- 著者: Laurence Zitvogel, Armelle Regnault, Anne Lozier, Joseph Wolfers, Caroline Flament, Danielle Tenza, Paola Ricciardi-Castagnoli, Graça Raposo, Sebastian Amigorena
- Corresponding author: Sebastian Amigorena (Institut Curie, Paris, France); Laurence Zitvogel (Institut Gustave Roussy, Villejuif, France)
- 雑誌: Nature Medicine
- 発行年: 1998
- Epub日: N/A (受理: 1998年4月2日)
- Article種別: Original Article
- PMID: 9585234
背景
1990年代後半、樹状細胞 DC (dendritic cell) は、ナイーブT細胞に対して一次免疫応答を誘導できる唯一のプロフェッショナル抗原提示細胞として、がん免疫療法の分野で大きな注目を集めていた。骨髄由来のDCに腫瘍抗原ペプチドを負荷して体内に戻すDC養子免疫療法は、新たながん治療法として盛んに研究されていた。先行研究である Mayordomo et al. (1995) や Zitvogel et al. (1996) などの既報では、ペプチドパルスしたDCを用いた細胞治療がマウスモデルにおいて有効な抗腫瘍効果を示すことが報告されていた。しかし、生細胞製剤としてのDC治療には、細胞の生存率や表現型の維持、製造プロセスの標準化、品質管理において多くの実用上の課題が存在していた。また、担がん生体内の高度な免疫抑制環境下においては、投与された生細胞DCの機能が抑制され、十分な抗原提示能を発揮できない懸念も指摘されていた。このように、生細胞を用いた治療法は臨床応用へのハードルが高く、より安定して均一な効果を発揮する無細胞製剤 (cell-free vaccine) の開発が望まれていたが、その詳細なメカニズムや実用性は未確立であった。
一方、1996年に Raposo et al. JExpMed 1996 らは、Bリンパ球が多胞体 MVB (multivesicular body) 由来の微小膜小胞を細胞外へ分泌し、これが「エクソソーム」と呼ばれることを報告した。しかし、この時点ではエクソソームの生理的機能や、生体内免疫系における具体的な役割は依然として不明であった。特に、DCがエクソソームを分泌するかどうか、またそれがT細胞に対する抗原提示能を保持しているかについては全く検討されていなかった。DCが分泌する微小胞がMHC (major histocompatibility complex) クラスIおよびクラスII分子を保持し、生体内において直接的または間接的にT細胞を活性化できるかという点については、学術的な gap が残されており、十分な知見が不足していた。本研究は、DC由来エクソソーム dex (dendritic cell-derived exosome) が無細胞がんワクチンとして機能し、既発腫瘍を根絶しうることを初めて実証した画期的な報告である。
目的
本研究の目的は、ヒトおよびマウスの樹状細胞 DC が分泌するナノサイズの膜小胞であるエクソソーム dex の表面抗原提示分子の発現を、電子顕微鏡、免疫電子顕微鏡、およびウエスタンブロット法を用いて詳細に解析することである。さらに、腫瘍ペプチドを負荷したdexの単回皮内投与が、生体内で樹立された攻撃的な既発腫瘍を根絶しうるかどうか、またその抗腫瘍効果がT細胞依存的であるかを2種のマウス腫瘍モデル (P815マスト細胞腫およびTS/A乳腺癌) において検証する。加えて、生細胞であるDCそのものを投与する従来の細胞療法と比較して、無細胞製剤であるdexが治療効果において優位性を持ち得るかを明らかにし、安全かつ安定した新たながん無細胞ワクチンの基盤を確立することを目的とする。
結果
樹状細胞由来エクソソームの微細構造と表面抗原の同定: 電子顕微鏡および免疫電子顕微鏡観察により、ヒトMD-DCの多胞性 MIIC (MHC class II compartment) 内にMHC class I分子が豊富に存在し、これらが 60-80 nm の細胞外小胞(エクソソーム)として細胞外へ放出される様子を実証した (Fig 1)。全体積免疫電子顕微鏡解析では、精製された小胞の 90% 以上がCD63陽性であり、その多くがMHC class IおよびMHC class IIの両分子を共発現していることが判明した (Fig 2)。マウスBM-DC由来のエクソソームを用いたウエスタンブロット解析では、MHC class I (H-2Kd)、MHC class II (I-Aα)、および共刺激分子であるCD86が検出され、特にCD86は元のDC細胞溶解物と比較してエクソソーム上で顕著に濃縮されていた (Fig 3)。一方、小胞体マーカーであるcalnexinや不変鎖 (Ii chain) はエクソソーム画分では完全に陰性であり、精製された小胞がアポトーシス小体やマイクロソームなどの不純物を含まない、エンドソーム由来の純粋な小胞であることが示された。また、未成熟DCからのエクソソーム放出量は、特定の刺激により約5倍 (5-fold) に増加することが確認された。さらに、精製されたエクソソームは、in vitroにおいてMART-1/MelanAペプチドをパルスされることで、HLA-A2拘束性の特異的CTLクローンであるLT12に対して、IFN-γの産生および増殖反応を誘導し得ることが確認された。
腫瘍ペプチドパルスエクソソームによる樹立P815腫瘍の退縮効果: Day8-10に樹立された 50-90 mm² のP815腫瘍を担持するDBA/2マウス (n=5 mice) に対し、P815由来のAEPをパルスした同系BM-DC由来のエクソソーム (3-5 μg/mouse) を皮内に単回投与した。その結果、エクソソーム投与群では腫瘍増殖が強力に抑制され、投与後Day60時点で 40-60% のマウスが完全な腫瘍退縮 (tumor-free) を達成した (Fig 4a)。これに対し、食塩水投与群や、自己脾臓ペプチドをパルスした対照エクソソーム投与群では腫瘍増殖抑制効果は全く認められなかった (p<0.05, Fisher’s exact 検定)。さらに、腫瘍を拒絶したマウスは、Day90時点でのP815再チャレンジを完全に拒絶したが、非関連のL1210白血病細胞の生着は阻止できず、腫瘍特異的な免疫記憶が成立していることが示された。また、異系 (H-2b, C57BL/6) のDCから調製したエクソソームを用いた実験では抗腫瘍効果が得られず、治療効果の発揮には syngeneic なMHC分子の存在が必須であることが明らかになった (Fig 4b)。この結果は、エクソソームが単にペプチドをデリバリーするだけでなく、宿主のT細胞に対して自己MHC拘束性に抗原提示を行っていることを強く示唆している。
低免疫原性TS/A乳腺癌モデルにおける抗腫瘍効果と転移抑制: Day3-4に樹立されたTS/A乳腺癌を担持するBALB/cマウス (n=5 mice) に対し、TS/A由来のAEPをパルスしたエクソソーム (5 μg) を皮内投与したところ、全マウスにおいて統計学的に有意な腫瘍増殖遅延と生存期間の延長が観察された (Fig 4c)。さらに、治療開始後Day40における病理組織学的解析において、対照群で多数観察された肺転移結節が、エクソソーム治療群のマウスでは完全に消失していることが確認された。TS/Aは低免疫原性かつ転移性の高い極めて悪性度の高い腫瘍モデルであるが、エクソソームの単回投与により原発巣の制御のみならず、遠隔転移の成立をも強力に阻害できることが明らかになった。
抗腫瘍効果におけるT細胞依存性と特異的CTL活性の誘導: T細胞を欠損した athymic nude マウス (n=5 mice) を用いた実験では、P815 AEPパルスエクソソームを投与しても腫瘍増殖抑制効果は完全に消失した (Fig 4d)。この結果は、エクソソームによる抗腫瘍効果がT細胞依存的であることを示している。さらに、エクソソーム投与によりP815腫瘍を拒絶したマウスから回収した脾細胞 (n=3 replicates) を用いた 51Cr 放出アッセイにおいて、P815標的細胞に対して 12-50% の特異的溶解活性が検出されたが、非関連の L1210細胞やNK (natural killer) 感受性株であるYAC-1細胞に対しては有意な傷害活性を示さなかった (Fig 5)。これは、投与されたエクソソームが体内でMHC class I拘束性の特異的CTLを直接的または間接的にプライミングしたことを裏付けている。また、対照群や腫瘍が進行したマウスの脾細胞からはこのような細胞障害活性は検出されず、エクソソーム投与が特異的なエフェクターT細胞の誘導に必須であることが示された。
全DC細胞投与に対するエクソソームの治療優位性: 同一のP815 Day9樹立腫瘍モデルにおいて、ペプチドパルスした全BM-DC (5-10 × 10⁵ cells/mouse) と、それらが18時間に分泌する量に相当するエクソソーム (3-5 μg/mouse) の治療効果を直接比較した。その結果、全DC投与群におけるDay60時点の腫瘍フリー率が 20% に留まったのに対し、エクソソーム投与群では 60% のマウスが腫瘍フリーとなり、統計学的に有意に優れた治療効果を示した (Fig 6)。全DC投与群と比較して、エクソソーム投与群では約3倍 (3-fold) の治療効果の向上が認められた。この治療優位性のメカニズムとして、生細胞であるDCが腫瘍微小環境において免疫抑制因子の影響を受けて機能不全に陥るのに対し、無細胞製剤であるエクソソームはそのような抑制を受けないこと、またエクソソーム表面にMHCクラスI/IIおよびCD86が高密度に濃縮されていること、さらに脂質二重膜成分自体が有するアジュバント効果などが寄与していると考えられた。また、成熟DCは未成熟DCに比べてエクソソームの分泌量が低下していることも判明し、未成熟DCから得られる豊富なエクソソームが治療において極めて有利であることが示された。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究は、生細胞としての樹状細胞を直接投与する従来のDC養子免疫療法 (Mayordomo et al., 1995; Zitvogel et al., 1996) と異なり、DCが分泌するナノサイズの膜小胞であるエクソソーム (dex) を用いた無細胞がんワクチン (cell-free vaccine) という概念を提示し、それが生細胞治療と同等以上の治療効果を発揮することを示した点で対照的である。生細胞製剤は腫瘍微小環境において免疫抑制を受けやすいが、無細胞のエクソソームは環境因子の影響を受けにくく、安定した免疫活性化能を維持できるという特徴を持つ。
新規性: 本研究で初めて、樹状細胞がMHCクラスI、クラスII、および共刺激分子CD86を豊富に発現するエクソソームを分泌していることを新規に同定し、腫瘍特異的ペプチドを搭載したエクソソームの単回皮内投与が、樹立された攻撃的なマウス腫瘍 (P815およびTS/A) をT細胞依存的に完全に退縮させ得ることを世界に先駆けて実証した。特に、未成熟DCが成熟DCよりも多くのエクソソームを放出し、それが強力な免疫誘導能を持つという発見は、これまでの免疫学の常識を覆す極めて新規性の高い知見である。
臨床応用: 本知見は、生細胞製剤に伴う品質管理、標準化、保存性、および腫瘍免疫抑制環境下での機能劣化といった課題を克服する「無細胞型がんワクチン」の臨床応用に直結する。臨床的意義として、エクソソームは凍結保存が可能であり、製剤としての標準化が容易であるため、がん免疫療法の translational な展開において極めて高い有用性を持つ。患者自身のDCから調製したエクソソームに腫瘍ペプチドを搭載する個別化医療や、既製品としての無細胞ワクチンの開発など、幅広い臨床展開が期待される。
残された課題: 今後の検討課題として、エクソソームが体内でナイーブT細胞を直接プライミングするのか、あるいは宿主の抗原提示細胞に取り込まれてクロスプレゼンテーションされるのかという詳細な作用機序の解明が残されている。また、本研究で示されたマウスモデルでの劇的な効果が、ヒトの臨床現場においてどの程度再現されるか、特に免疫抑制が高度に進んだ進行がん患者における有効性の検証 (limitation の克服) が今後の重要な研究方向性である。さらに、大量生産技術の確立や、臨床グレードの精製法の標準化も実用化に向けた課題である。
方法
ヒトDC由来エクソソームの単離と解析: 健康なボランティアの末梢血単核球から調製した単球由来樹状細胞である MD-DC (monocyte-derived dendritic cell) を、GM-CSF (granulocyte macrophage-colony stimulating factor) および IL-4 (interleukin-4) の存在下で7-8日間培養した。培養上清から、差次的超遠心法 (300 gで20分間、10,000 gで30分間、および100,000 gで1時間) を用いてエクソソームを精製した。精製されたエクソソームは、超薄凍結切片および全体積免疫金標識を用いた免疫電子顕微鏡法により、MHC class I、MHC class II、CD63、CD82の局在を解析した。
マウスBM-DC由来エクソソームの調製: DBA/2マウス (H-2d) または C57BL/6Jマウス (H-2b) の骨髄から調製した骨髄由来樹状細胞である BM-DC (bone marrow-derived dendritic cell) を、GM-CSFおよびIL-4の存在下で5-7日間培養した。このBM-DCに、P815マスト細胞腫またはTS/A乳腺癌由来の酸溶出ペプチドである AEP (acid-eluted peptide) をパルスし、培養上清から超遠心法にてエクソソームを精製した。精製過程において、PBS (phosphate-buffered saline) を用いて100倍以上の希釈洗浄を行った。得られたエクソソーム表面のタンパク質組成をウエスタンブロット法により解析し、MHC class I (H-2Kd)、MHC class II (I-Aα)、CD86、TfR (transferrin receptor)、および小胞体マーカーであるcalnexinの発現を評価した。
in vivo抗腫瘍実験: (1) P815マスト細胞腫モデル: DBA/2マウスの背部皮下にP815細胞を移植し、Day8-10に樹立した50-90 mm²の皮下腫瘍担持マウスへ、3-5 μg のAEPパルスエクソソームを同側鼠径部皮内に単回投与した。(2) TS/A乳腺癌モデル: BALB/cマウスにTS/A細胞を移植し、Day3-4に樹立した腫瘍へ5 μg のエクソソームを皮内投与した。各群 n=5 mice で腫瘍径を週2回測定した。MHCハプロタイプが同系 (syngeneic) または異系 (allogeneic) のエクソソームを用いた比較実験、athymic nude mouseを用いた免疫依存性検証、およびエクソソームと全DC細胞の有効性比較も実施した。統計解析には Fisher’s exact 検定を用いた。
CTL活性測定: エクソソーム治療によりP815腫瘍を拒絶し、Day90まで生存したマウスから脾細胞を回収し、照射を施したB7.1発現P815細胞と5日間共培養した。その後、特異的細胞障害性Tリンパ球である CTL (cytotoxic T lymphocyte) 活性を、51Cr (クロム-51) 放出アッセイによって測定した。