- 著者: Valbona Luga, Liang Zhang, Alicia M. Viloria-Petit, Abiodun A. Ogunjimi, Mohammad R. Inanlou, Elaine Chiu, Marguerite Buchanan, Abdel Nasser Hosein, Mark Basik, Jeffrey L. Wrana
- Corresponding author: Jeffrey L. Wrana (Samuel Lunenfeld Research Institute, Mount Sinai Hospital, Toronto, Canada)
- 雑誌: Cell
- 発行年: 2012
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 23260141
背景
腫瘍微小環境では cancer-associated fibroblast (CAF, がん関連線維芽細胞) が豊富に存在し、HGF や SDF1 等の paracrine 因子を分泌して上皮細胞の腫瘍化と増殖を駆動することが報告されてきた (Orimo et al. 2005; Bhowmick et al. 2004)。さらに CAF による細胞外マトリックス再構築が腫瘍細胞の浸潤・転移に必須であることも示されている (Joyce and Pollard 2009)。しかし、転移を特異的に促進する CAF と腫瘍細胞の direct crosstalk を担う分子的実体は依然として未解明であり、この点の機構理解は手薄であった。
一方 exosome は多胞体 (MVB, multivesicular body) 由来の 30-100 nm 膜小胞で、多様な生理活性分子を内包し細胞間通信の有力な媒体として注目されてきたが、CAF が exosome を分泌するか、またそれが転移を支持するかは検証されていなかった (Théry et al. 2009; Simons and Raposo 2009)。加えて planar cell polarity (PCP, 平面内細胞極性) 経路は Frizzled-Dishevelled 複合体と Vangl-Prickle 複合体の相互排他的な非対称局在によって組織極性を制御し、Wnt5a/Wnt11 がその key regulator であるものの、がんにおける Wnt-PCP の分子機構と、Wnt リガンドが膜・マトリックスに固着しながら如何にして long-range に作用するか (exosome 介在説を含む) についての decisive な証拠は不足していた (Gray et al. 2011; Gross et al. 2012)。本研究はこの knowledge gap、すなわち「ストローマ由来 exosome が腫瘍細胞の Wnt-PCP 極性をどう動員して転移を駆動するか」に取り組んだ。
目的
CAF を含む線維芽細胞が exosome を分泌するか、その exosome が breast cancer cell (BCC, 乳がん細胞) の protrusion 形成・運動能・転移を Wnt-PCP 経路依存的に促進するか、そして活性を担う exosome 構成分子と腫瘍細胞側の autocrine Wnt リガンドを同定し、orthotopic マウスモデルで in vivo の機能を検証することを目的とした。
結果
L cell 馴化培地が protrusion・運動能・3D 浸潤を亢進させる:ACM 処理により MDA-MB-231 は長く動的な protrusion を多方向に伸展し、対照 (DMEM) より有意に高速かつ directional persistence の高い運動を示した (Fig 1B, 1C; n=30 cells per group, ***p<0.0001)。3D Matrigel でも浸潤性構造が誘導された (Fig 1D)。対照細胞が概ね定点で短い protrusion に留まったのに対し、ACM 群は長距離かつ持続的な方向性運動を示し、両群の運動速度・persistence の差は統計的に頑健であった (Fig 1C; n=30 cells per group, ***p<0.0001)。この活性は SUM-159PT・MDA-MB-468・T-47D・EMT-6・EpRas・EpH4 でも再現され、L cell 分泌因子が上皮系乳腺細胞に普遍的かつ強力に作用することが示された (Fig S1C, S1D)。
線維芽細胞共注入が肺転移を特異的に増強する:弱転移性 MDA-MB-231 を L cell と mammary fat pad へ共注入すると、4 週後の vimentin 陽性肺転移は病巣数 (Fig 1G; n=4 vs n=7, p=0.03) とサイズ (Fig 1H; p=0.0004) の双方で有意に増加し、SUM-159PT でも同様であった (Fig S6D)。原発腫瘍の増殖速度は群間で差がなく (Fig S1E)、この効果が腫瘍増大の二次的結果ではなく転移特異的であることが確認された。
core PCP 経路と Pk1 が線維芽細胞誘導性転移に必須である:Smurf1/2、Dvl1、Fzd6、Vangl1 の siRNA は ACM 誘導運動を阻害し、Pk1 knockdown ではほぼ完全に運動が停止した (Fig 2A, 2B; Fig S2D)。3 種 shRNA で Pk1 を 53%-86% 安定 knockdown した MDA-MB-231 を L cell と共注入すると、肺微小転移が基底レベルまで抑制された一方 (Fig 2E; p=0.048)、原発腫瘍増殖は不変であり (Fig 2F)、core PCP が転移を選択的に駆動することが示された。
Fzd-Dvl と Vangl-Pk が protrusion で相互排他的に非対称局在する:ACM 刺激細胞では Fzd6 が Dvl1 と共に F-actin に富む protrusion 先端 (leading edge) に濃縮される一方、Pk1 と Vangl1 は非突起側の cortical 領域に局在し、両複合体は相互排他的に分布した (Fig 3A-3C)。これは Drosophila wing epithelium に見られる平面極性と相同であり、single で運動性のある悪性細胞において PCP 複合体の非対称局在を初めて示した知見である。
autocrine Wnt11 を Cd81 陽性 exosome が動員し転移を促進する:L cell 自身は Wnt5a/Wnt11 を発現せず Porcupine knockdown でも ACM 活性は不変だったが、MDA-MB-231 側で Porcupine または Wnt11 を knockdown すると運動が阻害され、腫瘍細胞 autocrine Wnt11 が必須と判明した (Fig 4A-4C)。活性画分は EM で cup-shaped 30-100 nm 小胞を含み、sucrose gradient 1.13-1.15 g/ml に浮上し Cd81/Igsf8/Ptgfrn 陽性であった (Fig 5A-5C)。100,000×g pellet が活性を保持し、cholesterol 除去や抗 Cd81/Igsf8/Ptgfrn 免疫枯渇で活性が消失した (Fig 5D, 5E)。L cell の Cd81 knockdown は他 marker 分泌を保ったまま ACM 活性と肺転移を抑制し (Fig 6A-6C; p=0.046, Mann-Whitney U 検定)、GSE4823 でもヒト浸潤性乳管癌間質で CD81 発現が選択的に上昇していた (Fig S6E)。患者由来 CAF1/CAF2 の exosome も Pk1 依存的に MDA-MB-231 運動を促進し (Fig 6F, 6G)、Cd81-EYFP 標識 exosome は BCC に取り込まれて Wnt11 と核周囲小胞で共局在し、Wnt11-HA が ACM exosome に tether されること (immunogold EM) が示された (Fig 7C-7E)。
考察/結論
本研究はストローマ由来 exosome が単に Wnt を運搬するのではなく、腫瘍細胞自身が産生する autocrine Wnt11 を捕捉・係留して core PCP 極性を確立するという、これまでの研究では報告されていない paracrine-autocrine 統合機構を提示した。古典的 Wnt/β-catenin 研究が豊富であるのと対照的に Wnt-PCP のがんでの役割は手薄であったが、本研究で初めて single で運動性のある悪性細胞において Fzd-Dvl が leading edge に、Vangl-Pk が flanking cortex に分布する非対称局在が示され、組織極性の原理が孤立した腫瘍細胞でも保持されることが明らかになった点が novel である。これは Wnt が exosome に係留されて作用するという Drosophila での既報 (Gross et al. 2012) を、がん転移という文脈へ拡張した相違点を持つ。
臨床的意義として、ヒト浸潤性乳管癌間質で CD81 が選択的に過剰発現する所見は、間質 Cd81 を予後・治療応答の biomarker とし得ること、さらに Cd81 中和あるいは PCP シグナル阻害による転移特異的治療という bench-to-bedside の橋渡しの可能性を示唆する。Cd81 が原発腫瘍増殖に影響せず転移のみを抑制したことは、増殖と転移を分離する治療標的としての臨床的有用性を支持する。残された課題として、(1) Cd81 が Wnt11 の exosome loading を制御する分子機構の精密な解明、(2) ヒト patient-derived xenograft での Cd81 阻害の in vivo 検証、(3) 大腸・肺・前立腺など他がん種での同機構の汎用性確認、(4) Pk1 や tetraspanin を標的とする創薬、が今後の検討事項として挙げられる。これらの future research は exosome 介在の腫瘍-間質 crosstalk を治療標的化する上で更なる検討を要する。
関連する EV 生物学の文脈としては、exosome への核酸・タンパク cargo 選別機構 (Clancy et al. NatCellBiol 2019)、Rab27a を介した exosome 分泌制御 (Song et al. NatCommun 2019)、膜輸送を統御する Rab GTPase ネットワーク (Jin et al. FrontCellDevBiol 2021)、腫瘍微小環境における integrin 介在のメカノ伝達と転移 (Cooper et al. CancerCell 2019)、および腫瘍由来 exosome が骨髄前駆細胞を MET 経由で pro-metastatic に教育する pre-metastatic niche 形成の代表例 (Peinado et al. NatMed 2012) との接続が、本論文の CAF-腫瘍 exosome 機構を位置づける上で有用である。
方法
マウス線維芽 L cell (ATCC CRL-2648) を 3 日間培養した active conditioned medium (ACM, 活性化馴化培地) を、ヒト乳腺癌 MDA-MB-231・SUM-159PT・MDA-MB-468・T-47D、マウス EMT-6・EpRas・EpH4 等の細胞株に処理した。phase-contrast time-lapse microscopy で 18 時間にわたり single cell の protrusive activity と運動速度・directional persistence を Volocity で定量し、3D Matrigel culture で浸潤性構造を評価した。in vivo は 10 週齢雌 C.B-17 SCID マウスの第 4 mammary fat pad に L cell 1×10^4 個と MDA-MB-231 または SUM-159PT 3×10^6 個を単独/共注入し、4 週後に肺をヒト特異的 vimentin 抗体で免疫染色して 500 μm^2 以上の colony を転移病巣として計数した。
機構解析として Smurf1/2、Fzd3/6/7、Dvl1/2/3、Vangl1、Pk1、Wnt5a/Wnt11、Porcupine に対する 40 nM siRNA knockdown と 3 種 shRNA による安定 Pk1 knockdown (53%-86% 抑制) を行い、Fzd6/Dvl1/Pk1/Vangl1 の共焦点 immunofluorescence で非対称局在を解析した。exosome は ISEV 系統の標準法に準拠し、differential ultracentrifugation (2,000×g → 10,000×g → 100,000×g) と sucrose density gradient (浮上密度 1.13-1.15 g/ml) で単離し、characterization は whole-mount 電子顕微鏡 (EM, electron microscopy) による cup-shaped 30-100 nm 形態と tetraspanin marker (Cd81/Igsf8/Ptgfrn) および Flotillin1 の免疫染色・immunoblot で行った。さらに size exclusion → ion exchange chromatography による分画、質量分析 (MS, mass spectrometry)、cholesterol 除去 (10 mM methyl-β-cyclodextrin)、抗 Cd81/Igsf8/Ptgfrn 免疫枯渇、患者 CAF1/CAF2 での再現、ヒト乳がん間質遺伝子発現データセット GSE4823 の解析を実施した。統計は two-tailed unpaired t test (Welch 補正) と two-tailed Mann-Whitney U 検定で評価した。