- 著者: Alice Tison, Arnaud Quéré, Marie Marcq, et al.
- Corresponding author: Alice Tison (Department of Rheumatology, CHU de Rennes)
- 雑誌: Arthritis & Rheumatology
- 発行年: 2019
- Epub日: 2019-10-16
- Article種別: Original Article (後方視的多施設コホート研究)
- PMID: 31379105
背景
免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) は、様々ながん種において標準治療としての地位を確立しつつある。CTLA-4やPD-1とそのリガンドであるPD-L1、PD-L2は、活性化T細胞の生理的抑制因子として免疫恒常性の維持と宿主組織の損傷防止に重要な役割を果たす。しかし、腫瘍細胞はこれらの免疫チェックポイントを不適切に利用し、免疫系からの逃避機構として機能することが知られている。ICIによる免疫チェックポイントの阻害は、抗腫瘍免疫応答を増強する一方で、自己寛容を破綻させ、免疫関連有害事象 (irAE) を引き起こす可能性がある。これらの炎症性および/または自己免疫性の発現は頻繁に発生し、抗PD-1抗体治療患者の最大70%、抗CTLA-4抗体治療患者の最大90%に影響を及ぼし、時には重篤な場合もある(抗PD-1で≤10%、抗CTLA-4で20%)。事実上すべての臓器が影響を受ける可能性があり、真の自己免疫疾患の発症も報告されている。
このような背景から、既存の自己免疫疾患 (AID) を持つがん患者は、ICIの臨床試験からほとんど除外されてきた。そのため、実臨床におけるICI療法の安全性および有効性に関するデータは依然として不足している状況であった。特に、ICI治療開始時点での免疫抑制療法 (IS) の使用がirAEのリスクおよびがんの予後に与える影響については、これまで十分に解明されていなかった。いくつかの症例報告や小規模なシリーズ、および既存AID患者におけるICI使用を評価したメタアナリシスが最近発表されているが、より大規模なコホートにおけるICI療法の安全性に関する堅牢なデータが求められていた。irAEの発生がより良好な抗腫瘍応答と関連するかどうかについては議論の余地があり、一部の報告ではAID患者がICI治療を受けた場合に良好な臨床転帰を示すことが示唆されているが、免疫抑制治療の使用がこの応答に影響を与える可能性も指摘されている。フランスでは、全国規模で専門家ネットワークが構築されており、多施設共同による実態調査を実施する環境が整っていた。本研究は、この知識のギャップを埋めることを目的として、フランス全国の多施設コホート研究として実施された。
目的
本研究の目的は、フランス全国の多施設コホートを用いて、既存の自己免疫疾患 (AID) を持つがん患者に対する免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) 療法の安全性および有効性を評価することである。具体的には、ICI治療中に発生する免疫毒性(既存AIDの再燃およびその他のirAE)の発生率と重症度を詳細に分析する。さらに、ICI治療開始時点でのベースライン免疫抑制療法 (IS) の使用が、患者の無増悪生存期間 (PFS) や全生存期間 (OS) などの予後にどのような影響を及ぼすかを検討し、その関連性を明らかにすることを目指す。
結果
患者背景: 本研究には112例の患者が登録され、中央値8ヵ月間追跡された。がん種の内訳はメラノーマが66例 (59%)、非小細胞肺がん (NSCLC) が40例 (36%)、泌尿器がんが4例 (3.6%)、メルケル細胞がんが2例 (1.8%) であった。既存AIDの内訳は、乾癬または乾癬性関節炎が31例 (28%)、関節リウマチ (RA) が20例 (18%)、炎症性腸疾患 (IBD) が14例 (13%)、ループスが7例 (6.3%)、リウマチ性多発筋痛症/側頭動脈炎が7例 (6.3%)、脊椎関節炎が5例 (4.5%) であった。ICI治療開始時に免疫抑制療法を受けていた患者は24例 (22%) であった (Table 1, Table 2)。
免疫毒性の全体発生率: 112例中79例 (71%) に何らかの免疫毒性(既存AIDの再燃またはその他のirAE)が認められた。内訳は、既存AIDの再燃が53例 (47%)、既存AIDとは関連しないirAEが47例 (42%) であり、両方を経験した患者は20例 (18%) であった。免疫毒性によりICI治療を恒久的に中止した患者は24例 (21%) であった。免疫毒性に関連する可能性のある死亡は1例であった (Table 3, Table 4)。
既存AIDの再燃 (フレア): 既存AIDの再燃は53例 (47%) で報告され、そのうち84%は通常のフレアと同様の症状を呈した。CTCAEグレードが判明している50例のうち、35例 (70%) は軽度(グレード1-2)であったが、15例 (30%) は重度(グレード3-4)であった。フレアに対して免疫抑制療法を必要とした患者は52例中28例 (54%) であり、主にコルチコステロイド (24例、86%) が使用された。コルチコステロイドの用量は、≤15 mg/日 (13例)、20-40 mg/日 (4例)、1-2 mg/kg/日 (6例) であった。既存AIDの再燃が最も頻繁に認められたのは乾癬/乾癬性関節炎 (68%) およびRA (60%) であった。IBDのフレアは最も重度であり、6例中6例が重度であった (Table 3)。
その他のirAE: 既存AIDとは関連しないirAEは47例 (42%) で発生した。CTCAEグレードが判明している45例のうち、27例 (60%) は軽度であったが、18例 (40%) は重度であった。irAEは、イピリムマブを含むICI治療を受けた患者でより頻繁に発生する傾向があり(14例中11例、79%)、抗PD-1/PD-L1単剤治療患者(95例中34例、36%)と比較して重度である場合が多かった。イピリムマブを含む治療で最も頻繁に発生したirAEは大腸炎 (4例) および下垂体炎 (2例) であった。一方、抗PD-1/PD-L1単剤治療では、白斑 (8例)、大腸炎 (7例)、関節痛/関節炎 (6例)、甲状腺炎 (6例) がより多く認められた。irAEに対して免疫抑制療法を必要とした患者は45例中24例 (53%) であり、全例がコルチコステロイドを投与された (Table 4)。
腫瘍応答と生存期間: 105例中51例 (49%) が初回ICI治療に奏効した(部分奏効34例、完全奏効17例)。メラノーマ患者のPFS中央値は12.9ヵ月 (95% CI 6.9-18.8)、NSCLC患者のPFS中央値は11.8ヵ月 (95% CI 7.2-16.5) であった。OS中央値はメラノーマ患者では未到達、NSCLC患者では22.4ヵ月 (95% CI 10.3-34.5) であった。
ベースライン免疫抑制療法と予後: 単変量解析では、ICI治療開始時に免疫抑制療法を受けていた患者 (n=24) は、受けていない患者 (n=88) と比較してPFSが有意に短縮した(中央値3.8ヵ月 vs 12ヵ月、p=0.006) (Figure 1A)。OSについては有意差は認められなかった(p=0.054) (Figure 1B)。多変量Coxモデルによる解析では、ベースラインでの免疫抑制療法はPFSの短縮と有意に関連していた(HR 2.10、95% CI 1.08-4.07、p=0.028)。OSについても同様の傾向が認められたが、統計的有意差はなかった(HR 1.95、95% CI 0.82-4.64、p=0.134) (Table 5)。
免疫毒性発生と予後: 多変量Coxモデルでは、フレアまたはirAEの発生もPFSの短縮と関連していた(HR 1.97、95% CI 1.06-3.66、p=0.032)。OSへの影響は認められなかった(HR 0.98、95% CI 0.44-2.20、p=0.968)。フレア/irAEの管理を考慮した別の多変量Coxモデルでは、ICIの恒久的中止を伴わない免疫抑制療法が、PFSの悪化と有意に関連する唯一の共変量であった(HR 2.16、95% CI 1.10-4.26、p=0.026)。
考察/結論
本研究は、既存の自己免疫疾患 (AID) を持つがん患者に対する免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) 療法の安全性と有効性を評価した、これまでで最大規模の全国多施設コホート研究である。中央値8ヵ月の追跡期間中、ICI治療に関連する免疫毒性(既存AIDの再燃またはその他のirAE)が71%の患者で高頻度に発生し、既存AIDの再燃は47%で、そのうち30%が重度であった。その他のirAEは42%で発生し、そのうち40%が重度であった。
先行研究との違い: 既存AID患者における免疫毒性の発生率は、先行研究であるMenzies et al. AnnOncol 2017の38%や、Johnson et al. JAMAOncol 2016の29%と比較して高い傾向を示した。しかし、Abdel-Wahabらのメタアナリシスで報告された75%という数値とは近い。本研究で観察された重篤な毒性の頻度は、一般集団における報告(Michot et al. EurJCancer 2016など)よりも高いように思われる。しかし、免疫毒性に関連する可能性のある死亡は1例のみであった。また、本研究では、irAEの発生がPFSの短縮と関連するという知見(HR 1.97、p=0.032)が得られたが、これはirAEの発生が抗腫瘍応答の改善と関連するという他の複数の研究(Haratani et al. JAMAOncol 2018など)とは対照的である。この違いは、本研究で時間依存性共変量を用いた多変量Coxモデルを採用した統計手法に起因する可能性がある。
新規性: 本研究の最も重要な新規の知見は、ICI治療開始時に免疫抑制療法を受けていた患者において、無増悪生存期間 (PFS) が有意に短いこと(中央値3.8ヵ月 vs 12ヵ月、HR 2.10、95% CI 1.08-4.07、p=0.028)を大規模コホートで初めて定量的に示した点である。これは、免疫抑制療法そのものが腫瘍免疫応答を抑制している可能性を示唆する。また、ICIクラス(抗PD-1、抗PD-L1、抗CTLA-4)を幅広くカバーし、様々な既存AIDにおける免疫毒性の特徴を詳細に分析した点も本研究の新規性である。
臨床応用: 本研究の結果は、既存AIDを持つがん患者に対するICI治療の臨床現場における意思決定に重要な含意を持つ。ICI治療開始前に、免疫抑制療法の必要性を再評価し、可能であればICI開始前に減量または中止を検討することが重要である。特に、関節疾患や炎症性腸疾患の患者ではフレアの発生率が高い傾向があるため、リウマチ科医との密な連携による早期発見と管理が求められる。ほとんどの免疫毒性はコルチコステロイドで管理可能であったが、重度のirAEやフレアでは追加の免疫抑制療法が必要となる場合がある。
残された課題: 本研究は後方視的デザインであるため、選択バイアスや情報収集の完全性に関する限界がある。例えば、重度のirAEやフレアを経験した患者がより多く報告され、免疫毒性を経験しなかった患者が過小評価されている可能性があり、実際の免疫毒性発生率を過大評価している可能性がある。また、がん種や既存AIDの種類が多様であるため、特定のAIDに対する明確な結論を導き出すことは困難である。PD-1/PD-L1腫瘍状態、腫瘍変異負荷、脳転移の有無など、すべての予後予測因子が多変量Coxモデルで考慮されていない点も限界である。今後の検討課題として、免疫抑制療法の種類別(コルチコステロイド単独 vs 免疫抑制薬追加)の影響評価や、前向き試験による検証が必要である。特に、非活動性の既存AID患者において、ICI開始前の免疫抑制療法の中止が生存期間の改善と関連するかどうかを定義するためのさらなる研究が求められる。
方法
本研究は、2017年1月から2018年1月にかけて、フランスの腫瘍学および自己免疫疾患に関する3つの全国ネットワーク(Groupe Français de Pneumo-Cancérologie、Groupe de Cancérologie Cutanée、Club Rhumatismes et Inflammations)を通じて実施された後方視的多施設コホート研究である。対象は、既存の自己免疫疾患を有し、少なくとも1回のICI投与を受けた成人患者であった。匿名化された標準化データ抽出フォームを用いて、患者の臨床情報が収集された。
収集されたデータには、患者の人口統計学的特性、がんの種類と病期、既存AIDの種類、活動性、および罹病期間、ICI治療開始前または開始時の免疫抑制療法 (IS) の使用状況が含まれる。免疫毒性に関しては、既存AIDの再燃(フレア)と、既存AIDとは関連しないその他のirAEの発生が個別に報告され、Common Terminology Criteria for Adverse Events (CTCAE) バージョン4.0に基づいてグレード分類された。グレード1および2は軽度、グレード3および4は重度と定義された。フレアおよびirAEに対するコルチコステロイドやその他の免疫抑制療法の使用も記録された。
治療効果の評価には、RECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) バージョン1.1に基づく奏効率 (ORR: 部分奏効または完全奏効)、全生存期間 (OS)、および無増悪生存期間 (PFS) が用いられた。統計解析には、カテゴリーデータの比較にカイ二乗検定またはFisherの正確検定が使用された。OSおよびPFSは、Kaplan-Meier法を用いて推定され、単変量解析ではログランク検定により比較された。多変量Coxモデルでは、irAEまたはAIDフレアの発生を時間依存性共変量として考慮し、性別、年齢、がん種、ベースラインICIの種類、ベースライン免疫抑制療法などの交絡因子で調整された。ハザード比 (HR) と95%信頼区間 (95% CI) が算出され、p値0.05未満が統計的に有意とされた。本研究は、フランス国家データ保護委員会およびブレスト大学病院倫理委員会(#2016.CE38)の承認を得て実施された。