療法を受けていた。IBDの内訳は、クローン病が49名(48%)、潰瘍性大腸炎が49名(48%)、分類不能が4名(4%)であった(Table 2)。最後の活動性IBDエピソードからICI療法開始までの中央値は5年(IQR 3-12年)であった。患者の42%はICI療法開始前3ヶ月以内にIBD治療を受けていなかった。ICI療法前の内視鏡データが利用可能であった患者48名のうち、29名(60%)は直近の内視鏡検査で正常所見を示しており、内視鏡検査からICI療法開始までの中央値は17ヶ月であった。

GI有害事象の発生と重症度: 102名の患者のうち、42名(41%)がICI療法開始後中央値62日(IQR 33-123日)でGI有害事象を発現した(Table 3, Appendix Fig A1)。この発生率は、既存のIBDを持たない対照群のGI有害事象発生率11%と比較して有意に高かった(p < .001)。GI有害事象を発現した患者のうち23名(23%)は、GI有害事象のためにICI療法を中止した。下痢を経験した41名のうち、半数(51%)がグレード3または4のピーク下痢を経験した。大腸炎を経験した37名のうち、17名(46%)がグレード3または4のピーク大腸炎を経験した。ほとんどの患者(76%)がグルココルチコイド治療を受け、29%がインフリキシマブまたはベドリズマブを含む治療強化を必要とした。GI有害事象による死亡は記録されなかった。

結腸穿孔の発生と治療: 結腸穿孔は4名の患者(潰瘍性大腸炎2名、クローン病2名)に発生した。これらの患者のうち2名は保存的治療を受け、2名は外科的介入を必要とした。結腸穿孔を経験した患者は、穿孔前にインフリキシマブまたはベドリズマブなしでグルココルチコイド治療を受けていた。これらの4名のうち3名は抗PD-1/PD-L1単剤療法を受けており、1名は抗CTLA-4と抗PD-1/PD-L1の併用療法を受けていた。この穿孔発生率は、免疫介在性腸炎患者における既報の約2%と比較して高いことが示された。

GI有害事象の再発: GI有害事象を経験した42名の患者のうち、15名(36%)が初回エピソードの解決から中央値105日(IQR 53-209日)後にGI症状の追加エピソードを経験した。再発したGI有害事象の治療として、6名(40%)がコルチコステロイド、5名(33%)がインフリキシマブ/ベドリズマブの追加、4名(27%)が対症療法のみを受けた。

GI有害事象のリスク因子: 単変量解析では、抗CTLA-4療法(単剤療法または併用療法)が抗PD-1/PD-L1療法と比較してGI有害事象のリスク増加と関連することが示された(オッズ比 [OR] 3.19; 95% CI 1.08-9.48; p = .037)(Table 4)。その他の因子で有意な関連は認められなかった。多変量ロジスティック回帰分析では、いずれの変数も統計的有意性には達しなかったものの、抗CTLA-4療法(OR 4.72; 95% CI 0.95-23.53; p = .058)および結腸病変を伴うIBD(OR 3.61; 95% CI 0.85-15.27; p = .081)は、GI有害事象のリスク増加傾向を示した(Table 5)。ICI療法開始前3ヶ月以内に活動性IBDを有していた患者は、非活動性IBDの患者と比較して、より重度の下痢グレードを示した(p = .027)(Appendix Table A3)。ICI療法開始時にIBD治療を受けていた患者と受けていなかった患者の間で、GI有害事象の臨床的重症度に有意な差は観察されなかった(Appendix Table A4)。

がん治療の転帰: 本コホートでは、53名(52%)の患者がICI療法終了時に進行性疾患を示した。残りの患者は、安定疾患、完全奏効、または部分奏効を示した。ICI療法の臨床的ベネフィット率は、これまでの臨床試験で報告されている奏効率と一致しており、例えばメラノーマ患者におけるニボルマブの奏効率は40%程度と報告されているRobert et al. NEnglJMed 2015。GI有害事象によるICI療法の中止は23%の患者で発生したが、全体的な腫瘍制御効果はIBD非既往患者と同等であった。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、既存のIBDを有するがん患者におけるICI療法に伴うGI有害事象のリスクを検討した、これまでの報告の中で最大規模の多施設共同研究である点で、先行研究と異なる。これまでの後ろ向き解析では、IBD患者の数が少なく、IBDの病歴や診断評価に関する詳細なデータが不足していた。本研究では、IBDおよびGI有害事象に関するより詳細な臨床データを提供することで、IBDの診断を裏付け、選択バイアスの影響を低減し、結果の他の臨床状況への適用を容易にしている。

新規性: 本研究で初めて、既存のIBDを有する患者において、ICI療法後のGI有害事象の発生率が41%と、IBDを持たない患者の11%と比較して有意に高いことを示した(p < .001)。また、重度のGI有害事象(高グレードの下痢および大腸炎、インフリキシマブやベドリズマブの頻繁な必要性、外科的介入を要する結腸穿孔の高い発生率、頻繁な再発)が高いことも明らかになった。単変量解析では抗CTLA-4療法がGI有害事象のリスク増加と関連することが示され(OR 3.19; 95% CI 1.08-9.48; p = .037)、多変量解析でも有意な傾向が認められたことは新規の知見である。

臨床応用: 本知見は、既存のIBDを有するがん患者に対するICI治療の臨床応用に直結する。IBD患者は重篤なGI合併症のリスクが高いため、ICI療法中の患者を注意深くモニタリングし、GI有害事象の早期発見と治療開始を可能にすることの重要性が強調される。疑わしいGI毒性を発症したIBD患者の徹底的な評価は、適切な管理を確実にするために不可欠である。IBDを持たない患者においても、内視鏡的および組織学的評価は適切な管理の指針となる。重度の内視鏡的および組織学的所見を伴う免疫介在性腸炎患者では、インフリキシマブまたはベドリズマブの早期導入が転帰の改善と関連することが報告されており、本研究の知見はこれらの治療戦略の重要性を裏付けるものである。

残された課題: 本研究にはいくつかの限界が存在する。第一に、後ろ向き研究であるため、特に多くの患者の消化器ケアが本研究の癌センター外で提供されていたため、薬剤や内視鏡関連のデータ収集が不完全であった可能性がある。第二に、IBDがほとんどのICI臨床試験の除外基準であったため、ICI療法の決定は担当腫瘍医の裁量に委ねられており、標準化されていなかった。したがって、本コホートの大部分の患者は治療時に非活動性疾患であったため、重度の活動性IBD患者にICI療法が投与された場合、GI有害事象の発生率はさらに高かった可能性がある。第三に、免疫介在性腸炎とIBDの再燃との間に肉眼的および顕微鏡的類似性があるため、これらを区別することはできなかった。第四に、複数の施設からのデータは一般化可能性を高めるものの、治療基準は施設間で異なっており、これはGI有害事象の転帰に影響を与えた可能性がある。最後に、これまでの最大規模のコホートであるにもかかわらず、サンプルサイズは高度なサブグループ解析を行う能力を制限した。今後の研究では、腫瘍の種類やその他の共変量を制御した長期追跡調査を伴う前向き研究が必要である。また、IBD患者におけるGI有害事象の早期発見と管理方法についても、さらなる検討が求められる。

方法

本研究は、国際的な多施設後ろ向きコホート研究として実施された。2010年1月から2019年2月の間に、CTLA-4またはPD-1/PD-L1阻害剤による免疫チェックポイント阻害剤療法を受けた、がんおよび既存のIBDを有する患者を対象とした。この研究デザインは、ICI療法を受けたIBD患者のGI有害事象のリスクを評価することを目的としたretrospective cohort studyである。参加施設からの承認を得た後、統一されたデータ収集プロトコルを用いて、収集される変数の整合性を確保した。患者は、既存のIBDが明確に文書化されている(組織学的に証明されているか、IBD特異的治療を受けている)場合にのみ組み入れられた。適格患者の検索は、施設データベース(例:薬局、消化器内科、腫瘍内科、治験薬)および腫瘍登録を用いて行われ、その後、包括的なカルテレビューが実施された。

GI有害事象の発生率を比較するため、一部の参加施設でICI療法を受けた既存のIBDを持たない患者の対照コホートも組み入れられた。対照群におけるGI有害事象の有無およびグレードの決定は、IBD患者と同様の方法で行われた。臨床データは、人口統計学的情報、腫瘍学的および病歴、Charlson併存疾患指数スコアで構成された。これらのデータは医療記録から遡及的に抽出された。腫瘍学的病歴に関連する変数には、ICI療法開始時の癌の種類と病期、ICIの種類、治療期間、および非GI免疫関連有害事象が含まれた。

IBDの評価では、クローン病、潰瘍性大腸炎、または分類不能に分類された。IBD診断または最後の活動性IBDエピソードからICI療法開始までの期間が報告された。ICI療法開始前3ヶ月以内のIBD治療は、メサラミン、免疫抑制剤(例:グルココルチコイド、インフリキシマブ、ベドリズマブ、ウステキヌマブ、アダリムマブ、アザチオプリン、メルカプトプリン)、またはなしに分類された。最後の内視鏡評価所見が記録され、内視鏡的所見は潰瘍性大腸炎のMayoスコアと同様の方法で、軽度、中等度、重度に分類された。また、ICI療法前のIBD関連合併症(例:結腸狭窄、瘻孔、穿孔、GI癌)、外科的介入、または腸管外症状の有無、およびGI管におけるIBDの分布も記録された。

記録されたGI有害事象は、下痢、大腸炎、悪心、嘔吐で構成された。ICI療法開始からGI症状発現までの時間、Common Terminology Criteria for Adverse Events (CTCAE) version 5.0に基づく下痢および大腸炎のピークグレード、入院または集中治療室(ICU)入室の必要性、GI有害事象の治療、症状、入院、コルチコステロイド治療の累積期間、内視鏡的所見、外科的介入の有無にかかわらず結腸穿孔、症状の再発、初回エピソードの解決から再発までの時間を記録した。

統計解析には、連続変数の記述的要約(中央値と四分位範囲(IQR))およびカテゴリ変数の記述的要約(頻度とパーセンテージ)が用いられた。カテゴリ変数の比較にはFisherの正確検定が、連続変数の比較にはWilcoxon順位和検定が用いられた。GI有害事象の危険因子を評価するために、単変量ロジスティック回帰分析が実施された。独立したGI有害事象の危険因子を評価するために、後方選択法を用いた多変量解析が実施された。最終モデルの適合度を評価するためにHosmer-Lemeshow検定が用いられ、p=0.14は良好な適合を示した。統計的検定は両側検定であり、p=0.05を統計的有意性の閾値とした。統計解析はSPSS version 24.0およびSAS version 9.4を用いて行われた。