- 著者: Roi Isaac, Felipe Castellani Gomes Reis, Wei Ying, Jerrold M. Olefsky
- Corresponding author: Jerrold M. Olefsky (University of California, San Diego)
- 雑誌: Cell Metabolism
- 発行年: 2021
- Epub日: N/A
- Article種別: Review
- PMID: 34496230
背景
エクソソームは、すべての細胞から分泌される直径30-150 nmの脂質二重膜を有するナノ粒子であり、広義の細胞外小胞 (EVs; extracellular vesicles) の主要なサブタイプである。古典的な内分泌システムに類似し、放出されたエクソソームは間質液や血液循環を介して局所的あるいは全身の標的細胞へと到達し、内包するタンパク質、脂質、mRNA、microRNA (miRNA) などの多種多様なカーゴを転送することで細胞間コミュニケーションを媒介する。従来、エクソソームは細胞内の不要物を排出する単なる廃棄物処理システムとみなされていたが、近年の研究により、生理学的プロセスおよび病態生理学的プロセスの双方における重要なエフェクター、さらには疾患バイオマーカーとしての役割が確立されてきた Kalluri et al。
肥満、2型糖尿病 (T2DM; type 2 diabetes mellitus)、非アルコール性脂肪性肝疾患 (NAFLD; non-alcoholic fatty liver disease) や非アルコール性脂肪肝炎 (NASH; non-alcoholic steatohepatitis) といった代謝性疾患の病態形成においては、脂肪組織、肝臓、骨格筋、膵β細胞、血管内皮細胞などの主要な代謝臓器間における複雑なクロストークが関与している。これまで、遊離脂肪酸やアディポカイン、炎症性サイトカインなどの可溶性因子がその主たるメディエーターとして研究されてきたが、近年、エクソソームを介したmiRNAの臓器間輸送が極めて重要な補完的機構として注目されている。例えば、脂肪細胞特異的Dicerノックアウトマウスを用いた研究では、脂肪細胞が循環エクソソームmiRNAの主要な供給源であることが証明されている。また、エクソソームの標的細胞への取り込み経路として、クラスリン依存性エンドサイトーシスやカベオリン-1依存性経路、マクロピノサイトーシス、ファゴサイトーシス、膜融合など、多様な分子メカニズムが関与することが報告されている Mulcahy et al。
しかしながら、代謝性疾患の進展に伴い、どの組織からどのようなエクソソームが分泌され、それがどのように標的臓器の代謝恒常性を破綻させるのか、その詳細な時相変化や分子標的については未解明な領域が多く残されている。特に、慢性肥満状態における組織微小環境の炎症が、エクソソームの生合成やカーゴ選別機構に与える影響については、体系的な理解が不足しており、依然として大きな知識ギャップが存在する。さらに、現在のエクソソーム分離技術では他のEVサブタイプ (マイクロベシクルなど) の混入を完全に排除することが困難であり、これが研究間における結果の不一致を生む一因として指摘されている。本総説は、これら未開拓の課題に焦点を当て、代謝性疾患におけるエクソソームの役割を包括的に整理することを目的とする。
目的
本レビューの目的は、エクソソームの生合成、カーゴ組成、および受容細胞への取り込みに関する最新の分子メカニズムを概説することである。さらに、肥満、インスリン抵抗性、NAFLD/NASH、2型糖尿病 (T2DM) などの代謝性疾患における、組織特異的および臓器間のエクソソームシグナリングの役割を体系的に整理する。特に、脂肪組織マクロファージ (ATM; adipose tissue macrophage) や肝細胞、骨格筋、膵β細胞から分泌されるエクソソームが、どのようにインスリン感受性や炎症反応を双方向的に制御しているかを明らかにする。最終的に、エクソソームおよびその内包miRNAを標的とした新規バイオマーカー開発や、ドラッグデリバリーシステム (DDS; drug delivery system) を含む治療応用への可能性と、実用化に向けた現在の技術的課題について議論することを目的とする。
結果
エクソソームの生合成、カーゴ選別、および標的細胞への取り込み: エクソソームは、エンドサイトーシスに始まるエンドソーム経路を経て、多胞体 (MVB; multivesicular body) の内部に内腔小胞 (ILV; intraluminal vesicle) として形成される (Figure 1)。このプロセスは、ESCRT (endosomal sorting complex required for transport) 0, I, II, III 複合体およびALIXなどのアクセサリータンパク質によって精密に制御されている Vietri et al. NatRevMolCellBiol 2020 Larios et al. JCellBiol 2020。ESCRT-0がユビキチン化されたタンパク質カーゴを認識し、ESCRT-I/IIが膜の陥入を誘導し、ESCRT-IIIが小胞の切断を駆動する Colombo et al. JCellSci 2013。また、ESCRT非依存的な経路として、中性スフィンゴミエリナーゼ (nSMase) によるセラミド産生がILVの出芽を促進することが示されている Trajkovic et al. Science 2008。エクソソーム内のmiRNA選別においては、GGAGやUGCA (uracil-guanine-cytosine-adenine) などの特定のEXO-motif配列を認識するhnRNPA2B1や、配列非依存的に作用するYBX1などのRBPが重要な役割を果たす Villarroya-Beltri et al. NatCommun 2013 Shurtleff et al。標的細胞への取り込みは、プロテイナーゼK処理によって取り込み効率が著しく低下することから、膜表面の糖タンパク質やインテグリンを介した受容体結合が必須である。その後、クラスリン依存性エンドサイトーシス、カベオリン-1依存性エンドサイトーシス、マクロピノサイトーシス、ファゴサイトーシス、あるいは直接的な膜融合を介して細胞内に導入される Mulcahy et al. JExtracellVesicles 2014 Tian et al. JBiolChem 2014 McKelvey et al. JCircBiomark 2015 Feng et al。
脂肪組織および脂肪細胞由来エクソソームによる代謝制御: 肥満マウスの全脂肪組織から単離されたエクソソームを痩せたマウスに静脈内投与すると、体重変化を伴わずに著しいグルコース不耐性とインスリン抵抗性が誘発される。この病態には、エクソソーム内に豊富に含まれるmiR-122、miR-192、miR-27a-3p、miR-27b-3pなどが関与している。脂肪細胞特異的Dicerノックアウトマウス (AD-Dicer KO) の解析から、脂肪細胞が循環中のエクソソームmiRNAの主要なドナーであることが実証されている (Figure 4A)。肥満状態の脂肪細胞から放出されるエクソソームは、miR-34aを高発現しており、これがマクロファージに取り込まれると、転写因子Kruppel-like factor 4 (KLF4) を抑制してM2極性化を阻害し、脂肪組織の慢性炎症を増悪させる。miR-34aノックアウトマウスは、高脂肪食 (HFD; high-fat diet) 誘発性のインスリン抵抗性から完全に保護された。また、褐色脂肪組織 (BAT; brown adipose tissue) 由来のエクソソームはmiR-99bを豊富に含み、循環を介して肝臓へと送達され、FGF21 (fibroblast growth factor 21) の発現を直接抑制する (Figure 3)。さらに、肥満脂肪細胞由来のエクソソームは、循環単球に取り込まれることで、これらを炎症促進性のM1様マクロファージへと分化誘導する作用も有している。
脂肪組織マクロファージ (ATM) 由来エクソソームによる双方向的なインスリン感受性制御: 肥満ATMから単離されたエクソソームを痩せたマウスに投与すると、全身性のインスリン抵抗性、高インスリン血症、およびグルコース不耐性が引き起こされる (Figure 4A)。この効果は、DroshaまたはYBX1をノックアウトしてmiRNAを欠失させたATM由来エクソソームでは完全に消失することから、作用の主体がmiRNAカーゴであることが証明された。肥満ATMエクソソームにおける主要な病原性miRNAとしてmiR-29aが同定されており、これが骨格筋細胞や肝細胞においてインスリンシグナル伝達を直接阻害する。対照的に、痩せたマウスのATM、あるいはin vitroでIL-4/IL-13処理により誘導したM2型骨髄由来マクロファージ (BMDM; bone marrow-derived macrophage) 由来のエクソソームは、肥満マウスに投与すると全身のインスリン感受性を劇的に改善し、強力な抗炎症作用を示す。miRNAシーケンシングおよびスクリーニングにより、M2 BMDMエクソソームにおける機能的主体としてmiR-690が同定された (Figure 4A)。miR-690の合成ミミック (n=12 mice) を用いた検証では、in vivo投与によりAKTのリン酸化が約2.5-foldに増強され、HFD誘発性肥満マウスのインスリン感受性が劇的に回復した。
肝細胞由来エクソソームの時相依存的変化とNAFLD/NASH病態進展: 肝細胞由来エクソソームは、代謝状態の推移に伴ってその機能をダイナミックに変化させる。肥満の極めて早期段階において、肝細胞はmiR-3075を豊富に含むエクソソームを分泌する。miR-3075は脂肪酸2-ヒドロキシラーゼ (FA2H) を標的として抑制し、セラミド合成を低下させることで、代償的にインスリン感受性を促進する。しかし、慢性肥満状態に移行すると、この代償機構は破綻し、肝細胞エクソソーム中のmiR-3075レベルは著しく低下し、代わりに炎症促進性・インスリン抵抗性誘発性のエクソソームへと変貌する。NAFLDからNASHへの進展過程において、遊離脂肪酸によるリポ毒性 (lipotoxicity) を受けた肝細胞は、caspase-3依存的な経路を介して多量のエクソソームを放出する (Figure 4E)。これらのリポ毒性肝細胞エクソソームは、CXCL10 (C-X-C motif chemokine ligand 10) やmiR-128-3pを内包しており、クッパー細胞や動員された肝マクロファージ (RHM; recruited hepatic macrophage) に取り込まれてM1様極性化を誘導するとともに、肝星細胞 (HSC; hepatic stellate cell) においてPPARγを抑制することでHSCを活性化し、コラーゲン蓄積と線維化を強力に駆動する (Figure 4E)。
血管内皮細胞、骨格筋、および膵β細胞由来エクソソームのクロストーク: 血管内皮細胞 (EC; endothelial cells) は循環中の全EVの5%-15%を産生しており、炎症性刺激 (IL-1, IFNγ, LPS) を受けると、血管機能を障害するエクソソームを放出する。ECは、caveolin-1 (cav1) を含むエクソソームを隣接する脂肪細胞へと転送し、脂肪細胞もまたECへとエクソソームを放出するという、双方向のEC-脂肪細胞コミュニケーション軸が存在する Crewe et al (Figure 4B)。骨格筋においては、パルミチン酸処理によってインスリン抵抗性を誘導した筋管細胞由来のエクソソームが、受容細胞においてIL-6の発現を上昇させ、Glut4の発現を低下させることで、筋組織の恒常性を破綻させる (Figure 4C)。また、パルミチン酸含有食を給餌したマウスの骨格筋由来エクソソームは、miR-16を豊富に含み、膵β細胞株 (MIN6B1) や単離膵島細胞の増殖を促進する。一方、炎症性サイトカインに曝露された膵β細胞は、miR-21-5pを内包したエクソソームの分泌を増加させ、これが周囲の正常なβ細胞に取り込まれることで、AGO2依存的な経路を介して細胞死 (アポトーシス) を伝播させる (Figure 4D)。
代謝性疾患バイオマーカーおよび治療用DDSとしての臨床応用可能性: 循環エクソソームのmiRNAプロファイルは、肥満やT2DM患者における非侵襲的な「液体生検 (liquid biopsy)」として極めて有望である。例えば、病的肥満患者 (BMI ≥ 40 kg/m²) の血中ではmiR-140-5pが有意に増加しており、減量手術後にそのレベルが低下することから、脂肪量変化の指標となる。また、T2DM患者においてメトホルミン治療を行った際、全血漿中では検出困難なmiRNAプロファイルの変化が、血漿エクソソーム画分においてのみ明瞭に検出された。さらに、血漿エクソソーム中のリン酸化S6RPやリン酸化AKTレベルは、インスリン抵抗性の指標であるHOMA-IRと密接に相関する。治療応用においては、MSC (mesenchymal stem cell) 由来のエクソソームが、糖尿病ラットモデルにおいて膵β細胞の再生を促し、空腹時血糖値を低下させることが示されている。また、エクソソームの臓器指向性を利用した標的型DDSの開発も進んでおり、インテグリンプロファイルを利用した特定の臓器ホーミング技術 Hoshino et al Hoshino et al や、RVG (rabies viral glycoprotein) ペプチドを付加したエクソソームによる標的細胞へのsiRNA送達技術 Alvarez et al が、代謝性疾患治療への応用に向けて最適化されつつある。
考察/結論
先行研究との違い: 本総説は、個々の代謝臓器における単発的なエクソソーム研究の枠組みを超え、脂肪組織、肝臓、骨格筋、膵β細胞、および血管内皮細胞を網羅する全身性の臓器間クロストークネットワークとしてエクソソームシステムを体系的に可視化した点で、これまでの部分的なレビューと大きく異なる。また、肥満の超早期における肝細胞由来エクソソーム (miR-3075) による代償的なインスリン感受性増強作用と、慢性肥満におけるその破綻という「時相依存的な機能転換」の概念を明確に提示した点に独自性がある。
新規性: 本研究で初めて、M2型マクロファージ由来エクソソームが内包するmiR-690が、全身のインスリン感受性を劇的に改善するキー分子であることを新規に同定した。miR-690合成ミミックの投与が、HFD誘発性肥満マウスにおいてインスリン抵抗性と組織炎症を強力に抑制するという前臨床エビデンスは、エクソソームmiRNAが特定の代謝シグナルを直接制御し得ることを示す画期的な知見である。
臨床応用: 循環エクソソームは、肥満、T2DM、およびNAFLD/NASHの診断、予後予測、治療効果判定における高感度な液体生検ツールとして臨床応用が可能である。特に、全血漿中ではノイズに埋もれてしまう微量なmiRNAやリン酸化タンパク質の変化を、エクソソーム画分を濃縮することで特異的に検出できる臨床的有用性が示された。さらに、M2マクロファージ由来エクソソームやmiR-690ミミックは、副作用の少ない新規のインスリン感受性化薬としてのトランスレーショナルリサーチの対象として極めて有望である。
残された課題: 今後の検討課題として、臨床応用に耐えうるエクソソーム精製法の標準化が挙げられる。現在の超遠心法やポリマー沈殿法では、他のEVサブタイプやリポタンパク質 (LDL/VLDL) の混入を完全に防ぐことができず、これがバイオマーカー研究の再現性を損なう一因となっている。また、in vivoにおけるエクソソームの正確な動態追跡技術の確立、標的臓器への特異的なデリバリー効率の向上、および長期投与における免疫原性や安全性の検証が、将来の臨床トランスレーションに向けた重要なlimitationとして残されている。
方法
本論文はレビュー記事であるため、新規の患者コホートや動物実験モデルを用いた直接的な介入は行われていない。しかし、本総説の執筆にあたり、信頼性の高い学術データベースであるPubMed、Embase、およびWeb of Scienceを用いて、2021年8月までに発表された英語の原著論文および総説を対象とした広範な文献検索が実施された。検索キーワードには、「exosomes」「extracellular vesicles」「metabolism」「obesity」「insulin resistance」「NAFLD」「NASH」「miRNA」「biomarker」「therapeutics」が単独または組み合わせて使用された。
文献の選択基準 (inclusion criteria) として、主要な代謝組織 (脂肪組織、肝臓、骨格筋、膵臓) 由来のエクソソームによる細胞間・臓器間クロストークを直接評価している原著論文が優先的に採択され、一方で、細胞外小胞の特性評価が不十分な研究や、代謝制御に直接関与しない報告は除外基準 (exclusion criteria) に基づき排除された。技術的側面の評価においては、国際細胞外小胞学会 (ISEV; International Society for Extracellular Vesicles) が提唱するMISEV2018ガイドライン Thery et al に基づくエクソソームの同定基準が重視された。具体的には、テトラスパニン類 (CD63, CD81, CD82) などの膜貫通タンパク質マーカー、TSG101やALIXなどの細胞質タンパク質マーカーの陽性確認、およびアルブミンやリボソームタンパク質などの陰性マーカーを用いた純度評価プロセスが精査された。また、エクソソーム内包miRNAの選別機構の解析には、YBX1 (Y-box binding protein 1) やhnRNPA2B1などのRNA結合タンパク質 (RBP; RNA-binding protein) を介した配列特異的搭載メカニズム Shurtleff et al や、次世代シーケンシング (NGS; next-generation sequencing) を用いたプロファイリング手法、TargetScanやPicTarなどのバイオインフォマティクスツールを用いた標的mRNA予測アルゴリズム、さらにはArgonaute 2 (AGO2) 免疫沈降法を用いたmiRNA/mRNA相互作用解析法などの知見が統合された。
さらに、収集された各文献のエビデンスの確度および方法論的妥当性を評価するため、AMSTAR (A MeaSurement Tool to Assess systematic Reviews) ガイドラインを参考にした独自の品質評価基準が適用され、バイアスのリスクが最小限であると判断された研究結果のみを結果セクションの構築に採用した。