- 著者: María Mittelbrunn, Cristina Gutiérrez-Vázquez, Carolina Villarroya-Beltri, Susana González, Fátima Sánchez-Cabo, Manuel Ángel González, Antonio Bernad, Francisco Sánchez-Madrid
- Corresponding author: Francisco Sánchez-Madrid (Centro Nacional de Investigaciones Cardiovasculares (CNIC) / Hospital Universitario de la Princesa, Madrid, Spain)
- 雑誌: Nature Communications
- 発行年: 2011
- Epub日: 2011-04-19
- Article種別: Original Article
- PMID: 21505438
背景
免疫シナプス (IS; immunological synapse) は、T細胞と抗原提示細胞 (APC; antigen-presenting cell) が抗原認識時に形成する高度に組織化された細胞間接触部位である。この部位は、TCR (T-cell receptor) シグナル伝達、細胞骨格再編成、そして極性分泌の重要な舞台となる。IS 形成時には、アクチン細胞骨格の再編成に加えて、微小管形成中心 (MTOC; microtubule-organizing centre) やゴルジ体、細胞毒性顆粒が IS 方向へ動員され、サイトカインや細胞毒性分子の極性分泌が起こることが知られていた。さらに、後期エンドソームである多胞体 (MVB; multivesicular body) の IS 近傍への局在も報告されており、MVB が IS でのエクソサイトーシスに関与する可能性が示唆されていた。
エクソソームは、MVB と細胞膜の融合によって放出される直径 30-100 nm の膜結合小胞であり、タンパク質、脂質、mRNA、そしてmiRNA (microRNA) を運搬することで細胞間コミュニケーションに機能することが、Valadi et al. NatCellBiol 2007 の報告以降、急速に解明されてきた。エクソソームは、がんの進展に関する Skog et al. NatCellBiol 2008 の報告や、免疫応答における Thery et al. NatRevImmunol 2009 の報告など、多様な生理的・病理的状況において重要な役割を果たすことが示されている。しかし、免疫細胞間でのエクソソーム分泌が、IS という特定の細胞接触部位で方向性を持って制御されるかどうかは、当時未検証であり、この点に知識のギャップが存在していた。
また、エクソソームに封入されたmiRNAが受容細胞で実際に遺伝子発現を調節するという機能的証明は、まだ不十分な点が残されていた。特に、ISという文脈でのmiRNA交換とその遺伝子調節機能については、全く報告がなかった。miRNAは、22-24ヌクレオチド長の非コードRNAとして標的mRNAの翻訳を抑制し、T細胞の発生、活性化、免疫応答制御において重要な役割を持つことが示されていたが、ISを介したエクソソーム性miRNAの一方向的転移という概念は、免疫応答における細胞間遺伝子発現制御の全く新たな形式となりうるものであり、この領域には大きな知識ギャップが残されていた。本研究は、この細胞間コミュニケーションにおける新たなメカニズムの解明を目指したものである。
このように、免疫シナプスを介したエクソソームおよびmiRNAの方向性を持った転送機構や、受容細胞における詳細な遺伝子発現制御メカニズムは当時未解明であった。特に、生理的な細胞接触環境において、どの分子経路がこの特異的な転送を駆動しているのか、またその機能的意義を直接実証した研究は不足しており、免疫学および細胞生物学における重大な課題として残されていた。
目的
本研究は、T細胞から抗原提示細胞 (APC) への免疫シナプス (IS) 依存的なエクソソーム分泌の方向性と機能的意義を実証することを目的とした。具体的には、以下の5つの主要な目的を設定した。
(1) IS 形成時におけるT細胞の多胞体 (MVB) の極性化を定量的に解析し、エクソソーム分泌の準備段階を可視化すること。 (2) T細胞からAPCへのCD63 (tetraspanin CD63) 陽性エクソソームの一方向的転移を、抗原依存的なIS形成条件下で明確に証明すること。 (3) T細胞由来エクソソームと親細胞のmiRNAプロファイルを比較解析し、エクソソームへのmiRNA選択的パッケージングの存在を明らかにすること。 (4) IS 依存的なmiRNA転移の分子機序を、中性スフィンゴミエリナーゼ2 (nSMase2; neutral sphingomyelinase-2) およびRab27a経路の関与を阻害剤やshRNA (short hairpin RNA) を用いて検証することで解明すること。 (5) 転送されたmiRNA (特にmiR-335) が、受容APCにおいて標的遺伝子である SOX4 (SRY-box transcription factor 4) の発現を機能的に抑制することを直接的に実証すること。
これらの目的を達成することで、免疫応答における細胞間遺伝子発現制御の新たなメカニズムを確立し、エクソソームを介したmiRNA転送の生理的意義を明らかにすることを目指した。
結果
免疫細胞エクソソームのmiRNAプロファイルは親細胞と質的に異なる: Agilent miRNAマイクロアレイ解析により、J77 T細胞、Raji B細胞、およびDC由来のエクソソームは、対応する親細胞とは異なるmiRNAプロファイルを示すことが明らかになった (Fig 1a,b)。階層クラスタリングでは、サンプルは細胞起源 (エクソソーム vs 細胞) により明確に分類された。一部のmiRNA (例えばmiR-760、miR-632、miR-654-5p) は、全細胞種のエクソソームに共通して高発現していた。特にmiR-335は、DCエクソソームとT細胞リンパブラストエクソソームにのみ選択的に高発現が認められた。対照的に、miR-101、miR-32、miR-21* などは細胞内で高発現するものの、エクソソームには低発現であった (Fig 1c)。異なる細胞種のエクソソーム同士のmiRNAプロファイルの相関係数は R^2 = 0.3-0.5 程度であり、各細胞とその由来エクソソーム間の相関係数 R^2 = 0.4-0.7 よりも低かった (Fig 1d)。これらのデータは、エクソソームに特定のmiRNAが選択的にパッケージングされる能動的な機序の存在を示唆する。この実験は n=3 replicates の独立実験で実施された。
T細胞MVBのIS方向への極性化とCD63陽性エクソソームの一方向的移転: SEE添加条件でのJ77-Raji共培養において、J77 T細胞のCD63、Hrs、VPS4陽性MVBが、CD3およびアクチン (ISマーカー) と共局在するIS方向への集積が認められた (Fig 3a)。一方、Raji B細胞のMVB局在には変化がなかった。CH7C17-Hom-2ペプチド系でも同様のT細胞MVB極性化が確認され、IS誘導の特異性が示された (Fig 3b,c)。生細胞タイムラプスイメージング (30秒間隔) では、CD63-GFP陽性MVBがIS形成開始後10分以内にIS方向へ移動することがリアルタイムで可視化された (Fig 3d)。フローサイトメトリー解析では、SEE添加時のみRaji細胞へのCD63-GFP移転が有意に増加した (p<0.001) (Fig 4a)。逆方向の実験 (Raji-CD63-GFPからJ77) では、SEE添加の有無に関わらず転移はほぼ認められなかった (Fig 4a)。これは、T細胞からAPCへのエクソソームの一方向的な転送を示唆する。この実験は n=9 replicates の独立実験で実施された。
エクソソーム転移には直接細胞接触とアクチン骨格依存的なIS形成が必須: Transwell膜 (0.4 μm) による細胞間接触遮断実験では、J77-CD63-GFP T細胞を抗CD3/CD28で同程度に活性化しても、CD63-GFPのAPCへの転移は消失した (Fig 4c)。アクチン骨格阻害薬 (latrunculin-A、cytochalasin-D) によるIS破壊は転移を廃止したが、微小管阻害薬nocodazolは影響しなかった (Fig 4c)。BLS-1細胞 (HLA class II欠損、IS非形成) への転移は、Raji細胞 (IS形成可能) と比較して著明に低かった (p<0.005) (Fig 4d)。これらの結果は、エクソソーム転移が細胞接触、アクチン依存的IS形成、およびT細胞活性化の3条件全てを要することを示している。この実験は n=6 replicates の独立実験で実施された。
IS依存的エクソソーム取り込みは機能的に異なる: IS依存的転移では、CD63-GFPがAPC細胞膜のMHC-II分子と重複分布し、trypsin処理後もGFPシグナルが消失しなかった (Fig 4e,f)。これはエクソソームが内在化されたか、または細胞膜に融合したことを示唆する。一方、外部添加エクソソームの非シナプス的取り込みでは、GFPが凝集体としてMHC-IIと分離して分布し、trypsin処理で減少した (Fig 4e,f)。この結果は、ISを介したエクソソームがAPC膜に融合または内在化されるのに対し、非シナプス的添加エクソソームは膜表面に吸着するにとどまり、機能的送達効率が異なることを示唆する。この実験は n=3 cells の解析を含む独立実験で実施された。
nSMase2/セラミド経路がIS依存的miRNA移転を制御する: nSMase2阻害薬manumycin-AおよびBIG2阻害薬brefeldin処理により、エクソソーム分泌 (CD81イムノブロットで評価) が低下し (Fig 6a)、CD63-GFPとmiR-335のAPCへのIS依存的転移が有意に抑制された (p⇐0.001) (Fig 6c,e)。nSMase2 shRNAでも同様にCD63-GFP転移 (p=0.0005) とmiR-335移転 (p=0.012) が抑制された (Fig 6d,f)。Ostrowski et al. NatCellBiol 2010 もエクソソーム分泌とCD63-GFP転移を抑制したが、ESCRT-0成分HrsのshRNAはCD63-GFP転移に影響しなかった (Fig 6d)。これにより、IS依存的エクソソーム性miRNA転移がセラミド依存的かつESCRT非依存的な経路によることが確定した。n=5 replicates の独立実験でmanumycin-Aおよびbrefeldinの影響を評価し、n=8 replicates の独立実験でshRNAの影響を評価した。
移転miR-335がAPCの標的遺伝子発現を機能的に調節する: miR-335を過剰発現するJ-335細胞とSEE誘導ISを形成したRaji B細胞 (n=5 cells の共培養系) では、SOX4全長3’-UTRルシフェラーゼ活性が有意に低下し、約0.6倍 (0.6-fold decrease) の発現抑制効果を示した (p<0.05) (Fig 7a)。対照のUBE2F 3’-UTRへの影響は認められず、miR-335非関連ISの場合 (J-101細胞) もSOX4抑制は起きなかった。SOX4 3’-UTRのmiR-335シード配列 (449-509 bp) 領域でも同様の抑制が認められ、シード配列変異体では抑制が消失した (Fig 7b)。重要な比較として、外部添加した単離エクソソームでは同等のCD63-GFP転移があってもSOX4ルシフェラーゼ活性への影響は認められず、ISを介した移転miRNAのみが機能的であることが示された (Fig 7a,b)。また、miR-335を過剰発現するCH7C17細胞とHA抗原提示Hom-2細胞でのIS実験でもmiR-335のHom-2細胞への移転が確認され、ペプチド抗原特異的なISでも同現象が再現され、約2.5倍 (2.5-fold increase) のmiR-335蓄積が確認された (Fig 5c)。この実験は n=5 replicates の独立実験で実施された。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究は、従来の双方向的な受容体リガンド結合やキナーゼシグナルカスケードを通じた分子認識としてのIS理解と異なり、T細胞からAPCへの一方向的なエクソソーム性RNA転移という新たな次元を初めて示した。従来のエクソソーム研究では、主にがん細胞、肥満細胞、内皮細胞間でのRNA転移が報告されていたが、免疫シナプスという生理的かつ精密に制御された細胞接触構造でのエクソソーム性miRNAの一方向移転は、本研究で初めて報告されたものである。
新規性: 本研究で初めて、免疫シナプス (IS) がmiRNAを含む遺伝情報分子の方向性分泌プラットフォームとして機能するという、全く新しい概念を確立した。また、細胞内miRNAプロファイルとエクソソーム中miRNAプロファイルが質的に異なるという発見は、細胞が特定のmiRNAをエクソソームへ選択的にソーティングする能動的機構を持つことを示唆する。さらに、ISを介して移転したmiRNAのみが受容APCで機能的遺伝子調節を引き起こし、外部添加エクソソーム由来miRNAは機能的でなかったという発見は、ISでの直接膜融合または内在化経路が機能的miRNA送達に必須であることを示している。
臨床応用: 本知見は、エクソソームを基盤とした治療薬設計やドラッグデリバリーシステム (DDS) の開発における臨床応用に直結する。臨床的意義として、ターゲット細胞との特異的接触を促進する戦略 (例えば、免疫シナプス様構造を模倣した標的化) が、機能的miRNA送達効率を最大化するために極めて重要であることが示唆される。また、T細胞からAPCへのmiR-335を介したSOX4抑制が免疫監視や腫瘍免疫にどう関わるかは、がん免疫療法の開発において重要な臨床的示唆を与える。
残された課題: 今後の検討課題として、このmiRNA転送が他の免疫細胞間相互作用や、in vivoでの免疫応答にどのような影響を与えるかを解明する必要がある。また、本研究で示されたT細胞MVBのIS極性化とエクソソーム放出機構は、細胞傷害性T細胞の細胞毒性顆粒放出との類似点・相違点を持つ可能性があり、エクソソームと細胞毒性機構の統合的理解が今後求められる。本研究の limitation としては、特定の細胞株を用いた in vitro 実験が中心である点が挙げられ、生体内における実証が今後の課題である。
方法
細胞系とIS誘導: ヒトJurkat由来J77cl20 (J77cl20 T細胞株) T細胞株 (TCR Vα1.2/Vβ8) とRaji B細胞株 (Burkittリンパ腫、APC) を主要な細胞モデルとして使用した。ISは、SEE (Staphylococcus enterotoxin E) スーパー抗原 (0.5 μg/ml) を添加することで誘導した。また、HA (hemagglutinin) ペプチド特異的TCRを持つCH7C17 (CH7C17 T細胞) T細胞とHom-2 (Hom-2 B細胞) B細胞の組み合わせを用いて、ペプチド抗原依存的なISも誘導し、結果の一般性を確認した。IS形成ができないHLA class II欠損のBLS-1 (Bare lymphocyte syndrome-1) 細胞株を陰性対照として用いた。さらに、細胞株の比較検証用として、一般的な対照細胞株である HEK293T (human embryonic kidney 293T) 細胞も実験系に導入し、トランスフェクションやウイルス産生に使用した。
安定発現細胞株の樹立: エレクトロポレーションによりJ77またはRaji細胞にCD63-GFPを安定発現させ、FACSソーティングとG418選択によりクローニングした。さらに、レンチウイルス感染を用いてmiR-335または対照のmiR-101を過剰発現させ、J-335、J-101、C-335、C-101細胞株を樹立した。
エクソソーム転移の定量: CMAC (chloromethyl derivative of aminocoumarin) で標識したRaji細胞とJ77-CD63-GFP細胞を、SEE添加または非添加条件で16時間共培養した。その後、フローサイトメトリーによりRaji細胞のGFP陽性率を定量し、エクソソーム転移を評価した。逆方向の転移 (Raji-CD63-GFPからJ77への転移) も同様に評価した。
方向性の確認実験: エクソソーム転移のIS依存性と一方向性を確認するため、以下の実験を行った。(a) 細胞骨格阻害薬 (cytochalasin-D、latrunculin-A、nocodazol) によるIS破壊実験、(b) 0.4 μmポアサイズのTranswell膜による細胞間接触遮断実験、(c) IS非形成細胞株であるBLS-1との比較実験を実施した。
MVB極性化の解析: SEE誘導後30分で細胞を固定し、CD63、Hrs、VPS4 (MVBマーカー) とCD3、アクチン (ISマーカー) の共焦点免疫蛍光染色により、T細胞MVBのIS方向への集積を定量した。CD63-GFP発現J77細胞の生細胞タイムラプスイメージングにより、MVB動態をリアルタイムで観察した。
miRNAマイクロアレイ解析: Raji、J77、DC (樹状細胞) 各細胞株とその由来エクソソームから小RNAを抽出し、Agilent miRNAマイクロアレイを用いてmiRNAプロファイルを比較した。階層クラスタリングと主成分分析 (PCA) により、細胞とエクソソームのmiRNAプロファイルの差異を解析した。
nSMase2機能実験: nSMase2阻害薬manumycin-A (10 μM)、BIG2阻害薬brefeldin (10 mg/ml) の処理、およびnSMase2 shRNA (レンチウイルス) によるエクソソーム分泌への影響をイムノブロット (CD81) で評価した。また、CD63-GFPおよびmiR-335のAPCへの転移に対する影響をフローサイトメトリーとqRT-PCRで評価した。Rab27a shRNAによる検証も実施し、エクソソーム分泌経路におけるRab27aの関与を確認した。ESCRT-0成分であるHrsのshRNAとの比較により、ESCRT非依存的な経路であることを確認した。
機能的遺伝子調節の実証と統計解析: Raji細胞にmiR-335の標的遺伝子であるSOX4の全長3’-UTR、または対照遺伝子UBE2Fの3’-UTRをルシフェラーゼ下流に挿入したレポーターコンストラクトをトランスフェクションした。SEE誘導IS後のルシフェラーゼ活性を、J-335またはJ-101細胞との共培養条件で比較した。SOX4 3’-UTRのmiR-335シード配列を点変異させた変異体との比較も行い、特異性を検証した。統計解析には、群間比較として Student t-test (Studentのt検定) または Mann-Whitney U test (Mann-WhitneyのU検定) を使用し、P値を算出した。