- 著者: Wolf Heusermann, Justin Hean, Dominic Trojer, Emmanuelle Steib, Stefan von Bueren, Alexandra Graff-Meyer, Christel Genoud, Katrin Martin, Nicolas Pizzato, Johannes Voshol, David V. Morrissey, Samir E.L. Andaloussi, Matthew J. Wood, Nicole C. Meisner-Kober
- Corresponding author: Wolf Heusermann; Nicole C. Meisner-Kober (Novartis Institutes for Biomedical Research, Basel, Switzerland)
- 雑誌: Journal of Cell Biology
- 発行年: 2016
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 27114500
背景
エクソソームは、ほぼ全ての細胞から放出されるナノサイズの細胞外小胞であり、タンパク質、脂質、RNAなどのカーゴを細胞間で輸送することで、細胞間コミュニケーションの重要なメディエーターとして機能する Colombo et al. AnnuRevCellDevBiol 2014。これらのエクソソームは、受容細胞の遺伝子発現や生理機能を調節し、細胞シグナル伝達を誘導することが知られている Valadi et al. NatCellBiol 2007。近年、エクソソームは次世代のバイオマーカーや治療薬キャリアとしての臨床的応用可能性が注目されており、その重要性は増している Alvarez-Erviti et al. NatBiotechnol 2011。しかし、エクソソームが受容細胞に取り込まれる際の定量的効率、主要な取り込み経路、および細胞内でのカーゴ放出部位については、依然として多くの未解明な点が残されていた。
これまでの研究では、エクソソームの細胞取り込み経路として、受容体依存性エンドサイトーシス、マクロピノサイトーシス、形質膜との直接融合、貪食など、複数のメカニズムが提唱されてきた Tian et al. JBiolChem 2014、Feng et al. Traffic 2010、Parolini et al. JBiolChem 2009。これらの経路が細胞種や条件によって異なるのか、あるいは共存するのかについては、明確な結論が得られていなかった。特に、ウイルスが細胞侵入に利用することが知られているフィロポディアを介した取り込みの可能性は示唆されていたものの、単一小胞レベルでの直接的な観察や詳細なメカニズムの解明は不足していた。さらに、リポソームなどの合成デリバリービヒクルと比較したエクソソームの取り込み効率の優位性を定量的に評価する研究も不足しており、エクソソームの細胞内運命、特にカーゴが機能を発揮する細胞内区画への輸送メカニズムについても詳細な知見が求められていた。これらの知識ギャップが、エクソソームの基礎生物学的な理解と、治療応用への発展を妨げる要因となっていた。
目的
本研究の目的は、単粒子追跡 (SPT: Single Particle Tracking) と高コンテントスクリーニングを組み合わせることで、エクソソームの受容細胞への取り込み効率を定量的に評価し、その主要な取り込み経路、特にフィロポディアの役割を高分解能で可視化することである。さらに、細胞内におけるエクソソームの輸送先、特に小胞体 (ER: Endoplasmic Reticulum) やリソソームへの標的化メカニズムを明らかにすることも目的とした。具体的には、エクソソームが単一の完全な小胞として細胞に侵入するかどうか、フィロポディアがエクソソームの細胞体への輸送にどのように関与するか、そして細胞内に取り込まれたエクソソームがどの細胞内オルガネラと相互作用し、最終的にどこへ運命づけられるかを解明することを目指した。また、エクソソームの取り込み経路と病原性ウイルスの感染様式との類似点や相違点を検討し、エクソソームの効率的な細胞内カーゴデリバリーメカニズムの基盤を理解することも重要な目的とした。
結果
ピコモル濃度で高効率なエクソソーム取り込みを達成: HEK293細胞由来のCD63-emGFPエクソソームを30 pMの濃度でHuh7細胞に添加したところ、6時間以内に細胞の95%以上がエクソソームを取り込んだ (Fig. 1 a-c)。この取り込みは時間および用量依存的な飽和プロファイルを示し、15 pM、5 pM、2.5 pMの各濃度で異なる飽和点を持つ用量応答曲線を描いた。ヒト初代線維芽細胞 (n=3 biological replicates) においても同様の高効率な取り込みが確認された。対照として用いたカチオン性LNP (脂質ナノ粒子) は、ほとんどが細胞表面に蓄積するのみで、数時間後でも内在化率は低く、エクソソームの取り込み効率がLNPと比較して圧倒的に優れていることが示された。3D高分解能ライブセルイメージングにより、エクソソームの約80% (2時間後) から約90% (8時間後) が細胞内に位置し、残りの約10-20%が形質膜との結合または通過過程にあることが確認された (Fig. 1 f, g)。CD63-emGFP/CD63-mCherry二重標識エクソソームの1,600個以上のSPT解析では、ほぼ全ての進入イベントで二重シグナルが維持されており、エクソソームが単一の完全な小胞として細胞に取り込まれることが実証された (Fig. 1 h)。
エクソソームはフィロポディア活性域のホットスポットに集積: SPTによるエクソソームの累積軌跡を可視化した結果、エクソソームの細胞上での停留位置はランダムではなく、皮質アクチン束 (フィロポディアおよびラメリポディア活性域) の先端部近傍にクラスター化していることが明らかになった (Fig. 2 a)。これは、エクソソームの細胞進入イベント自体もこれらの領域に集中していることを示唆する。ライン基質上で培養した高度に極性化された細胞 (一方向へ移動中の線維芽細胞、n=7 independent experiments) をTIRF顕微鏡で観察したところ、エクソソームの進入軌跡はラメリポディア領域とは時空間的に非同期であり、フィロポディアと共に細胞側方領域に再分布することが確認された (Fig. 2 c, d)。この結果は、エクソソームの細胞表面での集積がフィロポディアと直接的かつ時空間的に連動していることを強く示唆する。
フィロポディアはサーフィング、引き込み、把持の3様式でエクソソームを捕捉: 399個の個々のエクソソーム進入軌跡を体系的に分類した結果、98%以上のエクソソーム進入イベントがフィロポディアの根元または収縮線維のエンドサイトーシスホットスポットで発生した (Fig. 4 a)。フィロポディアサーフィングは全進入イベントの約25%を占め、エクソソームは0.1〜0.3 µm/sの速度でフィロポディア上を移動した (Fig. 3 b)。この速度は、ウイルス感染やEGFコートビーズのF-アクチン逆行流速度とほぼ一致する。また、フィロポディアによる引き込み (約3%) および把持 (約1%) といった、フィロポディアがエクソソームを能動的に捕捉し細胞体へ運ぶメカニズムも観察された (Fig. 3 c, d)。フィロポディアサーフィング中のエクソソームは、90%以上のイベントで接触後すぐに細胞体方向へ移動を開始した。
フォルミン阻害によるフィロポディア破壊がエクソソーム取り込みを劇的に低下: 線維芽細胞をSMI FH2 (40 µM、60分前処理) で処理し、フィロポディアを選択的に崩壊させると、エクソソームの取り込みが劇的に減少した (p<0.001、n=3 biological replicates)。この抑制効果は、ヘパリン処理 (0.4%) と同程度であった (Fig. 4 d, e)。サイトカラシンD処理では、エクソソームの細胞への結合は維持されたものの、方向性のある高速な運動と内在化が阻害された。これらの結果は、フィロポディアがエクソソームの細胞への能動的輸送と内在化に不可欠な構造であることを明確に実証した。
細胞内エクソソームはERに沿ってストップ&ゴー運動を示し、最終的にリソソームへ集積: 内在化された312個のエクソソームのSPT解析により、細胞内移動は最高約8 µm/sのピーク速度を持つストップ&ゴー運動パターンを示すことが明らかになった (Fig. 5 a, d)。この運動パターンはスピニングディスク顕微鏡でも確認され、CLSMの時間分解能によるバイアスではないことが示された。エクソソームの細胞内軌跡は、ER-Trackerで標識された糸状・網目状のER構造と高度に一致した (Fig. 5 a, b)。解析した44個のエクソソームのうち約90%が少なくとも一度ERとの近接接触を示し (n=3 independent experimentsのプールデータ)、148個のER接触イベントを定量した結果、接触持続時間は数秒から20分に及び、ダイナミックサンプリング、キスアンドラン、持続接触など複数の相互作用様式が確認された (Fig. 5 e, f)。TEM観察では、CD63-Apex2タグ付きエクソソームは、ほぼ全てが粗面ERおよび/または細胞骨格近傍の大型小胞内の小胞として存在していた (Fig. 5 g)。MVB (多胞体、NRhPE標識) との共局在は最小限であった一方、LysoTracker greenとの共局在は経時的に増加し、48時間後には線維芽細胞で約50〜60%のエクソソームがリソソームと共局在した。
考察/結論
エクソソーム取り込みの効率性:病原体並みの「形質導入」: 本研究は、エクソソームが極めて効率的に細胞に取り込まれることを定量的に示した。具体的には、エクソソームは (a) 単一の完全な小胞として数分以内に取り込まれ、(b) 細胞表面に蓄積することなく「障壁のない」細胞侵入を示し、(c) 検出可能な細胞接触イベントのほとんどが内在化につながり、(d) 数時間以内に95%以上の細胞を標的にし、(e) 低ピコモル濃度で飽和に達する。これらの特性は、合成送達ビヒクルを大幅に凌駕し、病原性ウイルスの感染様式と際立った類似性を持つ。この効率の高さを強調するため、著者らはエクソソームの受容細胞へのターゲティングに「トランスフェクション」ではなく「形質導入 (transduction)」という用語を適用することを提案している。この知見は、エクソソームが細胞間情報伝達において、これまで考えられていた以上に強力な役割を果たす可能性を示唆する。
フィロポディアはエクソソーム侵入の「高速道路」として機能する: フィロポディアがウイルス感染の侵入経路として利用されることはすでに知られていたが、本研究は同様の機構がエクソソームの生理的取り込みにも当てはまることを示した新規の報告である。エクソソームのフィロポディアサーフィング機構は、EGF受容体のF-アクチン逆行流を介したフィロポディア輸送と同じ原理を持つと考えられ、インテグリンや細胞接着分子受容体ファミリーが関与する可能性がある。これらの受容体は、先行研究でエクソソーム取り込みへの関与が示唆されていた Morelli et al。いくつかのフィロポディアサーフィングウイルスが宿主細胞でPhosphoinositide-3-kinase活性化を通じてフィロポディア形成を促進し、自己侵入を増幅させることが知られており、エクソソームが同様のフィードバック機構を使用する可能性も示唆される。このことは、エクソソームが細胞の形態形成や細胞骨格ダイナミクスに影響を与え、自身の取り込みを促進するメカニズムを持つかもしれないという新規の視点を提供する。
ER標的化はRNA機能発現の効率的プラットフォームを提供する: エクソソーム含有エンドソームが粗面ER近傍を走査する動態は、エクソソームのmiRNAやmRNAカーゴがRNA誘導サイレンシング複合体 (RISC) や翻訳機構に直接アクセスできる可能性を示唆する。著者らの別報告では、siRNA/miRNAのRISCへの組み込み、標的mRNA認識、および切断/サイレンシングが粗面ER膜に核局在化されることが示されており、本研究のER標的化モデルと合致する。この機構により、エクソソームの大量取り込みが機能的なカーゴ送達に実際に結びついていることが説明されうる。ERはこれまで分泌タンパク質の翻訳部位として認識されてきたが、最近では一般的な翻訳の核形成部位としても認識されており、エクソソームのERへの標的化は、そのカーゴが細胞内で効率的に機能するための重要なメカニズムであると考えられる。
治療的応用への示唆: 本研究は、エクソソームを用いた治療薬送達、特にRNA治療の設計に重要な視点を提供する。フィロポディア活性の高い細胞種 (例: 組織浸潤細胞や腫瘍細胞) への優先的送達の可能性、ERへの標的化による翻訳/遺伝子サイレンシング効率の最適化、そして形質導入効率の高さは、ピコモルレベルの低用量での治療効果発揮を示唆する。この知見は、エクソソームを基盤としたドラッグデリバリーシステムの開発において、標的細胞選択性や細胞内運命を考慮した設計の重要性を強調する。臨床応用に向けて、これらのメカニズムをさらに深く理解することが不可欠である。
残された課題: エクソソームカーゴがエンドソームおよびエクソソームの二重脂質膜を越えてどのように放出されるか (エンドソーム脱出機構) は未解決であり、大量取り込みのうち機能的に活性なエクソソームの割合も不明である。エンドソーム脱出を可能にする因子 (特定のスフィンゴ脂質組成や融合タンパク質など) の同定、そしてER経由輸送の分子レールが何であるかの解明が今後の重要課題である。また、本研究が主にin vitroの線維芽細胞モデルを用いたことから、組織特異的・腫瘍微小環境特有の取り込み様式との差異検討も必要である。これらの課題を解決することで、エクソソームの生物学的機能の全貌が明らかになり、その治療応用への道がさらに開かれると期待される。
方法
エクソソームの調製と定量: HEK293細胞にCD63-emerald GFP (emGFP) および/またはCD63-mCherryを一過性導入し、蛍光標識エクソソームを産生させた。条件培地を連続限外ろ過 (100 kDaカットオフ膜) とゲルろ過 (Superdex-200カラム) により精製した。精製されたエクソソームの濃度は、蛍光相関分光法 (FCS) を用いて単一小胞レベルで定量し、ナノ粒子追跡解析 (NTA: Nanoparticle Tracking Analysis) によりサイズ分布を確認した。エクソソームの特性評価には、ウェスタンブロッティングおよび質量分析プロテオミクスも用いた。
高コンテントスクリーニング: エクソソームの取り込み効率を統計的に有意な細胞数で評価するため、96ウェルプレートを用いた自動共焦点プレートスキャナー (Operetta) とHarmony画像解析ソフトウェアによる高コンテントスクリーニングアッセイを構築した。このシステムにより、5,000細胞以上を自動定量し、時間・用量依存的なエクソソーム取り込みを評価した。受容細胞としては、主にヒト初代線維芽細胞とHuh7細胞を使用し、一部の実験ではHEK293細胞も用いた。細胞密度が約60%を超えるコンフルエンシーでは取り込みが低下することが観察された。
単粒子追跡 (SPT) とライブセルイメージング: CD63-emGFP/CD63-mCherry二重標識エクソソームを用いた共焦点蛍光およびDIC (微分干渉) 複合ライブセルイメージングを実施した。フィロポディア構造とエクソソームの同時可視化には、TIRF (Total Internal Reflection Fluorescence) 顕微鏡 (底面約200 nm) を使用した。細胞内エクソソームのサブ秒解像度での追跡には、スピニングディスク共焦点顕微鏡を用いた。Imaris x64粒子追跡解析モジュールを用いて、399個のエクソソーム細胞進入軌跡を詳細に分類した。共局在研究では、Leica Sp5およびLSM800顕微鏡を使用し、ブリーチスルー、クロストーク、および動き依存性信号相関を避けるためにマルチチャンネル/トラックおよび2色逐次ラインスキャンを行った。オーバーサンプリング (130 nm z-セクショニング、40 nm xy距離) を行い、デコンボリューションおよび共局在解析にはImageJ JACoP pluginを用いた。
フィロポディア操作実験: フィロポディアの役割を直接的に検証するため、フォルミン依存性アクチン重合阻害剤であるSMI FH2 (40 µM、60分前処理) を用いて、線維芽細胞のフィロポディア構造を選択的に撹乱した。対照としてヘパリン処理 (0.4%) を行い、処理後のエクソソーム取り込みを高コンテントスクリーニングで定量的に比較した。サイトカラシンD処理も行い、エクソソームの細胞結合への影響を評価した。
細胞内輸送追跡: エクソソームの細胞内運命を追跡するため、ER-TrackerおよびLysoTracker greenを用いて各オルガネラを標識し、エクソソームとの共局在 (Pearson相関係数) を経時的に評価した (2〜48時間後)。また、CD63-Apex2タグ付きエクソソームをDAB/過酸化水素染色後に透過型電子顕微鏡 (TEM) で観察し、細胞内局在を高分解能で確認した。
比較実験 (リポソーム対照): エクソソームの取り込み効率の優位性を評価するため、Cy3-siRNAを内包したカチオン性脂質ナノ粒子 (LNP) を同一条件でHuh7細胞に添加し、その取り込みダイナミクスをエクソソームと比較した。