- 著者: François-Xavier Danlos, Anne-Laure Voisin, Valérie Dyevre, Jean-Marie Michot, Emilie Routier, Laurent Taillade, Stéphane Champiat, Sandrine Aspeslagh, Julien Haroche, Laurence Albiges, Christophe Massard, Nicolas Girard, Stéphane Dalle, Benjamin Besse, Salim Laghouati, Jean-Charles Soria, Christine Mateus, Caroline Robert, Emilie Lanoy, Aurélien Marabelle, Olivier Lambotte
- Corresponding author: Olivier Lambotte (CHU Bicêtre, APHP, Service de Médecine Interne et Immunologie Clinique, Le Kremlin-Bicêtre, France)
- 雑誌: European Journal of Cancer
- 発行年: 2018
- Epub日: 2018-01-10
- Article種別: Original Article
- PMID: 29331748
背景
免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) は、進行がん治療において画期的な進歩をもたらし、複数のがん種でその有効性が確立されている。例えば、メラノーマや非小細胞肺がん (NSCLC) における抗PD-1抗体であるニボルマブやペムブロリズマブの有効性は、それぞれ Robert et al. NEnglJMed 2015、Borghaei et al. NEnglJMed 2015、Garon et al. NEnglJMed 2015 らによって報告されている。この治療戦略の成功は、がん免疫サイクルにおける免疫系の重要な役割を再確認するものであり、がん細胞が免疫系から逃れる能力ががんの主要な特徴の一つであるという概念を裏付けるものであると、Hanahan et al. Cell 2011 や Chen et al. Immunity 2013 が指摘している。しかし、ICI治療に伴い、免疫関連有害事象 (irAE) の発生が新たな課題として浮上しており、その管理は重要であると Michot et al. EurJCancer 2016 が包括的にレビューしている。既存の自己免疫・炎症性疾患 (AID) を有する患者は、irAEリスクの増加が懸念されるため、主要な臨床試験から当初除外されてきた。しかし、近年、小規模な後向き研究では、既存AID患者においてもICI投与が可能であることが示唆されている。例えば、Johnson et al. JAMAOncol 2016 や Menzies et al. AnnOncol 2017 らは、メラノーマ患者を対象とした研究で、既存AID患者におけるICIの安全性と有効性に関するデータを提供した。しかし、これらのデータは後向き研究に限定されており、既存AID患者における抗PD-1抗体の安全性と有効性をAID-free患者と比較した前向きデータは手薄であり、大規模な比較研究が不足していた。既存AID患者における抗PD-1抗体治療の安全性と有効性に関する知見は、いまだ未解明な点が多く、特に前向きの比較データは限られている。本研究は、このギャップを埋めることを目指したものである。
目的
REISAMIC (Registry of Severe Adverse Events of Immunomodulating Monoclonal Antibodies in Oncology) 前向き多施設レジストリのデータを用いて、既存の自己免疫・炎症性疾患 (AID) を有するがん患者における抗PD-1抗体治療の安全性と有効性を評価すること。具体的には、AID患者におけるirAE発症リスク、irAE-free生存期間、全生存期間 (OS)、および最良奏効率 (ORR) を、AID-free患者群と比較し、既存AIDの有無と臨床転帰との関連性を分析することを目的とする。
結果
患者背景と既存AIDの特性: REISAMICに登録された既存AID患者45例の解析対象集団は、中央値年齢62.3歳 (範囲23〜88歳)、男性46.7%であった (Table 1)。AID患者群とAID-free患者群の年齢中央値はそれぞれ62.3歳と62.4歳であり、性別比も類似していた。がん種の内訳は、AID患者群でメラノーマが36例 (80.0%)、非小細胞肺がん (NSCLC) が6例 (13.3%)、その他が3例 (6.7%) であった。一方、AID-free患者群ではメラノーマが215例 (61.1%)、NSCLCが133例 (37.8%) であり、がん種構成に差が認められた。病期はAID患者群でStage 4が42例 (93.3%) を占め、AID-free患者群の86.4%と比較して進行期患者の割合がやや高かった (Table 4)。既存AIDは計53疾患が認められ、最も頻度の高いものは白斑17例 (31.4%)、乾癬12例、自己免疫性甲状腺炎7例、原発性シェーグレン症候群4例、関節リウマチ2例であった。AID診断からの期間中央値は2.5年 (IQR 0.4〜16.1年) であった。ICI開始時にAIDが症候性であった患者は25例 (55.6%) であり、7例 (15.6%) がAID特異的治療薬 (例: ステロイド、ヒドロキシクロロキン、メトトレキサート) を使用していた (Table 2)。以前にICI治療を受けた患者はAID患者群で9例 (抗CTLA-4抗体8例、抗PD-1抗体2例) 存在し、そのうち6例 (66.7%) でirAEの既往があった。
irAEの発症頻度と内訳: 既存AID患者45例中20例 (44.4%) で少なくとも1つのirAEが発症した (Table 3)。irAEの重症度は、Grade 2が14例、Grade 3が5例であり、Grade 4または5のイベントは認められなかった。irAE発生までの期間中央値は2.1ヶ月 (IQR 0.7〜3.1ヶ月) であった。発症したirAEのうち、11例 (55%) は既存AIDの悪化 (フレア) と関連しており、具体的には乾癬の悪化が4例 (既存乾癬患者13例中)、白斑の拡大が4例 (既存白斑患者17例中)、甲状腺機能亢進症、シェーグレン症候群症状、重症筋無力症の眼症状が各1例であった。残りの10例は既存AIDとは関連のない新規irAEであり、甲状腺炎が5例、大腸炎、顕微鏡的大腸炎、重症胃炎、急性尿細管間質性腎炎を伴うde novoシェーグレン症候群、Grade 2高リパーゼ血症が各1例であった。irAEが発生した20例中15例 (75%) では抗PD-1抗体治療が継続可能であり、irAEによる死亡はゼロであった。irAEに対する治療として、6例 (13.3%) で全身性ステロイドが使用され、その中央値最大用量は40 mg/日 (IQR 30〜80 mg/日) であった。irAEは9例 (40.9%) で完全に寛解し、寛解までの期間中央値は2.8ヶ月 (IQR 1.3〜13.2ヶ月) であった。対照的に、AID-free患者352例におけるirAE発症率は29%であり、既存AID患者群の44.4%と比較して有意に高かった。
irAE-free生存期間の比較: 主要評価項目であるirAE-free生存期間は、既存AID患者群で有意に短縮された (Figure 2A)。既存AID患者の中央値irAE-free生存期間は5.4ヶ月であったのに対し、AID-free患者群では13ヶ月であり、統計的に有意な差が認められた (p=2.1×10⁻⁴)。この結果は、既存AIDを有する患者において、抗PD-1抗体治療開始後のirAE発症が有意に早く、かつ高頻度であることを明確に示している。irAEにより抗PD-1抗体治療が中止されたのはAID患者群で5例 (11.1%) であった。irAEを発症しなかった既存AID患者は16例 (51.6%) であり、これら患者のAIDは多発性硬化症、自己免疫性血球減少症、サルコイドーシス、化膿性汗腺炎、リウマチ性多発筋痛症、結節性多発動脈炎、慢性皮膚エリテマトーデス、1型糖尿病など多岐にわたった。
全生存期間 (OS) および奏効率 (ORR): 全生存期間 (OS) については、既存AID患者群とAID-free患者群との間に有意な差は認められなかった (p=0.38) (Figure 2B)。既存AID患者群では、最終追跡時点で26例 (57.8%) が生存しており、そのうち17例 (37.8%) がICI治療を継続中であった。最終追跡時点でのがんの状態は、完全奏効 (CR) が4例 (9%)、部分奏効 (PR) が13例 (29%)、病勢安定 (SD) が6例 (13%)、病勢進行 (PD) が21例 (47%) であった。死亡した患者19例 (42.2%) の主な死因はがんの進行 (18例) であり、irAEによる死亡は認められなかった。最良奏効率 (ORR) は、既存AID患者群で38% (CR 9%、PR 29%)、AID-free患者群で28% (CR 7%、PR 21%) であったが、両群間に統計的に有意な差は認められなかった (オッズ比 0.51、95%信頼区間 -1.54〜0.077、p=0.098)。これらの結果は、既存AIDの有無が抗PD-1抗体治療の有効性に影響を与えないことを示唆している。
考察/結論
本研究は、REISAMIC前向きレジストリを用いた初の比較研究として、既存の自己免疫・炎症性疾患 (AID) を有するがん患者における抗PD-1抗体の安全性と有効性に関する重要な知見を提供した。
① 先行研究との違い: これまでの既存AID患者におけるICIの安全性と有効性に関する報告は、Johnson et al. JAMAOncol 2016 や Menzies et al. AnnOncol 2017 らによる後向き研究が中心であった。本研究は、既存AID患者とAID-free患者を直接比較した前向きデータを提供した点で、これらの先行研究とは対照的であり、より強固なエビデンスを提示するものである。特に、irAE発症リスクの増加とirAE-free生存期間の有意な短縮 (中央値 5.4ヶ月 vs 13ヶ月, p=2.1×10⁻⁴) を前向きに示した点は、既存AID患者におけるirAEリスクの定量的評価に貢献する。
② 新規性: 本研究は、既存AID患者において抗PD-1抗体治療によるirAE発症リスクが有意に増加し、irAE-free生存期間が短縮されることを前向きに確認した。しかし、irAEが発生しても75%の患者でICI治療が継続可能であり、irAEによる死亡は認められなかった。さらに、全生存期間 (OS) および奏効率 (ORR) はAID-free患者と同等であり (p=0.38, p=0.098)、抗PD-1抗体の抗腫瘍効果が既存AIDの有無によって損なわれないという新規な知見を示した。これは、既存AID患者に対するICI治療の適用可能性を裏付ける重要なエビデンスであり、これまで報告されていない大規模な前向き比較データとしてその意義は大きい。
③ 臨床応用: これらの結果は、既存AID患者、特に活動性の低い「quiescent AID」患者においても、抗PD-1抗体治療が有効かつ比較的安全に実施可能であることを示唆する。irAEのリスクは高いものの、適切な管理と多職種連携による綿密なモニタリングを行うことで、臨床現場での治療選択肢を広げる可能性を秘めている。腫瘍医、臓器専門医、内科医、臨床免疫学者間の連携は、患者ケアの向上に臨床的有用性をもたらすと考えられる。予防的なステロイド投与や免疫抑制剤の使用については、本研究では検討されていないが、今後の臨床応用を検討する上で重要な課題となるだろう。
④ 残された課題: 本研究にはいくつかのlimitationがある。既存AID患者群はメラノーマが中心であり、AID-free群とのがん種構成に差があったこと (メラノーマ 80.0% vs 61.1%、NSCLC 13.3% vs 37.8%) が挙げられる。また、軽度irAEがAID患者でより注意深く報告されるモニタリングバイアスの可能性も否定できない。既存AID患者の症例数 (n=45) が比較的小規模であったことも残された課題である。さらに、活動性の高いAID患者のデータが不足しており、これらの患者群におけるICIの安全性と有効性については慎重な検討が必要である。今後の研究では、関節リウマチや全身性エリテマトーデスなどの全身性AID患者の症例数を増やした前向き研究や、ICI開始前の免疫抑制薬の継続・中断が治療効果や安全性に与える影響を検討することが必要である。
方法
本研究は、2014年6月1日から2016年12月31日までの期間にGustave Roussyで免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) 治療を受けた患者を対象とした前向き多施設レジストリ研究であるREISAMIC (Registry of Severe Adverse Events of Immunomodulating Monoclonal Antibodies in Oncology) のデータを用いた。既存の自己免疫・炎症性疾患 (AID) を有する患者45例をREISAMICに登録し、同時期のAID-free患者352例を対照群として比較した (Figure 1)。
主要評価項目はirAE-free生存期間とし、副次評価項目として全生存期間 (OS) および最良奏効率 (ORR) を設定した。irAEは、Common Terminology Criteria for Adverse Events (CTCAE) v4.0に基づき、Grade 2以上と定義されたが、Grade 1の白斑は例外的にirAEとして含めた。irAEは、既存AIDの悪化 (フレア) と、既存AIDとの明確な因果関係がない新規irAEに区分された。最良奏効は、固形がんの治療効果判定基準 (Response Evaluation Criteria in Solid Tumours; RECIST) v1.1に基づき、完全奏効 (CR)、部分奏効 (PR)、病勢安定 (SD)、病勢進行 (PD) に分類された。ORRはCRまたはPRを達成した患者の割合と定義された。
統計解析には、irAE-free生存期間およびOSの推定にはKaplan-Meier法を、群間比較にはログランク検定を用いた。ORRの群間比較には単変量ロジスティック回帰分析が適用された。統計的有意水準はp < 0.05と設定された。本研究は、ヘルシンキ宣言および優良臨床試験実施基準 (GCP) に準拠して実施され、フランス国家情報処理自由委員会 (Commission Nationale de l’Informatique et des Libertés; CNIL) の承認を得てREISAMICレジストリが構築された。