• 著者: Nuria Chanza, Jose Luis Perez-Gracia, Elena Garralda, Ignacio Melero, Susana Rotellar, David Roodman, Rosa Alvarez-Gallego, Javier Dotor, Jose Antonio Lopez-Martin, Raquel Luque, Pilar Lopez-Criado, Jose Maria Trigo, Maria Vieito, Alfonso Gomez de Liaño, Maria José Lecumberri, Margarita Romeo, Joaquin Gavilá, Oscar Mínguez, Mikel Azpiri, Victoria Blasco, Juan Lorente-Gracia, Enrique Grande, Rodrigo Sánchez-Bayona, Raquel Perez-Lopèz
  • Corresponding author: N/A
  • 雑誌: Journal for ImmunoTherapy of Cancer
  • 発行年: 2020
  • Epub日: 2020-10-12
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 32217762

背景

免疫チェックポイント阻害薬 (CPI: checkpoint inhibitors) は、進行腎細胞がん (RCC: renal cell cancer) および尿路上皮がん (UC: urothelial cancer) を含む幅広い癌種において日常的に使用されている薬剤である Ribas et al. Science 2018。CPIの作用機序は、PD-1 (programmed death-1) およびCTLA-4 (cytotoxic T-lymphocyte associated protein-4) 経路を介したT細胞駆動型免疫応答を増強することであり、これにより生理学的自己免疫疾患 (AD: autoimmune disorders) に類似した、免疫関連有害事象 (irAEs: immune-related adverse events) と総称される特異な副作用が引き起こされることが知られている。irAEsの大部分は管理可能で可逆的であるが、一部は重篤化し、まれに永続的または致死的な転帰をたどる場合がある。既存ADを有する患者は、基礎疾患の増悪リスクや薬剤の毒性プロファイルの不明瞭化への懸念から、CPIを評価する臨床試験から一般的に除外されてきた。

ADの有病率は上昇傾向にあり、疾患タイプや地理的要因によって大きく異なるが、北米では2,400万から5,000万人がADを抱えていると推定されている。ADと癌との関連性も報告されており、あるシリーズではRCC患者の30%以上が併存ADを有していた。しかし、既存ADを有する患者におけるCPIの管理戦略を明確に定義した前向き研究は存在せず、臨床診療は多様である。既存ADを有する患者へのCPI使用に関するデータは不足しており、これまでの文献は主に後方視的シリーズや症例報告で構成されるに過ぎない。例えば、メラノーマ患者を対象とした研究では、既存ADを有する患者におけるイピリムマブの安全性と有効性が評価され、irAEsの発生が報告されているが、そのデータは限定的であると指摘されている (例: Johnson et al. JAMAOncol 2016Menzies et al. AnnOncol 2017)。また、非小細胞肺がん患者においても、PD-1経路阻害薬の安全性に関する後方視的解析が行われているが、泌尿器がんにおける大規模な実臨床データは依然として不足している (例: Danlos et al. EurJCancer 2018Leonardi et al. JClinOncol 2018)。このようなデータの不足が残されており、実臨床におけるエビデンスの蓄積が課題である。

目的

本研究は、既存ADを有する進行RCCおよびUC患者におけるCPIの安全性プロファイルと抗腫瘍活性を、多施設共同後方視的解析により評価し、実臨床におけるエビデンスを収集することを目的とした。

結果

患者のベースライン特性: 米国およびヨーロッパの10施設から、2015年から2018年の間にCPI治療を受けた既存ADを有する進行RCC (n=58) またはUC (n=48) 患者106例が特定された。患者の年齢中央値は68歳 (範囲: 25-87歳) であり、男性が75例 (71%) を占めた (Table 1)。ほとんどの患者は、CPIを一次または二次治療として受けた (n=92; 87%)。CPIレジメンのタイプとしては、PD-1/PD-L1阻害薬単剤療法が最も多く (n=85; 80%)、PD-1/PD-L1 + CTLA-4阻害薬の併用療法はRCC患者の16% (n=9) およびUC患者の2% (n=1) に投与された。RCC患者の19% (n=11) はCPI + VEGF (vascular endothelial growth factor) 阻害薬の併用療法を受けた。ベースラインで認められたADの種類は多岐にわたり、乾癬 (n=24, 23%)、甲状腺炎 (n=14, 13%)、関節リウマチ (n=12, 11%) が最も一般的であった (Figure 1)。CPI開始時、35例 (33%) の患者がGrade 1/2のAD症状を有しており、10例 (9%) はベースラインで全身性コルチコステロイドまたはその他の免疫調節薬を必要としていた (Table 2)。

既存ADの増悪の発生と管理: 全体として、38例 (36%) の患者で基礎ADの増悪が発生した。増悪までの期間中央値は、RCC患者で76日 (範囲: 25-315日)、UC患者で33日 (範囲: 1-368日) であった (Figure 2、Table 3)。全体コホートにおけるAD増悪の累積発生率は、3ヶ月時点で29% (95% CI 20% to 38%)、6ヶ月時点で32% (95% CI 23% to 41%) と推定された。増悪は、リウマチ性疾患患者で最も頻繁に発生し (n=18/36, 50%)、次いで皮膚疾患患者 (n=14/32, 44%) であった。増悪の大部分は低グレード (Grade 1/2: n=27, 71%) であったが、6例 (16%) の患者でGrade 3の増悪が経験された。これには関節痛 (n=4)、神経学的イベント (n=2)、筋痛 (n=1)、大腸炎 (n=1) が含まれた。Grade 4/5イベントは観察されなかった。ベースラインで症状があった患者の40% (n=14/35) と、無症状患者の34% (n=24/71) でAD増悪が発生した。CPI単剤療法患者では32% (n=27/85) であったのに対し、併用療法患者では52% (n=11/21) で増悪率が高かった。AD増悪を経験した38例中、17例 (45%) でコルチコステロイドが必要となり、6例 (16%) でCPIが永久的に中止された。

新規irAEの発生と管理: 既存ADを有する患者のうち、40例 (38%) で新規irAEが発生し、RCCコホート (n=22, 38%) およびUCコホート (n=18, 38%) で同様の頻度であった。CPI開始から新規irAE発生までの期間中央値は、RCC患者で56日 (範囲: 2-305日)、UC患者で120日 (範囲: 12-443日) であった (Table 3、Figure 2)。全体コホートにおける新規irAEの累積発生率は、3ヶ月時点で22% (95% CI 15% to 30%)、6ヶ月時点で32% (95% CI 23% to 41%) と推定された。最も頻繁に発生した新規irAEは、大腸炎 (n=9, 8%)、発疹 (n=8, 8%)、甲状腺機能低下症 (n=7, 7%) であった。Grade 3イベントは12例 (30%) で発生し、これには大腸炎 (n=4)、腎炎 (n=2)、副腎不全 (n=1)、下垂体炎 (n=1)、関節炎 (n=1)、肺炎 (n=1)、発疹 (n=1)、肝炎 (n=1) が含まれた。1例の患者でGrade 4肝炎が発症した。Grade 5のirAEは発生しなかった。新規irAEを発症した40例中、22例 (55%) でコルチコステロイドが投与され、8例 (20%) でCPIが永久的に中止された。治療関連死は報告されなかった。

臨床的有効性: RCCコホートでは、ORRは31% (95% CI 20% to 45%) であり、4例のCRが含まれた。TTF中央値は7ヶ月 (95% CI 4 to 10) であり、12ヶ月OS率は78% (95% CI 63% to 87%) であった (Table 4)。UCコホートでは、ORRは40% (95% CI 26% to 55%) であり、6例のCRが含まれた。TTF中央値は5ヶ月 (95% CI 2 to 9) であり、12ヶ月OS率は63% (95% CI 47% to 76%) であった (Table 4)。ベースラインの症状状態、治療ライン、治療タイプによるサブグループ解析では、ORR、TTF、OSに関して統計的に有意な差は認められなかった。例えば、RCC患者におけるCPI単剤療法群の12ヶ月OS率は74% (95% CI 55% to 85%) であったのに対し、抗PD-1/PD-L1 + 抗CTLA-4併用療法群の12ヶ月OS率は100% (95% CI 29% to 100%) であった。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、既存ADを有する進行RCCおよびUC患者におけるCPIの安全性と有効性に関する最大規模の実臨床データを提供した点で、これまでのメラノーマや非小細胞肺がん (NSCLC) を対象とした小規模な後方視的シリーズや症例報告 (例: Cortellini et al. Oncologist 2019)とは異なり、泌尿器がん患者に特化した大規模なコホートで包括的な知見を提示した。本研究で報告されたAD増悪率36%および新規irAE発生率38%は、先行研究で報告されたメラノーマやNSCLCのシリーズにおけるirAE発生率 (23%から42%) と概ね一致しており、CPIの毒性プロファイルが既存AD患者においても非AD集団と大きく異なるものではないことを示唆した。

新規性: 本研究で初めて、既存ADを有する進行RCCおよびUC患者におけるCPIの安全性プロファイルと抗腫瘍活性を詳細に評価し、AD増悪率36%および新規irAE発生率38%という具体的な数値を新規に示した。これらのイベントの多くはGrade 1/2であり、Grade 3/4イベントはAD増悪で16%、新規irAEで33%であった。治療関連死は観察されなかった。また、RCCコホートでORR 31%、UCコホートでORR 40%という堅牢な臨床活性が確認され、これは非AD集団におけるCPIの有効性 (例: Motzer et al. NEnglJMed 2015) と同等である。この結果は、適切に管理されたAD患者がCPIから臨床的利益を得られる可能性を本研究で初めて実証したものである。

臨床応用: 本研究の知見は、適切に管理された既存ADを有する泌尿器がん患者がCPIから臨床的利益を得られる可能性を示唆し、臨床現場での治療選択に重要な情報を提供する。irAEの多くは軽度であり、コルチコステロイドで管理可能であったことから、AD患者をCPIの適応から一律に除外すべきではないという臨床的含意を持つ。ただし、ベースラインで活動性のAD症状がある患者や併用療法を受ける患者では、増悪のリスクがやや高いことから、綿密なモニタリングと多職種連携によるプロアクティブな管理戦略が重要である。特に、神経学的疾患 (例: 多発性硬化症、ギラン・バレー症候群) や炎症性腸疾患 (IBD: inflammatory bowel diseases) のような臨床的に懸念されるAD患者では、増悪がより攻撃的である可能性があり、CPI中止に至るケースが多いことから、より慎重なアプローチが求められる。

残された課題: 本研究は後方視的であるため、選択バイアスや、より重症なAD患者の過少評価というlimitationがある。ほとんどのAD患者はCPI開始時に無症状または軽度症状であり、良好なパフォーマンスステータスを有し、免疫抑制療法を受けていなかった。また、比較的短い追跡期間と少数の患者数により、遅発性irAEや予後リスクおよび治療サブグループごとの安全性・有効性の詳細な評価には限界がある。今後の検討課題として、より重症なADタイプを含む前向き研究が必要である。コンセンサスガイドラインが不足している現状において、本研究のような実臨床データは、CPIが一般的に安全に投与可能であり、適切に管理されたAD患者が潜在的な臨床的利益を享受できることを示唆する。

方法

本研究は、多施設共同国際後方視的コホート解析 (retrospective cohort analysis) として実施された。対象患者は、既存ADを有し、少なくとも1回のCPI単剤療法または併用療法を受け、かつ適切なベースラインおよび治療中の臨床・画像データが利用可能であった進行RCCおよびUC患者であった。本研究はNCT02928406として登録されている。各参加施設は施設内倫理委員会の承認を得た。

研究者らは、統一されたデータベーステンプレートを用いて、診療記録レビューによりベースラインの臨床人口統計学的データ、病理学的データ、全身療法データ、奏効データ、および毒性データを収集した。ADの定義は、American Autoimmune Related Diseases Associationに基づいた。全てのAD症状およびirAEsは、Common Terminology Criteria for Adverse Events version 5 (CTCAE v5.0) を用いて研究者により評価され、最初のCPI投与日から最終投与後90日まで記録された。ベースラインのAD重症度は、病歴または臨床的に活動性であるか、および併用免疫調節薬の使用状況に基づいて特徴付けられた。増悪は、基礎ADと一致する症状の再燃と定義された。新規irAEsは、基礎ADとは関連しないirAEsの発現と定義された。治療中止に至った毒性や治療的介入を必要とした毒性も記録された。臨床的および放射線学的評価は標準化されておらず、各施設の標準治療に従って実施された。奏効は、一般的なRECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) 原則を用いて研究者により評価された (例: Eisenhauer et al. EurJCancer 2009)。CPI治療中の多職種連携ケアおよびAD専門医の関与は、各施設の地域診療慣行に従って行われた。

統計解析では、患者および疾患特性は頻度 (パーセンテージ) および中央値 (範囲) を用いて記述された。客観的奏効率 (ORR: objective response rate) は、完全奏効 (CR: complete response) または部分奏効 (PR: partial response) を達成した患者の割合と定義され、95% Clopper-Pearson正確信頼区間 (CI: confidence interval) とともに算出された。奏効評価不能な患者は、保守的に非奏効者として扱われた。治療失敗までの期間 (TTF: time-to-treatment failure) は、CPI開始から、病勢進行 (PD: progression of disease)、毒性、または死亡を含むあらゆる理由による治療中止までの期間と定義された。全生存期間 (OS: overall survival) は、CPI開始から死亡または最終追跡調査までの期間と定義された。TTFおよびOSの分布は、Kaplan-Meier法を用いて全体コホートおよびサブグループ別に推定された。小さなサンプルサイズのため、サブグループ解析における正式な比較は行われなかった。AD増悪および/または新規irAEの累積発生率は、競合リスクモデルを用いて3ヶ月および6ヶ月時点で推定され、病勢進行またはirAEを伴わないその他の理由による治療中止は競合リスクと見なされた。統計解析はSAS V.9.4 (SAS Institute) を用いて実施された。