• 著者: Xu Zhang, Hui Shi, Xiao Yuan, Pengcheng Jiang, Hui Qian, Wenrong Xu
  • Corresponding author: Xu Zhang; Wenrong Xu (Jiangsu University, Zhenjiang, China)
  • 雑誌: Molecular Cancer
  • 発行年: 2018
  • Epub日: 2018-09-27
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 30292233

背景

好中球は腫瘍微小環境 (TME) における多機能エフェクター細胞であり、がん発生・増殖・転移・血管新生・免疫抑制の各プロセスに深く関与している。好中球は、活性酸素種 (ROS) などの遺伝毒性物質を産生し、上皮細胞のDNAを損傷して発癌を誘発することが報告されている。また、好中球エラスターゼ (NE) やプロスタグランジンE2 (PGE2) などの広範な因子を産生し、腫瘍細胞の増殖を促進することも示されている (Houghton et al. 2010, Antonio et al. 2015)。さらに、好中球は腫瘍細胞の遊走と浸潤を促進し、細胞外マトリックスを分解し、腫瘍細胞の定着を促進することで腫瘍転移を促進する (Wculek et al. 2015, Spicer et al. 2012, El Rayes et al. 2015)。同時に、好中球は免疫を障害し、腫瘍の増殖と転移を助ける (Casbon et al. ProcNatlAcadSciUSA 2015, Zhou et al. 2016, Mishalian et al. 2014, Spiegel et al. 2016)。マトリックスメタロプロテイナーゼ-9 (MMP-9) や血管内皮増殖因子 (VEGF) などの分子を産生し、血管新生を誘導することも知られている (Kuang et al. 2011)。好中球浸潤の増加と好中球/リンパ球比 (NLR) の上昇は、がん患者の疾患進行と不良予後に関連付けられている (Shen et al. 2014)。腫瘍関連好中球 (TAN) は骨格的にはN1 (抗腫瘍) とN2 (腫瘍促進) の2極性表現型を取ることが知られており、N2 TANは転移促進・免疫抑制活性を持つ (Fridlender et al. CancerCell 2009)。先行研究は腫瘍細胞が産生するオキシステロール・CXCL5・ヒアルロン酸断片 (HA) ・GM-CSF・マクロファージ遊走阻止因子 (MIF) などの液性因子が好中球をN2様表現型に分極化させることを示していたが、これらは主に可溶性分子を介した機序であった (Raccosta et al. 2013, Zhou et al. 2012, Wu et al. 2011, Wang et al. 2017, Dumitru et al. 2011)。

一方、腫瘍細胞はエクソソームを介した細胞間コミュニケーションも積極的に利用しており、エクソソームがT細胞・NK細胞・マクロファージ・樹状細胞・骨髄由来抑制細胞 (MDSC) などを再プログラムして免疫抑制環境を形成することが報告されていた (Kalluri et al. 2016, Zhang et al. 2015, Whiteside et al. 2016)。例えば、卵巣がん細胞由来エクソソームはマクロファージをM2表現型に分極化させ、卵巣がんの増殖と転移を促進する (Bretz et al. 2013)。しかし、胃がん細胞由来エクソソームが好中球の表現型と機能をどのように制御するかは未解明であった。また、好中球においてオートファジー活性化が腫瘍促進機能を支持するという報告もあったが (Li et al. 2015)、エクソソームによるオートファジー誘導を介した好中球の再プログラムという機序は示されていなかった。

HMGB1 (High Mobility Group Box-1) はDAMP (damage-associated molecular pattern) タンパクとして知られ、TLR4やRAGEなどのパターン認識受容体を活性化することで炎症反応を誘起する (Kang et al. 2014)。HMGB1がエクソソームに搭載されて細胞間を移動するという概念は単球研究で示唆されていたが (Gardella et al. 2002)、がん細胞由来エクソソームのHMGB1搭載と好中球への作用については未検討であり、この領域には知識のギャップが残されていた。特に、胃がんにおけるエクソソームを介した好中球の腫瘍促進活性化のメカニズムは不足しており、詳細な解析が必要であった。

目的

本研究の目的は、胃がん細胞由来エクソソーム (GC-Ex) が好中球に与える表現型・機能的影響を明らかにすることである。具体的には、GC-Exが好中球のオートファジーを誘導し、腫瘍促進活性化を引き起こすメカニズムを解明する。さらに、このプロセスにおけるHMGB1/TLR4/NFκBシグナル経路の役割を詳細に解析し、オートファジーの関与を検証する。最終的に、この軸の臨床的意義を胃がん患者組織で検証し、エクソソームを介した好中球制御の新たなメカニズムと、腫瘍微小環境におけるエクソソームの多面的な役割に新たな知見をもたらすことを目指す。本研究は、胃がんの診断、予後予測、および治療における新たな戦略開発に貢献することを意図している。

結果

GC-CMによる好中球のオートファジー誘導と腫瘍促進活性化: 胃がん細胞由来条件培地 (GC-CM) で処理した好中球 (n=3 replicates) では、自発的アポトーシスが有意に抑制され (Annexin V陽性率が対照群と比較して低下、p<0.01)、CD11b (好中球化学走性マーカー) 発現が有意に増加した (p<0.01)。透過型電子顕微鏡 (TEM) 解析では、オートファゴゾームが対照群に比べて著明に増加しており、免疫蛍光染色によるLC3 (microtubule-associated protein 1 light chain 3) 陽性punctaも同様に増加した (p<0.01)。ウエスタンブロット (WB) によりオートファゴソームマーカーであるLC3-IIが増加し、qRT-PCRではオートファゴソーム形成に関与するATG7とBECN1の発現も上昇した (p<0.01)。さらに、炎症性サイトカイン (IL-1β、IL-6、IL-8、OSM、TNFα) およびMMP9、VEGFのmRNA発現が有意に増加した (p<0.01)。対照的にROS産生は減少し、これは免疫抑制的好中球の特徴と合致する。GC-CM処理好中球上清はTranswellアッセイでBGC-823胃がん細胞の遊走を有意に促進した (p<0.01)。さらに、好中球上清は内皮細胞の管腔形成とがん細胞増殖も促進した (Fig. 1a-g)。

オートファゴゾーム形成阻害による腫瘍促進活性の逆転: オートファゴゾーム形成阻害剤3-メチルアデニン (3-MA, 5 mM) による前処理は、GC-CM誘導性の好中球生存延長、CD11b発現増加、胃がん細胞遊走促進を有意に逆転させた (p<0.01)。一方、オートファゴゾーム分解阻害剤クロロキン (CQ, 20 μM) ではこれらの効果は認められなかった。この結果は、オートファゴゾーム「形成」ステップが腫瘍促進活性の実行に必要であることを示唆する (Fig. 1h-j)。

NFκBシグナルの中心的役割: GC-CM処理により好中球 (n=3 replicates) でp-p65 (NFκB)、p-STAT3、p-ERKが時間依存的に増加した。NFκB阻害剤Bay11-7082 (Bay) はSTAT3とERKのリン酸化を完全に抑制したが、STAT3阻害剤とERK阻害剤はNFκB活性化を部分的にしか抑制しなかった。この結果はNFκBが上流マスターレギュレーターとして機能することを示す。NFκB阻害剤はLC3-II産生、ATG7/BECN1 mRNA増加、炎症性サイトカイン発現、CD11b増加、胃がん細胞遊走促進をすべて有意に逆転させ (p<0.01)、NFκBがオートファジーを含む全下流応答を統括していることが確認された (Fig. 2b-e)。

GC-ExによるHMGB1輸送とTLR4/NFκB活性化の同定: BGC-823由来GC-Ex (gastric cancer cell-derived exosomes) はTEM解析で直径約100nmの球状小胞を示し、CD9、CD63、Alix、TSG101などエクソソームマーカーを発現していた。CM-Dil標識GC-ExがイメージングフローサイトメトリーでRAW好中球に効率よく取り込まれることを確認した (Fig. 3c)。GC-ExはGC-CMと同等のオートファジー誘導 (TEM、LC3、ATG7、BECN1)、好中球生存延長、CD11b増加、NFκB活性化、炎症性サイトカイン増加、MMP9/VEGF増加を示し、胃がん細胞遊走を有意に促進した (p<0.01)。

LC-MS/MSプロテオミクス解析 (BGC-823、MGC-803、SGC-7901の3株由来エクソソーム) によりHMGB1、HSP70、フィブロネクチンを含む複数のカーゴタンパクが同定された (Fig. 5a)。WBでHMGB1がすべての胃がん細胞株由来エクソソームに高発現していることを確認した (Fig. 5b)。HMGB1拮抗薬グリチルリジン (Gly) 処理はGC-Ex誘導性のLC3-II、ATG7/BECN1増加、NFκB活性化、炎症性サイトカイン増加、胃がん細胞遊走促進をすべて有意に逆転させた (p<0.01)。プロテアーゼ処理によるエクソソーム表面タンパク消化もGC-Exの好中球活性化能を著明に低下させ、エクソソーム表面タンパクが重要な役割を担うことが示された。

TLR2、TLR4、RAGE阻害剤を用いた解析で、TLR4拮抗薬TAK-242 (TAK) のみがGC-Ex誘導性のオートファジー、NFκB活性化、炎症性サイトカイン産生、遊走促進を有意に抑制し (p<0.01)、HMGB1-TLR4インタラクションが機能的カップリングの主要経路であることが確認された (Fig. 5c-h)。TLR2およびRAGE阻害薬では効果は認められなかった。

HMGB1ノックダウンによる機能確認: BGC-823細胞 (n=3 replicates) でHMGB1 siRNAノックダウン後に得られたエクソソームは、対照siRNA細胞由来エクソソームと比較して好中球の生存延長、CD11b増加、LC3-II増加、ATG7/BECN1増加、NFκB活性化、炎症性サイトカイン産生、遊走促進のすべてにおいて著明に能力が低下した (p<0.01)。逆に、組換えHMGB1タンパク (10 μg/mL) の直接添加は好中球生存延長、CD11b発現増加、ATG7/BECN1増加、MMP9/VEGF増加、がん細胞遊走促進を再現し、HMGB1が主要な活性カーゴ分子であることが確認された。

臨床的意義の検証: GEO dataset GSE13911 (n=31 patients) の解析で、胃がん組織はペア非がん組織に比べてHMGB1 mRNA発現が有意に上昇 (p=0.017) していた (Fig. 6a)。胃がん患者76例の組織マイクロアレイ (TMA) を用いたElisaおよびIHC解析でも、腫瘍組織が非腫瘍組織より高HMGB1発現を示した。高HMGB1発現群 (n=40 patients) は低HMGB1発現群 (n=36 patients) と比較してKaplan-Meier解析で全生存期間が有意に短縮 (p=0.02) した (Fig. 6c)。手術切除胃がん組織由来エクソソームでも、細胞株由来エクソソームと同様の好中球活性化、HMGB1拮抗薬による逆転が再現され、ヒト腫瘍in vivoでの関連性が裏付けられた (Fig. 6d-k)。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は胃がん細胞が腫瘍促進表現型の好中球を誘導する機序として、エクソソームを介したHMGB1輸送という新規概念を提示した。従来、好中球の腫瘍促進活性化は可溶性液性因子 (HA・CXCL5等) を介するものとして理解されていたが、本研究はエクソソームという非溶性細胞外小胞もこの機序に関与することを初めて実証した点で、これまでの知見と異なる。

新規性: HMGB1は核内でクロマチン構造を安定化するタンパクであるが、炎症・組織傷害下ではDAMPとして細胞外に分泌され、TLR4・RAGE・TLR2などを活性化して炎症を増幅する。本研究で初めて、がん細胞がHMGB1をエクソソームにパッケージングして好中球に輸送し、TLR4/NFκBシグナルを活性化して腫瘍促進分極化を誘導するという経路を新規に同定した。これはDAMP-EV連携というEV生物学の重要な新概念を提供する。オートファジーがN2様好中球の腫瘍促進機能の実行機構として機能するという知見も新規性が高い。3-MAがオートファゴゾーム形成を阻害することで好中球の腫瘍促進機能を逆転させた一方、CQによるオートファゴゾーム分解阻害では効果がなかった点は、オートファゴゾーム形成という「上流」プロセスが下流の機能的アウトカム (遊走促進因子分泌等) に重要であることを示唆する。これは単なる炎症性シグナルを超えた、オートファジーの機能的役割の解明として意義深い。

臨床応用: 臨床的側面として、高HMGB1発現が胃がん患者の不良予後と関連することは、エクソソームHMGB1が臨床バイオマーカーとしての可能性を示唆する。この知見は、将来的に胃がんの診断や予後予測における臨床応用が期待される。また、HMGB1拮抗薬グリチルリジン (甘草エキス由来) とTLR4拮抗薬TAK-242 (TLR4阻害剤として臨床評価歴あり) によるin vitro阻止効果は治療的介入の可能性を示すが、in vivo検証・適切な送達経路の開発が今後の検討課題として残されている。

残された課題: 本研究の限界として、in vivo腫瘍モデルを用いた検証が行われていない点、好中球表現型解析がN1/N2分類の直接的マーカー測定に基づかない点 (N2的機能的特徴から間接的に推定)、低密度好中球 (LDN) を含まない高密度好中球 (HDN) のみが解析対象である点が挙げられる。Sagiv et al. CellRep 2015が報告したように、LDNはHDNからTGFβ刺激によって誘導され、がんの進行を促進する可能性があるため、LDNに対する腫瘍由来エクソソームの影響は今後の研究で検証する必要がある。今後は免疫チェックポイント阻害療法との組み合わせにおける好中球-EV軸の意義、および複数のカーゴ分子 (HSP70・FN等) の協調的役割の解明が期待される。

方法

エクソソーム調製と好中球実験: BGC-823胃がん細胞株 (および HGC-27、MGC-803、SGC-7901) からエクソソーム枯渇培地で48時間培養後、1,000gで10分間、次いで10,000gで30分間遠心分離し、0.22μmフィルターで濾過した。その後、エクソソーム抽出溶液 (System Biosciences) を用いてエクソソームを単離した。健常ドナー末梢血から密度勾配遠心法 (Polymorphprep, Axis-Shield PoC AS) で純度98%の好中球を単離し、条件培地 (GC-CM) またはエクソソーム (GC-Ex) で12時間処理した。阻害剤として、オートファジー開始阻害剤3-メチルアデニン (3-MA, 5 mM)、オートファゴソーム分解阻害剤クロロキン (CQ, 20 μM)、HMGB1阻害剤グリチルリジン (Gly, 10 μM)、TLR4拮抗薬TAK-242 (TAK, 10 μM)、ERK阻害剤U0126 (10 μM)、NFκB阻害剤Bay11-7082 (Bay, 10 μM)、STAT3阻害剤WP1066 (10 μM) を使用した。組換えヒトHMGB1 (10 μg/ml) も使用した。

評価系: フローサイトメトリーによるアポトーシス (Annexin V/PI) ・CD11b発現・ROS産生を評価した。透過型電子顕微鏡 (TEM) によるオートファゴゾーム可視化、免疫蛍光染色によるLC3陽性punctaの定量を行った。ウエスタンブロット (WB) でLC3-II・p-p65・p-STAT3・p-ERK・p-p38・p-Akt・CD9・CD63・Alix・TSG101を定量した。qRT-PCRでATG7・BECN1・IL-1β・IL-6・IL-8・OSM・TNFα・MMP9・VEGFを解析した。TranswellアッセイでGC-Ex処理好中球上清による胃がん細胞遊走を評価した。さらに、好中球上清による内皮細胞の管腔形成アッセイとCCK8アッセイによるがん細胞増殖を評価した。

カーゴ同定と機能検証: LC-MS/MSプロテオミクスでエクソソームカーゴタンパクを網羅同定した。HMGB1 siRNAによるノックダウンで好中球活性化への影響を検証した。組換えHMGB1タンパク直接添加実験でHMGB1機能を確認した。

臨床検体: GEO Gene Expression Omnibus dataset GSE13911で胃がん vs 非がん組織のHMGB1発現比較を行った。胃がん患者76例の組織マイクロアレイ (TMA) でHMGB1タンパク発現を評価し、Kaplan-Meier法・log-rank検定で全生存との相関を解析した。手術切除胃がん組織由来エクソソームで好中球活性化実験を再現した。HMGB1のELISAも実施した。

統計解析: データは少なくとも3回の独立した実験からの平均±SDとして表した。群間の差の統計的有意性は両側Student’s t検定で決定した。生存時間はKaplan-Meier法とログランク検定で解析した。p<0.05を有意とみなした。