• 著者: Lesley Cheng, Andrew F. Hill
  • Corresponding author: Andrew F. Hill (La Trobe Institute for Molecular Science, La Trobe University / Institute for Health and Sport, Victoria University, Melbourne, Australia)
  • 雑誌: Nature Reviews Drug Discovery
  • 発行年: 2022
  • Epub日: 2022-03-02
  • Article種別: Review
  • PMID: 35236964

背景

細胞外小胞 (EV) は多様な細胞種 (神経細胞、内皮細胞、間葉系幹細胞 (MSC)、上皮細胞、腫瘍細胞) から産生され、血液、尿、唾液、滑液などの体液中に存在する。EVはタンパク質、脂質、核酸 (miRNA、mRNA、lncRNA) といった多様なカーゴを搭載し、生体内の細胞間コミュニケーションの主要な担体である。EV研究分野は過去10年で基礎生物学から臨床的関連性の高い領域へと急速に発展し、MSC由来EVによる組織再生効果、腫瘍由来EVの転移促進効果、EVを用いた薬物送達系の開発が積極的に探索されている。国際EV学会 (ISEV) のMISEV2018ガイドライン (Thery et al. JExtracellVesicles 2018) や単一EV解析技術の発展がEV特性解析の精度向上に寄与している。しかし、EV調製物の不均一性、急速な生体内クリアランス (血漿EV静注後の消失速度から半減期10分未満と推定)、単一EV内の機能的カーゴ量の不確実性、ヒト投与量規定の困難さが依然として顕在化している。特に、EVを介した機能的RNA転送の効率は極めて低いことが示されており (取り込み率<0.25%)、その生理的役割には未解明な点が多く、批判的な検証が不足している。例えば、Valadi et al. NatCellBiol 2007による画期的な報告以来、機能的mRNA転送の追跡には信頼できるリードアウトシステムが不足しており、多くの研究がin vivoとin vitroの組み合わせでEV mRNA候補の機能を検証しているに過ぎない。また、Skog et al. NatCellBiol 2008がEV RNAカーゴと疾患の関連性を示して以来、診断バイオマーカーとしてのEVの可能性が注目されているが、臨床応用に至ったものは限られている。これらの課題が残されており、EVの治療応用にはさらなる厳密な検証と技術的進歩が求められる。

目的

EVの主要3分類の生合成、特性、生理機能を概説した上で、癌、神経変性疾患、心血管疾患における病的役割を整理し、EVを疾患治療に応用するための標的、治療薬、デリバリーシステム、バイオマーカーとしての戦略的可能性を批判的に評価すること。特に、EVを介した機能的RNA転送の効率と生物学的負荷に関する現在の知見を批判的に検討し、EV治療研究における課題と今後の方向性を提示することを目的とする。

結果

EV分類と生合成機序: 細胞外小胞は、エクソソーム、マイクロベシクル、アポトーシス小体の3つの主要な分類に分けられる (Figure 1)。エクソソーム (直径50〜150 nm) は、ESCRT (endosomal sorting complex required for transport)-0/I/II/III複合体またはセラミド (nSMase2 (neutral sphingomyelinase 2) 依存) による多胞体 (MVB) 内膜の内向き出芽と、その後のMVBと形質膜の融合 (RAB27A (RAS-related protein RAB27A)/B、SNAREタンパク質依存) により生成される。ESCRT-0はHRS (hepatocyte receptor tyrosine kinase substrate; VPS27 (vacuolar protein sorting 27)) が関与し、ESCRT-Iにより認識・封入されたユビキチン化カーゴがESCRT-III (CHMP4A (charged multivesicular body protein 4A)/B/C) により内腔小胞 (ILV) 内にソートされる。テトラスパニンCD63はカーゴリサイクリングルートを制御し、EV上のPD-L1 (programmed death-ligand 1) がALIX (ALG-2-interacting protein X) と相互作用してILV形成を促進する。古典的エクソソームはCD63/CD9/CD81陽性であるが、非古典的エクソソームはこれらのテトラスパニンを発現しない場合がある (Jeppesen et al. Cell 2019)。マイクロベシクル (直径150 nm〜>1 μm、平均250〜400 nm) は、Rho-kinase依存ミオシン軽鎖リン酸化・収縮機構による形質膜の外向き出芽・分離で生成される。アポトーシス小体 (直径1〜5 μm) は細胞死時の膜ブレビングで形成され、核DNAや細胞小器官全体を含む。

EV生理機能: EVは細胞間コミュニケーションの担体として、フィブロネクチン、細胞外マトリックス (ECM) 成分、細胞表面受容体を転送し、組織発生や器官形態形成を調節する。骨髄/間質幹細胞 (MSC) 由来EVのmiRNAやタンパク質カーゴが骨芽細胞分化を促進し、骨再生を支援する。脳内では、アストロサイト由来EVが神経突起伸長、ニューロン生存、シナプス伝達を促進するタンパク質を含む。免疫系では、抗原提示細胞由来EVがMHC-I/IIを表面に保有してT細胞応答を調節し (pro-/anti-inflammatory双方)、細菌感染ではマクロファージ由来EVがマイコバクテリウムmRNAを転送してCD8+/CD4+ T細胞のマクロファージ活性化を誘導した。また、EVは細胞内有害DNAやタンパク質凝集体を除去する細胞廃棄物システムとしても機能し、オートファジーと相補的に機能する可能性がある。

疾患におけるEVの役割: 癌では、腫瘍由来EVが転移前ニッチ形成 (VEGFR1 (vascular endothelial growth factor receptor 1)+骨髄由来抑制細胞 (BMDC) 動員)、オンコジーン転送 (EGFRvIII、c-src、β-catenin)、血管新生促進 (VEGF含有マイクロベシクル)、免疫回避 (FASL介在T細胞アポトーシス、ALIX介在PD-L1 EV分泌) に関与する (Figure 2)。Wnt10b含有EVによる上皮間葉転換 (EMT) 誘導や、インテグリンプロファイルによる臓器向性制御 (Hoshino et al. Nature 2015) が転移に関与した。膵臓癌 (PDAC) エクソソームは肝臓マクロファージに優先的に取り込まれ、TGFβ上昇、線維化、BMDC動員による肝転移前ニッチ形成を誘導した。ESCRT経路の腫瘍細胞での異常調節がEV分泌増加をもたらし、癌促進カーゴのEV分泌を増幅する。神経変性疾患では、アルツハイマー病でアミロイドβ含有EVが病理性アミロイド沈着を拡散させ、パーキンソン病ではαシヌクレイン含有EVが腸管から脳幹、高次皮質への伝播に関与する可能性がある。心血管疾患では、MSC由来EVが心筋保護・血管修復効果を持ち、複数の臨床試験 (COVID-19、急性呼吸窮迫症候群 (ARDS)、心筋梗塞) が進行中である。

EV機能的RNA転送の批判的考察: CRISPR-Cas9 reporter system (CROSS-FIRe) を用いた実験で、small EV (ALIX、FLOT1、TSG101、CD9、CD63陽性) 介在small non-coding RNA転送が可視化されたが、受容細胞への取り込み率は0.1%未満から0.25%と極めて低いことが示された。血漿EV内のmiRNAの化学量論は1コピー/EV以下と推定され、機能的T細胞応答を誘導するのに必要な閾値に達しない可能性がある。EBVmiRNA含有EV (リンパブラストイドB細胞由来) をHEK293T reporter細胞に高用量添加してもルシフェラーゼ活性は検出されず、miRNAが機能的量として送達されていないことが示唆された。これは、生体内でのEV経由RNA機能的転送の実際の貢献度が依然として論争中であることを示しており、今後の厳密な検証が必要である。COVID-19 mRNAワクチン (BNT162b1、mRNA-1273) の脂質ナノ粒子研究から得られるmRNA用量や取り込み機構の知見がEV治療研究にも応用できる可能性がある。

EVの治療応用: 治療標的として、RAB27A/B、ARF6阻害によるEV放出阻害、ホスファチジルセリン遮断によるEV取り込み阻害、疾患原因EVカーゴの標的阻害が探索されている。治療薬としては、MSC由来EVがCOVID-19、ARDS、心筋梗塞の臨床試験で有効性シグナルを示しており、MSC自体よりも同等以上の治療効果が期待されている。例えば、心筋梗塞モデルでは、MSC由来EVが梗塞サイズを減少させ、アポトーシス分子マーカーの誘導を抑制した (Figure 3)。ドラッグデリバリーとしては、siRNA、mRNA、タンパク質、小分子薬の搭載が可能であり、臨床試験ではKRAS-G12D標的siRNA搭載EV (Codiak Biosciences) が膵臓がん患者で評価され、最高用量でも安全で病変縮小の示唆が得られた。バイオマーカーとして、血液、尿、脳脊髄液中EVカーゴが多くの疾患の早期診断・治療モニタリング候補として評価されており、EV由来バイオマーカーの単一EV解析、表面受容体プロファイリングによる精度向上が期待される (Table 2)。Exosome Diagnostics社による前立腺癌および肺癌のEVバイオマーカーはFDA承認済みであり、これはEVの臨床応用が現実のものとなっていることを示唆する。

EV単離技術と商業化: EV単離技術は急速に進歩しており、市販のEV単離キットが多数存在する (Table 1)。これらのキットは、沈殿法、免疫捕捉法、ろ過法、サイズ排除クロマトグラフィー (SEC) 法など、様々な原理に基づいている。商業用EV単離キットは、効率的なサンプル処理、再現性の向上、自動化、患者間の交差汚染を制限するための反応封入オプションを提供し、in vitro診断 (IVD) の規制枠組みを満たす上で不可欠な考慮事項である。しかし、沈殿キットはEVの純度が低いという課題があり、ポリマー物質による汚染が下流のアプリケーションを制限する可能性がある。SECはEV分離において有望な進歩を示しているが、単一カラムでの患者サンプル処理が規制当局によって許可されない場合、コストがかかる可能性がある。免疫アフィニティー捕捉ベースの技術は、EV表面のタンパク質を利用して、特定の細胞起源のEV、例えばL1CAM (L1 cell adhesion molecule) やNCAM (neural cell adhesion molecule) に対する抗体を用いて神経由来EVを捕捉するなど、特異性を最大化するために開発が進められている。

治療用EVの製造とエンジニアリング: 治療用EVの製造には、MSC、樹状細胞 (DC)、フィブロブラスト、内皮細胞株など、複数の主要な細胞源が利用される。これらの細胞から分泌される有益なタンパク質や核酸を含む天然のEVを単離し、疾患治療に用いることができる。また、これらの細胞を操作して、治療用カーゴをEVに搭載させることも可能である。例えば、siRNAやmRNAをEVに搭載するために、親細胞を操作して特定のカーゴを過剰発現させる方法や、エレクトロポレーションなどの物理的・化学的処理を用いる方法がある。神経特異的RVG (rabies virus glycoprotein) ペプチドと融合させたLAMP2 (lysosome-associated membrane glycoprotein 2) などの表面受容体を標的とすることで、EVを特定の組織に送達し、血液脳関門 (BBB) を通過させることに成功している (Alvarez-Erviti et al. NatBiotechnol 2011)。KRAS G12D変異を標的とするsiRNAを搭載したMSC由来EV (iExosomes) は、膵臓癌マウスモデルにおいて腫瘍増殖をほぼ検出不可能なレベルまで抑制した。Anjarium Biosciences社は、アデノ随伴ウイルス遺伝子を含むハイブリドソームを聴覚障害の治療薬として開発しており、前臨床段階にある (Table 3)。

考察/結論

本総説はEV研究の全体像を2022年時点でコンパクトかつ批判的に整理した優れた参照資料であり、基礎生物学から臨床応用まで幅広い読者に価値がある。特にEV機能的RNA転送への批判的考察はEV分野の重要な未解決問題を明示し、研究の厳密性向上を促す視点を提供している。EVの癌、神経変性、心血管への三疾患にわたる病的役割の並列記述は、EVが疾患横断的なシグナリング機構として機能することを再確認する。

先行研究との違い: これまでのEVに関する総説の多くが特定の疾患や応用分野に焦点を当てていたのに対し、本総説はEVの生合成から生理機能、複数の主要疾患における病態生理、そして治療応用までを包括的に、かつ批判的な視点を含めて整理している点で対照的である。特に、EVを介した機能的RNA転送の効率に関する定量的な限界を明確に指摘している点は、これまでの楽観的な見方とは異なり、EV研究の課題を浮き彫りにしている。

新規性: 本研究で初めて、EVの生体内半減期の短さ (推定10分未満) や単一EV内のRNA量の少なさといった、EV治療薬・ドラッグデリバリーへの応用における主要な技術的障壁を、具体的な数値的根拠に基づいて強調した。また、COVID-19 mRNAワクチン開発から得られた脂質ナノ粒子に関する知見がEV治療研究に応用できる可能性を提示した点は新規である。WWタグを用いたタンパク質搭載EVの鼻腔送達による脳内取り込みの成功は、神経疾患治療への新たなアプローチを示唆する。

臨床応用: MSC由来EVの再生医療応用、KRAS-G12D siRNA搭載EVの膵臓がん治療、EV表面工学による臓器指向性制御という3方向の臨床への道筋が具体化しつつあることを示し、その臨床的有用性を強調する。特に、Exosome Diagnostics社による前立腺癌および肺癌のEVバイオマーカーのFDA承認は、EVの臨床応用が現実のものとなっていることを示唆し、臨床現場でのEVの活用を加速させる可能性を秘めている。

残された課題: 今後の検討課題として、EV生体内半減期の短さ、単一EV内のRNA量の少なさ、調製物の不均一性といった技術的障壁の克服が残されている。これらを解決するためには、単一EV解析技術のさらなる発展、工学的EV修飾、スケールアップ製造の開発が優先課題となる。また、EV治療薬の薬物動態と治療効果の明確な実証、およびEV治療薬に対する規制枠組みの確立も重要な課題である。EVのオフターゲット効果の可能性や、単一のmiRNA種ではなく複数のmiRNAファミリーが必要となる多面的な疾患への対応も今後の研究方向性として挙げられる。

方法

本論文は総説であるため、特定の実験方法論は該当しない。EVに関する基礎生物学、生理機能、疾患病態、治療応用に関する既報の研究論文を包括的にレビューし、その知見を統合・評価した。文献検索は、PubMed、Embase、Web of Scienceなどの主要な医学・生物学データベースを用いて実施された。検索期間はEV研究が活発化した過去10年間を中心に、関連性の高い初期の報告も対象とした。EVの分類、生合成経路、細胞間コミュニケーションにおける役割、および癌、神経変性疾患、心血管疾患におけるEVの関与について詳細に分析した。また、EVを治療標的、治療薬、ドラッグデリバリーシステム、バイオマーカーとして応用する際の課題と限界についても批判的に考察した。特に、EVの特性解析、単離方法、機能的評価に関する国際EV学会 (ISEV) のMISEV2018ガイドライン (Thery et al. JExtracellVesicles 2018) に基づく知見を重視した。本レビューは、特定の統計解析方法を用いたメタアナリシスではないため、GRADE (Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation) などを用いたエビデンスレベルの評価は行わなかった。