- 著者: Patrick H. Lizotte, Elena V. Ivanova, Mark M. Awad, Robert E. Jones, Lauren Keogh, Hongye Liu, Ruben Dries, Christina Almonte, Grit S. Herter-Sprie, Abigail Santos, Nora B. Feeney, Cloud P. Paweletz, Meghana M. Kulkarni, Adam J. Bass, Anil K. Rustgi, Guo-Cheng Yuan, Donald W. Kufe, Pasi A. Jänne, Peter S. Hammerman, Lynette M. Sholl, F. Stephen Hodi, William G. Richards, Raphael Bueno, Jessie M. English, Mark A. Bittinger, Kwok-Kin Wong
- Corresponding author: Kwok-Kin Wong (Dana-Farber Cancer Institute, Boston, MA, USA)
- 雑誌: JCI Insight
- 発行年: 2016
- Epub日: 2016-09-08
- Article種別: Original Article
- PMID: 27699239
背景
免疫チェックポイント阻害薬 (anti-PD-1/PD-L1) は非小細胞肺癌 (NSCLC) の治療に革命をもたらし、一部の患者の予後を改善した。しかし、その奏効率は扁平上皮癌で15-33%、非扁平上皮癌で12-19%程度にとどまっており、治療反応性を予測する堅牢なバイオマーカーの確立が喫緊の課題である。特に、PD-L1免疫組織化学 (IHC) は現在最も広く用いられているバイオマーカーであるが、PD-L1高発現 (>50%) の腫瘍であっても客観的奏効率 (ORR) は最大39-45%に過ぎず、PD-L1陰性腫瘍でも奏効する例が存在するため、その予測能には限界があることが指摘されている Garon et al. NEnglJMed 2015、Herbst et al. Nature 2014。
腫瘍免疫微小環境は極めて複雑かつ空間的に不均一であり、T細胞はPD-1以外にも複数の抑制性受容体 (例: TIM-3, LAG-3, CTLA-4) を同時に発現し、PD-1阻害に対する適応抵抗性(adaptive resistance)の原因となることが報告されている。例えば、抗PD-1療法中にTIM-3の発現が上昇することが示されており、これは治療抵抗性の一因となる可能性がある。さらに、骨髄由来抑制細胞 (MDSC)、FOXP3+制御性T細胞 (Treg)、IL-10産生制御性B細胞 (Breg) などのT細胞外因子も、免疫チェックポイント阻害薬の治療奏効に影響を与えることが知られている Rizvi et al. Science 2015。これらの細胞集団は、腫瘍の進行と関連することが示唆されている。
先行研究では、NSCLCの組織型、特定の癌遺伝子ドライバー変異 (EGFR, KRAS)、喫煙歴などがPD-L1発現や免疫チェックポイント阻害薬への反応性と関連する可能性が示唆されている Borghaei et al. NEnglJMed 2015、Brahmer et al. NEnglJMed 2015。例えば、喫煙は体細胞変異の頻度を増加させ、これによりネオアンチゲンが生成され、T細胞介在性の腫瘍細胞溶解が誘発されやすくなることが報告されている McGranahan et al. Science 2016。しかし、NSCLCの免疫微小環境の多様性と、これらの因子が免疫表現型にどのように影響するかを包括的に特徴づけた研究はこれまで不足しており、治療反応性予測バイオマーカーの同定には、より詳細な免疫プロファイリングが必要であるという知識ギャップが残されている。特に、多次元的な免疫プロファイリングを用いたNSCLCの免疫表現型の分類と、その臨床的意義については未解明な点が多く、この点が本研究の主要な課題である。
目的
本研究の目的は、51例の非小細胞肺癌 (NSCLC) 切除検体に対し、多色フローサイトメトリー、次世代シーケンシング (NGS)、PD-L1免疫組織化学 (IHC)、およびmRNA発現解析を統合した多次元免疫プロファイリングを実施することである。これにより、NSCLCの腫瘍免疫微小環境における異質性を定量的に評価し、免疫学的に異なるサブタイプを同定する。さらに、これらの免疫表現型が臨床病理学的特徴、遺伝子変異、およびPD-L1発現とどのように関連するかを解析し、最終的に免疫療法への反応性を予測する上で有用なバイオマーカー候補を同定することを目指す。特に、最小限の免疫パラメータでこれらの免疫表現型を区別できるかを検証し、簡素化された臨床応用可能なバイオマーカー開発の可能性を探索する。
結果
NSCLC腫瘍は’hot’と’cold’の2つの主要な免疫クラスターに分類される: t-SNEクラスタリング解析により、51例のNSCLC検体は免疫学的に明確な2つの主要なクラスターに分離された (Figure 5)。一つは「hot」クラスターであり、CD8+ T細胞が豊富に浸潤し、これらのT細胞がPD-1およびTIM-3を高いレベルで発現していることが特徴であった。もう一つは「cold」クラスターであり、CD8+ T細胞の相対的な量が少なく、抑制性マーカーの発現も低い傾向を示した。また、hotクラスター内には高顆粒球浸潤を伴う小さなサブグループも存在したが、T細胞の表現型マーカーの類似性からhotクラスターに分類された。組織型別に見ると、腺癌はhot/coldクラスターにほぼ均等に分布したが、扁平上皮癌はhotクラスターに有意に集積していた (Figure 5G)。KRASおよびEGFR変異はクラスター分類と有意な相関を示さなかったが、8例のEGFR変異腫瘍は全てPD-L1陰性であった (Figure 5H)。
突然変異量がhot/cold分類と相関: OncoPanel NGSにより検出された体細胞変異の総数は、hotクラスターの腫瘍でcoldクラスターと比較して有意に高値であった (p<0.01) (Figure 5J)。喫煙歴 (pack years) もhotクラスターに集積する傾向が見られたが、統計学的な有意差は認められなかった (p=0.11) (Figure 5I)。これは、変異量と喫煙歴の既知の相関関係と一致する。
Tリンパ球マーカーの多様な特徴: NSCLC全体として、CD19+ B細胞、FOXP3+ Treg、およびCD8+ T細胞 (特にCD45RO+メモリーCD8+ T細胞) の浸潤が正常肺と比較して有意に増加していた (Figure 3B)。一方、NK細胞およびNKT細胞は減少していた。PD-1、TIM-3、CTLA-4といった抑制性受容体は、腫瘍組織において正常肺よりも一様に高発現していた (Figure 4B)。LAG-3は本コホートのT細胞では全般的に発現が認められなかった。腺癌において、KRAS変異を有する腫瘍は、EGFR変異腫瘍やKRAS/EGFR陰性腫瘍と比較して、CD4+およびCD8+ T細胞におけるPD-1発現が有意に高かった (Figure 4C)。PD-L1陽性腫瘍では、腫瘍細胞のみがPD-L1陽性 (TC+IC-) の場合と、腫瘍細胞と免疫細胞の両方がPD-L1陽性 (TC+IC+) の場合、および免疫細胞のみがPD-L1陽性 (TC-IC+) の場合で、免疫細胞浸潤パターンやPD-1/TIM-3発現に有意な差は認められなかった (Figure 3D, Figure 4D)。
IFN-γシグネチャーによるhotクラスターの検証: NanoString遺伝子発現解析により、hotクラスターの腫瘍は、T細胞の遊走および細胞傷害性機能に関連する遺伝子群の発現が有意に高いことが示された (Figure 6)。具体的には、CXCL9 (p=0.0039)、CXCL10、IDO1、granzyme B、IFNγ、STAT1、TIM-3の発現がcoldクラスターと比較して有意に上昇しており、これは抗PD-1抗体であるペムブロリズマブの奏効性と関連することが報告されている「IFN-γシグネチャー」と一致する結果であった。対照的に、GM-CSFはhotクラスターで発現が低下していた。
最小限の3マーカーでhot/cold分類が可能: hot/coldクラスターを区別する上で最も有意な差を示した免疫パラメータは、CD8+ T細胞におけるTIM-3発現率 (p=7.39E-08)、PD-1発現率 (p=2.17E-06)、およびCD8+ T細胞の絶対量 (p=1.06E-04) であった。これらの3つのパラメータのみを用いてt-SNEクラスタリングを再計算したところ、元の15パラメータを用いた解析結果とほぼ完全に一致し、わずか1例のみがcoldからhotクラスターへ移動しただけであった (Figure 7A)。この結果は、これらの3つの免疫パラメータがNSCLCの免疫表現型を簡便かつ効果的に区別できる可能性を示唆している。
IL-10産生Bregの発見とTLSの評価: 約20%のNSCLC検体で高B細胞浸潤が認められた (Figure 1)。フローサイトメトリー解析により、腫瘍組織内には少量ながらCD24hi IL-10+ Breg集団が存在することが確認されたが、正常肺組織にはこの集団は検出されなかった (Figure 8A)。単細胞RNAシーケンス (scRNA-seq) 解析では、合計9 cellsのIL-10+ B細胞が同定され、これらは全て腫瘍由来であり、正常肺からは検出されなかった。これらのIL-10+ B細胞は、形質細胞様の転写プロファイル (MYCシグネチャー活性化、酸化的代謝亢進) を示したが、従来のBregマーカー (CD24, CD27, CD38) の豊富化は認められなかった (Figure 8B, C)。これは、Bregの表現型同定における既存マーカーの限界を示唆する。また、組織学的評価では、22例中20例のNSCLCでTLS (tertiary lymphoid structure) が検出されたが、TLSの存在量とhot/coldクラスターとの間には有意な相関は認められなかった (Supplemental Figure 7E)。
PD-L1 IHCの限界の指摘: 免疫細胞のみがPD-L1陽性 (TC-IC+) の腫瘍と、腫瘍細胞がPD-L1陽性 (TC+) の腫瘍は、免疫細胞浸潤パターンやPD-1/TIM-3発現パターンが類似していることが示された (Figure 3D, Figure 4D)。このことは、腫瘍細胞のみのPD-L1 IHC評価では、免疫療法に奏効する可能性のある患者の一部が見逃される可能性があることを示唆している。
考察/結論
本研究は、非小細胞肺癌 (NSCLC) の免疫微小環境が、単なる遺伝子変異の延長ではなく、独立した異質性軸 (hot/coldクラスター) を持つことを、多次元プロファイリングによって初めて体系的に示した。従来の層別化因子であるKRAS/EGFR変異や喫煙歴が免疫表現型を直接予測しないという知見は、チェックポイント阻害薬の適応決定において、これらの因子だけでは不十分であることを明確化する。
新規性: 本研究で初めて、フローサイトメトリー、次世代シーケンシング、mRNA発現解析、PD-L1 IHCを統合した多次元解析により、NSCLCが免疫学的に「hot」と「cold」の2つの主要なクラスターに分類されることを明らかにした。特に、CD8+ T細胞のTIM-3発現、PD-1発現、およびCD8+ T細胞量の3つの免疫パラメータのみで、これらのクラスターをほぼ完全に再現できることを示した点は新規性が高い。これは、より簡便で臨床応用可能なバイオマーカー開発への道を開くものである。また、IL-10産生Bregの単細胞RNAシーケンス解析により、これらのB細胞が形質細胞様の転写プロファイルを持つことを同定した点も新規な知見である。
先行研究との違い: 従来のPD-L1 IHCは腫瘍細胞のみを評価することが多いが、本研究ではTC-IC+ (免疫細胞のみPD-L1陽性) とTC+ (腫瘍細胞PD-L1陽性) の腫瘍が類似した免疫表現型を示すことを明らかにした。これは、PD-L1 IHCの判定基準が免疫細胞のPD-L1発現を考慮すべきであるという点で、これまでの評価方法と異なる視点を提供する。また、KRAS/EGFR変異や喫煙歴が免疫表現型と直接相関しないという結果は、一部の先行研究の報告とは対照的であり、免疫微小環境の複雑性を浮き彫りにする。
臨床応用: 本研究の知見は、免疫チェックポイント阻害薬の治療戦略に重要な臨床的含意を持つ。特に、CD8+ T細胞のTIM-3/PD-1発現とCD8+ T細胞量の3パラメータでhot/cold分類が可能であるという発見は、免疫療法への反応性を予測するための簡素化されたバイオマーカー候補を提示する。これにより、より適切な患者選択が可能となり、治療効果の最大化に貢献しうる。また、PD-L1 IHCにおいて免疫細胞のPD-L1発現を評価に含める必要性を示唆するデータは、診断基準の再考を促す。hotクラスターであっても、FOXP3+ Tregの高値や高顆粒球浸潤が認められるサブグループは、T細胞抑制機構の存在を示唆しており、抗TIM-3抗体や抗CTLA-4抗体、あるいは骨髄系抑制を標的とした併用療法が有望である。さらに、IL-10産生Bregの存在は、B細胞を標的とした併用治療 (例: NCT02403271のdurvalumab+ibrutinib) の理論的根拠を与える可能性がある。
残された課題: 本研究は切除検体を用いた横断的研究であり、治療前後の免疫微小環境の動態は未評価である点がlimitationとして挙げられる。また、全エクソームシーケンス (WES) を実施しておらず、分子的な喫煙シグネチャーと免疫表現型との詳細な関連を評価できていない。IL-10産生Bregの機能的役割や、その免疫抑制メカニズムについては、さらなる研究が必要である。最後に、本研究で提案されたPD-1/TIM-3/CD8の3マーカーモデルが、免疫療法奏効予測において実際に有効であるかについては、今後の前向き臨床試験による検証が残された課題である。
方法
検体および臨床情報: 51例のNSCLC新鮮切除組織(腺癌42例、扁平上皮癌7例、腺扁平上皮癌1例、その他1例)を収集した。これらの検体に対し、PD-L1 IHC (43例)、OncoPanel NGS (42例) およびデジタルドロップレットPCR (ddPCR) (50例) による遺伝子変異解析、NanoString Human PanCancer Immune Profiling Panel (29例) によるmRNA発現解析を実施した。患者の性別、人種、組織型、PD-L1 IHCスコア、遺伝子変異、ネオアジュバント化学療法歴、病期、喫煙歴などの臨床病理学的データも収集された (Table 1)。
多色フローサイトメトリー: 腫瘍組織および対応する正常肺組織をバルク解離後、多色フローサイトメトリーにより主要な免疫細胞系統を詳細にプロファイリングした。CD4+およびCD8+ T細胞の分化状態 (FOXP3, CCR7, CD45RA, CD45RO)、活性化マーカー (CD69, CD11a, CD38)、抑制性受容体 (PD-1, TIM-3, LAG-3, CTLA-4)、および増殖マーカー (Ki-67) の発現を測定した。また、単球、顆粒球、および腫瘍細胞 (CD45-EpCAM+として定義) におけるPD-L1およびPD-L2の発現も評価した。使用した抗体パネルは多岐にわたり、詳細な免疫細胞のサブセット解析を可能にした。
クラスタリング解析: フローサイトメトリーで得られた15の免疫パラメータ(Supplemental Figure 9にリスト)を用いて、t-SNE (t-distributed stochastic neighbor embedding) アルゴリズムによる教師なし多次元削減クラスタリング解析を実施した。これにより、NSCLC検体の免疫表現型の類似性に基づいて、客観的なクラスターを同定した。
遺伝子発現解析: NanoString nCounter Human PanCancer Immune Profiling Panelを用いて、770種類の免疫関連遺伝子のmRNA発現量を定量化した。特に、インターフェロン-γ (IFN-γ) シグネチャー遺伝子 (CXCL9, CXCL10, IDO1, GZMB, IFNG, STAT1) の発現レベルに注目し、フローサイトメトメトリーによるクラスター分類との関連を解析した。遺伝子発現データはNCBI GEO公共データリポジトリ (GSE84799) に寄託されている。
単細胞RNAシーケンス (scRNA-seq): 高B細胞浸潤を認めるNSCLC腫瘍検体および対応する正常肺からCD19+ B細胞をソーティングし、Smart-Seq2プロトコルを用いて単細胞RNA-seqを実施した。合計130 cells(正常肺47 cells、腫瘍83 cells)が品質管理フィルターを通過した。IL-10産生B細胞 (Breg) の同定と、その転写プロファイルの解析を行った。データはTophat version 2.0.10およびFeatureCountsを用いて処理され、DESeq2により差次発現遺伝子が検出された Liao et al. Bioinformatics 2014、Love et al. GenomeBiol 2014。
免疫組織化学 (IHC): ホルマリン固定パラフィン包埋組織切片を用いて、PD-L1、Pu.1、BSAP (B cell-specific activator protein/PAX5)、CD3の二重染色IHCを実施した。PD-L1発現は腫瘍細胞 (TC) および免疫細胞 (IC) の両方で評価された。TLS (tertiary lymphoid structure) の存在は、BSAP/CD3二重染色を用いて手動で定量化された。
統計解析: 統計学的有意差の評価には、unpaired Student’s t-testおよびFisher’s exact testを用いた。多重比較補正にはBenjamini-Hochberg FDR補正を適用した。P値が0.05未満の場合を有意と判断した。