• 著者: Clotilde Théry, Muriel Boussac, Philippe Véron, Paola Ricciardi-Castagnoli, Gracca Raposo, Jerome Garin, Sebastian Amigorena
  • Corresponding author: Clotilde Théry (INSERM Unite 520, Institut Curie, Paris, France)
  • 雑誌: Journal of Immunology
  • 発行年: 2001
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 11390481

背景

エクソソームは多胞体 (multivesicular body: MVB) と形質膜が融合することで細胞外に放出される小型 (50-90 nm) の膜小胞である。Raposo et al. (1996) は B リンパ球由来エクソソームが MHC-II を提示して T 細胞を刺激することを示し、Zitvogel et al. (1998) は樹状細胞 (dendritic cell: DC) 由来エクソソームに腫瘍抗原ペプチドを搭載すると CD8+ T 細胞を活性化し腫瘍拒絶を誘導できることを報告したため、エクソソームは免疫療法の道具として注目されていた。Thery et al. (1999) は DC 由来エクソソームに MHC-II・CD9・Mac-1 等 9 種のタンパクを同定したが、その分子組成の知見は限定的であった。一方、紫外線照射等の細胞死によって放出されるアポトーシス小体 (apoptotic vesicle) もエクソソームと同様の膜小胞であり、両者を区別する分子マーカーは未確立であった。すなわちエクソソームの生物学的実体・細胞内起源・アポトーシス小体との分子的境界はいずれも不明のままで、体系的なタンパク質同定が不足していた。プロテオミクス技術 (MALDI-TOF/MS/MS) の進歩により、この空白を埋めるエクソソームの分子的実体の確立が求められていた。

目的

マウスD1樹状細胞株から精製したエクソソームのMALDI-TOF+MS/MSプロテオーム解析を実施し、(1) 新規エクソソーム構成タンパク質を網羅的に同定すること、(2) エクソソームとアポトーシス小体の分子組成を直接比較して両者の独立した実体を確立すること、(3) エクソソームの細胞内起源 (エンドソーム系) を分子レベルで裏付けること。

結果

21種の新規エクソソームタンパク質をプロテオームで初同定した:エクソソームタンパク 50 µg の SDS-PAGE 後に 21 のナンバリングされたバンドを解析し、21 種の新規エクソソーム構成タンパク質が初同定された (Table 1)。主要新規タンパクとして、バンド 2-3 から Alix (PDCD6IP / AIP1; アポトーシス関連タンパク、後に EV 標準マーカー、accession 6755002、96 kDa、配列カバレッジ 34%)、バンド 7 から Tsg101 (腫瘍感受性遺伝子101; ESCRT-I 構成要素、accession 3184260、51 kDa)・Rab GDI (50 kDa)・EIF-4A-II (39 kDa)、バンド 8-10 からアネキシン II/V/IV (36・36・27 kDa)・ガレクチン-3 (Mac-2)・シンテニン (syntenin; シンデカン結合タンパク)、バンド 14 から TPxII (チオレドキシンペルオキシダーゼ II、22 kDa、8 matching peptides)、バンド 15-16 から Rab7 (後期エンドソーム制御、24 kDa)・Rab11 (リサイクリングエンドソーム制御、20 kDa)、バンド 17 からコフィリン (配列カバレッジ 73%)、バンド 20 からプロフィリン I (配列カバレッジ 90%) を同定した。機能的には、エンドソーム/リソソーム膜 (MHC-I/II・Lamp2・CD9)、細胞骨格 (チューブリン β・コフィリン・プロフィリン I・EF-1α)、Rab 系小胞輸送 (Rab7・Rab11・Rap1B)、アネキシンファミリー (I・II・IV・V・VII)、シグナル伝達 (14-3-3 η/γ・シンテニン・Gi2α)、アポトーシス関連 (Alix・TPxII・ガレクチン-3) の 6 群に分類された。加えて既知エクソソームタンパク (MHC-II・Mac-1α/β チェーン・CD9・hsc70・MFG-E8・hsp84 等) も確認され (Band A-H)、合計 30 種超のタンパクマップを構築した。バンド 1・5・7・13・16・21 にはウシ血清由来タンパク (補体 C3・α2-マクログロブリン・牛血清アルブミン等) が二次的に混在したが、マウスホモログは検出されず培地由来のコンタミと解釈された。

エクソソームがエンドソーム系タンパクを選択的に含むことを実証した:FFE (free flow electrophoresis; 無担体フロー電気泳動) による亜細胞分画で、アノード画分 (フラクション 30-35) に後期エンドソーム/リソソームマーカーである β-ヘキソサミニダーゼ活性の集積を確認した (Figure 1)。この画分で MHC-II・CD9 が検出され、Mac-1 α/β チェーンもペプチドマッピングで同定された。FACS 解析では、FcγRII/III (CD32/CD16) はビーズ上のエクソソームに検出されなかったのに対し、Lamp2 (リソソームタンパク、細胞表面には弱発現) はエクソソームで検出された。これはエクソソームが細胞表面の全タンパクを無差別に含むのではなく、エンドソーム系由来タンパクを選択的に取り込む証拠である (n=3 ロットで再現)。エクソソームのショ糖浮遊密度は 1.15-1.18 g/mL で、一般的な細胞膜小胞 (1.10-1.12 g/mL) より重く、アポトーシス小体 (1.24-1.28 g/mL) より軽い特徴的な密度帯を示した。

ヒストン H2A-H4 によりアポトーシス小体と分子的に区別した:同一 D1 細胞から精製したアポトーシス小体 (110,000×g ペレット) の SDS-PAGE では、約 20 kDa 付近に強いバンドが出現し、トリプシン消化・ペプチドマッピングによりこれらはヒストン H2A・H2B・H3・H4 (核タンパク) と同定された (Table 2)。UV 照射 9 時間後には 71% の細胞がアネキシン V+/PI+ の二次壊死期に達した (n=3 実験で再現、in triplicate)。一方、エクソソーム 50 µg でもヒストンは「ほとんど検出されない」レベルであり、通常の D1 細胞培養で自然アポトーシスを起こす細胞からエクソソームへのコンタミネーションが極めて少ないことが示された。逆に Alix・Tsg101・MHC-II はアポトーシス小体に比べエクソソームで濃縮されており、Alix はエクソソームで細胞溶解液の約 3 倍 (3-fold) に濃縮されていた。電子顕微鏡観察でも、エクソソームは 50-90 nm の均一な「カップ型」を示すのに対し、アポトーシス小体ははるかに大きく密度が高く不均一な形態を示し、両者は容易に区別可能だった (Figure 1)。

考察/結論

本研究は2001年時点でDC由来エクソソームの最も包括的なプロテオーム解析を実施し、21種の新規構成タンパクを同定することで「エクソソームはアポトーシス小体とは独立したサブセルラーコンパートメント」であることを初めてプロテオームレベルで確立した。

本研究の最も重要な知見は以下の3点である。第一に、Alixが本研究でエクソソームに初同定され、以後EVの国際標準マーカーとなった点である (MISEV2018/2024でも必須報告マーカー)。AlixはALG-2 (アポトーシス促進タンパク) と相互作用するアポトーシス関連タンパクでもあり、エクソソームへの選択的濃縮はその生合成機序を示唆する。第二に、Tsg101 (ESCRT-I構成要素)・Rab7・Rab11の同定がエクソソームのMVB/エンドソーム生合成起源を分子的に裏付けた点である。ESCRT複合体は後に多胞体内腔側小胞 (ILV) 形成の主要機構として確立された。第三に、アポトーシス小体との決定的な分子的区別としてヒストンH2A-H4が同定された点である。

先行研究との比較として、同グループの Théry et al. (1999) では 9 種のエクソソームタンパクのみが同定されていたのとは異なり、本研究では 21 種を追加して合計 30 種超の包括的タンパクマップを構築した点に新規な価値がある。Raposo et al. (1996) や Zitvogel et al. (1998) が DC 由来エクソソームの抗原提示・抗腫瘍能を報告していたが、その分子的実体は不明であった。本研究は MFG-E8/ラクタドヘリン・hsc73・MHC-I/II・CD9 等の既知タンパクを確認しつつ、Alix・Tsg101 という生合成機構の中核分子を初めて加えた。臨床応用の観点では、Alix・Tsg101 がエクソソーム精製・定量の品質マーカーとして確立され、DC エクソソームワクチンの製造工程管理 (bench-to-bedside) に直結した。

アクチン系タンパク (コフィリン・プロフィリンI・EF-1α) の存在は以前から「エクソソームが単純な膜断片ではない」というコンセプトを支持する。シンテニン (syntenin) はシンデカン結合タンパクであり、後に Syndecan-ALIX-Syntenin 軸がエクソソーム生合成の主要経路として同定されている。本研究で確立された Alix・Tsg101 マーカーは、後の EV 生物学・カーゴ解析の基盤となり (Pegtel et al. AnnuRevBiochem 2019)、エクソソームインテグリンによる臓器向性決定 (Hoshino et al. Nature 2015) や分泌・取り込み特異性の研究 (Mathieu et al. NatCellBiol 2019) へと展開した。ガレクチン-3・14-3-3・TPxII はいずれも細胞死制御に関与し、エクソソームの免疫調節機能との関連が後続研究で検討された。

限界と今後の課題: 本研究は 1D-SDS-PAGE によるプロテオーム解析であり、2001 年当時の技術的制約から低分子量・低発現タンパクは同定されていない可能性が残された課題である。また 50 µg という大量のエクソソームが必要であり、FCS からのコンタミネーション (牛血清アルブミン・アポリポタンパク等) が一部バンドに混入した点も今後の検討を要する。後の高感度プロテオーム (2D-DIGE・iTRAQ・LC-MS/MS) との統合的解析が必要である。ExoCarta 等のエクソソームタンパクデータベースの基盤となった本論文は、EV 研究の礎石であり続けている。

方法

細胞・培養: GM-CSF産生J558プラズマサイトーマ由来の条件培地で増殖するマウス脾臓由来DC株D1を使用。培地はEVおよびタンパク質凝集物を除去するために前日 110,000×g 一晩超遠心したFCS補充培地で培養。

エクソソーム精製: 3日培養後の培養上清を逐次超遠心 (differential ultracentrifugation; 300×g 5分、1,200×g 20分、10,000×g 30分 または 0.22 µm フィルター) で細胞・デブリを除去後、100,000×g 1時間でペレット化。ショ糖密度勾配 (sucrose density gradient、0.25-2.5 M) で浮遊密度 1.15-1.18 g/mL 画分を回収 (高純度エクソソーム)。特性評価は CD9・Lamp2・MHC-II 等のマーカー Western blot と電子顕微鏡 (TEM) で実施した (ISEV2023 準拠の isolation + characterization)。

アポトーシス小体精製: UV照射 (2 mJ/cm2/s、50秒) でD1細胞にアポトーシスを誘導後24時間培養。上清を 1,200×g・10,000×g・110,000×g の逐次遠心でペレット化。アポトーシスの確認はアネキシンV-FITC/PI染色フローサイトメトリーで実施 (UV照射9時間後: 71%がアネキシンV+/PI+の二次壊死期)。

プロテオーム解析: エクソソームタンパク50 µgを10% または15% SDS-PAGEで分離、クーマシー染色後、全バンドをトリプシン消化しMALDI-TOF質量分析 (Biflex, Bruker-Franzen) でペプチドマスフィンガープリンティング。同定困難なバンドはNanoSpray-Q-TOF MS/MS (Micromass) でシーケンシング。データベース検索にはMS-FIT・Pepfrag・BLASTを使用。

Free Flow Electrophoresis (FFE): D1細胞の亜細胞分画をFFEチャンバーで実施。アノード方向に偏向した画分 (フラクション30-35) にβ-ヘキソサミニダーゼ活性 (リソソームマーカー) が集積し、この後期エンドソーム/リソソーム画分でRab8a・CD9・Mac-1等のエクソソームタンパク質発現をウェスタンブロット・ペプチドマッピングで確認。

FACS解析: エクソソーム (30 µg) を4 µm アルデヒド/硫酸ラテックスビーズに共有結合させ、免疫蛍光によりMHC-I/II・CD86・CD9・Mac-1・Lamp2・FcγRII/IIIの発現を解析。

ウェスタンブロット: SDS-PAGE後にPVDF膜へ転写。抗Alix (抗AIP1/Alix)・抗MHC-II・抗FcγRII/III抗体を使用。

定量・統計: バンド強度の濃縮度はデンシトメトリーで定量し、エクソソーム画分とアポトーシス膜小胞画分・全細胞溶解液間の相対存在量を比較した。アポトーシス陽性率はアネキシンV-FITC/PI 染色フローサイトメトリーで百分率として算出し、群間比較は記述統計 (平均値の比較、t 検定相当の対比) に基づく。プロテオーム同定の信頼性はペプチドマスフィンガープリンティングの一致ペプチド数 (例: TPxII で 8 matching peptides) と配列カバレッジ (Alix 34%・プロフィリン I 90% 等) で評価した。