- 著者: Soubhik Ghosh, Xin Li, Kavita Rawat, Aishwarya Dighal, Stephanie Kalinowski, Reza Hosseini, Fred W. Kolling, Carol S. Ringelberg, Claudia V. Jakubzick
- Corresponding author: Claudia V. Jakubzick (Dartmouth Geisel School of Medicine)
- 雑誌: Nature Immunology
- 発行年: 2026
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 41872505
背景
固形腫瘍において、腫瘍関連マクロファージ (TAM) は免疫細胞中最も豊富な集団の一つであるが、その系統と空間的組織化が抗腫瘍免疫をどのように形成するかは不明な点が多かった。肺には、気道内腔を巡回する組織常在性の肺胞マクロファージ (AM) と、間質に存在する間質マクロファージ (IM) の2つの主要な組織常在性マクロファージ集団が共存していることが知られている Aegerter et al. Immunity 2022。さらに、炎症や腫瘍増殖時には、循環Ly6C+単球由来のリクルート型マクロファージ (recMac) がこれらの常在性マクロファージに加わる Qian et al. Nature 2011。IMはCD206hi IMとCD206lo IMに分類され、Cxcl13、Cxcl9、Cxcl10、Ccl2など多様なケモカインを産生するサブセットが存在することが、最近のシングルセルRNAシーケンス (scRNA-seq) 解析により示唆されていた Li et al. NatImmunol 2024。
これらのIMサブセットは、遺伝子発現プログラムと解剖学的ニッチにおいて明確な違いを示すことが報告されている Gibbings et al. AmJRespirCellMolBiol 2017。例えば、CD206hi IMはFolr2、Cd163、Mmp9を高発現し、Cx3cr1、MhcII、Cd38、Siglec1、Lyve1、Clec10a、Timd4などの遺伝子を多様なレベルで発現する。一方、CD206lo IMはTmem119、Mmp12、Mmp13、Cd11c、Ccr2を高発現し、Cx3cr1とMhcIIの発現も高い。また、リクルートされたLy6C+単球は、CD206+マクロファージまたはLy6C+MHCII+単球由来樹状細胞 (moDC) に分化することが知られている。moDCはCCR5依存的にリンパ節へ遊走し、免疫抑制的な抗原提示細胞として機能することが報告されていた。しかし、これらの異なるマクロファージ集団が腫瘍微小環境 (TME) 内でどのような空間的役割分担を持ち、腫瘍免疫をどのように制御しているのかは未解明であった。特に、ケモカイン発現プロファイルと空間的局在が、抗腫瘍免疫応答と腫瘍促進性応答のバランスにどのように影響するかについては、包括的な理解が不足していた。この知識のギャップを埋めることが、効果的な免疫療法開発のために不可欠である。
目的
本研究の目的は、肺がんの腫瘍微小環境において、組織常在性マクロファージ (IM) と遊走性マクロファージ (recMac) の機能的役割分担を詳細に解明することである。具体的には、CD206hi IMとCD206lo IM、およびFn1+Vcan+ recMacの各サブセットが、それぞれのケモカイン発現プログラムと空間的局在を通じて腫瘍免疫の組織化に与える影響を解析する。さらに、免疫抑制的な役割を担う単球由来樹状細胞 (moDC) のリンパ節への遊走を特異的に阻害することで、ネオ抗原ワクチンの抗腫瘍効果を増強できるかを検討し、新たな免疫療法の戦略的標的を特定することを目指す。
結果
CD206hi IMはケモカイン発現と空間配置を通じて抗腫瘍免疫を組織化する: scRNA-seq解析により、CD206hi IM (CD206 high interstitial macrophage) はCxcl13、Cxcl9、Cxcl10といった抗腫瘍性ケモカインを選択的に高発現することが明らかになった (Fig 1f)。一方、Fn1+Vcan+ recMacs (recruited macrophages) はSpp1、Vegfa、Arg1、Cd274 (PD-L1をコード) などの腫瘍促進遺伝子を豊富に発現した。Xenium空間トランスクリプトミクス解析では、CD206hi IMs (Folr2、Cd163発現細胞) が気管支気道および臓側胸膜沿いに局在するのに対し、recMacs (Vcan、Fn1発現細胞) は腫瘍微小環境 (TME) 内部に豊富に存在することが示された (Fig 3a)。特に、Cxcl13はCd163+Folr2+CD206hi IMと共局在し、気管支上皮近傍に濃縮されており、これはB16F10黒色腫およびKPAR1.3腺がんの両モデルで確認された (Fig 3c)。この空間的組織化は、マクロファージサブセットが異なるケモカインプログラムを通じて免疫細胞の動員と配置を制御していることを示唆する。この解析にはn=2 miceのB16F10腫瘍とn=2 miceのKPAR1.3腫瘍が用いられた。
CD206hi IMの除去が腫瘍増殖を加速しTLS形成を消失させる: Pf4Cre Cx3cr1DTRマウスへのジフテリア毒素 (DT) 投与によるCD206hi IMの選択的除去は、B16F10メラノーマモデルで約3.7倍 (p<0.0001、n=5 mice/group)、KPAR1.3腺がんモデルで約7.2倍 (p<0.0001、n=5 mice/group)、Ager CreERT2 KP自然発症肺腺がんモデルで約2.3倍 (p=0.0008、n=5 mice/group) の腫瘍増殖亢進を引き起こした (Fig 2b-d)。免疫組織化学的解析では、CD206hi IM除去マウスにおいて、B220+B細胞とCD3+T細胞の凝集が約80%減少し、三次リンパ構造 (TLS) が完全に消失することが確認された (Fig 2e-g)。さらに、ELISAによる肺組織中のタンパク質測定では、CXCL9が約2.7倍、CXCL10が約2.6倍、CXCL13が約1.5倍有意に減少した (Fig 2h)。これらの結果は、CD206hi IMがTLS形成とリンパ球動員を介して抗腫瘍免疫を支える上で不可欠な役割を担っていることを明確に示している。
IM由来CCL2がrecMac動員と腫瘍増殖を駆動する: 空間トランスクリプトミクス解析により、Ccl2の発現はTME内のC1qb+マクロファージ (CD206lo IMsおよびrecMacs) と共局在することが示された (Fig 4c)。致死的照射後にCcl2-/- BMを再構成したマウス (n=5 mice) では、WT BMを再構成した対照群 (n=5 mice) と比較して、B16F10腫瘍が約10.8倍減少 (p<0.0001) し、recMacsの蓄積が約2.7倍減少 (p=0.0097) した (Fig 4e)。さらに、ブスルファン処理を用いたBM再構成実験では、IM由来のCCL2発現は保持されるが、recMacやDC由来のCCL2発現は欠損する条件下で、腫瘍増殖に有意な差が認められた (p=0.0012)。この結果は、内皮細胞、recMac、またはDC由来のCCL2ではなく、IM由来のCCL2がrecMacの動員とB16F10メラノーマ肺転移モデルの進行に必須であることを実証した (Fig 4g)。
CCR5+moDCが腫瘍増殖に必要な免疫抑制経路を担う: Ccr2-/-:Ccr5-/- (80:20) 混合BM再構成マウスは、Ccr2-/-:WT (80:20) 対照群と比較して、B16F10黒色腫で約6.8倍 (p<0.0001、n=5 mice/group)、KPAR1.3腺がんで約9.3倍 (p<0.0001、n=4-5 mice/group) の腫瘍負荷減少を示した (Fig 5c,d)。この実験系では、従来の樹状細胞 (DC) のリンパ節浸潤は正常に維持されたことから、腫瘍増殖がCCR5依存的なmoDC (monocyte-derived dendritic cell) の機能に依存することが確認された。scRNA-seqデータセットのUMAP解析では、Ccr5がLy6c2+ recMacsで発現し、Ccl5がCcr7+遊走性DCで発現していることが示された (Fig 5a)。
マラビロクによるCCR5遮断がネオ抗原ワクチン有効性を増強する: CCR5拮抗薬マラビロクの投与は、鼻腔内抗原投与後3時間以内に、抗原陽性Ly6C+moDCのリンパ節への遊走を約76%抑制したが (n=4 mice/群、p<0.0001)、抗原陽性CD26+DCの遊走には影響を与えなかった (Fig 5e)。ネオ抗原ペプチド+poly(I:C)+マラビロクの3者組み合わせワクチン療法では、未ワクチン群と比較して約7.5倍の転移数減少 (p<0.01)、ペプチド+poly(I:C)単独群と比較して約3.1倍の減少 (p=0.0035、n=4-5 mice/group) が達成された (Fig 5f)。この結果は、ワクチン接種時の短時間かつ選択的なmoDCの遊走阻害が、ワクチン有効性を増強することを示している。
考察/結論
本研究は、肺がんの腫瘍微小環境におけるマクロファージの機能が、表面マーカーのみならず、解剖学的ニッチとケモカイン発現プログラムの統合によって最も適切に理解されることを示した。3つの異なる肺がんモデルで一貫して、CD206hi IMが気管支血管周囲のニッチから三次リンパ構造 (TLS) 形成と抗腫瘍リンパ球動員を支えるのに対し、腫瘍微小環境 (TME) 内部では、IM由来のCCL2が腫瘍促進性のrecMac蓄積を駆動するという二極性の役割分担が確認された。
先行研究との違い: これまでの研究では、CCL2の主要な産生源として腫瘍細胞、内皮細胞、間質細胞が注目されていたが、本研究は、IM由来のCCL2がrecMac動員と腫瘍増殖において主要かつ非冗長な役割を担うことを、精密なブスルファン骨髄キメラ実験によって初めて実証した点で新規性が高い。また、moDCが腫瘍局所ではなくリンパ節での免疫抑制的抗原提示を介して腫瘍免疫逃避に寄与するという機序は、これまでのCCR5遮断試験 (慢性的全身投与、多細胞集団への影響) とは対照的に、「ワクチン接種時の短時間・選択的moDC阻害」という新規戦略を示した。
新規性: 本研究は、肺がんにおけるマクロファージの空間的組織化とケモカイン発現プログラムが、抗腫瘍免疫と腫瘍促進性免疫のバランスをどのように制御するかを、シングルセルおよび空間トランスクリプトミクスを用いて詳細に解明した点で新規である。特に、CD206hi IMがTLS形成とリンパ球動員を促進する保護的役割と、IM由来CCL2がrecMac動員を介して腫瘍増殖を促進する抑制的役割という、マクロファージの二面的な機能的役割分担を明らかにしたことは、これまで報告されていない重要な知見である。
臨床応用: 本研究の知見は、保護的マクロファージ機能 (例: CXCL13+/CD206hi IM) を温存しつつ、CCL2-recMac軸やCCR5-moDC軸といった免疫抑制経路を選択的に阻害する組み合わせ免疫療法の設計根拠を提供する。マウスとヒトのマクロファージプログラムの保存性に鑑みれば、これらの戦略は臨床応用への移行が期待される。マラビロクを用いたmoDCの短時間遮断は、ネオ抗原ワクチンの有効性を高める新たなアプローチとして、臨床現場での応用が期待される。
残された課題: 今後の検討課題として、個々のケモカイン定義IMサブセットを選択的に標的とする遺伝学的ツールの開発が求められる。また、ヒト肺がんTMEにおける同等の空間的組織化の検証、およびマラビロクとPD-1/PD-L1チェックポイント阻害剤との組み合わせ戦略の評価が残されている。本研究のlimitationとして、現在の遺伝学的ツールでは、特定のケモカインを発現するIMサブセットを単独で標的とすることが困難である点が挙げられる。
方法
本研究では、B16F10黒色腫およびKPAR1.3肺腺がんの腫瘍移植モデル、ならびにタモキシフェン誘導性AgerCreERT2 KP自然発症肺腺がんモデルという3種類のマウス肺がんモデル (C57BL/6 mice) を使用した。腫瘍関連マクロファージの系統と機能的役割を解明するため、まず、腫瘍を移植した野生型 (WT) C57BL/6マウスの肺から細胞外血管内CD64+CD11b+単核食細胞をフローソートし、scRNA-seqにより解析した。これにより、23種類の免疫細胞クラスターを同定し、マクロファージサブセットの遺伝子発現プロファイルを詳細に解析した。次に、10x Xeniumプラットフォームを用いた空間トランスクリプトミクスにより、ケモカイン発現と細胞の空間配置をサブセルラー解像度で解析し、腫瘍微小環境におけるマクロファージの空間的ニッチを特定した。
CD206hi IMの機能的役割を評価するため、Pf4Cre Cx3cr1DTRマウスにジフテリア毒素 (DT) を投与し、CD206hi IMを選択的に除去した。この除去が3つの腫瘍モデルにおける腫瘍増殖、三次リンパ構造 (TLS) 形成、およびリンパ球動員に与える影響を評価した。CCL2を介したrecMac動員と腫瘍増殖におけるIMの役割を明らかにするため、致死的照射後の骨髄 (BM) 再構成実験 (WT vs. Ccl2-/- BM) を実施した。さらに、長寿命の組織常在性IM由来のCCL2発現を温存しつつ、短寿命の循環性骨髄系細胞 (recMacやDC) 由来のCCL2産生を排除するために、ブスルファン処理を用いたBM再構成実験を行った。
CCR5+moDCの免疫抑制的寄与を評価するため、Ccr2-/-:WT (80:20) またはCcr2-/-:Ccr5-/- (80:20) の競合BM混合キメラマウスを作成した。このモデルでは、CCR5+moDCの機能的役割を、従来の樹状細胞 (DC) の機能に影響を与えることなく評価できる。最後に、CCR5拮抗薬マラビロクと腫瘍ネオ抗原ペプチド+poly(I:C)ワクチンの組み合わせが抗腫瘍効果に与える影響をB16F10モデルで検証した。マラビロク投与による抗原提示性Ly6C+moDCのリンパ節への遊走阻害効果を評価し、ワクチン接種時のCCR5遮断のタイミングと期間を最適化した。統計解析には、Studentのt検定および一元配置分散分析 (ANOVA) を用いた。