• 著者: Ryosuke Kojima, Daniel Bojar, Giorgio Rizzi, Ghislaine Charpin-El Hamri, Marie Daoud El-Baba, Pratik Saxena, Simon Ausländer, Kelly R. Tan, Martin Fussenegger
  • Corresponding author: Martin Fussenegger (ETH Zürich, Department of Biosystems Science and Engineering, Basel, Switzerland)
  • 雑誌: Nature Communications
  • 発行年: 2018
  • Epub日: 2018-04-03
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 29610454

背景

エクソソームは、mRNA、miRNA、タンパク質を内包する細胞由来のナノ小胞 (50–150 nm) であり、細胞間コミュニケーションを媒介する。その生体適合性、生体内利用能、血液脳関門 (BBB) 通過能から、RNA薬物キャリアとして治療応用が期待されてきた。しかし、エクソソームへの特定のmRNA積荷効率の低さや、治療に必要な大量のエクソソームを濃縮するためのex vivoプロセス (例: 電気穿孔) への依存が、その開発を阻害する主要な課題であった。例えば、エクソソームの免疫応答調節機能は既にRobbins et al. NatRevImmunol 2014が報告しており、またエクソソームの単離と特性評価に関する標準的なプロトコルはThery et al. CurrProtocCellBiol 2006により確立されているが、これらはin vivoでの効率的な治療応用には十分ではなかった。

一方、患者体内に植え込んだデザイナー細胞が治療タンパク質を持続的に産生・分泌する合成生物学的治療戦略が確立されつつあるが、エクソソームの生合成、mRNA積荷、細胞質内送達、および標的化の各工程を一体的に遺伝子的に制御するデバイス群は不足していた。エクソソームの生合成調節機構についてはBaietti et al. NatCellBiol 2012らが報告しているものの、治療用mRNAの効率的な積荷と送達を同時に実現する技術は未解明な点が多かった。特に、中枢神経系疾患の治療においては、血液脳関門を通過し、かつ長期的に治療効果を持続させるための効率的な送達システムが不足しており、このギャップを埋める技術開発が求められていた。パーキンソン病では、神経炎症や酸化ストレスによるドパミン神経細胞死が病態の中心であり、触媒酵素catalaseの継続的な脳内送達が神経保護効果を持つことが知られているが、そのための効果的かつ持続的なデリバリーシステムは確立されていなかった。

目的

本研究は、エクソソームの生合成、特定のmRNA積荷、細胞質送達、および標的化の各工程を遺伝子的に制御する一連のEXOsomal Transfer Into Cells (EXOtic) デバイス群を設計・開発することを目的とする。そして、これらのデバイスを搭載した生体内植え込み型デザイナー細胞から産生されるエクソソームが、パーキンソン病モデルにおいて治療用mRNAを脳内へ効率的に送達し、神経毒性および神経炎症を軽減することを実証する。特に、エクソソームの限られた半減期という課題を克服し、継続的な治療効果を発揮する新たな治療戦略を確立することを目指す。

結果

EXOticデバイスによるエクソソーム産生の大幅増強: pDB60 (STEAP3+SDC4+NadB三シストロン型ブースター) の発現により、HEK-293T細胞からのCD63-nluc陽性エクソソーム産生が対照と比較して15倍〜40倍に増加した (Fig. 1b)。ナノ粒子トラッキング解析 (NTA) による直接的な粒子数定量でも、エクソソーム産生の著明な増加が確認され、エクソソームのサイズ分布には変化が認められなかった (Fig. 1c)。このエクソソーム産生ブースターは、HEK-293T細胞、HeLa細胞、および患者由来hMSCを含む複数の細胞株で機能することが示された (Fig. 1d, Supplementary Fig. 4)。特に、hMSC-TERT細胞 (n=3 replicates) においても、ブースターの導入によりエクソソーム産生が有意に増加した (p<0.0001)。

RNA積荷デバイスと細胞質送達ヘルパーによる効率的mRNA転送: CD63-L7Ae (RNA積荷デバイス)、C/Dbox含有nluc mRNA、Cx43 S368A (細胞質送達ヘルパー)、RVG-Lamp2b (脳ターゲティングモジュール)、およびエクソソーム産生ブースターの全EXOticデバイスセットが揃った場合にのみ、受容細胞において強いnluc活性が検出された (Fig. 2b)。いずれかのコンポーネントを欠くとシグナルは著明に低下し、全コンポーネントの必須性が示された。C/Dboxの反復数 (0、1、3、5反復) はmRNA転送効率に有意に影響し、0反復ではほとんど検出不能であり、5反復で最も効率が高かった (p<0.0001) (Fig. 2c)。また、構成的活性型であるCx43 S368A変異体は、野生型Cx43よりも優れた細胞質送達ヘルパーであることが確認された (Supplementary Fig. 6)。患者由来hMSC (n=3 replicates) においても、全EXOticデバイスセットが機能し、mRNA転送効率の向上が認められた (p<0.001) (Fig. 2d)。

カタラーゼmRNAデリバリーによるパーキンソン病モデルの神経毒性軽減 (in vitro):EXOticデバイスを搭載したHEK-293T細胞が産生するcatalase mRNA含有エクソソームを、CHRNA7発現Neuro2A細胞に前投与すると、6-OHDA (0〜300 μM) 誘導神経毒性が有意に軽減された (p<0.05) (Fig. 3b)。エクソソーム濃縮なしの条件培地直接投与で効果が確認されたことは、高効率産生デバイスの有用性を示す。LPS誘導神経炎症モデル (神経細胞・ミクログリア共培養) でも同様の神経保護効果が確認された (Supplementary Fig. 7)。この結果は、EXOticデバイスが治療用mRNAを効果的に送達し、神経細胞の生存率を向上させる能力を持つことを強く示唆している。

植え込み細胞からの脳内mRNA送達 (in vivo):EXOticデバイス発現HEK-293T細胞をMatrigelに包埋してC57BL/6Jマウス (n=8 mice) に皮下移植し、48時間後に脳ホモジネートのnluc活性を測定した結果、「with device」条件でのみ脳内で有意な発光が検出され (p<0.001)、エクソソームmRNA転送の機能がin vivoで確認された (Fig. 3d)。マクロカプセル化実験によりnluc活性は同等であり、デザイナー細胞がMatrigelから逸脱したのではなく、エクソソームが効果を媒介することが確認された (Supplementary Fig. 9)。この脳内送達効率は、従来の全身投与によるエクソソーム送達と比較して、より持続的かつ効率的である可能性を示唆している。

EXOtic療法によるin vivoパーキンソン病神経炎症の抑制:catalase mRNA搭載EXOticエクソソームを産生する細胞を皮下移植し、1日後に6-OHDAを線条体に注射したマウス (n=7-8 mice) では、6日後の全脳RNA抽出において、神経炎症マーカーであるGFAP、Iba1、TNFα、CD11bの発現が有意に低下した (p<0.05) (EXOticデバイスなし群またはcatalase mRNAなし群と比較) (Fig. 3e)。GFAP mRNAの発現は、EXOticデバイスあり群で対照群と比較して約2.5倍の抑制が認められた。免疫染色では、6-OHDA注射部位の線条体でTH陽性ニューロンの面積特異的な救済が確認された (Fig. 3f)。LPS全身注射誘導神経炎症モデルでも、EXOticエクソソームによりGFAP発現が有意に抑制された (p<0.01) (Fig. 3g)。これらの結果は、EXOticデバイスがin vivoにおいて神経炎症を効果的に抑制し、神経細胞を保護する治療的有用性を持つことを明確に示している。

考察/結論

本研究は、エクソソームの産生、積荷、送達、および標的化を遺伝子的に制御する4種のEXOtic (EXOsomal Transfer Into Cells) デバイスを統合した新規なmRNA送達プラットフォームを確立した。エクソソーム産生を15〜40倍増強するブースター、C/Dbox:L7Ae系による特異的mRNA積荷、Cx43 S368Aによる細胞質内送達という各工程の最適化により、これまで困難であったex vivoエクソソーム濃縮を不要にしたと異なり、効率的な細胞間コミュニケーションを可能にした。

新規性: 本研究で初めて、植え込み細胞からの継続的なin situエクソソーム産生という概念が、静脈内投与エクソソームの短い半減期という課題を克服し、特にパーキンソン病のように継続的治療が必要な疾患に適合することを示した。

先行研究との違い: エクソソームの生体内分布は細胞源、投与経路、および標的化によって決定されることがMcKelvey et al. JCircBiomark 2015により報告されているが、本研究ではRVG-Lamp2bによる脳ターゲティングが必ずしも脳への特異的送達を増強しなかったものの、ブースターデバイスにより十分な量のエクソソームが産生され、神経毒性・神経炎症を軽減できた点は、従来のターゲティング戦略と対照的である。RVGペプチドを用いた脳標的化エクソソームの全身投与によるsiRNA送達はAlvarez-Erviti et al. NatBiotechnol 2011によって報告されているが、本研究では植え込み細胞からの継続的なエクソソーム産生という点で新規性がある。

臨床応用: 血液脳関門を超えた脳内への治療mRNA送達の実証は、従来法では到達困難な中枢神経系疾患への臨床応用の可能性を開くものである。患者由来hMSCでの機能確認は、本技術の臨床的有用性を示唆する。EXOticデバイスは将来的に異なるターゲティングモジュール、カーゴmRNA、疾患モデルへの拡張が可能な汎用性の高いRNA治療プラットフォームの基盤を提供した。

残された課題: 今後の検討課題としては、本EXOticデバイスの長期的な安全性と有効性の評価、および異なる疾患モデルでの検証が挙げられる。また、脳へのより特異的なターゲティングを可能にするモジュールの開発も重要である。

方法

HEK-293T細胞をエクソソーム産生細胞として用い、以下の4種類のEXOtic (EXOsomal Transfer Into Cells) デバイス構成プラスミドを発現させた。(1) エクソソーム産生ブースターとして、STEAP3、syndecan-4 (SDC4)、L-aspartate oxidase断片 (NadB) を三シストロン型で発現するpDB60。(2) RNA積荷デバイスとして、L7AeをCD63のC末端に融合させたCD63-L7Ae (pSA465)。(3) 細胞質送達ヘルパーとして、構成的活性型変異体であるコネキシン43 (Cx43) S368A (pDB68)。(4) 脳標的化モジュールとして、ニコチン性アセチルコリン受容体 (CHRNA7) に結合するRVGペプチドをLamp2bに融合させたRVG-Lamp2b (pRVG-Lamp2b)。

カーゴmRNAには、L7Aeが結合するC/Dbox RNA構造を3’非翻訳領域 (3’UTR) に挿入したnlucレポーターmRNA (0、1、3、5 C/Dbox反復) およびcatalase mRNA (pDB129) を使用した。エクソソーム産生は、CD63-nlucレポーターの発光アッセイ、超遠心分離、ナノ粒子トラッキング解析 (NTA)、およびWestern blot (CD9, TSG101) で定量した。mRNA転送効率は、CHRNA7発現HEK-293T受容細胞におけるnlucレポーター活性で評価した。

in vitroパーキンソン病モデルとして、CHRNA7陽性Neuro2A細胞に6-ヒドロキシドパミン (6-OHDA) を投与して神経毒性を誘導し、EXOticエクソソームによるcatalase mRNA送達後の細胞生存率をCCK-8アッセイで評価した。また、LPS誘導神経炎症モデル (神経細胞・ミクログリア共培養) でも神経保護効果を検証した。

in vivo実験では、EXOticデバイスを発現するHEK-293T細胞をMatrigelに包埋してC57BL/6Jマウスの皮下に移植した。48時間後に脳ホモジネートのnluc活性を測定し、mRNAの脳内送達を評価した。パーキンソン病in vivoモデルでは、細胞移植1日後に線条体へ6-OHDAを注射し、6日後の全脳RNA抽出で神経炎症マーカー (GFAP, Iba1, TNFα, CD11b) のmRNA発現レベルをqPCRで測定した。さらに、チロシンヒドロキシラーゼ (TH) 陽性ニューロンの免疫染色により、神経細胞死の救済効果を評価した。LPS全身注射による神経炎症モデルでもEXOticエクソソームの効果を検証した。患者由来ヒト間葉系幹細胞 (hMSC) におけるデバイスの機能性も確認した。統計解析には、二項t検定 (two-tailed Student’s t-test) を用いた。