• 著者: Ethan Z. Malkin, Scott V. Bratman
  • Corresponding author: Scott V. Bratman (University of Toronto, Toronto, ON, Canada)
  • 雑誌: Cell Death & Disease
  • 発行年: 2020
  • Epub日: 2020-07-27
  • Article種別: Review
  • PMID: 32719324

背景

細胞外小胞 (EVs) および細胞外粒子 (EPs) は、生体内で活性な分子バイオマーカーの担体として、また細胞間コミュニケーションのメディエーターとして、近年急速に注目を集めている。これまでのEV研究は、主にタンパク質、脂質、およびRNA(特にmiRNA)のカーゴに焦点を当ててきた。しかし、DNAは実質的に全てのEV/EP集団で関連が認められるにもかかわらず、その系統的な研究は遅れており、主要なEV成分データベースであるExoCartaやVesiclepediaでさえ、EV DNAの記載を省略しているという顕著なギャップが存在する。この点は、EV/EP DNAの生物学的特性と機能的役割に関する理解が不足していることを示している。

Cell-free DNA (cfDNA) は、がんや様々な疾患において確立されたバイオマーカーであり、液体生検の中核をなす。しかし、cfDNAの起源と形態は多様であり、アポトーシスや壊死による細胞死に由来する断片、好中球細胞外トラップ (NETs) に含まれるクロマチンウェブ、ヌクレオソーム形態の複合体、そしてEV/EPに搭載された形態が共存している。特に、好中球細胞外トラップ (NETs) は、がん、全身性エリテマトーデス (SLE)、血栓塞栓性疾患などの病態進行を促進することが報告されている Papayannopoulos et al. NatRevImmunol 2018。ゲノムDNA (gDNA) とミトコンドリアDNA (mtDNA) では、結合タンパク質、核酸構造、遺伝情報が異なり、生物学的機能とバイオマーカー特性の両面で差異が生じる可能性がある。例えば、ミトコンドリアDNAは、その酸化損傷によりcGASよりも強力なインターフェロン産生誘導能を持つことが示されている (Caielli et al. 2016)。

本総説は、これまで見過ごされてきたEV/EP DNAの全容を体系的に整理し、その生物学的特性、生理的・病理的役割、および疾患バイオマーカーとしての応用可能性を包括的にレビューすることを目的とする。EV/EP DNAに関する研究は、Brinkmann et al. Science 2004によるNETsの発見など、他の細胞外DNA研究と比較して歴史が浅く、検証されたプロトコルや標準化された命名法、一貫した知見が不足している点が課題として残されている。EV/EP DNAの起源、構造、局在、分布、機能的役割については、依然として多くの側面が未解明であり、これらのギャップを埋めることが喫緊の課題である。

目的

本総説の目的は、細胞外小胞 (EVs) および細胞外粒子 (EPs) に結合するDNA (EV/EP DNA) の生物学的特性(起源、構造、局在、分布)、生理的および病理的役割、特にがんや自己免疫疾患における機能的メディエーターとしての役割、および液体生検バイオマーカーとしての応用可能性について包括的に総説することである。これにより、EV/EP DNA研究における現在の論争点を明確にし、将来の研究機会を特定する。具体的には、EV/EPの分類と生合成、EV/EP DNAの起源とローディング機構、分布と局在、構造と生物物理学的特性、炎症・免疫調節における機能的役割、遺伝物質の水平伝達 (HGT) における役割、および液体生検バイオマーカーとしての応用について詳細に検討する。また、EV/EP DNA研究における標準化の不足がもたらす課題を明確にし、今後の研究の方向性を提示することも目的とする。

結果

EV/EPの分類と生合成: EVとEPは、その生合成、サイズ、および分子組成に基づいて分類される。L-EVs (Large EVs; 直径 >200 nm) は、アポトーシス小体 (>1000 nm)、ラージオンコソーム (癌特異的)、微小胞 (100 nm〜>1000 nm) を含み、細胞膜からの出芽によって形成される。L-EVの生合成はARF6やRhoAなどのタンパク質によって制御される。S-EVs (Small EVs; 直径 50〜130 nm) はエンドソーム起源であり、後期エンドソームが多胞体 (MVB) となり、細胞膜と融合することで細胞外に放出される。S-EVの形成は、ESCRT (endosomal sorting complex required for transport) 経路 (カーゴのローディング)、Rab GTPase (細胞内輸送)、および膜関連タンパク質受容体複合体 (放出) によって多段階的に制御される。S-EVの表面マーカーとしてCD9、CD63、CD81が用いられてきたが、S-EV集団の異質性 (サイズ、密度、タンパク質組成) により、単一均一集団ではないことが示されている Kowal et al. ProcNatlAcadSciUSA 2016。EPs (extracellular particles) は膜を持たない細胞分泌物の新たなカテゴリーであり、非対称フロー場分画法 (asymmetric-flow field-flow fractionation) によって同定されたエキソメア (平均直径 35 nm) や、ナノスケールフローサイトメトリーで記述されたクロマチメアが報告されている Zhang et al. NatCellBiol 2018 (Fig 1)。EPsの生合成、放出機構、および機能は依然として未解明な部分が多い。

EV/EP DNAの起源とローディング機構: L-EVsでは、細胞膜からの小胞形成時に細胞質内容物が非選択的に取り込まれる。アポトーシス小体は、その起源細胞のDNAを反映した内容物を保持することが初期の研究で示された (Pisetsky et al. 2011)。S-EVsへのDNAローディングの主要な仮説として、DNA損傷応答経路に由来する核の小さな出芽構造であるマイクロ核を介した経路が示唆されている。Yokoi et al. (2019) は、テトラスパニン (確立されたEVマーカー) とマイクロ核マーカーの共局在を示し、ゲノム不安定性の誘導によってマイクロ核形成が増加するとEV DNA量も増加することを実証した。しかし、実際にgDNAを含むEVsは細胞株由来EVsの約10%、血漿由来EVsの約1%に過ぎず、ローディングは効率的でも広範囲でもないと結論付けられた。また、S-EV DNAローディングは、細胞の恒常性維持のために細胞質DNAをクリアランスする機構の一部である可能性も提唱されている (Takahashi et al. 2017)。mtDNAに関しては、酸化損傷を受けたミトコンドリアから生成されるミトコンドリア由来小胞がエンドソーム経路に標的化される経路 (Perez-Trevino et al. 2020)、またはミトコンドリアのオートファジーに由来するリソソーム小胞がS-EVsとして放出される経路 (Picca et al. 2020) が提唱されているが、直接的な証拠はまだ得られていない (Fig 2)。

EV/EP DNAの分布と局在を巡る議論: どのEV/EP集団がDNAを保有するか (分布)、およびDNAが小胞内腔か外膜表面に存在するか (局在) については論争が続いている。L-EVsについては、Vagner et al. (2018) が前立腺がん由来L-EVs (ラージオンコソーム) に主に内腔に存在するgDNA (>2 million bp) が存在することを示した。S-EVsは一部の研究で血漿cfDNAの93%を含有すると主張されているが (Fernando et al. 2017)、Jeppesen et al. Cell 2019の報告では、S-EVsにはほとんどDNAが含まれず、大部分は非小胞性EPs (エキソメア) に存在することが示された。多くの研究では、S-EV DNAは主に外膜表面に局在し (mtDNA・gDNAともに)、高密度S-EVサブポピュレーションが低密度よりも高いDNA含有量を示す (Lazaro-Ibanez et al. 2019)。EPs (エキソメア・クロマチメア) が大量のcfDNAを担う可能性が示され、クロマチメアは核起源を示すヒストンとの共存が確認された (Choi et al. 2019)。これらの矛盾する結果は、EV分離法の多様性・標準化の欠如に起因しており、コンセンサス確立には統一方法論が必要である (Table 1)。

EV/EP DNAの構造・生物物理学的特性: EV/EP DNAの断片長は、関連するEV/EPのサイズに大きく依存する。S-EV DNAは約200 bpから小さな断片が中心である一方 (Lazaro-Ibanez et al. 2019)、L-EV DNAは >2 million bp に達する (Vagner et al. 2018)。EP DNA (エキソメア) は100 bp〜10 kbの範囲であり、EPがS-EVより小さいにもかかわらず比較的長い断片を保有することが注目される (Zhang et al. 2018)。多くのEV/EP DNAはヒストンや他のタンパク質と結合しており、DNaseに対する保護効果を提供する。EV外膜表面に存在するDNAの生化学的相互作用 (膜タンパク質・糖タンパク質・リン脂質等との結合様式) は未解明であり、今後の重要な研究課題である。

機能的役割 - 炎症・免疫調節: EV/EP DNAは複数の免疫経路を活性化する。癌におけるcGAS-STING経路の活性化として、Kitai et al. (2017) は化学療法で治療した乳癌細胞から放出されたDNA含有S-EVsが樹状細胞 (DC) のcGAS-STINGを活性化し、サイトカイン放出を誘導することを示した (STING KOモデルでのcGAS-STINGの関与確認)。Diamond et al. (2018) は、照射腫瘍細胞由来S-EVsがDCに取り込まれ、放射線障害DNAが細胞質ヌクレアーゼTREX1による分解を回避してcGAS-STINGを活性化し、抗腫瘍免疫を仲介することを示した。マラリアでは、感染赤血球が寄生虫DNAをEVsで放出し、単球のcGAS-STINGを活性化して自然免疫応答を誘導する (Sisquella et al. 2017)。T細胞とDCの相互作用時には、T細胞がgDNAとmtDNAを含むEVsをDCに移送し、cGAS-STINGの活性化によりDCが「プライミングされた」表現型を獲得してウイルス感染に対して耐性となることが示された (Torralba et al. 2018)。AIM2インフラマソームの活性化として、化学療法剤イリノテカンが腸管上皮細胞からの大規模なEV経由DNA放出を誘導し、近傍の自然免疫細胞がEV DNAを取り込んでAIM2インフラマソームを活性化、腸管毒性を引き起こすことが報告された (Lian et al. 2017)。mtDNAは、その酸化損傷によってcGASよりもさらに強力なインターフェロン産生誘導能を持つことが示されており、TFAM (mitochondrial transcription factor A) によるDNA構造変化がmtDNAのcGAS活性化能を増強することが明らかにされた (Andreeva et al. 2017)。

機能的役割 - 遺伝物質の水平伝達 (HGT): EV/EPを介したHGT (horizontal gene transfer) は、癌の病態進展において多様な機能を示す。慢性骨髄性白血病 (CML) では、腫瘍細胞由来EV gDNAが周囲細胞に移送されてAT-1 (angiotensin II type 1 receptor) がん遺伝子の発現を上昇させ、腫瘍形成促進に寄与する (Cai et al. 2013)。冠動脈疾患の文脈では、SRY遺伝子を含む血漿EVsが単球・内皮細胞にSRY DNAを移送し、CD11a・ICAMなどの接着分子発現を上昇させ、動脈硬化進展と関連することが示された (Cai et al. 2015)。乳癌におけるホルモン療法抵抗性では、癌関連線維芽細胞 (CAF) がmtDNAをEVsに搭載してホルモン療法抵抗性乳癌細胞に移送し、酸化的リン酸化に必要なミトコンドリア遺伝子の発現を上昇させることで、治療誘発性休眠からの脱却 (代謝的静止状態の打破) に寄与することが示された (Sansone et al. 2017)。また、HPV DNAが血清EVsを介してトリプルネガティブ乳癌のストロマ細胞に移送され、受容細胞に攻撃的で治療抵抗性の表現型を付与することも報告されている (De Carolis et al. 2019)。このHGTは、がん原性表現型を非癌細胞に伝播させる懸念がある一方、免疫系の活性化標的としての治療応用可能性も示唆する (Fig 3)。

Liquid biopsyバイオマーカーとしての応用: EV/EP DNAは、血液・各種体液における液体生検として、癌の検出・モニタリングに応用されている。血液を用いたアプローチでは、EV DNAがcfDNAよりも優れた感度/特異度を示す可能性が複数研究で示唆されている (Möhrmann et al. 2018)。膵癌では、血清/血漿のKRAS・TP53変異 (Kahlert et al. 2014、その後の複数研究で再現)、メラノーマでは血漿のEGFR・BRAF変異 (Thakur et al. 2014)、非小細胞肺癌 (NSCLC) では気管支肺胞洗浄液や悪性胸水からのEGFR変異検出 (細胞診に比べて高い特異度と感度)、グリオーマでは末梢血での複数変異 (血液脳関門をEV関連DNAのみが通過できるという特性を利用)、膀胱癌では尿中の複数変異、卵巣癌では血漿mtDNAがそれぞれ報告されている (Keserű et al. 2019)。特に脳腫瘍では、血液脳関門の存在によってcfDNAは血中に移行しにくいが、EV関連DNAは例外的に通過できる可能性があり、脳腫瘍液体生検としての特殊な意義が注目される (García-Romero et al. 2017)。尿中EV DNAは、腎疾患 (Miranda et al. 2010)・膀胱癌 (Lee et al. 2018) での応用が示されており、泌尿器疾患の非侵襲的バイオマーカーとして有望である。ただし、多くの研究でEV分離法の標準化が不十分であり、Thery et al. JExtracellVesicles 2018ガイドラインに則った高分解能分離法による再現性の確認が必要とされている (Table 3)。

考察/結論

本総説は、EV/EP DNAをタンパク質、脂質、RNAカーゴと並ぶ重要なEV構成要素として体系的に位置付けた包括的文献であり、EV成分データベースがDNAを省略してきたという根本的ギャップを指摘した点に大きな意義がある。先行研究ではcfDNA研究とEVタンパク質/RNA研究が別々に発展してきたが、本総説は両者を統合的に整理し、EV/EP DNAが独自の生物学的特性と機能を持つことを明示した。

先行研究との違い: これまでのEV研究が主にタンパク質やRNAに焦点を当ててきたのと異なり、本総説はEV/EP DNAの生物学的特性、機能的役割、および疾患バイオマーカーとしての応用可能性を包括的にレビューした点で新規性が高い。特に、EV/EP DNAがcGAS-STING経路を介した炎症反応の活性化や遺伝物質の水平伝播 (HGT) に関与することを詳細に検討した点は、これまでの研究では十分に整理されていなかった側面である。

新規性: 本研究で初めて、EV/EP DNAが癌や自己免疫疾患などの病態において細胞間コミュニケーションのメディエーターとして機能し、cGAS-STING経路を介した炎症反応の活性化や遺伝物質の水平伝播に関与すること、およびKRASやEGFRなどの変異検出による液体生検への応用が期待されることを包括的に示した。また、EV/EP DNAの起源、構造、局在、分布に関する現在の論争点を明確にし、将来の研究機会を特定したことも新規な貢献である。

臨床応用: 本知見は、EV/EP DNAが癌の検出・モニタリング、自己免疫疾患の病態解明、さらには感染症における免疫応答の理解に繋がる臨床応用に直結する。特に、脳腫瘍における血液脳関門を越えたEV関連DNAの検出は、既存の液体生検では困難であった疾患に対する新たな診断戦略を提供する可能性があり、臨床的意義は大きい。また、HGTを阻害することで腫瘍の進展を抑制する治療戦略や、cGAS-STING経路を介した癌免疫療法の増感といったbench-to-bedsideの可能性も示唆される。

残された課題: 今後の検討課題として、(1) EVサブポピュレーション特異的なDNAローディング機構の解明 (マイクロ核経路の詳細・mtDNAパッケージング機構)、(2) DNA構造-機能関係 (断片長・高次構造・結合タンパク質と機能の相関)、(3) 臨床モデルでの生物活性EV/EP DNA機能の検証、(4) cfDNAとの比較優位性の定量的評価 (感度・特異度・安定性)、(5) EV/EP分離の標準化、が挙げられる。これらの課題を解決することで、EV/EP DNAの臨床的有用性を最大限に引き出すことが可能となる。また、EV/EP DNAの正確な分離と高解像度分析技術の確立が、その臨床的有用性を最大限に引き出すために不可欠である。

方法

本論文は総説であるため、特定の実験方法論は適用されない。本総説の作成にあたり、EV/EP DNAに関する既存の文献を広範にレビューした。具体的には、EV/EPの分類、生合成、DNAの起源、ローディング機構、分布、局在、構造、生物物理学的特性、および生理的・病理的機能に関する研究を網羅的に収集した。また、がんや自己免疫疾患におけるEV/EP DNAの機能的役割、および液体生検バイオマーカーとしての応用可能性に焦点を当てた。

文献検索は、PubMed、Embase、Web of Scienceなどの主要な学術データベースを用いて実施された。検索キーワードには、「extracellular vesicles DNA」、「extracellular particles DNA」、「EV DNA」、「EP DNA」、「cell-free DNA」、「liquid biopsy」、「horizontal gene transfer」、「cGAS-STING pathway」、「micronuclei」などが含まれた。収集された論文は、EV/EP DNAの生物学的特性、機能的役割、および臨床的応用に関する最新の知見を提供するものに限定された。検索期間は特に指定せず、関連性の高い全ての発表論文を対象とした。

レビュープロセスでは、EV/EPの異質性、分離技術の多様性、およびDNA検出方法の標準化の欠如によって生じる矛盾する知見に特に注意を払った。例えば、EV分離技術の標準化の欠如は、異なる研究間での結果の評価と比較を困難にしていると指摘されている Thery et al. JExtracellVesicles 2018。本総説は、これらの論争点を整理し、EV/EP DNA研究における未解決の課題と将来の方向性を提示することを目的としている。本レビューでは、エビデンスレベルの評価は行わず、既存の文献の包括的な要約と統合に重点を置いた。