• 著者: Rainy Mears, Rachel A. Craven, Sarah Hanrahan, Nick Totty, Carol Upton, Sarah L. Young, Poulam Patel, Peter J. Selby, Rosamonde E. Banks
  • Corresponding author: Rosamonde E. Banks (r.banks@leeds.ac.uk, Cancer Research UK Clinical Centre, St James’s University Hospital, University of Leeds, UK)
  • 雑誌: Proteomics
  • 発行年: 2004
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 15478216

背景

エクソソームは、様々な細胞種から放出される直径30〜100 nmの膜小胞であり、その起源に応じて多様な生理的役割を担うと考えられている。特に、抗原提示細胞 (APC) 由来のエクソソームは、生体内で免疫応答を誘導し、マウスモデルにおいて確立された腫瘍を根絶する能力を持つことが示されていた (Zitvogel et al. NatMed 1998)。腫瘍細胞由来のエクソソームもまた、T細胞への腫瘍抗原の交差提示源として利用できる可能性が示唆され、抗腫瘍免疫療法への応用が大きな注目を集めていた (Wolfers et al. NatMed 2001)。さらに、Bリンパ球由来のエクソソームは抗原提示能を有することが報告されており (Raposo et al. JExpMed 1996)、エクソソームの免疫調節機能が広く認識されつつあった。

しかし、エクソソームのタンパク質組成に関する詳細な解析は、主にウェスタンブロットやフローサイトメトリー (FACS) による特定の既知タンパク質の検出に限定されており、2次元ゲル電気泳動 (2D-PAGE) と質量分析 (MS) を組み合わせた包括的なプロテオーム解析は、当時エクソソームにはまだ適用されていなかった。エクソソームが親細胞の全タンパク質を無差別に搭載するのか、あるいは特定のタンパク質を選択的に濃縮・排除するのかという根本的な問いは、エクソソームの生物学的機能と治療応用を理解する上で重要な未解明の課題として残されていた。特に、エクソソームの生合成経路が多胞体 (MVB) /エンドソーム経路を介するという仮説が提唱されていたが、これを裏付ける包括的なタンパク質プロファイルデータは不足していた。また、腫瘍由来エクソソームに特異的に濃縮される腫瘍関連抗原の網羅的な同定は、その後の免疫療法開発の基盤となるため、喫緊の課題であった。本研究は、この知識ギャップを埋めることを目指した。

目的

本研究の目的は、ヒト黒色腫細胞株 (MeWoおよびSK-MEL-28) から高純度に精製したエクソソームの包括的なプロテオーム解析を、2D-PAGEとMALDI-ToF質量分析を組み合わせて初めて実施することである。具体的には、エクソソームの全タンパク質プロファイルを同定し、これを親細胞の全細胞溶解物のプロファイルと比較することで、エクソソームに選択的に濃縮されるタンパク質、特に腫瘍関連抗原、およびエクソソームから選択的に排除されるオルガネラマーカータンパク質のパターンを明らかにすることを目指した。これにより、エクソソームの生合成メカニズムに関する理解を深め、抗腫瘍免疫療法におけるエクソソームの潜在的な役割と標的化戦略のための基礎情報を提供することを意図した。

結果

エクソソームの精製と特性評価: TEM観察により、0.2 μmフィルターのみで分離したエクソソーム調製物には、直径30〜150 nmのカップ状膜小胞が多数含まれることが確認された (Fig. 1A)。約10%の小胞は100〜150 nmとやや大きかったため、標準プロトコルに0.1 μmフィルターによる追加ろ過ステップを導入した。この追加ろ過により、100 nmを超える大型の不規則な小胞は除去され、すべての小胞が30〜100 nmの範囲に収まることが確認された (Fig. 1B)。MeWoおよびSK-MEL-28由来エクソソームの両方で同様の結果が得られた (n=2 independent preparations)。SK-MEL-28由来エクソソームのショ糖密度勾配遠心分離では、密度1.13〜1.20 mg/mLの画分に浮遊し、既報のエクソソームの特性と一致した。

エクソソームへの選択的タンパク質濃縮とオルガネラマーカーの排除: ウェスタンブロット解析により、MHCクラスI分子 (50 kDa) が全細胞溶解物と比較してエクソソームに明らかに濃縮されていることが示された (Fig. 2A)。黒色腫関連抗原であるMart-1 (Melan-A, 18 kDa) およびMel-CAM (MUC-18, CD146, 113 kDa) もエクソソームサンプルに強く濃縮されていることが確認された (Fig. 2B)。特に、Mel-CAMのエクソソームへの搭載は本研究で初めて報告された知見である。アネキシンII (36 kDa) も全細胞溶解物と比較してエクソソームで中程度に高いレベルで検出された (Fig. 2B)。一方、小胞体 (ER) 膜タンパク質であるカルネキシン (90 kDa) は、全細胞溶解物では容易に検出されたが、エクソソームサンプルでは実質的に検出されなかった (Fig. 2C)。同様に、ミトコンドリア内膜タンパク質であるシトクロムc (15 kDa) もエクソソームでは極めて低レベルであり、アポトーシス小体による汚染がないことを示した (Fig. 2D)。これらの結果は、エクソソーム調製物の高純度と、エンドソーム起源の仮説を強く支持するものであった。

2D-PAGEによるエクソソームプロテオームの網羅的解析: 1D SDS-PAGEでは、エクソソームと全細胞溶解物の間で明確なタンパク質プロファイルの違いが観察された (Fig. 3)。全細胞溶解物に見られる多くのバンドがエクソソームでは欠如または低レベルである一方、エクソソームで明らかに濃縮されたバンドも複数存在した。2D-PAGE解析では、MeWoエクソソームで平均約1,250個のタンパク質スポットが検出され、これは親細胞全細胞溶解物 (平均約1,660スポット) の約75%に相当した。エクソソームと全細胞溶解物の間で約45〜50%のタンパク質が共有されていたが、数百のタンパク質スポットがエクソソームで著明に濃縮されるか、あるいは消失しており、そのプロファイルは大きく異なっていた (Fig. 4)。特に、MHCクラスIはエクソソームで約2倍以上に富化されていた。SK-MEL-28からの2回の独立したエクソソーム調製間で80%を超えるスポットマッチング率が確認され、高い再現性が示された (n=2 independent experiments)。MeWoとSK-MEL-28由来エクソソームの2Dゲルプロファイルも同様に80%を超えるスポット一致を示した。

MALDI-ToF質量分析によるタンパク質同定: MALDI-ToF質量分析により、エクソソーム画分から49個のタンパク質スポットが同定され、これらは41種類のユニークタンパク質に対応した (Table 1)。同定されたタンパク質には、熱ショックタンパク質 (Hsc71, Hsp70)、様々な酵素 (ATPクエン酸リアーゼ, エノラーゼ, GAPDHなど)、構造タンパク質 (アクチン, ラジキシン, モエシン, ビリン/エズリン, アネキシンA2/A5/A6など)、およびGTP結合タンパク質、テトラスパニン結合タンパク質、アポトーシス関連タンパク質、細胞構造関連タンパク質など、多様な機能を持つ15種類のタンパク質が含まれていた。特に、p120カテニン、ラディキシン、PGRL (Igスーパーファミリーメンバー8) など、これまでエクソソームとの関連が報告されていなかった新規タンパク質も複数同定された。

一方、全細胞溶解物には存在するがエクソソームには欠如しているタンパク質として、13個のスポットが同定された (Table 2)。これらには、ミトコンドリア由来タンパク質 (アコニターゼ, Hsp60, GRP75, VDAC-1)、リソソーム由来タンパク質 (カテプシンD)、小胞体由来タンパク質 (ERp60)、およびリボソームタンパク質 (P1, P2) など、細胞内オルガネラに局在するタンパク質が多数含まれていた。これらの結果は、エクソソームが特定の細胞内区画から選択的に形成されるというエンドソーム起源の仮説をさらに強く支持するものであった。また、ウシ血清由来のタンパク質 (プラスミノーゲン, アルブミン, アポリポタンパクA-I) も検出されたが、これは培地由来の汚染であり、他のエクソソーム研究でも報告されている現象であった。

考察/結論

本研究は、腫瘍由来エクソソームのプロテオーム解析に2D-PAGEとMALDI-ToF質量分析 (MALDI-ToF) を初めて組み合わせて適用した先駆的な研究である。黒色腫エクソソームが、MHCクラスI、Mart-1、Mel-CAMといった腫瘍関連抗原を選択的に濃縮して搭載することを実証した。2D-PAGEにより約1,250個のタンパク質スポットを検出し、全細胞溶解物の約75%のタンパク質種を含む一方で、数百のスポットが選択的に濃縮または排除されるという高い選択性を示したことは、エクソソームの生合成における厳密なタンパク質ソーティングメカニズムの存在を強く示唆する。

先行研究との違い: これまでのエクソソームのタンパク質解析は、主に1D SDS-PAGEやウェスタンブロットによる特定のタンパク質の検出に限定されていた。本研究は、2D-PAGEと質量分析を組み合わせることで、より網羅的かつ包括的なプロテオームプロファイリングを可能にし、エクソソームのタンパク質組成に関する詳細な情報を提供した点で、これまでの研究とは一線を画す。特に、Thery et al. JImmunol 2001による樹状細胞 (DC) 由来エクソソームの1D-PAGE解析と比較すると、MHCクラスI、アネキシン、Gタンパク質、Hsp70など、細胞種を超えてエクソソームに保存される共通のタンパク質セットが存在することが示唆された。

新規性: 本研究で初めて、Mel-CAM (MUC-18) が黒色腫由来エクソソームに強く濃縮されていることを報告した。Mel-CAMは細胞接着や黒色腫および前立腺がんにおける腫瘍進行マーカーとして知られており、この知見はエクソソームを介した腫瘍の血管新生や転移促進への寄与を示唆する新規の発見である。また、p120カテニン、ラディキシン、PGRL、STXBP1/2 (シンタキシン結合タンパク質)、Septin 2 (Nedd5)、WDリピート含有タンパク質1など、これまでエクソソームとの関連が報告されていなかった新規タンパク質も複数同定された。これらのタンパク質は、細胞骨格との相互作用や膜融合イベントに関与することが示唆されており、エクソソームの生合成メカニズムや機能に関する新たな洞察を提供する。

エンドソーム起源の確認: カルネキシン (ERマーカー) およびシトクロムc (ミトコンドリアマーカー) がエクソソームから実質的に排除されていること、および2D-PAGEで複数のミトコンドリア、リソソーム、ER由来タンパク質がエクソソームに欠如していることは、エクソソームが多胞体 (MVB) /エンドソーム経路を介して生成されるという仮説を強力に支持する実験的証拠となった。これは、アポトーシス小体などの他の小胞による汚染がないことを示す重要な指標でもある。

臨床応用: 本研究で確立されたエクソソームプロテオームの「濃縮・排除」パターンは、エクソソームの生合成メカニズムの理解を深めるだけでなく、その後のエクソソーム研究、特に大規模なLC-MS/MSプロテオミクス解析の礎を築いた。Mart-1、Mel-CAM、MHCクラスIなどの腫瘍抗原がエクソソームに濃縮されているという知見は、腫瘍エクソソームをベースとした抗腫瘍免疫療法 (例えば、腫瘍抗原提示ワクチン) の開発に向けた原理的根拠を提供する。これらのエクソソームは、患者特異的または汎用的な免疫療法のための腫瘍抗原源として利用できる可能性がある。

残された課題: 本研究は2D-PAGEを用いたが、疎水性膜タンパク質はCHAPS可溶化の限界により過少表現されるという技術的制約が認識されている。今後の包括的な解析には、ショットガンプロテオミクスなどの多次元クロマトグラフィーと質量分析を組み合わせたアプローチとの統合が推奨される。また、エクソソームの特定のタンパク質がその機能にどのように寄与するのか、生体内でのエクソソームの正確な機能、およびその細胞起源による多様性については、さらなる研究が残された課題である。将来的には、これらの知見を基に合成エクソソームの生成や、マーカー・抗原探索のためのプロテオミクス解析への応用が期待される。

方法

細胞培養とエクソソーム分離: ヒト黒色腫細胞株SK-MEL-28およびMeWoは、それぞれAmerican Type Culture Collection (ATCC) およびEuropean Collection of Animal Cell Cultures (ECACC) から入手した。細胞は、エクソソーム除去済みのウシ胎児血清 (FCS) を10% v/vで補充したRPMI 1640培地で、1,700 cm²のローラーボトルを用いて培養した。細胞が約60%コンフルエントに達した後、培地を交換し、さらに48時間培養した上清を回収した。上清は、まず720×gで10分間遠心分離して死細胞を除去し、その後0.2 μmフィルターおよび0.1 μmフィルターで順次ろ過して細胞破片や大型小胞を除去した。エクソソームは、100,000×gで1時間超遠心分離することによりペレットとして回収し、PBSで2回洗浄後、50-100 μLのPBSに再懸濁し、-80℃で保存した。エクソソームの典型的な収量は、MeWo細胞10^6個あたり48時間で0.13 μg (0.2 μmろ過) および0.09 μg (0.1 μmろ過) であった。

電子顕微鏡による特性評価: 精製されたエクソソーム (タンパク質含量50 μg相当) は、透過型電子顕微鏡 (TEM) を用いて形態とサイズを確認した。エクソソームは2%酢酸ウラニルで陰性染色し、JEOL TEMで観察した。

ショ糖密度勾配遠心分離: SK-MEL-28由来エクソソームは、ショ糖密度勾配浮遊法により密度を測定し、既報のエクソソームの密度範囲 (1.13〜1.20 mg/mL) との一致を確認した。

1D SDS-PAGEとウェスタンブロット: 全細胞溶解物とエクソソームのタンパク質プロファイルを1D SDS-PAGEで比較した。ウェスタンブロット解析には、MHCクラスI (抗HC10)、Mart-1 (抗A103)、Mel-CAM (抗MUC-18)、アネキシンII (抗3D5)、カルネキシン (ウサギポリクローナル抗体)、およびシトクロムc (抗7H8.2C12) に対する抗体を用いた。各レーンに2〜4 μgのタンパク質をロードし、SuperSignal West Dura Extended Duration Substrateを用いて検出した。

2D-PAGEによるプロテオーム解析: 全細胞溶解物とエクソソームのタンパク質は、尿素/チオ尿素溶解バッファー (7 M尿素、2 Mチオ尿素、4% CHAPS、1% DTT) に溶解した。等電点電気泳動 (IEF) は、18 cmのpH 3-10NL IPGストリップを使用し、65,000 Vhで実施した。第2次元は10%T SDS-PAGEゲルを用いて分離した。分析ゲルには30 μg、分取ゲルには300 μg〜1 mgのタンパク質をロードした。ゲルは銀染色で可視化し、Melanie 3ソフトウェアを用いてスポットパターンを比較した。

質量分析によるタンパク質同定: 2Dゲルから切り出したスポットは、トリプシン消化後、Applied Biosystems 4700 Proteomics Analyzerを用いたMALDI-ToF質量分析により分析した。得られたMSおよびMS/MSデータは、Protein Prospectorを用いてNCBIデータベースを検索し、タンパク質を同定した (マスアキュラシー20 ppm)。統計解析は、2Dゲル解析ソフトウェアMelanie 3を用いて行われ、スポットの存在量、移動度、および再現性を比較した。