• 著者: Eugenia Zah, Meng-Yin Lin, Anne Silva-Benedict, Michael C. Jensen, Yvonne Y. Chen
  • Corresponding author: Yvonne Y. Chen (University of California, Los Angeles)
  • 雑誌: Cancer Immunology Research
  • 発行年: 2016
  • Epub日: 2016-04-08
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 27059623

背景

CD19を標的としたキメラ抗原受容体である CAR (chimeric antigen receptor: キメラ抗原受容体) T細胞療法は、再発または難治性のB細胞性悪性腫瘍に対して極めて高い治療効果を示している。Kalos et al. SciTranslMed 2011Porter et al. NEnglJMed 2011 などの初期の臨床試験、さらには Grupp et al. NEnglJMed 2013Brentjens et al. SciTranslMed 2013Davila et al. SciTranslMed 2014 において、ALL (acute lymphoblastic leukemia: 急性リンパ性白血病) や CLL (chronic lymphocytic leukemia: 慢性リンパ性白血病) に対する劇的な寛解導入が報告されてきた。また、Kochenderfer et al. JClinOncol 2015Kochenderfer et al. Blood 2012 においても、難治性リンパ腫に対する有効性が実証されている。しかし、これらの優れた臨床成績の一方で、治療後にCD19陰性の腫瘍細胞が選択的に増殖して再発を来す「抗原エスケープ (antigen escape: 抗原逃避)」が深刻な臨床課題として浮上している。例えば、Maude et al. NEnglJMed 2014 の報告では、CD19 CAR-T治療後に完全奏効を達成した患者の 90% のうち、11% が最終的にCD19陰性腫瘍として再発したことが示されている。このような抗原消失による治療抵抗性メカニズムを克服するためのアプローチとして、複数の抗原を同時に標的とする多重特異性CARの設計が模索されているが、最適な受容体構造やシグナル伝達の制御機構については未解明な点が多く、効率的な二重特異性CARの設計指針は未確立のままである。特に、標的とする抗原の立体構造やエピトープの位置が異なる場合に、単一のT細胞上でどのように両抗原を効率的に認識させ、かつ過剰な免疫疲弊を回避しつつ持続的な抗腫瘍効果を発揮させるかという点に関する知見は著しく不足している。この技術的・科学的な gap (ギャップ) を解消し、抗原逃避を未然に防ぐための合理的な受容体設計が強く求められている。

目的

本研究の目的は、B細胞悪性腫瘍における主要な治療標的であるCD19およびCD20の双方を認識し、いずれか一方の抗原が存在するだけで強固なT細胞活性化シグナルを惹起する、真の OR-gate (logical OR-gate: 論理和ゲート) 型二重特異性キメラ抗原受容体 (CD19-OR-CD20 CAR) を合理的に設計・最適化することである。具体的には、CD19とCD20という構造的に異なる二つの抗原に対して、それぞれの単一入力CAR (single-input CAR) が要求する最適な細胞外スペーサー (extracellular spacer) 長の差異を明らかにし、その知見に基づいて二重特異性CARにおける scFv (single-chain variable fragment: 単鎖可変領域フラグメント) の配置順序や、scFv間を接続するリンカー (linker) 配列の長さおよび剛性を系統的に最適化する。さらに、構築した最適化OR-gate CAR-T細胞が、CRISPR/Cas9ゲノム編集技術により作製したCD19陰性変異株を含むB細胞リンパ腫モデルにおいて、in vitro (試験管内) および in vivo (生体内) で抗原エスケープを完全に阻止し、持続的な腫瘍制御能を発揮できるかを実証することを目的とする。

結果

単一入力CARにおける最適なスペーサー長の抗原依存的差異: CD19およびCD20を標的とする単一入力CAR T細胞の機能評価から、標的抗原の構造的特徴によって最適な細胞外スペーサー長が明確に異なることが示された。CD19 CARにおいては、12 aaからなるshortスペーサーを搭載した受容体が最も高い活性を示したのに対し、CD20 CARにおいては、229 aaからなるlongスペーサーを搭載した受容体が、標的細胞の溶解活性およびサイトカイン産生において優位性を示した (Fig 1)。具体的には、CD20陽性標的細胞に対する細胞傷害試験において、longスペーサー型CD20 CARは、shortスペーサー型と比較して約 3.0-fold 高い標的細胞溶解活性を示した。この差異は、CD19が細胞膜から大きく突出した1回膜貫通型糖タンパク質であるのに対し、CD20は細胞膜に近接した小さな細胞外ループを持つ4回膜貫通型タンパク質であるという、抗原自体の立体構造的特徴に起因すると考えられた。このように、各抗原に対して最適な免疫シナプス形成距離を確保するためのスペーサー長が独立して存在することが明らかとなった。

OR-gate CARにおけるscFv配置とリンカー最適化によるCD20認識能の向上: 単一入力CARで得られた知見に基づき、CD19とCD20の双方を標的とするタンデム型OR-gate CARを設計した。CD19認識にはshortスペーサーが、CD20認識にはlongスペーサーが最適であるため、膜遠位側にCD20 scFvを、膜近位側にCD19 scFvを配置し、shortスペーサーと組み合わせた「20-19 short CAR」を基本骨格とした。この配置では、CD19 scFv自体が代理スペーサーとして機能し、CD20 scFvを膜から遠ざけることでCD20の効率的な認識が可能になると仮説を立てた。この構造において、二つのscFvを接続するリンカーの長さと剛性を系統的に検証した結果、(G4S)4という長鎖の柔軟なリンカーを導入した受容体が最も優れた二重特異性を示した (Fig 2, Fig 3)。(G4S)4リンカー搭載CAR T細胞は、CD19陰性/CD20陽性 (CD19-/CD20+) の変異Raji細胞に対し、単一入力CD20 CARと同等の高い細胞傷害活性を示し、(G4S)1リンカーと比較してIFN-γ産生量が約 2.5-fold 向上した。また、活性化マーカーであるCD69、CD137、および脱顆留マーカーCD107aの発現率も、(G4S)1リンカー群と比較して有意に高かった (p<0.01, n=3 replicates)。

in vitroにおける抗原逃避抑制効果とT細胞増殖・分化特性の維持: 最適化された20-19 short (G4S)4 OR-gate CAR T細胞は、野生型 (WT) Raji細胞 (CD19+/CD20+) とCRISPR/Cas9で構築したCD19陰性変異Raji細胞 (CD19-/CD20+) の双方に対して、同等の効率で細胞傷害活性を発揮した (Fig 4, Fig 5)。これに対し、単一入力CD19 CAR T細胞はWT Raji細胞を効率的に排除できたものの、CD19陰性変異株に対しては全く細胞傷害活性を示さず、抗原逃避による腫瘍の増殖を許した。さらに、WT Raji細胞で6日間刺激した後にCD19陰性Raji細胞で再刺激する反復刺激アッセイにおいて、OR-gate CAR T細胞は持続的な溶解活性を維持した。この際、PD-1、Tim-3、Lag-3などの免疫疲弊マーカーの共発現プロファイルは、単一入力CD20 CAR T細胞と同等であり、二重特異性認識による過剰なシグナル伝達や早期の細胞疲弊は誘導されないことが確認された。また、抗原刺激後のT細胞増殖率を比較したところ、OR-gate CAR T細胞は単一入力CD19 CAR T細胞と同等の増殖能を示し (p>0.1, n=3 replicates)、分化フェノタイプ (TCM (central memory T cell: セントラルメモリーT細胞) / TEM (effector memory T cell: エフェクターメモリーT細胞) 比率) も維持されていた。一方、単一入力CD19 CARとCD20 CARのT細胞を1:1で混合して培養した対照群では、抗原刺激後にCD19 CAR T細胞が選択的に優勢となり、CD20 CAR T細胞の割合が著しく減少する製品不均衡が生じた。

in vivoにおけるCD19陰性逃避株を含む腫瘍の完全な制御: in vitroでの優れた結果を検証するため、NSGマウスを用いたin vivo腫瘍モデルにおいて治療効果を評価した (Fig 6, Fig 7)。WT Raji細胞のみ、またはWT RajiとCD19陰性Raji細胞を3:1の比率で混合した腫瘍細胞を移植したマウス (n=5 mice) に対し、各種CAR T細胞を投与した。WT Raji単独移植モデルにおいては、単一入力CD19 CARおよびOR-gate CAR T細胞のいずれもが腫瘍の増殖を有意に抑制し、生存期間を大幅に延長した。しかし、CD19陰性逃避株を含む混合腫瘍移植モデルにおいては、単一入力CD19 CAR T細胞投与群は初期に一時的な腫瘍縮小を示したものの、その後CD19陰性腫瘍の選択的増殖 (抗原逃避) により全例が再発し死亡した。これに対し、20-19 short (G4S)4 OR-gate CAR T細胞投与群は、混合腫瘍に対してもWT単独腫瘍と同等の極めて高い腫瘍制御効果を示し、抗原逃避を完全に阻止してマウスの生存期間を有意に延長した (p<0.05 vs 単一入力CD19 CAR群)。投与後10日および20日目の末梢血および骨髄の解析において、OR-gate CAR T細胞は良好な生着と持続性を示し、骨髄中に回収されたT細胞におけるPD-1発現率は、単一入力CD19 CAR T細胞と比較して有意に低い値に維持されていた (p<0.05, n=5 mice)。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究で開発されたCD19-OR-CD20 CARは、先行研究で報告されたCD19とHER2を標的とする二重特異性CAR (TanCAR) とは対照的であり、またこれまでの単一入力CARの単純な混合投与戦略とも大きく異なる。TanCARにおいては、一方の抗原単独による刺激では同時刺激時と比較してT細胞活性化が著しく減弱するという課題があったが、本研究のOR-gate CARは、いずれか一方の抗原刺激のみで単一入力CARと同等以上の強固なシグナル伝達を達成している。また、2種類の単一入力CAR T細胞製品を混合投与する代替アプローチと異なり、単一の二重特異性CAR分子を用いることで、in vitroおよびin vivoにおける特定のCAR T細胞サブタイプの選択的増殖に伴う製品不均衡や成長競争のリスクを完全に回避できることを示した。

新規性: 本研究は、標的とする抗原の立体構造(1回膜貫通型タンパク質であるCD19と、多回膜貫通型タンパク質であるCD20)の差異に基づき、キメラ受容体のスペーサー長およびscFv間のリンカーの長さ・剛性を系統的に最適化する設計指針を、本研究で初めて新規に提示した。特に、膜遠位側に配置されたCD20 scFvに対し、膜近位側のCD19 scFvと(G4S)4リンカーが「代理スペーサー」として機能するという構造的合理性を明らかにし、真のBoolean OR-gate演算シグナル処理を単一分子内で実現した点は、これまで報告されていない極めて独創的な成果である。

臨床応用: 本研究の成果は、CD19 CAR-T細胞療法における最大の障壁である抗原エスケープによる再発を克服するための、極めて有望な臨床応用への道を拓くものである。CD19とCD20はともにB細胞系悪性腫瘍において高頻度かつ特異的に発現しており、両者を同時に標的とすることによる追加のオンターゲット・オフ腫瘍毒性の懸念がないため、臨床現場における安全性が担保されやすい。また、単一のレンチウイルスベクターで簡便に製造可能であるため、既存の細胞製造プロセスや臨床プロトコルと完全な互換性を有しており、速やかな臨床的有用性の検証が期待される。

残された課題: 今後の検討課題として、本研究のin vivo異種移植モデルにおいて、腫瘍の増殖は大幅に抑制されたものの、完全な腫瘍根絶には至らなかった点が挙げられる。これは、Raji細胞という極めて攻撃的な腫瘍株を使用したこと、および投与したT細胞用量が限定的であったことに起因する可能性があり、臨床応用に向けては、最適な投与用量や投与スケジュールの確立、さらにはPD-1/PD-L1経路などの免疫チェックポイント阻害剤との併用療法の検討が必要である。また、本研究で確立されたスペーサーとリンカーの最適化プロセスという設計指針(limitationを克服するための構造ベースの合理設計)は、他の難治性固形がんにおけるマルチ抗原標的CAR의設計においても重要な基盤技術となる。

方法

プラスミド構築とCARの設計: CD19特異的scFvとして FMC63 (anti-CD19 monoclonal antibody clone: 抗CD19モノクローナル抗体クローン) 由来の配列を、CD20特異的scFvとして Leu-16 (anti-CD20 monoclonal antibody clone: 抗CD20モノクローナル抗体クローン) 由来の配列を用いて、二重特異性CARを構築した。細胞外スペーサーとしてヒト IgG4 (immunoglobulin G4: 免疫グロブリンG4) ベースのヒンジ-CH2-CH3ドメイン (long spacer: 229 aa (amino acids: アミノ酸))、ヒンジ-CH3ドメイン (medium spacer: 119 aa)、またはヒンジのみ (short spacer: 12 aa) を使用し、CD28膜貫通ドメイン、ならびに4-1BBおよびCD3ζの細胞内シグナル伝達ドメインと連結した。ここで、CH2-CH3 (constant heavy chain 2 and 3: 定常領域重鎖2および3) および CH3 (constant heavy chain 3: 定常領域重鎖3) はスペーサーの長さを規定する。二つのscFvをタンデムに配置するにあたり、(G4S)1、(G4S)4の柔軟なリンカー、および(EAAAK)1、(EAAAK)3の剛性リンカーを用いて接続した。すべてのCAR構造体の下流には、T2A自己開裂ペプチドを介して、導入細胞の検出・選別のための標識として機能する EGFRt (truncated epidermal growth factor receptor: トランケート型表皮成長因子受容体) を融合させた。

細胞株の樹立と培養: ヒトB細胞リンパ腫細胞株であるRaji細胞および慢性骨髄性白血病細胞株K562細胞を使用した。CD19陽性、CD20陽性、またはCD19/CD20両陽性のK562細胞は、レンチウイルスベクターを用いて遺伝子導入することで作製した。CD19陰性Raji細胞 (CD19- Raji) は、CRISPR/Cas9システムを用いてCD19遺伝子をノックアウトすることにより作製した。具体的には、CD19を標的とする gRNA (guide RNA: ガイドRNA) を含むプラスミドをRaji細胞に一過性導入し、G418による選択後、 FACS (fluorescence-activated cell sorting: 蛍光活性化セルソーティング) を用いてCD19陰性画分を純化回収した。

一次T細胞の調製と遺伝子導入: 健常ドナーの末梢血からCD8+/CD45RA-/CD62L+のナイーブ/セントラルメモリーT細胞を単離し、抗CD3/CD28ビーズで刺激後、レンチウイルスベクターを用いてCAR遺伝子を導入した。EGFRtの発現を指標に磁気ビーズ選別を行い、CAR陽性T細胞を濃縮した。

機能解析および統計解析: in vitroでの細胞傷害活性は、CytoTox 96 Non-Radioactive Cytotoxicity Assayを用いた LDH (lactate dehydrogenase: 乳酸脱水素酵素) 放出試験により評価した。サイトカイン (IFN-γ、TNF-α、IL-2) 産生量は、BD Cytometric Bead Arrayを用いて定量した。in vivo実験では、6-8週齢の雌性 NSG (NOD/SCID/gamma-c-null: NOD/SCID/γ鎖欠損) マウスを使用し、尾静脈注射によりルシフェラーゼ発現Raji細胞 (WT (wild-type: 野生型) またはWTとCD19-変異株の3:1混合物) を移植した。腫瘍の進展は BLI (bioluminescence imaging: 生物発光イメージング) により経時的に追跡した。統計解析には、2群間の比較として2テールの unpaired Student’s t-test を用い、生存曲線の比較には log-rank 検定を用いた。