• 著者: Shohei Koyama, Esra A. Akbay, Yvonne Y. Li, Grit S. Herter-Sprie, Kevin A. Buczkowski, William G. Richards, Leena Gandhi, Amanda J. Redig, Scott J. Rodig, Hajime Asahina, Robert E. Jones, Meghana M. Kulkarni, Mari Kuraguchi, Sangeetha Palakurthi, Peter E. Fecci, Bruce E. Johnson, Pasi A. Janne, Jeffrey A. Engelman, Sidharta P. Gangadharan, Daniel B. Costa, Gordon J. Freeman, Raphael Bueno, F. Stephen Hodi, Glenn Dranoff, Kwok-Kin Wong, Peter S. Hammerman
  • Corresponding author: Glenn Dranoff; Kwok-Kin Wong; Peter S. Hammerman (Dana-Farber Cancer Institute / Brigham and Women’s Hospital, Harvard Medical School, Boston, MA, USA)
  • 雑誌: Nature Communications
  • 発行年: 2016
  • Epub日: 2016-02-17
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 26883990

背景

PD-1 (programmed death 1):PD-L1 (programmed death ligand 1) 免疫チェックポイント阻害療法はメラノーマ・腎細胞癌・膀胱癌・血液悪性腫瘍・NSCLC (non-small cell lung cancer) など広範な癌腫で有効性が実証され、本研究時点 (2016年) で米国・アジアで承認済みであった。抗PD-1抗体は腫瘍反応性T細胞上のPD-1に結合してPD-1:PD-L1相互作用を阻害し、抗腫瘍T細胞応答を再活性化する機序によって効果を発揮する。PD-L1の腫瘍細胞・浸潤免疫細胞での発現、およびPD-1陽性TILの存在がチェックポイント遮断への応答性と関連することが示されており (Taube et al. ClinCancerRes 2014)、PD-L1発現はT細胞による腫瘍攻撃への適応的な免疫回避機序を反映することも明らかになっていた (Tumeh et al. Nature 2014)。肺癌におけるTILの客観的測定法と臨床的意義については Schalper et al. JNatlCancerInst 2015 が詳細を報告しており、PD-L1発現の実態については Yu et al. JThoracOncol 2016 が包括的に解析していた。

NSCLCは世界で最も多い癌関連死因であり、EGFR変異やALK (anaplastic lymphoma kinase) 融合遺伝子といった標的可能なゲノム変異を持つ患者には分子標的療法が有効であるが、大多数の患者ではPD-1:PD-L1遮断が有力な治療選択肢であった。分子標的キナーゼ阻害剤に対する耐性機序は広く研究されていたが、PD-1:PD-L1遮断に対する初期耐性・獲得耐性の機序についての研究は本研究時点で全く報告がなく、重大な知識のgap in knowledgeが存在していた。先行研究 (Akbay et al. 2013, Cancer Discov.) ではEGFR変異ドライバー肺癌マウスモデルにおいてPD-1遮断が有効で、EGFR下流シグナルがPD-1:PD-L1免疫チェックポイントを通じた免疫回避を促進することが示されていた。しかし一旦奏効した後に耐性が生じるメカニズム、および耐性時の腫瘍免疫微小環境の変化については知見が不足していた。特に、持続的PD-1遮断下でT細胞が代替免疫チェックポイントをどのように代償的に発現するかは未解明であり、先行研究が応答性因子の解明に集中してきた一方で「なぜ耐性が生じ、腫瘍局所のT細胞が何を代替的に利用するか」という問いに答えた研究が皆無であったことが最大の知識ギャップであった。

目的

EGFR T790M/L858R (TL) およびKras G12Dの完全免疫応答性遺伝子工学マウス肺腺癌モデルを用いて、抗PD-1療法獲得耐性時の腫瘍免疫微小環境における代替免疫チェックポイントの発現変化を同定する。また同定されたチェックポイントへの追加遮断が治療効果を回復できるかを前臨床的に検証し、その知見が臨床患者検体でも再現されるかを確認すること。

結果

抗PD-1耐性腫瘍TILにおけるTIM-3の特異的上方制御:EGFR TL (U: n=7、R: n=9) およびKras (U: n=7、R: n=9) 両モデルで同等腫瘍負荷下の免疫プロファイリングを実施した。CD4/CD8比は抗PD-1耐性腫瘍で有意に低下した (EGFR TL: P<0.001、Kras: P=0.0028、Student’s t-test; Fig 1c)。一方でFOXP3+CD4+ Tregの細胞数、TAMおよびTANの数、PD-L1発現量、BALF中のIL-6レベルには未治療群と耐性群で有意差が認められなかった。このことは骨髄球系細胞の量的変化ではなくT細胞機能の質的変化が主要な耐性メカニズムであることを示唆する。T細胞機能抑制関連遺伝子のsupervised RNA-seq解析 (Fig 1d) では、EGFR TLおよびKrasモデルの耐性腫瘍でHavcr2 (TIM-3遺伝子)・Lag3・Pdcd1の発現が増加した (Havcr2: EGFR TLモデルで約2.8-fold増加、|fold change|>1.25かつP<0.05 by limma、n=9 vs n=7) 一方、Foxp3・VISTA (4632428N05Rik; V-domain Ig suppressor of T cell activation)・Btla には変化が見られなかった。フローサイトメトリーでのタンパク質レベル検証 (Fig 1e) では、EGFR TLモデルでCD4・CD8両T細胞においてTIM-3のみが有意な増加を示し、LAG-3・CTLA-4は増加傾向に留まった。KrasモデルでもCD4・CD8 T細胞でTIM-3が有意に増加し、CD8 T細胞ではLAG-3・CTLA-4にも有意な増加が認められたが、その増加幅はTIM-3より小幅であった。

TIM-3上昇の腫瘍局所特異性と抗PD-1治療期間依存性の動態:TIM-3の上方制御は腫瘍担当肺のT細胞でのみ検出され、縦隔リンパ節・末梢血・脾臓のT細胞では観察されなかった (Fig 2a)。腫瘍内でも抗PD-1抗体が結合しているCD4・CD8 T細胞で優位に発現していた。経時的解析 (Fig 2b) では、PD-1療法1週時点 (T細胞活性化と臨床的奏効が確認される時点) ではTIM-3の有意な増加は認められず、IFN-γ陽性CD8 T細胞の増加はあった。これはTIM-3上昇がT細胞活性化と直接相関するのではなく、持続的PD-1遮断に特異的な後発的変化であることを示唆する。有意なTIM-3上昇はKrasモデルでは2週後、EGFR TLモデルでは4週後に検出された。TIM-3陽性率と抗PD-1治療期間には強い正の相関があり (EGFR TL CD4 T細胞: Pearson r=0.881, n=9, P<0.0001; CD8 T細胞: Pearson r=0.84, n=9, P<0.0001; Fig 2b)、さらにTIM-3陽性率と抗PD-1抗体結合量の間にも有意な相関が認められた (EGFR TL・Kras両モデル合算 cohort n=18, Pearson r>0.70, P<0.05; Fig 2c)。CTLA-4遮断ではTIM-3の上昇は観察されず、TIM-3上昇はPD-1遮断特異的な適応的変化であることが確認された。また、Krasモデルの耐性腫瘍でTIM-3リガンドの一つであるGalectin-9をコードするLgals9 (lectin galactoside-binding soluble 9) がRNAおよびタンパク質レベルで有意に増加しており、TIM-3/Galectin-9軸が耐性時に機能的に活性化していることが示された。TIM-3陽性CD8 T細胞の大多数がCEACAM1 (carcinoembryonic antigen-related cell adhesion molecule 1) を共発現していた。

抗TIM-3抗体の順次追加による生存延長とT細胞機能回復:EGFR TLモデルで抗PD-1抗体耐性確認後に抗TIM-3抗体を順次追加する治療を実施した (Fig 3a)。生存解析では、抗PD-1単独群 (n=16) の中央値生存期間が5週であったのに対し、抗PD-1+順次抗TIM-3群 (n=11) では11.9週と有意に延長した (P=0.0008、log-rank test; Fig 3b)。抗TIM-3抗体追加2週後の機能解析では、IFN-γ産生陽性CD8 T細胞数および細胞増殖マーカーKi-67陽性CD8 T細胞数が、PD-1耐性群に比べて有意に増加した (それぞれP<0.05、P<0.01; Fig 3d)。BALF中のIL-6とPGRN (progranulin) レベルも耐性時と比べて有意に減少した (P<0.05; Fig 3e)。一方、抗PD-1と抗TIM-3の初期同時併用 (concurrent combination) では抗PD-1単独に対する上乗せ効果は認められなかった。これはEGFR TLモデルでの治療前TIM-3発現量の低さや中和抗体の急速な誘導が影響していると考えられる。なお、順次療法後に再増悪した腫瘍 (Seq combR) の解析では、LAG-3・CTLA-4がさらに上昇しており、複数チェックポイントが段階的に動員される逐次的耐性パターンが示唆された。

臨床患者検体におけるTIM-3上昇の確認:抗PD-1療法で初期奏効後に進行した2例のNSCLC患者を解析した。患者#1は59歳男性、KRAS G12D変異stage IV肺腺癌 (PD-L1 IHC >1%)、カルボプラチン/パクリタキセル/ベバシズマブ後に抗PD-1療法でPRを達成したが4ヶ月後に心嚢液貯留を伴い進行した。患者#2は72歳男性、stage IV肺腺癌 (EGFR/KRAS/ALK野生型、MET陽性、PD-L1 IHC >50%)、複数前治療後に抗PD-1療法でPR 5ヶ月を達成後に悪化した。進行時の検体解析では、両患者のCD4・CD8 T細胞の45%以上がhuman IgG (治療抗体) 結合を示しており、治療失敗時点でも抗PD-1抗体が機能的に結合していることが確認された (Fig 4b)。TIM-3の詳細な解析 (Fig 4c) では、抵抗性滲出液 (RE) でのTIM-3陽性率がCD4 T細胞: RE 22.10% vs 対照滲出液 (CE) 2.52% (P=0.0001) vs 原発腫瘍 (PT) 9.06% (P=0.0023 RE vs PT)、CD8 T細胞: RE 37.85% vs CE 3.19% (P=0.0256) vs PT 17.58% と対照群に比べて著しく高値であった。TIM-3陽性T細胞の大多数が治療抗体 (human IgG+) 結合細胞であることも確認された (Fig 4d)。LAG-3・CTLA-4・FOXPへの有意な変化はなかったが、CTLA-4はCD8 T細胞で若干増加する傾向を示し、マウスデータと一致したパターンであった。Galectin-9もマウスモデル同様に耐性患者検体で有意に上昇しており、TIM-3/Galectin-9軸の臨床的関連性が裏付けられた。

考察/結論

本研究は抗PD-1療法獲得耐性のメカニズムとして代替免疫チェックポイント (特にTIM-3) の代償的上方制御という新規な機序を初めて明確に示した先駆的研究である。これまでの研究では抗PD-1療法の初期奏効機序は比較的解明されていたが、持続的治療後の耐性発現時に腫瘍微小環境でどのような変化が起きるかについては報告がなかった。本研究で初めて、遺伝子工学マウスモデルと臨床患者の両方において、持続的PD-1遮断が治療抗体結合T細胞上でTIM-3を腫瘍局所特異的に誘導することが実証された。

機構的な観点では、本研究の知見はJAK1/JAK2変異によるIFN-γシグナル喪失やMHC-I (β2-microglobulin欠失) による抗原提示消失といったT細胞外の耐性機序とは異なり、T細胞内の可塑的チェックポイント切り替えという新規な耐性形式を提示している。Zaretsky et al. NEnglJMed 2016 が報告したメラノーマでのJAK1/JAK2変異型耐性はT細胞応答の消失を招く固定的な機序であるのとは異なり、本研究のTIM-3代償的上方制御はT細胞機能が一時的に回復可能な可逆的・可塑的機序である点が重要な相違点である。抗PD-1療法がPD-1+T細胞の腫瘍局所での生存・濃縮を促進し、PD-1遮断の持続によってTIM-3がin situで誘導され、Galectin-9等のリガンドによる再抑制へと繋がる「チェックポイント切り替えモデル」が提唱される。TIM-3上昇が治療期間・抗PD-1抗体結合量と相関し、CTLA-4遮断後には観察されないことは、この機序がPD-1シグナル遮断そのものへの代償応答であることを強く支持する。感染症・免疫学分野での先行知見 (T細胞疲弊時のTIM-3とPD-1の共発現) とも整合する。

臨床的意義として、TIM-3 (およびGalectin-9) は抗PD-1療法耐性の予測・診断バイオマーカー候補となりうる。治療抗体結合T細胞でのTIM-3フローサイトメトリー測定は、耐性発現を早期に検出し次の治療選択 (抗TIM-3抗体追加や他のチェックポイント阻害剤への切り替え) を支援するための臨床応用への橋渡しとなる可能性がある。本論文発表後、sabatolimabなどのTIM-3阻害剤の臨床開発が実際に加速しており、臨床現場での複数チェックポイント動的モニタリングという新たな管理概念を生み出した点でも意義が大きい。治療抗体結合T細胞を選択的に解析する手法は、耐性バイオマーカー探索における革新的なアプローチである。

残された課題として、(i) TIM-3遮断の最適な開始タイミング (耐性発現前の先行投与 vs 耐性確認後の順次投与 vs 初期同時併用) の確定、(ii) CEACAM1やホスファチジルセリンなど他のTIM-3リガンドの耐性寄与、(iii) 順次療法後に出現するLAG-3・CTLA-4のさらなる上昇に対するトリプル/クアドラプルチェックポイント遮断戦略の有効性と毒性、(iv) 大規模患者コホートでの腫瘍ネオアンチゲン編集や抗原提示消失との関係整理、(v) 他の癌腫や異なるドライバー変異における適応的TIM-3耐性の汎用性などが挙げられる。今後の検討として、液体生検による耐性モニタリング、多重フローサイトメトリーの臨床実装、および特定チェックポイントプロファイルに基づく精密免疫療法選択への展開が期待される。

方法

マウスモデルと治療プロトコール: EGFR T790M/L858R (TL) トランスジェニックマウス (FVB/N背景、ドキシサイクリン誘導、5-6週齢より開始) およびKras G12Dマウス (C57Bl/6・FVB・S129混合背景、5週齢に鼻腔内アデノウイルスCre投与で誘導) の2種類の遺伝子工学肺腺癌モデルを使用した。抗PD-1遮断抗体 (clone 29F.1A12、200 μg、腹腔内投与 (IP)、週3回) を腫瘍担持マウスに投与し、MRI (7 Tesla BioSpec Bruker) で腫瘍体積を追跡した。耐性定義はMRIでの初期応答 (腫瘍縮小または安定) 後にoriginal腫瘍サイズの120%以上への再増大 (RECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) 基準) とした。治療失敗時には抗PD-1抗体の継続結合を抗Rat IgG2a抗体で確認した。

免疫プロファイリング: 未治療群 (U; EGFR TL n=7、Kras n=7) および抗PD-1耐性群 (R; EGFR TL n=9、Kras n=9) を同等腫瘍負荷下で比較した。フローサイトメトリーでCD4 T細胞・CD8 T細胞・Treg (regulatory T cells; FOXP3+CD4+)・TAM (tumor-associated alveolar macrophages; CD11c+CD11b-CD103 (integrin αE)-)・TAN (tumor-associated neutrophils; CD11b+Ly6G (granulocyte differentiation antigen 6)+) を定量した。腫瘍担当肺・縦隔リンパ節・末梢血・脾臓のT細胞でTIM-3 (T-cell immunoglobulin mucin-3)・LAG-3 (lymphocyte-activation gene 3)・CTLA-4 (cytotoxic T-lymphocyte-associated protein 4)・FOXP3 (forkhead box P3)の表面発現を測定した。BALF (bronchoalveolar lavage fluid) 中のIL-6・PGRN (progranulin) はELISAで測定した。

RNA-seq解析: ソートしたT細胞 (CD45+TCRb (T cell receptor beta chain)+CD11b-CD11c-CD19-DX5 (CD49b, natural killer cell marker)-TER119 (erythroid lineage marker)-Ly6G (granulocyte differentiation antigen 6)-) および腫瘍細胞 (CD45-EpCAM+) のRNAを用いてRNA-seq解析を実施した。耐性 vs 未治療のsupervised解析を行い、T細胞機能抑制関連6遺伝子 (Havcr2 (hepatitis A virus cellular receptor 2)/TIM-3、Lag3、Pdcd1 (programmed cell death 1)、Foxp3、VISTA/4632428N05Rik、Btla (B and T lymphocyte attenuator)) を評価した。データはPRADAパイプラインでmm9 Ensembl annotation (release 65) にアラインし、CufflinksでFPKM (fragments per kilobase per million) 値を算出後、limmaパッケージで差次的発現解析を行った (|fold change|>1.25かつP<0.05)。データはNCBI BioProject (accession PRJNA305565) で公開されている。

治療介入試験: EGFR TLモデルで耐性確認後に抗TIM-3抗体 (clone RMT3-23、100 μg、IP、週3回) を順次追加し、PD-1単独群 (n=16) vs PD-1+TIM-3順次併用群 (n=11) で生存を比較した。統計: 2群比較にStudent’s t-test (両側)、3群比較に一元配置分散分析 (one-way ANOVA) Tukey多重比較検定を使用した。相関評価にPearson’s correlation coefficient、生存曲線にlog-rank testを適用した。全データをmean ± s.d.で表示した。患者検体: 抗PD-1抗体治療後に進行した2例のNSCLC患者由来の滲出液検体 (IRB承認プロトコール02-180、11-104、BIDMC 2001-P-001089下で収集)、未治療5例の滲出液 (CE)、および外科的切除原発腫瘍11例 (PT) を解析した。