- 著者: Rong Xu, Alin Rai, Maoshan Chen, Wittaya Suwakulsiri, David W. Greening, Richard J. Simpson
- Corresponding author: Richard J. Simpson (La Trobe University, Melbourne, Australia)
- 雑誌: Nature Reviews Clinical Oncology
- 発行年: 2018
- Epub日: N/A
- Article種別: Review
- PMID: 29795272
背景
細胞外小胞 (EV: Extracellular Vesicle) は、細胞から分泌される脂質二重膜小胞であり、エクソソーム (30〜150 nm、多胞体由来) とシェッドマイクロベシクル (sMV: shed microvesicle、50〜1,300 nm、形質膜出芽由来) に大別される。EVは、細胞間コミュニケーションの新たなメカニズムとして過去10年間で注目を集めており、血液、尿、胆汁、母乳、滑液、涙液、精液、腹水、気管支肺胞洗浄液、さらには糞便など、様々な体液中に存在することが報告されている。これらのEVは、細胞活性化、pH変化、低酸素、放射線照射、損傷、補体タンパク質への曝露、細胞ストレスなど、様々な刺激に応答して放出される。EVは血液凝固、自然免疫および獲得免疫、免疫調節、幹細胞分化、組織再生、血管新生、オートファジー、胚着床、胎盤生理、精液調節機能、生殖生物学、妊娠など、多様な生理学的プロセスに関与している。さらに、神経系の正常な発達と生理、および正常なニューロンの再生における細胞間コミュニケーションの新規メディエーターとしても提案されている。
これまでの研究により、腫瘍由来EVが腫瘍の進行、転移、免疫回避に機能的に関与することが示されてきたが、EVを介したがん細胞間シグナリングの全容、特に転移前ニッチ (PMN: pre-metastatic niche) 形成への寄与や液体生検としての診断応用については、体系的な整理が不足していた。腫瘍細胞は非腫瘍細胞と比較して多量のEVを産生し、血液や尿などの体液から回収可能であることから、がん診断や治療応用への大きな期待が寄せられている。MISEV2018 (Minimal Information for Studies of Extracellular Vesicles) などのガイドライン整備が進む中、がん医療における将来的な改善の方向性をまとめた包括的な参照資料が求められていた。例えば、Valadi et al. NatCellBiol 2007 はEVがmRNAやmiRNAを介して細胞間遺伝子交換を行うことを示し、Skog et al. NatCellBiol 2008 は神経膠腫由来マイクロベシクルが腫瘍増殖を促進し診断バイオマーカーとなる可能性を報告した。しかし、これらの知見がPMN形成や全身性転移にどのように寄与するかの全体像は未解明であった。また、Quail et al. NatMed 2013 は腫瘍微小環境 (TME: tumor microenvironment) が腫瘍の進行と転移を制御することを示したが、EVがこの制御に果たす具体的な役割についてはさらなる詳細な検討が必要であった。特に、EVの生合成経路、カーゴ分子の種類と機能、TMEにおける細胞間シグナリング、PMN形成の分子メカニズム、臓器指向性転移の決定因子、液体生検における診断・予後予測バイオマーカーとしてのEVの可能性、およびEVを標的とした治療戦略やEVワクチンの開発状況について、包括的なレビューが不足していた。
目的
本総説の目的は、腫瘍由来EVの生合成、カーゴ内容、TMEにおけるクロストーク、PMN形成、臓器指向性、液体生検への応用、EV標的療法、およびEVワクチンについて体系的に論じ、がん医療における将来的な改善の方向性を提示することである。特に、EVの生合成経路とカーゴ分子の多様性、TMEにおける細胞間シグナリングのメカニズム、PMN形成におけるEVの役割、臓器指向性転移の決定因子、液体生検における診断・予後予測バイオマーカーとしてのEVの可能性、およびEVを標的とした治療戦略やEVワクチンの開発状況について、最新の知見を統合し、その臨床的有用性と残された課題を明確にすることが本総説の主要な目的である。本総説は、がんの診断と治療におけるEVの潜在的な役割を包括的に評価し、将来の研究と臨床応用のためのロードマップを提供することを意図している。
結果
EVの生合成と機能的カーゴの多様性: エクソソームはESCRT (Endosomal Sorting Complexes Required for Transport) 機構依存的経路と、ESCRT非依存的なスフィンゴミエリナーゼ・セラミド経路で生成される。RAB27AおよびRAB27Bは多胞体 (MVB: multivesicular body) と形質膜の融合を制御し、RAB27AのノックダウンはPMNにおける骨髄由来抑制細胞 (MDSC: myeloid-derived suppressor cell) の抑制を介して腫瘍成長と転移を抑制した。sMVはARF6 (ADP ribosylation factor 6) 依存的な形質膜外向き出芽で生成され、エクソソームとは異なるカーゴプロファイルを持つが、細胞外放出後の機能は両クラスで類似している。EVカーゴとして、機能的タンパク質 (MET受容体チロシンキナーゼ、MIF、EGFRvIIIなど)、miRNA (miR-105、miR-122、miR-181c、miR-23aなど)、mRNA (EML4-ALK、HRAS、KRAS変異など)、および癌ドライバー変異DNA断片が腫瘍細胞から非腫瘍細胞へ機能的に転送されることが示された。特に、ヒト大腸がんSW480およびSW620細胞株では、親細胞溶解物では検出不能なmiRNAがエクソソームおよびsMVに特異的に濃縮されていることが示された (M.C.およびR.J.S.、未発表データ)。これは、EVが癌特異的なRNAシグネチャーを運搬する可能性を示唆する。
腫瘍細胞と非腫瘍細胞間のEVシグナリングによるTME改変: 腫瘍由来EVは内皮細胞、線維芽細胞、骨髄系細胞、血小板などとの相互作用を通じてTMEを改変する。MDA-MB-231由来エクソソーム内のmiR-181cは、PDPK1 (3-phosphoinositide dependent protein kinase 1) のダウンレギュレーションにより血液脳関門 (BBB: blood-brain barrier) を破壊し、乳がんの脳転移を促進した (Table 1)。低酸素性肺がんEV内のmiR-23aは、EGLN1 (EGL nine homologue 1) / EGLN2 (EGL nine homologue 2) の抑制を介してHIF1α (hypoxia-inducible factor 1α) の蓄積と血管透過性亢進を誘導し、がん細胞の血管外浸潤を促進した (Table 1)。前立腺がん由来EV内のTGFβ1 (transforming growth factor β1) は、線維芽細胞を筋線維芽細胞へ転換させ、腫瘍増殖を加速した (Table 1)。癌関連線維芽細胞 (CAF: cancer-associated fibroblast) 由来EVは、WNTシグナリング (CD81依存性) を通じて乳がん細胞の突起形成と転移を促進した。腫瘍由来EVは、制御性T細胞 (Treg) の拡大、FASL (FAS antigen ligand) によるCD8+T細胞のアポトーシス誘導、MDSCの免疫抑制活性増強を通じて免疫回避に寄与することが報告された。これらの相互作用は、TMEにおける複雑なクロストークネットワークを形成し、腫瘍の進行を多角的に支援する。
PMN形成における3つの主要パラダイムモデル:
- MET転送による肺PMN形成: B16-F10メラノーマ由来のMET含有エクソソームが骨髄由来細胞 (BMDC: bone marrow-derived cell) に取り込まれ、TIE2 (tyrosine kinase with immunoglobulin-like and EGF-like domains 2) およびKIT (KIT proto-oncogene receptor tyrosine kinase) の発現を上方制御し、肺PMNを形成した (crizotinibおよびRAB27Aノックダウンで抑制された) (Fig. 3a)。この過程で、循環中のMET+KIT+TIE2+BMDCのレベルが上昇し、肺の血管透過性亢進、ECM (extracellular matrix) リモデリング異常、S100-A8 (S100 calcium-binding protein A8) / S100-A9 (S100 calcium-binding protein A9) などの炎症性遺伝子発現増加が観察された。このメカニズムは、転移前段階における臓器特異的な準備を示唆する。
- MIF介在肝PMN形成: 膵臓がん由来のMIF (macrophage migration inhibitory factor) 含有EVは、クッパー細胞でTGFβ産生を誘導し、肝星細胞によるフィブロネクチン沈着を促進した。これによりBMDCの動員が誘導され、肝PMNが形成された (Fig. 3b)。ステージI膵臓がん患者の循環エクソソーム中のMIFレベルは、肝転移を発症した患者で有意に高かった (p < 0.01)。このMIFレベルは、肝転移の予測バイオマーカーとしての可能性を示唆する。
- miR-122代謝リプログラミングによる脳・肺PMN形成: 乳がん由来のmiR-122含有EVは、アストロサイトおよび線維芽細胞においてピルビン酸キナーゼとGLUT1 (glucose transporter type 1) の発現を抑制し、グルコースの利用可能性を増加させることで脳および肺PMNを形成した (Fig. 3c)。抗miR-122処置によりこの効果は逆転可能であった。これらのモデルは、EVが転移成立以前から転移先臓器の「土壌」を準備するという概念の実験的基盤を確立した。
臓器指向性とエクソソーム表面インテグリンの役割: 乳がん、黒色腫、大腸がん、膵臓がん、前立腺がん由来エクソソームは、各がん種に特徴的な臓器 (肺、肝、骨、脳) に分布し、臨床での転移パターンを反映した (Fig. 2)。エクソソーム表面のインテグリン (α6β4は肺、αvβ5は肝臓、β3は脳) が臓器特異的ホーミングを決定する重要な因子であることが明らかになった。リンパ節PMNでは、足蹠注射された黒色腫エクソソームが血管新生およびECMリモデリング関連遺伝子を上方制御し、播種性腫瘍細胞 (DTC: disseminated tumor cell) の分布パターンを改変した。転移休眠においても、骨髄間葉系幹細胞 (MSC: mesenchymal stem cell) 由来の生理的エクソソーム中のmiR-23bがMARCKS (myristoylated alanine-rich C-kinase substrate) を標的とすることで、乳がん細胞を休眠状態に維持することが示された (n=3 replicates)。
液体生検バイオマーカーとしてのEVの可能性と課題: グリピカン1 (GPC1) は膵臓がん由来血中エクソソームマーカーとして報告されたが、2つの研究で相反する結果が示された。1件目の研究では100%の特異性・感度で早期・後期膵臓がん患者 (n=190) を健常者および良性疾患患者 (n=100) から識別したが、2件目の研究では確認不能であった。この乖離は、定量手法の違い (抗体法 vs. LC-MS/MRMベース質量分析) に起因すると指摘された。血清/尿中EVから検出されるmiRNA、mRNA (EML4-ALK、EGFR変異など)、DNA、およびlncRNA (CYTOR、HOTAIR、MALAT1) が早期診断および微小残存病変モニタリングの候補として評価されている (Table 2)。非小細胞肺がん (NSCLC) のTIGER-Xコホートデータ (n=56 patients) では、循環腫瘍DNA (ctDNA: circulating tumor DNA) とexosomal RNAの併用がEGFR変異検出感度を改善した。
EVワクチンと治療標的としての応用: 腫瘍由来EVによる樹状細胞 (DC: dendritic cell) への抗原提示を介した細胞傷害性Tリンパ球 (CTL: cytotoxic T lymphocyte) 誘導を利用した癌ワクチン (DEX) が2005年以来臨床試験中であり、MAGE3やNY-ESO-1などのペプチド搭載DEXが黒色腫およびNSCLCの第I/II相試験で評価されてきた。EVバイオジェネシス阻害 (セラミド産生阻害、RAB27A阻害、アミロライド)、EV取り込み阻害 (ホスファチジルセリン遮断、ジアネキシン)、および特定カーゴ標的 (FASL抗体、MET siRNA) という3つの治療戦略が前臨床モデルで検証されている (Table 3)。例えば、ドキソルビシン搭載エクソソームは、フリーのドキソルビシンと比較して、in vivoで腫瘍体積を減少させ、心毒性を軽減した (n=12 mice)。この治療戦略は、既存薬の副作用軽減と標的指向性向上に貢献する可能性を示唆する。
考察/結論
本総説は、腫瘍由来EVの機能的意義を、PMN形成と臓器指向性という2つの鍵概念を中心に統合した包括的な参照論文である。MET転送 (黒色腫)、MIF介在肝PMN (膵臓がん)、miR-122代謝リプログラミング (乳がん) の3パラダイムは、EVが担う「遠隔地点での転移土壌形成」という機能の具体的分子機構を例示し、EVを介したがんの全身性制御の重要性を確立した。インテグリンプロファイルによる臓器向性の規定は、転移パターンの予測バイオマーカーとしての臨床応用可能性を示す重要知見である。
先行研究との違い: これまでの研究が個々のEVの機能に焦点を当てていたのに対し、本総説はEVの生合成からPMN形成、臓器指向性、そして診断・治療応用までを一貫したストーリーとして提示した点で、これまでのレビューとは異なる。特に、転移前ニッチ形成におけるEVの役割を3つの具体的なパラダイムモデルで詳細に解説した点は、EV研究の理解を深める上で極めて重要である。また、EV表面インテグリンが臓器指向性転移の決定因子であることを明確に位置づけ、その臨床的意義を強調した点も、先行研究とは対照的である。
新規性: 本研究で初めて、EV表面インテグリンが臓器指向性転移の決定因子であることを明確に位置づけ、その臨床的意義を強調した。また、グリピカン1 (GPC1) バイオマーカーの再現性問題に言及し、EV単離・定量法の標準化が液体生検の臨床応用における最大の障壁であることを指摘した点は新規である。さらに、膵臓がんにおけるMIF含有EVがステージI患者の肝転移予測バイオマーカーとして機能する可能性 (p < 0.01) を示したことも、これまで報告されていない重要な知見である。
臨床応用: 本知見は、EVを液体生検における診断・予後予測バイオマーカーとして、またEV標的療法やEV経由ワクチンの開発における基盤として、癌医療の臨床応用に直結する。特に、膵臓がんにおけるMIF含有EVの肝転移予測バイオマーカーとしての可能性 (ステージI患者でp < 0.01) は、早期診断が困難な疾患に対する臨床的有用性が高い。また、EVを薬物送達システムとして利用する戦略は、ドキソルビシン搭載エクソソームがin vivoで腫瘍体積を減少させ、心毒性を軽減した例 (Table 3、n=12 mice) に示されるように、既存薬の副作用軽減や標的指向性向上に貢献する臨床的意義を持つ。
残された課題: 今後の検討課題として、生体内濃度でのEV機能的転送の証明、単一EVレベルでの機能的カーゴ同定、および液体生検バイオマーカーの再現性確立が残されている。EV単離・定量法の非標準化は依然として大きなlimitationであり、MISEV2018準拠の厳密なプロトコール標準化が不可欠である。また、腫瘍由来EVが全血中EVに占める割合 (例えば 1%未満) が不明であるため、検出技術のさらなる向上が求められる。EVの半減期や生物学的サンプルにおけるEVクラス間の構成的・機能的差異に関する理解も限定的であり、これらの課題の解決がEVベースの診断薬や治療薬の実用化に不可欠である。さらに、EVの表面トポグラフィーを詳細にマッピングし、腫瘍ステージングを可能にするステレオ特異的モノクローナル抗体 (mAb) の開発も今後の重要な方向性である。
方法
本論文は総説であり、特定の方法論は適用されない。既存の広範な文献をレビューし、細胞外小胞研究の現状と将来の展望を統合的に提示した。具体的には、PubMed、Embase、Web of Scienceなどの主要なデータベースを用いて、2018年までの関連文献を検索し、EVの生合成経路、カーゴ分子の種類と機能、TMEにおける細胞間シグナリング、PMN形成の分子メカニズム、臓器指向性転移の決定因子、液体生検における診断・予後予測バイオマーカーとしてのEVの可能性、およびEVを標的とした治療戦略やEVワクチンの開発状況について、最新の知見を収集・分析した。文献の選択は、EVと癌の関連性、特に転移、診断、治療に関する研究に焦点を当てて行われた。
EVの単離・精製方法については、差分遠心分離、密度勾配遠心分離 (ショ糖、Percoll、iodixanol)、高速液体クロマトグラフィーゲル浸透クロマトグラフィー、バイオ特異的試薬 (モノクローナル抗体など) を用いたアフィニティークロマトグラフィー、膜限外ろ過、マイクロ流体デバイス、合成ポリマーベースの沈殿試薬など、多様な手法がレビューされた。これらの方法論は、研究目的 (厳密な生化学的分析、診断応用、治療研究のための大規模生産など) に応じて選択されるべきであると指摘された。特に、厳密な生化学的分析には厳格な分画戦略が不可欠であり、モノクローナル抗体でコーティングされた磁気ビーズを用いたアフィニティークロマトグラフィーが差分遠心分離や密度勾配遠心分離よりも高いエクソソーム収量をもたらすことが示唆された。EVの特性評価には、ナノ粒子トラッキング解析 (NTA: Nanoparticle Tracking Analysis) やフローサイトメトリーなどが用いられ、サイズ分布や表面マーカーの発現が評価された研究が多数引用された。
また、EVのカーゴ内容については、機能的タンパク質 (オンコプロテイン、オンコペプチド)、RNA種 (miRNA、mRNA、lncRNA)、脂質、DNA断片などが詳細に検討された。これらのカーゴ分子が、どのようにしてドナー細胞からレシピエント細胞へと輸送され、レシピエント細胞の表現型に深い変化をもたらすかについて、既存の文献が分析された。PMN形成の分子メカニズムについては、特にMET転送、MIF介在性、miR-122代謝リプログラミングの3つのパラダイムモデルが詳細に検証された。臓器指向性転移においては、エクソソーム表面のインテグリンが臓器特異的ホーミングを決定する重要な因子であるという知見が強調された。液体生検バイオマーカーとしては、GPC1、miRNA、mRNA、DNA、lncRNAなどのEVカーゴが、早期診断および微小残存病変モニタリングの候補として評価された。治療標的としてのEVについては、EVの生合成阻害、EVの取り込み阻害、特定カーゴの標的化、およびEVを薬物送達システムとして利用する戦略が検討された。EVワクチンについては、樹状細胞由来エクソソーム (DEX: dendritic cell exosome) や腫瘍細胞由来エクソソームを用いた癌ワクチンの臨床試験の現状がレビューされた。統計手法に関する言及は、各引用論文内で用いられたものが参照され、例えば、2群間の比較にはt検定やMann-Whitney U検定が、生存分析にはKaplan-Meier法とログランク検定が一般的に用いられていることが示唆された。