- 著者: San Lucas FA, Allenson K, Bernard V, Castillo J, Kim DU, Ellis K, Ehli EA, Davies GE, Petersen JL, Li D, Wolff R, Katz M, Varadhachary G, Wistuba I, Maitra A, Alvarez H
- Corresponding author: Anirban Maitra (Sheikh Ahmed Pancreatic Cancer Research Center, MD Anderson Cancer Center, Houston, TX, USA)
- 雑誌: Annals of Oncology
- 発行年: 2016
- Epub日: 2015-12-17
- Article種別: Original Article
- PMID: 26681674
背景
膵臓癌や胆道癌のような内臓深部に位置する癌は、その解剖学的位置、生検に伴うリスク、および採取可能な組織量の制約から、組織生検に基づくコンパニオン診断が困難または不可能な場合が多い。このため、精密医療の進展が阻害されるという課題が存在する。従来の液体生検の手段として血漿中の循環無細胞DNA (cfDNA) が注目されてきたが、cfDNAは断片化が著しく、高分子量のゲノムDNA (>10 kb) の取得が困難である。この性質は、ゲノム全体の包括的なプロファイリングや、完全長転写産物の網羅的解析には適していないという限界がある。例えば、cfDNAを用いた全ゲノム解析では、断片化によりコピー数プロファイルの推定やアクション可能な変異の同定が困難であると、Chan et al. (Clin Chem 2013) や Murtaza et al. Nature 2013 によって報告されている。また、循環RNAのプロファイリングも、コーディング転写産物の広範な断片化により、主に小さなマイクロRNAに限定される傾向がある (Mitchell et al. PNAS 2008)。これらの限界は、特に深部臓器癌における低侵襲診断の不足を招いている。
一方、エクソソームは直径40〜150 nmの脂質二重膜に包まれた細胞外小胞であり、多胞体のエンドソーム経路で産生・分泌され、細胞間シグナル伝達に機能することが知られている (Thery et al. NatRevImmunol 2002)。腫瘍細胞由来のエクソソームは、血漿、尿、胸水など様々な体液中に循環しており、その内腔には高分子量二本鎖DNA (dsDNA >10 kb) と完全長mRNAが安定して保護されていることが、Kahlert et al. JBiolChem 2014やThakur et al. CellRes 2014によって報告されている。これにより、エクソソームはcfDNAを超えた、より包括的な液体生検素材としての潜在能力を持つと考えられてきた。エクソソームは、その起源細胞を代表する多様な分子カーゴを内包し、循環中で分解から保護されているため、cfDNAと比較して、高解像度での包括的な腫瘍プロファイリングに適した、より高品質で多様な腫瘍特異的核酸を提供できる可能性がある。しかし、エクソソームDNA (exoDNA) およびエクソソームRNA (exoRNA) を用いて、全ゲノムシークエンシング (WGS)、全エクソームシークエンシング (WES)、およびRNAシークエンシング (RNA-seq) を統合的に実施し、腫瘍の包括的なゲノム・トランスクリプトームプロファイリングが可能であるかを実際に検証した研究は、これまで報告されておらず、技術的な実現可能性と臨床的有用性に関する知識ギャップが残されていた。
目的
本研究の目的は、膵胆道癌患者3例の体液(胸水および血漿)から単離した循環エクソソームに対し、次世代シークエンシング(WGS、WES、RNA-seq)を適用し、腫瘍由来の変異、コピー数変化、遺伝子融合、および転写産物プロファイルの包括的な検出が可能であるかを概念実証(proof-of-concept)として検証することである。具体的には、exoDNAシークエンシングデータからコピー数イベントの検出、変異シグネチャーの特定、および治療標的となりうる変異の同定の実現可能性を評価する。さらに、exoRNAシークエンシングデータから発現している点変異や遺伝子融合の同定が可能であるかを検証し、液体生検によるゲノム・トランスクリプトーム統合プロファイリングの臨床的実現可能性と潜在的な臨床的有用性を示すことを目指した。このアプローチにより、従来の組織生検が困難な内臓癌において、診断、治療層別化、および治療モニタリングのための新たな低侵襲ツールの可能性を探る。
結果
エクソソーム単離とシークエンシング品質の検証: 3症例すべてにおいて、エクソソームマーカー(CD9、CD63、CD81、HSP70)陽性のエクソソーム集団の単離に成功した。これらのエクソソームは、高分子量二本鎖DNA(>10 kb)を含有することが確認された (Supplementary Figure S2F)。WESでは、標的領域(54 Mb)の95〜99%が平均深度133〜490×でカバーされ、90%以上の塩基がQ30以上の高品質シークエンシングを実現した。WGSでは、全ゲノムの65〜91%(平均深度12〜35×)を網羅し、88〜92.5%がQ30以上であった (Supplementary Table S2)。腫瘍分画は、LBx01(胸水エクソソーム)で82%(95%信頼域81〜83%)、LBx02(血漿エクソソーム)で56%(54〜57%)、LBx03(血漿エクソソーム)で82%(81〜84%)と、全例で50%を超える高い腫瘍含量が確認された。採血からシークエンシング結果取得までのワークフロー時間は14日であり、臨床応用上許容可能な時間枠であることを実証した。この結果は、エクソソームが腫瘍由来の核酸を効率的に濃縮し、高品質なシークエンシングデータを提供できることを示している。本研究では、n=3 patientsからのエクソソーム検体を用いて、これらの結果が得られた。
LBx01: PDAC胸水エクソソームのゲノム・トランスクリプトームプロファイリング: LBx01症例では、胸水細胞診で悪性細胞が1%未満と報告され、通常の検査では腫瘍DNAの検出が困難であった。しかし、エクソソームシークエンシングにより、ERBB2のコピー数5 (CN5増幅)、ERBB2発現85.13 TPM(正常膵臓比約3.62倍)、KRAS CN増幅、EGFR CN3、MYC CN3など広範なコピー数変化が検出された (Figure 1A)。exoRNAではKRAS G12D変異が転写産物レベルで確認され (Figure 1B)、タンパク質コーディング転写産物の87.8%が発現(>2 TPM)し、40の遺伝子融合候補が同定された (Figure 1D)。変異率は341変異/Mbと高値であり、15ヶ月前の転移肺組織での2.06変異/Mbから大幅に増加していた。さらに、トラスツズマブ投与後にEGFR増幅が新たに出現しており、標的治療に伴うクローン選択の動態追跡が液体生検で実現できる可能性が示された。この症例では、胸水から単離されたエクソソームが、乏しい悪性細胞しか含まない生検材料よりも、腫瘍の分子プロファイルを高感度に捉えることを実証した。この解析は、n=1 patientの胸水エクソソームから得られた。
LBx02: 未治療PDAC血漿エクソソームのプロファイリング: LBx02症例では、未治療のPDAC患者から採取した血漿エクソソームのプロファイリングを行った。腫瘍分画56%でゲノムの9%にコピー数変化を検出した (Figure 2A)。これにはMYC CN13増幅、KRAS CN3増幅、TP53コピー数1ロスが含まれる。アクション可能変異として、ERBB2、KRAS、NRAS、NOTCH1変異が同定された。変異率は77変異/Mbであり、変異シグネチャーはAlexandrov et al. Nature 2013によって報告されたCOSMIC Signature 1(自発的5-メチルシトシン脱アミノ化、C>T変換主体)に相当した (Figure 2B)。exoRNAではタンパク質コーディング転写産物の約9%が発現し、mTORシグナル経路が有意に濃縮されていた(Benjamini-Hochberg P=0.027)。この症例は、組織生検なしにエクソソームのみで治療標的となりうる複数の変異を包括的に同定できることを示した。これは、治療前の患者における包括的な分子診断の可能性を強調する。この解析は、n=1 patientの血漿エクソソームから得られた。
LBx03: 乳頭部腺癌血漿エクソソームとBRCA2変異の発見: LBx03症例では、腫瘍分画82%でゲノムの53%にコピー数変化を認め、「不安定型ゲノム」表現型を示した (Figure 3A)。これにはMYC CN4、KRAS CN3増幅が含まれる。体細胞性BRCA2 V3091I変異をエクソソームシークエンシングで検出した。この変異は生殖細胞系列DNAには存在しなかった。同変異の高いMAF、不安定型ゲノム表現型、およびプラチナ製剤への顕著な奏効という3つの証拠が、同変異の病原性を強く支持した。exoRNAではタンパク質コーディング転写産物の16.6%が発現し、40の遺伝子融合候補が同定された (Figure 3C)。本症例は、組織生検なしの液体生検のみによってBRCA2体細胞変異という治療上重要な脆弱性を予期せず発見した初の実証例であり、BRCA2変異に基づくプラチナ製剤治療選択の根拠を液体生検で提供した画期的な事例となった。この発見は、エクソソーム解析が個別化医療における重要な情報源となり得ることを示唆する。この解析は、n=1 patientの血漿エクソソームから得られた。
ExoDNAとExoRNA統合解析の意義: LBx01症例において、ERBB2コピー数増幅をexoDNAで検出し、同増幅の転写産物過剰発現(85.13 TPM)をexoRNAで確認する統合解析が可能であった。この統合解析は、単一検体から「ゲノム変化がRNA発現に反映されているか」を同時に確認できるという固有の利点を示し、cfDNAでは実現不可能な情報の多層性を提供する。3症例を通じて変異率77〜341変異/Mbという高値が観察されたが、これはエクソソームが腫瘍の時間的・空間的不均一性をより広く反映している可能性と、化学療法による変異誘発寄与の両方が考察された。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究は、循環エクソソームを用いた液体生検が、cfDNAを超えた固有の利点を持つことを初めて包括的に実証した点で、これまでのcfDNA研究と大きく異なる。cfDNAは断片化が著しく、限られた遺伝子パネル変異の検出にとどまることが多いが、エクソソームは高分子量二本鎖DNAと完全長mRNAを同一検体から取得できるため、ゲノムとトランスクリプトームの統合プロファイリングが可能である。
新規性: この統合アプローチは、単一の生体サンプルからゲノム変化とそれに対応するRNA発現の両方を同時に評価できるという点でこれまで報告されていない新規性を持つ。特にexoRNAによる発現融合遺伝子の同定やネオアンチゲン候補の提示は、個別化免疫療法設計(Schumacher et al. Science 2015、Tran et al. Science 2014)に応用できる可能性があり、従来の液体生検素材では実現困難な情報次元を開く。腫瘍分画56〜82%という高い腫瘍含量は、同様の検出感度を得るために大量の血漿を必要とするcfDNAと対照的であり、エクソソームが効率的な濃縮手段として機能することを示す。
臨床応用: LBx03での体細胞BRCA2変異発見という予期せぬ臨床知見は、包括的エクソソームシークエンシングが既存の標的パネルでは同定されない治療関連変異を検出できることを示す顕著な実例である。これは、内臓癌における新規の治療脆弱性の特定に繋がる臨床的意義を持つ。また、LBx01でのERBB2増幅とその後のトラスツズマブ投与後のEGFR増幅出現という連続的モニタリングは、Murtaza et al. Nature 2013が示したように、治療抵抗性の動態変化を非侵襲的に追跡するエクソソームの潜在価値を示す。採血から結果取得まで14日というワークフロー時間は、臨床応用を見据えた実現可能性の証明である。
残された課題: 本研究の最大の限界は、n=3という症例数であり、結果の一般化には大規模コホートでの検証が不可欠である。変異率(77〜341変異/Mb)が組織ゲノムシークエンシング報告値(約2.64変異/Mb)を大幅に超える点については、エクソソームが腫瘍の時間的・空間的不均一性を組織より広く反映している可能性と、化学療法による変異誘発寄与の両方が考察されているが、組織との直接比較検証が残された課題である。また、本研究は単一の高度専門センターでの成果であり、一般施設での再現性は未検証である。今後の検討課題として、これらの結果をより大規模な患者コホートで検証し、エクソソーム由来核酸の腫瘍異質性に対する代表性をさらに詳細に評価することが挙げられる。
結論: 本研究は、循環エクソソームに対するWGS/WES/RNA-seqにより、腫瘍分画56〜82%という高い腫瘍含量を活かして、コピー数変化、点変異、変異シグネチャー、遺伝子融合、転写産物プロファイルを含む包括的なゲノム・トランスクリプトームプロファイリングが可能であることを、膵胆道癌患者3例において初めて証明した。組織生検困難例でのBRCA2体細胞変異発見、ERBB2増幅の治療後動態追跡、採血から14日での結果取得という3点の臨床的意義を示し、内臓癌に対する低侵襲精密医療の新たなパラダイムを提示した。
方法
本研究では、膵胆道癌患者3例を対象とした。各患者(LBx01、LBx02、LBx03)は施設内倫理委員会(PA15-014)の承認を得て同意を得た。
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患者背景と検体採取:
- LBx01: 57歳男性、stage IIA 膵管腺癌 (PDAC) 術後15ヶ月で胸水が出現。胸腔穿刺液800 mLからエクソソームを単離した。
- LBx02: 68歳女性、未治療PDAC肝転移例。化学療法開始前に末梢血30 mLから血漿エクソソームを単離した。
- LBx03: 74歳男性、stage IIB 膵胆管型乳頭部腺癌の術後例。末梢血30 mLから血漿エクソソームを単離した。
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エクソソーム単離と特性評価:
- エクソソームは、連続超遠心法(100,000×g、70分)により体液から単離した。
- エクソソームの同定と確認には、走査型電子顕微鏡 (SEM)、透過型電子顕微鏡 (TEM)、ナノ粒子トラッキング解析 (NTA)、フローサイトメトリー (CD63)、およびウェスタンブロット (CD9、CD63、CD81、HSP70) の5手法を用いた。
- exoDNAの抽出により、高分子量二本鎖DNA (>10 kb) の存在を確認した。
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次世代シークエンシング (NGS):
- 単離したエクソソームからDNAとRNAを抽出し、Illumina HiSeq 2500シーケンサーを用いてWGS、WES、およびRNA-seqを実施した。
- WESは54 Mbの標的領域を対象とした。
- KRAS変異アレル頻度 (MAF) は、KRASマルチプレックススクリーニングアッセイとドロップレットデジタルPCR (ddPCR, BioRad Technologies) を用いて決定した。
- 腫瘍分画の推定には、ゲノムワイドコピー数プロファイリングデータを使用した。
- 変異のアクション可能性は、COSMICデータベース(Alexandrov et al. Nature 2013)および臨床試験・癌治療薬に関連する遺伝子情報に基づいて評価した。
- 変異シグネチャーの解析には、COSMIC変異シグネチャーデータベースを参照した。
- RNA-seqデータからは、発現している遺伝子融合候補を同定し、タンパク質コーディング転写産物の発現レベルをTPM (transcripts per million) で定量化した。
- シグナル経路の濃縮解析には、Benjamini-Hochberg法を用いて統計的有意性を評価した。
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データ解析:
- シークエンシングデータは、標準的なバイオインフォマティクスパイプラインを用いてアラインメント、変異コール、コピー数解析、および遺伝子融合検出を行った。
- ゲノムワイドコピー数プロファイリングにより、体細胞コピー数変化を同定した。
- 採血からシークエンシング結果取得までのワークフロー時間は14日以内であることを確認した。
本研究では、ヒトの体液検体を使用しており、細胞株や動物モデルは使用していない。