- 著者: James W. Clancy, Crislyn D’Souza-Schorey
- Corresponding author: Crislyn D’Souza-Schorey (Department of Biological Sciences, University of Notre Dame, Notre Dame, IN, USA)
- 雑誌: Annual Review of Pathology: Mechanisms of Disease
- 発行年: 2023
- Epub日: 2022-10-06
- Article種別: Review
- PMID: 36202098
背景
細胞外小胞 (EVs) は、1980年代に網状赤血球の成熟過程で初めてその存在が報告されて以来、細胞間コミュニケーションの重要な媒介体としての機能が認識されてきた。特に、腫瘍細胞から放出される腫瘍由来EVs (TDEVs) は、腫瘍微小環境 (TME) における情報伝達の中心的な役割を担うことが明らかになっている。TDEVsは、腫瘍細胞と、がん関連線維芽細胞 (CAF)、腫瘍関連マクロファージ (TAM)、内皮細胞、免疫細胞、さらには遠隔臓器との間で双方向のシグナル伝達を媒介する。
2010年代には、EVsががんの転移プロセスにおいて極めて重要な役割を果たすことが複数の画期的な研究によって確立された。例えば、Peinado et al. NatMed 2012は、メラノーマ由来エクソソームが骨髄前駆細胞を前転移性表現型へと教育することを示した。また、Hoshino et al. Nature 2015は、エクソソームのインテグリンが転移の臓器向性を決定することを明らかにし、Costa-Silva et al. NatCellBiol 2015は、膵臓がん由来エクソソームが肝臓における前転移ニッチ形成を開始させることを報告した。これらの研究は、EVsが転移前ニッチ形成と臓器向性の決定因子であることを確立した点で、がん研究に大きな影響を与えた。
近年、血中EVsをバイオマーカーとするリキッドバイオプシーは、循環腫瘍細胞 (CTC) や細胞遊離DNA (cfDNA) と並ぶ非侵襲的診断ツールとして急速に発展している。しかし、EVsの分類体系自体は依然として進化の途上にあり、エクソメア (<50 nm)、スーパーメア (<50 nm、高密度)、マイグラソーム、ARMMs (ARRDC1-mediated microvesicles)、大型オンコソーム (1-10 μm) など、新規のEVサブタイプが次々と同定されている。これらの多様なEVサブタイプは、それぞれ異なる生合成経路、カーゴ組成、および機能を持つ可能性があり、その詳細な解明は依然として未解明な部分が多い。特に、これらの新規サブタイプがTMEにおける細胞間コミュニケーションにどのように関与し、がんの進行にどのような影響を与えるのかについては、さらなる研究が不足している。EVsの異質性を考慮した標準的な分離・解析技術の確立も、臨床応用への大きな課題として残されている。
目的
本総説の目的は、腫瘍由来細胞外小胞 (TDEVs) の最新の分子プロファイル、腫瘍進展における機能、およびEVベースのリキッドバイオプシーと治療ペイロードデリバリーの臨床応用可能性を、2022年時点の新規EVサブタイプを含めて包括的に概説することである。具体的には、TDEVsが運ぶ多様なカーゴ(タンパク質、核酸、脂質、代謝産物)の組成、これらが腫瘍の増殖、浸潤、転移、免疫回避、薬剤耐性といったがんの多様な側面をどのように促進するかを詳細にまとめる。さらに、エクソメア、スーパーメア、マイグラソーム、ARMMs (ARRDC1-mediated microvesicles)、大型オンコソームといった新規EVサブタイプの特性と、それらががんの病態生理に与える影響についても言及する。最終的に、EVsが診断、予後予測、治療モニタリングのためのバイオマーカーとして、また、標的指向性治療薬のデリバリーシステムとしての臨床的有用性を評価し、今後の研究の方向性と残された課題を提示することを目的とする。本総説は、がんEV研究の現状を整理し、基礎研究から臨床応用への橋渡しを促進する情報を提供することを目指す。
結果
TDEVのサブタイプ分類と特徴: 腫瘍由来細胞外小胞 (TDEVs) は、その生合成経路、サイズ、および特徴的な分子マーカーに基づいて多様なサブタイプに分類される (Table 1)。本総説では、主に以下の6つの主要なEVサブタイプを区別している。(1) エクソソーム: 直径30-150 nmの範囲で、多胞体 (MVB) 由来であり、CD9、CD63、CD81、TSG101、Alixといったマーカータンパク質が特徴的である。(2) 微小小胞 (MVs): 直径100 nm-1 μmで、細胞膜の出芽によって直接放出され、ARF6やROCKなどのタンパク質がその生合成に関与する。(3) 大型オンコソーム (LOs): 直径1-10 μmと比較的大きく、アメーバ様運動を示す腫瘍細胞から放出され、DIAPH3の発現低下がその形成に関与することが示されている。前立腺がんや膵臓がんで特に顕著に観察される。(4) ARMMs (ARRDC1-mediated microvesicles): 直径約100 nmの小型EVであり、ARRDC1依存的な細胞膜出芽によって形成され、TSG101依存的な経路を介してNOTCHやTGFβ受容体などのカーゴを運ぶ。(5) マイグラソーム: 直径500 nm-3 μmで、細胞遊走時の後退線維の先端から放出され、インテグリンに富むことが特徴である。(6) エクソメア/スーパーメア: 直径50 nm未満の非膜被覆型細胞外粒子であり、Zhang et al. NatCellBiol 2018やZhang et al. (2021)によって同定された。これらは膜を持たないが、独自の生物活性カーゴを持つ。これらのサブタイプ間にはサイズや生合成経路、マーカーにおいて重複する部分も多く、その異質性がEV研究の課題となっている。
TDEVの多様なカーゴ組成: TDEVsは、その起源細胞の生理状態を反映する多様な生物活性カーゴを内包している。(a) タンパク質: 腫瘍特異的抗原 (例: PSMA、HER2、EGFRvIII)、活性化型受容体 (EGFR、MET)、プロテアーゼ (MMP-2/9、ADAM10)、免疫チェックポイント分子 (PD-L1、Poggio et al. Cell 2019で前立腺がんエクソソームのPD-L1が免疫抑制を駆動することが報告された)、テトラスパニン、インテグリン (例: α6β4/α6β1が肺向性、αvβ5が肝向性を示すことがHoshino et al. Nature 2015によって示された) などが含まれる。(b) 核酸: mRNA (コーディングおよび非翻訳領域)、miRNA (miR-21、miR-155、miR-10bなどのオンコmiRNA)、lncRNA (HOTAIR、MALAT1)、circRNA、ssDNA/dsDNA (変異KRAS、EGFR変異、ミトコンドリアDNA)、tRNAフラグメントなど、多種多様なRNA種およびDNA断片が検出される。特に、大型EVsは親細胞のゲノム変異を反映するdsDNAを運ぶことが、前立腺がんモデルで示されている (Vagner et al. JExtracellVesicles 2018)。(c) 脂質: セラミド、ホスファチジルセリン (PS)、コレステロール、スフィンゴミエリンなどが含まれ、EVの膜構造と機能に寄与する。(d) 代謝産物: 乳酸、TCA中間体、アミノ酸なども含まれ、レシピエント細胞の代謝をリモデリングする可能性がある。
TDEVによる腫瘍進展の機序: TDEVsは、がんの多様な進展段階において重要な役割を果たす (Figure 2)。(1) 血管新生促進: 腫瘍EVsに含まれるVEGF、組織因子、miR-210、lncRNA POU3F3などが内皮細胞の管腔形成と増殖を促進する。(2) CAF誘導: TGF-βを含むEVsが正常線維芽細胞をα-SMA陽性のCAFへと転換させ、腫瘍微小環境をがんの増殖に適した状態にする。(3) 免疫回避: エクソソームのPD-L1はT細胞の疲弊を誘導し、免疫チェックポイント阻害剤への反応性を低下させる可能性がある (Poggio et al. Cell 2019、Chen et al. Nature 2018)。また、EV由来のFasLやTRAILは細胞傷害性T細胞の抑制を引き起こし、TAMをM2極性化するmiR-29a、miR-21含有EVも報告されている。(4) 転移前ニッチ形成: Hoshino et al. Nature 2015は、エクソソームインテグリンα6β4/α6β1が肺、αvβ5が肝臓のクッパー細胞に取り込まれ、S100A8/A9、フィブロネクチン、MIFの発現を誘導して転移前ニッチを形成することを示した。Costa-Silva et al. NatCellBiol 2015では、膵臓がんエクソソームのMIFが肝星細胞を活性化し、TGF-βを介したフィブロネクチン誘導経路を駆動することが報告された。(5) 薬剤耐性伝播: P-gpやBCRPなどの薬剤排出ポンプを含むEVsが、感受性細胞へ薬剤耐性表現型を水平伝播させることが示されている (Corcoran et al. 2012)。また、miR-21含有EVはDNA損傷応答を低下させ、化学療法耐性を誘導する。
リキッドバイオプシーとしての臨床応用: EVsは、非侵襲的なリキッドバイオプシーのプラットフォームとして大きな可能性を秘めている (Figure 1)。(a) 診断: 膵臓がんでは、exosomal glypican-1 (GPC1) が早期診断マーカーとして非常に高い診断感度と特異度を示すことが報告された (Melo et al. Nature 2015、診断精度100%)。胆管がん、肺がん、乳がんにおいてもEV miRNAパネルが診断マーカーとして開発中である。(b) 治療モニタリング: 非小細胞肺がん (NSCLC) におけるEGFR変異ctDNAやT790M耐性変異のEV DNA検出 (Möhrmann et al. 2018) や、黒色腫におけるBRAF V600EのEV RNAモニタリングなど、治療効果のリアルタイムモニタリングに利用されている。(c) 予後予測: 大腸がんでは、EV miR-21の高値が全生存期間 (OS) の低下と相関することが示された (HR 2.3, 95% CI 1.4-3.8)。(d) リスク層別化: exosomal PD-L1レベルが免疫チェックポイント阻害剤への反応予測に有用であることが報告されている (Chen et al. 2018)。Table 2に示されるように、前立腺がんではn=51件、肺がんではn=18件の臨床試験がEVsの診断応用を検討している。
治療ペイロードデリバリーとしてのEV工学: EVsは、その生体適合性と低免疫原性から、治療薬デリバリーシステムとしても注目されている。(1) siRNA/miRNAデリバリー: Alvarez-Erviti et al. (2011) は、RVGペプチドで標的化されたエクソソームによる脳内BACE1 siRNA送達を報告した。(2) 腫瘍抗原搭載DC由来エクソソームワクチン: NSCLCやメラノーマを対象としたPhase I/II臨床試験が実施されている。(3) iExosomes: KRAS G12D siRNAを搭載した間葉系幹細胞 (MSC) 由来エクソソームであり、Kamerkar et al. (2017) によって膵臓がん治療への応用が報告され、MD AndersonでPhase I試験が進行中である。(4) 化学療法剤搭載EV: パクリタキセルやドキソルビシンなどの抗がん剤を搭載したEVが前臨床段階で評価されている。(5) CRISPR-Cas9 RNPデリバリー: ゲノム編集ツールをEVに搭載し、標的細胞へ送達する試みも進められている。
EV数・内容の腫瘍依存的変動: 腫瘍細胞は正常細胞と比較して10-100倍のEVを放出し、その放出量と組成は腫瘍微小環境 (低酸素、低pH)、病期進行、および治療 (放射線、化学療法) によって動的に変化する。例えば、低酸素状態はHIF-1αの発現上昇を介してRab27の発現を増加させ、エクソソーム分泌を促進することが報告されている。さらに、放射線治療や化学療法がEVの放出量やカーゴ組成に影響を与えることも示されており、これにより治療抵抗性の獲得や免疫抑制の増強が起こる可能性が示唆されている。
考察/結論
本総説は、2022年時点の腫瘍由来EV研究の到達点を、エクソメア、スーパーメア、ARMMs (ARRDC1-mediated microvesicles)、マイグラソーム、大型オンコソームを含む拡大された分類体系で整理した点で最新性が高く、がんEV研究の進展を包括的に捉えている。特に、Hoshino et al. Nature 2015によるエクソソームインテグリンを介したオルガノトロピズム研究や、Poggio/Chenらによるexosomal PD-L1を介した免疫回避研究を中核に据えた構成は、がんEV研究の臨床的インパクトを明確に示している。
先行研究との違い: これまでの多くの総説、例えばKalluri et al. Science 2020がエクソソーム全般の生物学と応用を扱っていたのに対し、本論文はがん特異的に焦点を絞り、EVを用いたリキッドバイオプシーと治療ペイロードデリバリーの臨床応用段階まで踏み込んだ点が独自であり、これまでと異なる視点を提供している。また、著者らのARF6/ARMMs研究を通じた微小小胞生合成機構に関する知見も、本論文の強みとなっている。
新規性: 本研究で初めて、エクソメアやスーパーメアといった非膜被覆型細胞外粒子の概念をがんEVの文脈で整理し、その潜在的な機能とバイオマーカーとしての可能性に言及した点は新規である。また、ARMMsの生合成機構とカーゴ輸送に関する詳細な記述は、微小小胞の多様性と機能的特異性を理解する上で重要な貢献である。これまで報告されていないEVサブタイプの特性を包括的にまとめたことは、今後のEV研究の方向性を示す上で重要である。
臨床応用: 本知見は、EVベースのリキッドバイオプシーが、早期診断、予後予測、治療反応モニタリングにおいて極めて有望なツールであることを示唆しており、臨床応用への道筋を明確にしている。特に、GPC1陽性エクソソーム、exosomal PD-L1、EV ctDNAによる診断・モニタリングは、NSCLC、膵臓がん、乳がん、黒色腫などで実用化段階に近づいている。さらに、iExosomes (KRAS G12D siRNA搭載MSCエクソソーム) のPhase I試験や、DC-エクソソームワクチンのPhase II試験、化学療法剤搭載EVの前臨床評価が進行中であり、EVを基盤とした新規治療法の開発が加速している。exosomal PD-L1除去療法のようなアプローチも提案されており、臨床現場での応用が期待される。これらの進展は、がん治療における個別化医療の実現に大きく貢献する臨床的意義を持つ。
残された課題: 今後の検討課題として、(a) EVサブタイプの標準的分離・定量技術の確立とMISEVガイドラインのさらなる発展、(b) 単一EVレベルでの起源細胞同定とカーゴ解析 (single-EV proteomics/transcriptomics)、(c) エクソメア/スーパーメアの生合成機構と機能のさらなる解明、(d) 治療用EVのスケーラブルな製造と厳格な品質管理、(e) EVベース診断の前向き臨床検証と保険償還の実現、(f) EVベース治療の長期安全性評価、(g) EV分泌を標的とした新規治療戦略 (例: GW4869、Rab27阻害剤) の臨床開発、が残されている。これらの課題を克服することで、EV研究はがんの診断と治療に革命をもたらす可能性を秘めている。
方法
本論文はレビュー記事であるため、特定の実験方法論は該当しない。本総説は、2010年代以降のがんEV研究における主要な進展と、著者ら (D’Souza-Schoreyラボ、ARF6/ARMMs研究の主導的ラボ) の独自研究成果を統合し、分子機構、前臨床モデル、および臨床試験データを体系的に整理している。文献検索は、PubMed、Embase、Web of Scienceなどの主要な医学・生物学データベースを用いて行われたと考えられる。検索キーワードとしては、「extracellular vesicles」、「exosomes」、「microvesicles」、「tumor microenvironment」、「cancer progression」、「liquid biopsy」、「therapeutic delivery」などが用いられたと推測される。検索期間は特に明記されていないが、2022年までの最新の研究が網羅されている。
特に、EVsのサブタイプ分類に関しては、Thery et alによって提唱されたMISEV (Minimal Information for Studies of Extracellular Vesicles) 2018ガイドラインなどの最新の国際的なコンセンサスを参考にしながら、エクソソーム、微小小胞、大型オンコソームといった古典的な分類に加え、エクソメア、スーパーメア、ARMMs (ARRDC1-mediated microvesicles)、マイグラソームといった新規の細胞外粒子についても詳細に記述している。これらのEVサブタイプの生合成経路、特徴的なマーカー、およびサイズに関する情報が比較検討されている (Table 1)。
EVカーゴの分子プロファイルについては、プロテオミクス、トランスクリプトミクス、リピドミクス、メタボロミクスなどのオミクス解析を用いた研究結果が多数引用されている。特に、腫瘍特異的タンパク質、オンコmiRNA、lncRNA、および変異DNAのEV内含有に関する知見が強調されている。これらの解析は、EVの多様な機能的役割を理解する上で不可欠である。
腫瘍進展におけるEVsの機能的役割については、血管新生促進、CAF誘導、免疫回避、転移前ニッチ形成、薬剤耐性伝播といった多岐にわたる側面が、in vitroおよびin vivoモデルでの実験結果に基づいて説明されている。これらの機能は、EVが運ぶ特定のカーゴ分子とレシピエント細胞におけるシグナル伝達経路の活性化を通じて媒介されることが示されている (Figure 2)。
臨床応用に関するセクションでは、EVベースのリキッドバイオプシーの診断、予後予測、治療モニタリングにおける可能性が、進行中の臨床試験 (例えば、Table 2に示されるように、前立腺がんではn=51件、肺がんではn=18件の臨床試験が報告されている) のデータや、特定のバイオマーカー(例: 膵臓がんにおけるexosomal glypican-1 (GPC1))の検出精度に関する報告に基づいて評価されている。また、EVを治療ペイロードデリバリーシステムとして利用するEV工学の進展についても、siRNA/miRNAデリバリー、腫瘍抗原搭載DC由来エクソソームワクチン、iExosomesなどの前臨床および初期臨床試験データがまとめられている。