- 著者: Xinyi Tu, Bo Qin, Yong Zhang, Cheng Zhang, Mohamed Kahila, Somaira Nowsheen, Ping Yin, Jian Yuan, Huadong Pei, Hu Li, Jia Yu, Zhiwang Song, Qin Zhou, Fei Zhao, Jiaqi Liu, Chao Zhang, Haidong Dong, Robert W. Mutter, Zhenkun Lou
- Corresponding author: Haidong Dong (Mayo Clinic, Rochester, MN, USA); Robert W. Mutter (Mayo Clinic, Rochester, MN, USA); Zhenkun Lou (Mayo Clinic, Rochester, MN, USA)
- 雑誌: Molecular Cell
- 発行年: 2019
- Epub日: 2019-04-30
- Article種別: Original Article
- PMID: 31053471
背景
PD-L1 (B7-H1) は、免疫チェックポイントタンパク質として腫瘍細胞に高発現し、PD-1との結合を介してT細胞の活性・増殖抑制、アポトーシス誘導を促進することで、腫瘍の免疫回避に寄与する機能が広く認識されている。このPD-1/PD-L1軸を標的とする抗体医薬は、多くの悪性腫瘍において臨床的に承認され、治療パラダイムを大きく変革した。例えば、Antonia et al. NEnglJMed 2017 は、非小細胞肺がんにおけるデュルバルマブの有効性を示した。しかし、これらの薬剤に対する奏効を示さない症例や、治療後に耐性を獲得する症例が多数存在することが、依然として重要な臨床課題である。PD-L1の免疫抑制機能は、Dong et al. NatMed 1999 や Freeman et al. JExpMed 2000 らによって初期に報告され、その後の研究で腫瘍の免疫回避における役割が詳細に解明されてきた (Dong et al. NatMed 2002、Chen et al. JClinInvest 2015)。細胞外のPD-1/PD-L1軸による免疫抑制機能に加えて、PD-L1の細胞内局在が複数の研究で報告されてきたが、細胞内PD-L1の生物学的機能、特に腫瘍細胞自律的な挙動における役割については、これまでほとんど解明されていなかった。
先行研究では、PD-L1高発現腫瘍が化学療法や放射線療法に対しても耐性を示すことが臨床的に観察されており、この現象の分子基盤として細胞内PD-L1の寄与が示唆されていた。例えば、DNA損傷応答 (DDR) 経路の活性化は、腫瘍細胞の放射線や化学療法に対する耐性を高める主要なメカニズムの一つである。PD-L1がDDR経路に直接関与する可能性は、その細胞内局在の報告から推測されたものの、具体的な分子メカニズムは不明であった。また、PD-L1の細胞内機能が免疫抑制とは独立した形で腫瘍の生存に寄与する可能性は、既存の免疫チェックポイント阻害剤に対する耐性メカニズムを理解し、新たな治療戦略を開発する上で重要な知識ギャップとなっていた。この分野の研究は手薄であり、PD-L1の多面的な役割を包括的に理解するために、細胞内機能の解明が不足していた。
本研究は、この知識ギャップを埋めることを目指し、免疫機能とは独立した細胞内PD-L1の腫瘍細胞における機能を詳細に解析した。特に、PD-L1がRNA結合タンパク質として機能し、DNA損傷応答関連遺伝子のmRNA安定性を調節するという新規メカニズムを提唱する。この発見は、PD-L1の多面的な役割を明らかにし、既存の治療法に抵抗性を示す腫瘍に対する新たな治療標的を提供する可能性を秘めている。細胞内PD-L1の機能解明は、免疫チェックポイント阻害剤の非奏効例や耐性例に対する理解を深め、放射線療法や化学療法との併用療法における治療効果の増強に繋がる新たな戦略の開発に貢献すると考えられる。
目的
本研究の目的は、免疫機能とは独立した細胞内PD-L1の腫瘍細胞における生物学的機能を解明し、特にDNA損傷応答 (DDR) におけるその役割を明らかにすることである。具体的には、PD-L1がRNA結合タンパク質として機能し、DDR関連遺伝子のmRNA安定性をどのように調節するかを分子レベルで解析する。さらに、PD-L1とRNAエクソソームとの競合関係を解明し、PD-L1がDNA損傷耐性を付与するメカニズムを確立する。
加えて、本研究は細胞内PD-L1を標的とする新規抗体H1Aを開発し、その作用機序を検証することを目指した。H1AがPD-L1の安定化因子であるCMTM6 (CKLF-like MARVEL transmembrane domain containing 6) との相互作用を阻害することでPD-L1の分解を促進し、その結果として腫瘍細胞のDNA損傷感受性を高めることをin vitroおよびin vivoの前臨床モデルで実証する。最終的に、この新規抗体H1Aが、放射線療法や化学療法に対する腫瘍の感受性を増強する新たな治療戦略としての可能性を評価することを目的とする。これらの知見を通じて、PD-L1高発現腫瘍における治療抵抗性の克服と、より効果的な併用療法の開発に貢献することを目指す。
結果
PD-L1のノックダウンがDNA傷害感受性を増加させ、DNA損傷応答を障害する: HCT116およびMDA-MB-231細胞において、PD-L1のノックダウン (KD) はシスプラチンおよび放射線 (IR) に対する有意な感受性増加をもたらした (p < 0.05〜0.001)。この感受性増加は、PD-L1の再発現によって逆転した (Figure 1A, 1B)。PD-L1 KD細胞ではIR誘発γH2AX fociの基礎レベルが増加し、IR後のγH2AX fociの消失が遅延していた (Figure 1E)。これはDNA修復機能の障害を示唆する。in vivo実験では、PD-L1 KO BALB/Cマウス (n=16 mice) は野生型 (n=16 mice) と比較して、全身7 Gy照射後の生存率が有意に低下した (p = 0.003, Figure 1F)。一方、PD-L1/PD-1相互作用を遮断する抗体では同等のIR感受性増加は観察されず (Figure S1E)、PD-L1の免疫機能とは独立したDDRにおける役割が強く示唆された。
細胞内PD-L1はNBS1およびBRCA1 mRNAに結合してmRNA安定性を維持する: PD-L1 KDにより、NBS1、BRCA1、RAD50、MRE11といったMRN複合体タンパク質の発現が低下した (Figure 2A)。このタンパク質レベルの低下は、プロテアソーム阻害薬MG132処理によっても回復しなかったことから、タンパク質分解の促進ではなく、mRNAレベルの低下が主因であることが示唆された (Figure S2B)。実際に、PD-L1 KD細胞ではNBS1およびBRCA1 mRNAレベルが有意に低下しており (Figure 2B)、アクチノマイシンD処理によるmRNA半減期測定およびEU標識法により、NBS1およびBRCA1 mRNAの半減期が有意に短縮していることが示された (p < 0.05〜0.001, Figure 2C, 3F)。PD-L1の再発現により、これらのmRNA安定性は回復した。RIPアッセイにより、PD-L1がNBS1 mRNAに直接結合することが実証された (Figure 2E)。RNA pull-downアッセイでは、PD-L1の細胞質領域 (アミノ酸270-279) がRNA結合に必須であることが示された (Figure S3G)。TCGAデータベースの血液サンプル (n = 407 donors) 解析では、PD-L1発現はNBS1 (r = 0.748, p = 4.1e-47) およびBRCA1 (r = 0.592, p = 9.0e-40) と有意な正の相関を示した (Figure 2H)。
PD-L1はRNAエクソソームとの競合によりゲノムワイドにmRNA安定性を調節する: RIP-seq解析により、PD-L1は3,152種類のRNAと有意に結合することが同定され、NBS1およびBRCA1 mRNAも含まれていた (Table S1)。PD-L1 KD条件下でのRNA-seq解析では、6,502遺伝子の発現が低下しており、そのうち1,724遺伝子がRIP-seqデータと重複していた (Figure 4C)。Gene Ontology (GO) 解析では、「細胞のDNA損傷刺激への応答」経路が最も有意に濃縮され (RIP-seq: 207遺伝子、RNA-seq: 408遺伝子、重複: 135遺伝子)、ATM、POLQ、FANCLなどのDDR関連遺伝子のmRNA低下がqRT-PCRで確認された (Figure 4D, 4E)。RNAエクソソームの構成要素であるEXOSC10のKDはNBS1およびBRCA1 mRNAレベルを増加させ (Figure 3A)、PD-L1 KDはEXOSC10のNBS1およびBRCA1 mRNAへの結合を増加させた (Figure 3B)。逆に、EXOSC10 KDはPD-L1のNBS1およびBRCA1 mRNAへの結合を増加させた (Figure 3C)。EXOSC10またはEXOSC4のKDは、PD-L1 KDによるmRNA安定性低下を救済した (Figure 3E, 3G)。これらの結果は、PD-L1がRNAエクソソームと競合して標的RNAに結合し、その分解を防ぐことでmRNA安定性を促進することを示唆する。MEME-ChIPにより、PD-L1の優先結合モチーフ「GVAGAW」が同定され (Figure 4F)、ルシフェラーゼレポーターアッセイと変異実験により機能的に検証された (Figure 4G, 4H)。
H1A抗体によるPD-L1分解誘導と治療増感: PD-L1とCMTM6 (CKLF-like MARVEL transmembrane domain containing 6) の相互作用を遮断する新規抗体H1Aが開発された。H1A処理はPD-L1のプロテアソーム依存的分解を促進し、細胞内PD-L1タンパク質量を減少させた (Figure 5B, 5D)。H1A処理により、がん細胞のIR感受性およびシスプラチン感受性がin vitroで増加した (p < 0.05〜0.001)。in vivoの腫瘍モデルでは、H1A単独またはIR単独では抗腫瘍効果は限定的であったが、H1AとIRの併用により腫瘍増殖が有意に遅延した (Figure 5H)。免疫不全NOD-SCIDマウスを用いた実験では、H1AはPD-L1発現腫瘍細胞のシスプラチン感受性を著しく増強したが、PD-L1 KO腫瘍細胞では追加的な効果は認められなかった (Figure 5I)。既存のPD-L1阻害抗体であるデュルバルマブは、H1AのようなPD-L1分解誘導効果やDNA傷害療法増感効果を示さなかった (Figure S5A, S5C)。これらの結果は、H1Aが既存の免疫チェックポイント阻害剤とは異なるメカニズムでPD-L1の細胞内機能を標的とし、DNA傷害療法に対する腫瘍の感受性を高めることを明確に示した。
考察/結論
本研究は、細胞内PD-L1がRNA結合タンパク質として機能し、DNA損傷応答 (DDR) 関連遺伝子のmRNA安定性をRNAエクソソームとの競合を通じて調節することで、細胞のDNA損傷耐性を付与するという、これまで全く認識されていなかった新規機能軸を発見した。この発見は、PD-L1の細胞外における免疫抑制機能に加えて、細胞内PD-L1が腫瘍細胞自律的なDNA傷害耐性という生存優位性を付与するという点で、これまでの知見と対照的であり、PD-L1高発現腫瘍における化学療法・放射線療法耐性機序を説明する新概念を提供する。
本研究で初めて、PD-L1がNBS1やBRCA1などのDDR遺伝子mRNAに直接結合し、RNAエクソソームによる分解から保護することで、これらのmRNAの半減期を延長させることを示した。ゲノムワイドなRIP-seqおよびRNA-seq解析により、PD-L1が広範なDDR関連遺伝子のmRNA安定性を調節していることが明らかになった。また、PD-L1の優先結合モチーフ「GVAGAW」の同定は、PD-L1のRNA認識機序に関する構造的理解に寄与する。さらに、PD-L1の細胞質ドメイン (アミノ酸270-279) がRNA結合に必須であるという発見は、PD-L1の二機能性 (免疫抑制vs DNA傷害耐性) を分子レベルで分離する可能性を示唆し、今後の研究の方向性を提供する。
本研究の臨床的意義は非常に大きい。既存の免疫チェックポイント阻害抗体 (PD-1/PD-L1結合遮断) とは全く異なる作用機序を持つ新規抗体H1Aを開発した。H1AはCMTM6 (CKLF-like MARVEL transmembrane domain containing 6) -PD-L1相互作用を遮断することでPD-L1のプロテアソーム依存的分解を誘導し、細胞内PD-L1タンパク質量を減少させる。これにより、H1Aはin vitroおよびin vivoにおいて、がん細胞の放射線感受性およびシスプラチン感受性を有意に増強した。このH1AによるDNA傷害療法増感効果は、既存のPD-L1抗体では観察されなかったものであり、PD-L1高発現腫瘍における治療抵抗性を克服するための新たな臨床応用戦略を提供する。特に、免疫不全マウスモデルにおいてもH1AがDNA傷害療法を増感したことは、その効果が免疫系とは独立した腫瘍細胞自律的なメカニズムによるものであることを強く裏付けている。
残された課題として、H1A抗体のヒトにおける安全性と有効性の評価が挙げられる。また、H1Aが標的とするPD-L1の細胞質ドメインの構造解析を進めることで、より特異的かつ強力な低分子阻害剤の開発に繋がる可能性がある。さらに、PD-L1がDDR以外の細胞プロセス (細胞周期、代謝、転写、タンパク質修飾など) に関連するRNAの安定性も調節していることが示唆されており、これらの非免疫PD-L1機能のさらなる解明は、がん病態におけるPD-L1の役割に関する追加的な手がかりと、新たな治療標的の機会を提供するだろう。本研究は、RNAエクソソームとmRNA結合タンパク質の競合が、どのmRNAが分解を免れて細胞の機能に寄与するかを規定するというRNA選択性の観点から、エクソソーム生物学におけるカーゴ選択機序とも深く関連する重要な知見を提供した。
方法
本研究では、細胞内PD-L1の機能と新規抗体H1Aの治療増感効果を検証するため、多角的な実験手法を用いた。
まず、PD-L1のDNA損傷応答 (DDR) における役割を評価するため、大腸がん細胞株HCT116および乳がん細胞株MDA-MB-231において、2種の独立したshRNAを用いてPD-L1をノックダウン (KD) した。これらの細胞株ではPD-1の発現が検出されないことを確認し、免疫機能とは独立したPD-L1の役割を評価できる系を確立した。PD-L1 KD細胞およびPD-L1過剰発現細胞を用いて、シスプラチンおよび放射線 (IR) 処理後のコロニー形成アッセイを実施し、細胞生存率を評価した。さらに、患者由来乳がん細胞スフェロイドにおいてもPD-L1 KD後のIR感受性を確認し、臨床的関連性を検討した。DDR機能の指標として、U2OS細胞においてIR誘発γH2AX foci (DNA二本鎖切断の指標) の形成および消失動態を免疫蛍光法により解析した。in vivoでは、PD-L1 KO BALB/cマウスを用いて全身照射 (7 Gy) 後の生存実験を実施し、PD-L1のDNA損傷感受性への影響を評価した。この際、PD-L1/PD-1相互作用遮断抗体による効果と比較し、免疫機能非依存的な役割を強調した。生存率の比較にはログランク検定を用いた。
次に、PD-L1のRNA結合能とmRNA安定性への影響を解析するため、RNA免疫沈降 (RIP) およびゲノムワイドRIP-seq、RNA-seqを実施した。RNA-seqデータ解析にはLove et al. GenomeBiol 2014 のDESeq2、リードのアライメントにはLiao et al. Bioinformatics 2014 のfeatureCountsを用いた。これにより、PD-L1が結合するRNAのプロファイルと、PD-L1 KDがmRNA発現に与える影響を網羅的に解析した。特に、NBS1やBRCA1といったDDR関連遺伝子のmRNA安定性に対するPD-L1の影響を、転写阻害剤アクチノマイシンD処理後のmRNA半減期測定、および5-エチニルウリジン (EU) 標識法を用いて定量的に評価した。RNAエクソソーム構成要素であるEXOSC10およびEXOSC4とPD-L1のmRNA結合における競合関係を、RIPアッセイおよびmRNA安定性測定により検証した。PD-L1のRNA結合ドメインを特定するため、PD-L1の異なる切断変異体を用いたRNA pull-downアッセイを実施し、細胞質領域 (アミノ酸270-279) がRNA結合に必須であることを示した。また、MEME-ChIPソフトウェアを用いてPD-L1の優先結合モチーフ「GVAGAW」を同定し、ルシフェラーゼレポーターアッセイと変異実験によりその機能的意義を検証した。
最後に、細胞内PD-L1を標的とする新規治療戦略として、PD-L1安定化因子CMTM6との相互作用を遮断する新規抗体H1Aをスクリーニングにより開発した。H1A処理によるPD-L1のプロテアソーム依存的分解と、それに伴うDNA傷害療法増感効果をin vitroおよびin vivoで検証した。in vitroでは、H1A処理によるがん細胞のIR感受性およびシスプラチン感受性の増加をコロニー形成アッセイで評価した。in vivoでは、ヒトPD-L1発現マウスメラノーマB16F10細胞を用いた免疫能保持C57BL/6JマウスモデルおよびMDA-MB-231細胞を用いた免疫不全NOD-SCIDマウスモデルにおいて、H1AとIRまたはシスプラチンの併用療法による抗腫瘍効果を評価した。これらの実験により、H1Aが既存のPD-L1阻害抗体とは異なるメカニズムでPD-L1の細胞内機能を阻害し、DNA傷害療法に対する腫瘍の感受性を高めることを示した。統計解析にはt検定を用いた。