• 著者: Hongyuan Jin, Yuanxin Tang, Liang Yang, Xueqiang Peng, Bowen Li, Qin Fan, Shibo Wei, Shuo Yang, Xinyu Li, Bo Wu, Mingyao Huang, Shilei Tang, Jingang Liu, Hangyu Li
  • Corresponding author: Hangyu Li (The Fourth Affiliated Hospital of China Medical University, Shenyang, China)
  • 雑誌: Frontiers in Cell and Developmental Biology
  • 発行年: 2021
  • Epub日: 2021-06-01
  • Article種別: Review
  • PMID: 34141705

背景

腫瘍進行は浸潤・遊走・代謝リプログラミング・オートファジー・エクソソーム分泌・薬剤耐性という複数の悪性形質を伴い、これらはいずれも膜小胞によって運搬されるカーゴ (細胞接着受容体・プロテアーゼ・成長因子受容体・代謝トランスポーター) の正確な配送に依存する。膜輸送が細胞タンパクの分布と細胞外小胞の分泌を可能にし、重要な膜タンパクの提示と分解の不均衡が腫瘍進行に決定的であることは複数の先行研究で示されてきた (Prasad et al., 2016; Goldenring, 2013)。Rab GTPaseは高度に保存された膜輸送調節因子であり、Stenmark の総説が各Rab GTPaseの膜コンパートメント特異的局在と小胞輸送のオーケストレーション機能を体系化し (Stenmark et al. NatRevMolCellBiol 2009)、Ostrowski らがRab27a/Rab27bのエクソソーム分泌における段階特異的役割を実証した (Ostrowski et al. NatCellBiol 2010)。しかし、これら多数のRab GTPaseの研究は主に転写・翻訳レベルの発現変化や個別Rab GTPaseの単一機能に焦点が当てられており、66種に及ぶファミリー全体を「膜輸送の中心制御軸」として浸潤から薬剤耐性まで横断的に統合し、臨床的意義・治療標的としての可能性まで結び付けた整理は不足していた。とりわけ、同一Rab GTPaseが腫瘍種により促進的にも抑制的にも働く二面性の体系的説明と、膜輸送異常をがんの中心的特性として位置付ける枠組みは手薄であり、本レビューはこの gap in knowledge を埋めることを動機としている。

目的

ヒトゲノムにコードされる66種のRab GTPaseの分子スイッチとしての特性・活性化機構 (GEF/GAP/GDI/REP による制御) を整理し、多様ながん種における浸潤・遊走・成長因子シグナリング・代謝・オートファジー・エクソソーム分泌・薬剤耐性の各悪性形質へのRab GTPaseの具体的寄与を膜輸送の観点から統合する。さらに、Rab GTPaseの発現変化と臨床病理学的パラメータ・予後との相関 (臨床的意義) を整理し、小分子阻害剤・遺伝子治療を含むRab GTPase標的治療戦略の可能性と課題を論じることを目的とする。

結果

Rab GTPaseの分子スイッチ機構と上流調節因子:Rab GTPaseは GTP 結合型 (活性型) と GDP 結合型 (不活性型) を可逆的に移行する分子スイッチとして機能し、GEF が GDP→GTP 変換を触媒して活性化、GAP が GTPase 活性を促進して不活性化する (Figure 2)。Rab GTPaseは GTP/GDP 結合状態で構造が変化する2つの switch 領域を持ち、各 GTP/GDP サイクルがテザータンパク・モータータンパクのリクルート、アクチン線維からマイクロチューブルへの制御切り替え、Rab 依存的調節因子間でのトラフィキング制御の受け渡しの機会となる。GAP 機能の障害や GEF の過剰発現は活性型Rab GTPaseを増加させ、下流エフェクター動員を介してがん進行に影響する。例えば TBC (Tre-2/Bub2/Cdc16) ドメイン含有 Rab GAP である EVI5 は肺がんの増殖・転移を調節するオンコジーンであり、Rab8 とその GEF である Rabin8 は腫瘍形成を促進する。GDI は GDP 離脱を抑制して不活性状態を安定化し、REP (Rab escort protein) とともにゲラニルゲラニル化を介してRab GTPaseの膜ターゲティングと再利用を制御する。これらの上流制御層がRab GTPaseの活性プールを定義する。

腫瘍浸潤を駆動する MMP 輸送制御:腫瘍浸潤には細胞接着受容体の再分布と基質分解酵素の方向性輸送が必要で、複数のRab GTPaseが MMP (matrix metalloproteinase) の局在・分泌・リサイクルを制御する (Table 1)。MT1-MMP (膜型 matrix metalloproteinase) は浸潤に不可欠で、Rab1b は乳がん・黒色腫・大腸がんで MMP1 分泌を増加させ転移を促進する。Rab2a は MT1-MMP のエンドサイトーシスリサイクルと E-カドヘリンのゴルジ体への輸送を制御して乳がん浸潤を促し、Rab5/Rab4 は浸潤性乳がんで MT1-MMP を介した浸潤を促進する。Rab8 は乳がんで MT1-MMP の開口分泌を制御し、Rab11 は低酸素下でインテグリン α6β4 のトラフィキングを促進して乳がん浸潤を増強する。Rab40b はインバドポディア形成中の MMP2/9 輸送を調節する。対照的に、Rab37 は TIMP1 (tissue inhibitor of metalloproteinase 1) の開口分泌を制御して MMP9 活性化を抑え肺がん転移を抑制し、TIMP2 分泌を介して上咽頭がんの MMP2 活性化を抑える腫瘍抑制的役割を持つ。Rab7 は大腸がんで MT1-MMP 分泌・浸潤を促進する一方、高発現が早期黒色腫の高転移リスク指標となる二面性を示す。

インテグリンリサイクリングを介した遊走と成長因子シグナリング:細胞遊走はインテグリンの細胞表面への正確なリサイクリングに依存し、Rab5 と Rab21 はインテグリン β1 のエンドサイトーシストラフィキングを制御して乳がん・前立腺がんの遊走・接着を増強する (Table 1)。Rab5a は膵臓がんで cdc42・β1 インテグリン活性化を介して Filopodium 形成を促進する。Rab11b はβ1 インテグリン表面発現を制御して Erk 活性化を促し、乳がん脳転移の適応・増殖に重要な役割を果たす (Hoshino et al. CellRep 2013 が示したインバドポディア-小胞分泌の連携とも合致)。Rab25 は二面的で、大腸がん・皮膚扁平上皮がんではβ1/β4/α6 インテグリンのリサイクリング障害を介し腫瘍抑制的に働くが、NSCLC・卵巣がんではβ1 インテグリンの細胞膜トラフィキングを促進して AKT/β-catenin あるいは EGFR/VEGF/Snail 軸を活性化し腫瘍促進的に働く。成長因子シグナリングでは、Rab5 が三重陰性乳がんで EGFR ベシクルリサイクリングを介し遊走を促進し、Rab7 shRNA 発現細胞では HGF (hepatocyte growth factor) シグナル増強による浸潤亢進が見られる。Rab10 は HGF 経路を制御し HCC の不良予後と相関、Rab31 は大腸がん間質で HGF 分泌を介し進行を促進する。

エクソソーム生合成・分泌の段階特異的制御:エクソソームは40-100 nm の MVB 由来小胞であり、Rab GTPaseが MVB 成熟・ドッキング・形質膜融合を多段階で制御する。Rab11 は K562 細胞で活性低下時にエクソソーム放出減少をきたし、Ca2+ 依存的な MVB の形質膜ドッキングを制御するほか、Rab11 介在性エクソソーム TMPRSS2 分泌が乳がん遊走を促す。HeLa 細胞では Rab27a/Rab27b がエクソソーム分泌の主要制御因子で、Rab27a が MVB の size を、Rab27b がその細胞内局在を独立に制御する (Ostrowski et al. NatCellBiol 2010)。Rab27a ノックダウンは浸潤性がん細胞株のエクソソーム分泌・遊走・走化性・浸潤を減弱させ、Rab27a 介在性エクソソームは腫瘍微小環境を改変して腫瘍進行を促進し得る (Bobrie et al. CancerRes 2012)。Rab27 はカーゴとして exosomal miR-23b (膀胱がん浸潤・転移) や Rab27b 介在性 exosomal miR-34c-5p (白血病幹細胞老化) を運び、頭頸部扁平上皮がんの神経支配誘導・乳がんの腫瘍促進性好中球動員にも関与する。非コード RNA を介した制御は本グループの先行総説でも整理されている (Fan et al. CancerLett 2018)。Rab35 もエクソソーム分泌に報告されるが、がんでの機能は未確定な部分が多い。Rab11・Rab27a/b のエクソソーム機能は主に in vitro 知見に基づく点が留保される。

代謝リプログラミングとオートファジーの交点:Rab GTPaseはグルコース・脂質代謝を輸送経路を介して制御する。Rab25 は卵巣がん・乳がんで GLUT1 (glucose transporter 1) の細胞膜輸送を調節しグルコース取り込み・グリコーゲン・ATP 産生を増加させ、Rab8a は HCC で脂肪滴の融合・成長を制御する。Rab32 は HCC・子宮頸がんでリソソーム生合成を調節し mTOR (mammalian target of rapamycin) 経路タンパクのリソソーム局在を制御、Rab35 は mTORC2 上流で PDGFRα を LAMP2 陽性エンドメンブレンへ輸送するオンコジーン的潜在能を持つ (Wheeler et al., 2015)。オートファジーでは、Optineurin-Rab1a 複合体が LC3-EGFP のオートファゴソーム移行を調節し、Rab2 と Rab7 がオートファゴソーム成熟・オートリソソーム融合に必須で、Rab2 は ULK1 キナーゼ活性を調節して形成も促す。脂肪滴選択的オートファジー (リポファジー) では Rab10 が HCC でオートファゴソームを脂肪滴 (LD, lipid droplet) 表面へリクルートし、Rab7 が MVB・リソソームの LD への輸送を制御する。Rab25 のオートファジーへの役割は腫瘍種で逆転し、卵巣がんではノックダウンがオートファジー・アポトーシスを誘導するが、腎がんでは高発現が FAK/Akt 経路阻害を介しオートファジーを増進し悪性度を抑制する。

薬剤耐性の4つの機序:Rab GTPaseは主に4つの機序で薬剤耐性に関与する (Table 1)。①細胞外小胞を介した薬剤排出: Rab7a が薬剤エキソサイトーシスによるシスプラチン耐性に関与し、低酸素下での Rab27a 上昇がエクソソーム介在性シスプラチン排出を増加させる。②膜輸送タンパクとの協働: Rab8 が TMEM205 と共局在してシスプラチン分泌を増やし疫上皮がんに耐性を付与する。③特異的受容体の表面発現制御: Rab8 が NSCLC で TNFRSF10B (アポトーシス誘導受容体) の細胞質輸送を促してペメトレキセド抵抗性を付与し、Rab13 が胃がんで EGFR リサイクリングを介して 5-フルオロウラシル感受性を調節する。④多剤耐性タンパクのリサイクリング: Rab5a と Rab21 が ABCG2 (多剤耐性 ABC トランスポーター) の細胞膜局在・ターンオーバーを制御し、恒常活性型 Rab5a-Q79L 変異体は ABCG2 の形質膜発現を減少させ薬剤排出を低下させる。これら MDR (multidrug resistance) 制御は耐性克服の標的候補を示唆する。

臨床的意義と予後マーカーとしての発現相関:多数の臨床病理学的研究がRab GTPaseの臨床的意義を支持する (Table 2)。Rab1a 高発現は舌扁平上皮がん・HCC・乳がん・前立腺がん・肺がん・胃がん・大腸がんで腫瘍サイズ・分化度・リンパ節転移・TNM 病期・不良予後と相関する。Rab7 高発現は肺がん・胃がんで生存率低下、早期黒色腫で高転移リスクの指標となり、Rab5a 高発現は肺・肝・乳・卵巣がん・グリオーマで不良予後と相関する。Rab10 高発現は HCC、Rab11/Rab11a は大腸がん・肺がん、Rab13 は胃がんの化学療法耐性・不良全生存/無増悪生存、Rab21 は膵臓がんで不良予後と関連する。Rab27a/Rab27b は腫瘍種により発現方向が逆転し、乳がんでは Rab27b 高発現が生存短縮・リンパ節転移と相関する一方、大腸がん・前立腺がんでは Rab27a/b 低発現が不良予後と相関する。Rab25 も乳・卵巣・腎がんでは高発現が不良予後だが大腸がんでは低発現が不良予後で、CLIC3 依存的なインテグリン輸送の関与で説明される。Rab37 低発現は肺がんで不良予後の指標となる。

考察/結論

本レビューの中心的主張は、Rab GTPaseが膜小胞輸送の中心制御因子 (central coordinator) として、浸潤・遊走・代謝・オートファジー・エクソソーム分泌・薬剤耐性という6つの悪性形質を同時に貫くチェックポイントを構成する、という統合的視座である。これまでの研究では個々のRab GTPaseの単一機能や転写・翻訳レベルの発現変化に焦点が当てられることが多く、既報の知見は悪性形質ごとに分断されていた。これと対照的に、本稿は66種を膜輸送軸で横断整理し、膜輸送異常そのものをがんの中心的特性として再定義する枠組みを提示した点に新規性がある。とりわけ、Rab25・Rab27・Rab7 などが腫瘍種・病期・成長因子刺激に応じて促進と抑制の二面的役割を取る複雑性を体系的に対比した整理は、これまで報告されていない俯瞰像を与える。膜リサイクリングが数分単位で進む極めて動的な過程であるため、Rab GTPaseの発現や活性状態の小さな変化が日単位で細胞プロセスに大きな変化をもたらし得るという量的洞察も、治療標的としての魅力を裏付ける。臨床応用の観点では、Rab GTPaseは多がん種で予後マーカーとして機能し、Rab7 阻害剤 ML282・pan-GTPase 阻害剤 CID1067700 などの小分子、競合的ヌクレオチド阻害剤、siRNA・ncRNA (non-coding RNA) を用いた遺伝子治療が探索段階にある。lncRNA HOTAIR による Rab35 制御や LINC00152-miR-107-Rab10 軸など ncRNA 軸の操作は、bench-to-bedside の橋渡し候補となる。一方で残された課題も多い。第一に、Rab ファミリーの機能的冗長性とがん種特異性を踏まえた精密標的療法の設計が必要であり、Rab11・Rab27a/b のエクソソーム機能の多くが in vitro 知見に依存するため in vivo での検証が future research として求められる。第二に、ncRNA 送達システムの安定性・オフターゲット効果という limitation の克服が遺伝子治療の臨床橋渡しに不可欠である。今後の検討として、Rab GTPase活性状態を直接読み出すバイオマーカー開発と、二面性を踏まえた腫瘍種・病期特異的な標的選択戦略の確立が、Rab GTPase標的療法を実臨床へ進める鍵となる。

方法

本稿は実験を伴わない文献レビューであり、PubMed に索引された一次研究・総説を情報源として、ヒトゲノムにコードされる Rab GTPaseファミリー (n=66 genes) の機能を悪性形質ごとに整理する手法をとる。著者らは収集した知見を3つの構造化テーブルに体系化している: Table 1 (悪性形質別のRab GTPase・調節因子・がん種・文献)、Table 2 (Rab GTPaseの臨床的意義・発現方向・予後)、および図 (Figure 1-2) によるサブ細胞局在と GTP/GDP サイクルの図示である。Rab GTPaseの活性状態は GEF (guanine nucleotide exchange factor) による GDP→GTP 変換と GAP (GTPase activating protein) による加水分解、GDI (GDP dissociation inhibitor) と REP (Rab escort protein) によるゲラニルゲラニル化・膜ターゲティング制御として記述される。本レビューが扱うエクソソームは40-100 nm の多胞体 (MVB, multivesicular body) 由来小胞と定義され、その単離・性状解析は後の ISEV (International Society for Extracellular Vesicles) の MISEV ガイドラインと整合する size 基準 (40-100 nm)・MVB 由来という origin 基準、ならびに CD9/CD63/CD81・TSG101 等の characterization marker に基づく差次超遠心 (differential ultracentrifugation) ・密度勾配遠心 (density gradient) ・size-exclusion chromatography (SEC) による単離を前提としている。引用された臨床病理学的研究の多くは、Kaplan-Meier 生存曲線・log-rank 検定・Cox 比例ハザードモデルによる予後解析と、発現量と病期・転移の Spearman/Pearson 相関解析に依拠しており、本レビューはこれら survival analysis ベースの予後データを横断的に統合している。