- 著者: Pieter Goossens, Juan Rodriguez-Vita, Anders Etzerodt, Marion Masse, Olivia Rastoin, Victoire Gouirand, Thomas Ulas, Olympia Papantonopoulou, Miranda Van Eck, Nathalie Auphan-Anezin, Magali Bebien, Christophe Verthuy, Thien Phong Vu Manh, Martin Turner, Marc Dalod, Joachim L. Schultze, Toby Lawrence
- Corresponding author: Toby Lawrence (King’s College London / Aix Marseille University)
- 雑誌: Cell Metabolism
- 発行年: 2019
- Epub日: 2019-03-28
- Article種別: Original Article
- PMID: 30930171
背景
腫瘍関連マクロファージ (TAM; tumor-associated macrophage) は本来、強力な腫瘍殺傷活性と細胞傷害性リンパ球の活性化能を有するが、腫瘍微小環境 (TME; tumor microenvironment) に浸潤すると急速に免疫抑制性かつ栄養的 (trophic) な腫瘍促進型表現型へ再プログラム化される (Noy and Pollard, 2014; Mantovani et al., 2008)。大多数の臨床研究でTAM数の増加は予後不良と相関するが、この機能的極性化を駆動する分子メカニズムは長らく解明されていなかった。発生学的には、組織常在マクロファージの多くは胚由来前駆細胞に起源し局所増殖で維持されるが、腫瘍進行に伴い骨髄由来単球 (MN; monocyte) 由来TAMが常在細胞を置換することが報告されている (Cortez-Retamozo et al. ProcNatlAcadSciUSA 2012)。マウス腹腔内ID8卵巣がんモデルでも、MN由来のintPMが経時的に蓄積しTAMの主要集団を形成して腫瘍増殖に関与する (Hagemann et al., 2008)。しかし各サブセットの腫瘍進行への寄与とTAMを免疫抑制型へ転換させる具体的経路の理解は不足していた (Lecoultre et al. JImmunotherCancer 2020)。
マクロファージの膜コレステロール含量は細胞シグナル伝達を大きく左右する。コレステロールに富む膜マイクロドメイン (脂質ラフト; lipid raft) は各種受容体のシグナル伝達プラットフォームとして機能し、その枯渇は細菌LPS (lipopolysaccharide) など炎症性刺激への応答や代替活性化サイトカイン (IL-4、IL-13) への感受性を根本的に変化させる (Fessler and Parks, 2011)。膜コレステロール排出を媒介する主要分子であるABCA1 (ATP-binding cassette transporter A1) およびABCG1 (ATP-binding cassette transporter G1) について、ABCG1欠損マクロファージが皮下腫瘍増殖を抑制するとの報告 (Sag et al., 2015) はあるものの、卵巣がんTMEにおけるTAMのコレステロール代謝そのものを腫瘍細胞が直接操作し機能再プログラム化を駆動するという観点での知見は手薄であった。近年TAMはニッチ依存的に多様な機能状態をとることが明らかにされつつあるが (Ghosh et al. NatImmunol 2026)、こうした極性化を腫瘍細胞側がどの分泌因子でどの代謝経路を介して制御するかは未解明のままであった。すなわち、(1) がん細胞がTAMの膜脂質代謝を能動的に操作して免疫抑制型へ転換させる具体的な分子経路が同定されていなかった点、(2) 膜コレステロール排出とIL-4シグナル増強・IFN-γ応答抑制を結びつける下流機構の理解が不足していた点が、先行研究に決定的に欠けていた。本研究は、この知識ギャップ (gap in knowledge) を埋めることを目的とする。
目的
本研究の目的は、転移性卵巣がんモデルにおいて卵巣がん細胞が腫瘍関連マクロファージ (TAM) の膜コレステロールを枯渇させる分子メカニズムを解明することである。具体的には、(1) 腫瘍細胞が分泌するどの因子がマクロファージの膜コレステロール排出を駆動するか、(2) このコレステロール枯渇がIL-4を介した免疫抑制性TAM表現型への再プログラム化にどのように寄与するか、(3) その下流シグナル経路 (STAT6、PI3K/mTORC2/Akt) の同定、を目指した。さらに、コレステロール排出経路やその下流シグナルを遺伝学的・薬理学的に標的とすることが、in vivoでのTAMの腫瘍促進機能を遮断し腫瘍進行を抑制し得るかを検証し、抗腫瘍免疫を回復させる新規治療戦略の可能性を提示することを目的とした。
結果
膜コレステロール枯渇と高分子量ヒアルロン酸の同定: 腫瘍増殖21日後のTAMでは、対照の常在腹腔内マクロファージと比較してコレラトキシンB (CTB) 染色 (脂質ラフト指標) が有意に低下した (p<0.01) (Fig 2A, 2B)。ID8細胞とBMDM (n=3 replicates) を1時間共培養するだけでBMDMのCTB染色が有意に減少し、ID8条件培地 (ID8-CM) 処理でも同様の低下とともにdi-4-ANEPPDHQによる膜秩序の低下、総コレステロール量の有意な減少 (p<0.05) が確認された (Fig 2C-2I)。3H標識コレステロール排出はID8-CMで有意に増加し、ABCA1欠損BMDMでは増加が消失したことから、ABCA1依存的な膜コレステロール排出が起きていることが示された (Fig 2J)。活性は分子量100 kDa超の画分に存在し、固定細胞共培養では再現されず、超遠心・煮沸・凍結融解・DNAse・proteinase K処理に抵抗性であった (つまりEVや核酸・タンパク質ではない)。ヒアルロニダーゼ (HAse) 処理で活性が完全に消失し、分子量の大きいヒアルロン酸 (HA) を添加するほどCTB染色が低下したことから、高分子量HAが主要な活性成分であると同定された (Fig 3C, 3D)。
IL-4シグナルの増強とIFN-γ応答の抑制: ID8-CM前処理BMDM (n=3 replicates) では、IL-4刺激によるArg1、Retnla、Chi3l3、Mrc1の発現が用量依存的かつ有意に増加した (p<0.001)。一方、IFN-γ刺激によるNos2、Il12bに加えCxcl9、Cxcl10、Ciitaの誘導は有意に抑制され、ID8-CMがマクロファージをIL-4誘導型の腫瘍促進表現型へ偏らせることが示された (Fig 4A, 4B)。9-cis-レチノイン酸 (9cRA)、HDL、ApoA1による薬理学的コレステロール枯渇もID8-CMと同等にCTB染色を低下させ、IL-4誘導性遺伝子の増強とIFN-γ誘導性遺伝子の抑制を再現した (Fig 4C, 4D)。逆に外因性コレステロール添加はID8-CMの効果を打ち消した。骨髄特異的ABCA1/ABCG1欠損BMDM (Abca1/g1ΔLyz2、n=3 mice) ではID8-CM処理後もCTB染色が低下せず、IL-4誘導性遺伝子の増強も消失したことから、膜コレステロール排出そのものが免疫抑制性再プログラム化の原因であることが裏付けられた (Fig 4E, 4F)。
STAT6とPI3K/mTORC2/Akt経路の活性化: ID8-CM処理BMDM (n=3 replicates) ではIL-4刺激20分後のリン酸化STAT6 (pY-STAT6) 核内蓄積が共焦点定量で有意に増加し (p<0.001)、対照的にIFN-γ刺激後のpY-STAT1は有意に低下した (Fig 5A, 5B, 5D, 5E)。IL-4受容体α鎖 (IL4RA) の発現量は不変だったが受容体の細胞内クラスタリング (エンドソーム蓄積示唆) が観察された。PI3K産物PIP3の蓄積とAktのSer473リン酸化 (pS-Akt、mTORC2基質) が著明に増加し (Fig 5C, 5F)、PI3K阻害剤LY294002はpS-AktとArg1/Chi3l3誘導をともに阻止した (Fig 5G-5I)。mTORC1/2阻害剤TorinはpS-Aktを用量依存的に完全に阻止したのに対し、mTORC1選択的rapamycinは部分的にとどまり、mTORC2が主要経路であることが示された (Fig 5N, 5O)。これらの活性化は9cRA/ApoA1でも再現され、ABCA1/ABCG1欠損BMDMでは消失したことから、コレステロール排出がPI3K/mTORC2/Akt経路を介してIL-4シグナルを増幅することが示された。
in vivo腫瘍増殖への寄与: MN由来TAMのleading edge遺伝子173個に対するingenuity pathway analysisでIL-4経路が最上位の上流制御因子として同定された (Fig 6B)。IL-4受容体ブロッキング抗体 (anti-IL4Rα) 投与マウスではID8腫瘍増殖がex vivoルシフェラーゼ評価で有意に抑制された (Fig 6C)。STAT6欠損 (Stat6−/−) およびPI3Kδ欠損 (Pik3cd−/−) 骨髄キメラマウス (各n=6 mice) でも6週後の腫瘍増殖が有意に抑制され、Pik3cd−/− TAMではIL-4依存性シグネチャーの負の濃縮とtumoricidal遺伝子セットの濃縮がGSEAで示された (Fig 6F, 6G)。骨髄特異的Abca1/g1ΔLyz2マウス (n=5 mice) では対照リターメイトと比較して腫瘍増殖が有意に障害され、そのTAMではArg1、Il10、Ccl2、Stab1が低下しtumoricidal表現型へ回帰した (Fig 6H, 6I)。これらのin vivoデータは、膜コレステロール排出がIL-4/STAT6/PI3K経路を介してTAMの腫瘍促進機能を駆動し腫瘍進行に不可欠であることを明確に裏付ける。
考察/結論
本研究は、卵巣がん細胞由来の高分子量ヒアルロン酸 (HA) がABCA1/ABCG1トランスポーターを介してマクロファージの膜コレステロールを積極的に枯渇させ、脂質ラフトの喪失を引き起こすことで免疫抑制性TAM表現型を誘導するという、これまで報告されていない経路を示した。膜コレステロール枯渇がPI3K/mTORC2/Akt経路を活性化し、IL-4シグナルへの超感受性とIFN-γシグナルへの不応性を同時にもたらす点が中核機構である。
先行研究との違い: TAMの再プログラム化には種々のサイトカインや代謝因子が関与するとされてきたが、本研究はがん細胞が物理的にマクロファージからコレステロールを「奪う」という代謝的相互作用を提示した点で既報と対照的である。これまでの研究ではABCA1欠損マクロファージは膜コレステロール蓄積によりLPSへ過剰応答する一方IL-4/IL-13へは低応答となることが示されており (Pradel et al., 2009)、ABCG1欠損で皮下腫瘍が抑制されるという報告 (Sag et al., 2015) とも、コレステロール蓄積がTAMの腫瘍促進機能を抑える方向で一致する。
新規性: 本研究で初めて、高分子量HAがマクロファージの膜コレステロール排出を駆動する分泌性因子であり、活性が超遠心で除かれずEVに依存しないことを示した。さらにこの排出がPI3K/mTORC2/AktとSTAT6を介してIL-4シグナルを増幅する分子基盤を明らかにし、がん細胞によるコレステロール「収奪」がTAM極性化の代謝的スイッチとなる概念を提唱した。CD44を介したHAシグナルがPI3Kを活性化しPI3Kが逆にABCA1を上方制御し得る点は、排出と再プログラム化のフィードフォワードループを示唆する。
臨床応用: ヒト卵巣がんではIL-4発現が予後不良と関連することが報告されており (Cândido et al., 2013)、本機構の臨床的意義が示唆される。HAの蓄積は多くのヒトがんで予後不良と相関するため、コレステロール排出経路 (ABCA1/ABCG1)、IL-4/IL4RA軸、STAT6、PI3Kδの標的化はTAMの腫瘍促進機能を遮断しつつ抗腫瘍免疫を温存し得る臨床応用戦略となり、近年のTAMニッチ・代謝制御研究 (Ghosh et al. NatImmunol 2026; Bub et al. JExpMed 2026) とも接続する。
残された課題: 今後の検討課題として、(1) 腹水中でIL-4が検出されず産生源が不明である点 (CD4陽性T細胞・好酸球・自然リンパ球・マクロファージ自身が候補)、(2) ABCトランスポーター活性が転写変化を伴わず増加する翻訳後制御 (Akt Ser473リン酸化による膜トランスロケーションの可能性) の解明、(3) ヒト卵巣がん腹水中のHA濃度と免疫抑制の直接的相関の検証、が挙げられる。本研究はマウス腹腔内モデルに限られ他がん種・他臓器転移への一般化には更なる検討が必要であるというlimitationがあり、今後の研究で膜コレステロールがPI3K/mTORC2を制御する正確な分子機序の解明が求められる。
方法
転移性卵巣がんモデルとして、C57BL/6マウスにID8-Luc卵巣表面上皮細胞株を1×10^6個腹腔内 (i.p.) 投与した。in vitro系では骨髄由来マクロファージ (BMDM; bone marrow-derived macrophage、M-CSF 10 ng/mLで7日間分化) をID8条件培地 (ID8-CM; ID8-conditioned medium) で処理し、コレラトキシンB (CTB; cholera toxin B) 染色および位相感受性蛍光プローブdi-4-ANEPPDHQで膜コレステロールと脂質ラフトを定量した。直接的なコレステロール排出は3H標識コレステロールのアポリポタンパク質A1 (ApoA1) 存在下での培地放出量で、総コレステロールはAmplex Red Cholesterol Assayで測定した。活性因子の同定には分子量カットオフフィルター (3/10/30/100 kDa) による分画、ヒアルロニダーゼ (HAse; hyaluronidase) 処理、各分子量のヒアルロン酸 (HA; hyaluronic acid) 添加、超遠心・煮沸・凍結融解・DNAse・proteinase K処理を用いた。シグナル解析はqPCR (2^-ΔΔCt法、cyclophilin正規化)、Western blot、共焦点免疫蛍光染色 (pY-STAT6、pY-STAT1、pS-Akt、PIP3) で行った。
遺伝学的アプローチとして、骨髄特異的ABCA1/ABCG1二重欠損マウス (Abca1/g1ΔLyz2)、STAT6欠損 (Stat6−/−)、PI3Kδ欠損 (Pik3cd−/−) を用い、CD45.1コンジェニックマウスの腹部を鉛で遮蔽し9 Gy照射後にCD45.2/CD45.1-2骨髄細胞 (4:1比) を移植したshielded chimeraを作製した。麻酔はketamine 150 mg/kg + xylazine 10 mg/kgで行った。薬理学的なコレステロール枯渇には9-cis-レチノイン酸 (9cRA)、高密度リポタンパク質 (HDL; high-density lipoprotein)、ApoA1を、PI3K阻害にはLY294002を、mTORC阻害にはrapamycin (mTORC1) とTorin (mTORC1/2) を用い、in vivoではIL-4受容体ブロッキング抗体 (anti-IL4Rα) を投与した。遺伝子発現プロファイリングはAffymetrixマイクロアレイ、Gene Set Enrichment Analysis (GSEA)、Gene Ontology濃縮解析で行った。差次発現遺伝子 (DEG) は1.5-fold change閾値とANOVA調整p値で抽出した。統計はt検定 (2群間) または一元配置分散分析 (ANOVA) + Bonferroni事後検定で行い、相関解析はPearson相関係数を用い、p<0.05を有意とした。