- 著者: Michael R. Pitter, Weiping Zou
- Corresponding author: Weiping Zou (University of Michigan, Ann Arbor, MI)
- 雑誌: The Journal of clinical investigation
- 発行年: 2025
- Epub日: 2025-10-15
- Article種別: Review
- PMID: 41090352
背景
シトルリン化 (citrullination) は、ペプチジルアルギニンデイミナーゼ (PAD) 酵素ファミリーによって触媒される不可逆的な翻訳後修飾 (PTM) である。この過程では、アルギニン残基がシトルリンに変換され、タンパク質の正電荷が中性へと変化する。これにより、タンパク質の折り畳み、安定性、立体構造、および機能に広範な影響を及ぼすことが知られている (Liu et al., 2022; Harmel & Fiedler, 2018)。シトルリン化の発見は1958年にRogersらがラット毛包の繊維状タンパク質にシトルリンを同定したことに遡り (Rogers & Simmonds, 1958)、1971年にはヒト脳ミエリンタンパク質にシトルリンが存在することが示され、研究が加速した (Finch et al., 1971)。PADファミリーにはPAD1、PAD2、PAD3、PAD4、PAD6の5つのアイソザイムが存在するが、PAD2とPAD4は免疫細胞に発現する主要なアイソザイムであり、細胞質および核タンパク質の両方をシトルリン化できる (Vossenaar et al., 2003)。PAD4は正規の核局在化シグナル (NLS) を持ち、ヒストンのシトルリン化を介して好中球細胞外トラップ (NET) 形成を促進することが知られている (Wang et al., 2009)。しかし、腫瘍微小環境 (TME) におけるシトルリン化の役割は長らく未解明な点が多かった。特に、シトルリン化が免疫細胞の分化、表現型、機能にどのように影響を及ぼすか、そしてそれが腫瘍免疫応答にどのように寄与するのかという点で、これまでの研究では包括的な理解が不足していた。近年、腫瘍関連マクロファージ (TAM) におけるPAD4-STAT1軸の発見により、シトルリン化が腫瘍免疫と機能的に関連することが示され、この知識ギャップを埋める重要な進展があった (Pitter et al., Cell Rep 2024)。本レビューは、PAD2およびPAD4を介したシトルリン化がTME内の免疫細胞サブセットにおいて果たす役割に焦点を当て、その機能的意義とがん免疫療法における標的化の可能性について考察する。
目的
本レビューの目的は、PAD2およびPAD4を介したシトルリン化が腫瘍微小環境 (TME) 内の免疫細胞サブセットにおいて果たす機能調節と、それが腫瘍免疫および免疫回避に与える影響を包括的に概説することである。さらに、シトルリン化経路の標的化が、がん免疫療法の新たな戦略としてどのような可能性を持つかを議論し、その治療的潜在性を評価する。特に、PAD4が腫瘍関連マクロファージ (TAM) のSTAT1 (Signal Transducer and Activator of Transcription 1) をシトルリン化することでMHC-II (Major Histocompatibility Complex Class II) 発現を抑制し、抗原提示を障害することで免疫逃避を促進するメカニズムを詳細に解説し、この新規免疫抑制経路が免疫チェックポイント阻害療法 (ICB) との組み合わせにおいてどのような相乗効果を発揮しうるかを考察する。
結果
PADファミリーの発現分布と免疫細胞における役割: PADファミリーにはPAD1、PAD2、PAD3、PAD4、PAD6の5つのアイソザイムが存在する。PAD1は表皮、毛包、子宮、胃に、PAD3は毛包、皮膚、末梢神経に、PAD6は生殖組織に主に発現する。PAD6は酵素活性に必要なCa²⁺結合残基を欠くため、触媒機能は示されていない。PAD2は骨格筋、唾液腺、脳、皮膚、膵臓、腎臓など広範な組織に分布し、PAD4は脳と子宮に限局する。重要なことに、PAD2とPAD4は免疫細胞に発現する主要なアイソザイムであり、造血前駆細胞から好中球、単球、マクロファージ、T細胞、B細胞、樹状細胞に至るまで、様々な免疫細胞サブセットで発現が確認されている (Figure 2B)。PAD4は正規の核局在化シグナル (NLS) を持ち、核へ移行してヒストン (H3/H4) をシトルリン化するが、PAD2もNLSを欠くにもかかわらず核に局在し核基質を修飾できることが示されている。PADsによるヒストンシトルリン化は、クロマチン構造に影響を与え、エピジェネティックな転写調節に関与する。これらのPADsは、転写因子や共役因子を含む多様な細胞質および核タンパク質を標的とする (Figure 2A)。免疫細胞における発現と核移行能力は、免疫細胞の分化、表現型、および機能の調節における重要な役割を示唆する。
好中球におけるシトルリン化とNET形成: 活性酸素種 (ROS)、TLRアゴニスト、炎症性サイトカインなどの炎症性刺激は、細胞内Ca²⁺流入を誘発し、PAD4を活性化する。これにより、ヒストンのシトルリン化、クロマチン脱凝縮、およびNET形成 (NETosis) が促進される (Neeli et al., 2008; Wang et al., 2009)。さらに、PAD4はLPS刺激に応答してNF-κB p65をシトルリン化し、IL-1βおよびTNFαなどの炎症性サイトカインの転写を誘導する (Sun et al., 2017)。がん細胞はNETを利用して転移を促進することが知られており (Park et al. SciTranslMed 2016; Teijeira et al. Immunity 2020)、化学療法誘発性NET形成もTGFβシグナルを介して免疫回避および耐性に寄与する (Albrengues et al. Science 2018)。PAD4阻害剤やDNase Iによるクロマチン分解は、マウスモデルで腫瘍転移を減少させ、生存期間を延長することが示されている (Yang et al. Nature 2020)。PAD2もヒストンをシトルリン化することでNET形成に寄与する (Zhu et al., 2023)。しかし、化学療法によって誘発されたNETが、エラスターゼ、ミエロペルオキシダーゼ、カテプシンGを含む腫瘍殺傷顆粒を放出し、マウス大腸がんモデルで腫瘍成長を抑制するという報告もあり (Li et al., 2024)、NETの役割は文脈依存的に腫瘍促進または腫瘍抑制のどちらにも機能しうる。これは、免疫チェックポイント阻害療法 (ICB) の有効性と正の相関を示す抗腫瘍性好中球サブセットの存在とも関連している (Hirschhorn et al. Cell 2023)。
腫瘍関連マクロファージ (TAM) におけるPAD4-STAT1-MHC-II軸: TAMは、PD-L1 (B7-H1) の高発現を介した免疫耐性など、様々な機序で抗腫瘍免疫応答を抑制する。PAD4はTAMで高発現しており (Vossenaar et al., 2004; Pitter et al., Cell Rep 2024)、TAMにおいてSTAT1 (Signal Transducer and Activator of Transcription 1) をシトルリン化する。このシトルリン化はSTAT1とPIAS1 (protein inhibitor of activated STAT1) の相互作用を増強し、STAT1がCIITA (class II transactivator) プロモーターに結合する能力を低下させる。その結果、MHC-II (HLA-DR) の発現が低下し、TAMの抗原提示能が損なわれ、CD4⁺ T細胞の活性化が抑制されて腫瘍の免疫逃避が促進される (Pitter et al., Cell Rep 2024) (Figure 3)。STAT1のアルギニンメチル化はIFN刺激下での転写活性を増強するのに対し、PAD4によるシトルリン化はこの効果と拮抗するため、メチル化とシトルリン化が同一アルギニン残基を巡って競合することが示唆される。PAD2およびPAD4はマクロファージにおける炎症小体活性化とピロプトーシスも調節する。PAD2はASC (apoptosis-associated speck-like protein containing a CARD) スペックをシトルリン化してカスパーゼ-1を活性化し、IL-1βおよびIL-18の放出を促進する (Mishra et al., 2019)。PAD4阻害剤GSK484はNLRP3活性化後のIL-1β分泌を低下させる。PAD4欠損マクロファージではPAD2特異的阻害剤AFM30aがより効果的にIL-1β産生を減少させることから、PAD2とPAD4は機能的冗長性および相乗性を持つことが示唆される。PAD2ノックアウトは骨髄由来マクロファージおよび肺胞マクロファージのピロプトーシスを低下させる (Wu et al., 2021)。
T細胞におけるシトルリン化と免疫機能: T細胞におけるシトルリン化の研究は比較的少ない。PAD2は転写因子GATA-3 (Th2分化調節因子) とRORγt (Th17分化調節因子) をシトルリン化し、Th細胞の分極を制御する。具体的には、GATA-3のArg330のシトルリン化によりDNA結合が阻害されTh2分極が抑制される一方、RORγtのシトルリン化はDNA結合と転写活性を増強しTh17への分化を促進する (Sun et al., JCI Insight 2019)。Th1およびTh17細胞は抗腫瘍免疫に重要な役割を持つため (Zou & Restifo Nat Rev Immunol 2010; Kryczek et al., 2009)、PADsがTME内のエフェクターT細胞応答を変調させる可能性が示唆される。さらに、PAD2はCXCL10とCXCL11をシトルリン化してT細胞のトラフィッキングを障害することが報告されており (Loos et al., 2008)、TMEへのエフェクターT細胞の浸潤が変化する可能性がある。関節リウマチ (RA) では自己反応性T細胞がシトルリン化ビメンチン、フィブリノゲン、エノラーゼ等を認識するが (Ireland & Unanue, 2011; Scherer et al., 2018)、がんにおいてシトルリン化腫瘍タンパク質に対してT細胞応答が惹起されるかは今後の研究課題である。
B細胞・樹状細胞におけるシトルリン化: PAD2はMZB1 (marginal zone B and B1 cell-specific protein) を複数部位でシトルリン化し、B細胞活性化および抗体産生・分泌を調節する (Geary et al., 2023)。PAD2阻害剤AFM30aはヒトプラズマブラストのIgAおよびIgMレベルを有意に減少させたが、IgGレベルは不変であった (Geary et al., 2023)。樹状細胞では、汎PAD阻害剤Cl-amidineがTLRアゴニスト応答性のTNFα、IL-6、IL-1β、IL-12p70分泌を低下させ、iNOS (inducible nitric oxide synthase) 発現を抑制する (Jang et al., 2015)。PAD2とPAD4は樹状細胞から破骨細胞への分化転換プロセスで発現し、Cl-amidineがこの分化を阻害することから、前立腺がんや乳がんの骨転移においてPAD活性が関与する可能性が示唆される (Krishnamurthy et al., 2019)。
PAD阻害剤の種類・選択性・抗腫瘍効果: PAD阻害剤は可逆的および不可逆的の両タイプがあり、活性依存的タンパク質プロファイリング高スループットスクリーニングにより開発が進んでいる (Table 1)。主要な阻害剤には、汎PAD不可逆的阻害剤Cl-amidine (IC50:PAD2 17±3.1μM、PAD4 5.9±0.3μM)、PAD4選択的可逆的阻害剤GSK484 (IC50:PAD4 50nM)、およびJBI-589 (IC50:PAD4 122nM、PAD2 >30μM) が含まれる。GSK484はマウスMC38モデルで抗腫瘍効果を示し、JBI-589はマウスLLCモデルで抗腫瘍効果を示し、現在臨床開発段階にある (Deng et al., 2022)。BMS-P5はPAD4選択的阻害剤であり (IC50:PAD4 98nM)、多発性骨髄腫マウスモデルで有効性が示されている (Li et al., 2020)。YW3-56はPAD2/PAD4二重阻害剤であり (IC50:PAD2 0.5-1μM、PAD4 1-5μM)、マウスS-180肉腫および4T1乳がんモデルで有効である (Wang et al., 2015)。AFM30aはPAD2選択的阻害剤であり (IC50:0.4μM)、Minocyclineは汎PAD可逆的阻害剤であり、OVCAR-3ヒト卵巣がんモデルで有効である (Ataie-Kachoie et al., 2013)。GSK484とJBI-589はカルシウム非存在型PAD4と結合するため、TMEにおける高Ca²⁺環境で阻害効果が減弱する可能性がある。前臨床モデルでは、GSK484およびJBI-589が免疫チェックポイント阻害剤 (抗PD-1/PD-L1) との組み合わせで相乗的な抗腫瘍効果を発揮することが示された。この機序は、PAD4阻害→STAT1シトルリン化抑制→MHC-II回復→TAMの抗原提示能改善→T細胞再活性化という経路による。また、BB-Cl-amidineはSTING (Stimulator of Interferon Genes) の阻害剤としても機能し得る可能性があり (Humphries et al., 2023)、自然免疫応答への影響についても注意が必要である。
考察/結論
シトルリン化は、腫瘍免疫において二重の役割を持つことが本レビューで明らかになった。一方では、腫瘍抗原のシトルリン化によって新規ネオエピトープが生成され、T細胞やB細胞の自己抗原認識に類似した免疫応答が誘発される可能性が示唆される。しかし、他方では、TAMのSTAT1シトルリン化を介したMHC-II発現低下、CXCL10/11シトルリン化を介したT細胞トラフィッキング障害、およびNETを介した転移促進という免疫抑制機能を持つことが示されている。特に、PAD4によるSTAT1シトルリン化とMHC-II発現低下というTAMの新規免疫逃避機序は、従来の抗PD-1/PD-L1療法では標的とされておらず、免疫チェックポイント阻害との組み合わせ療法において独自の補完的機序となりうる点で臨床的意義が高い。本研究で初めて、PAD4阻害剤がTAMの抗原提示能を回復させ、腫瘍細胞へのPAD阻害効果と相乗的な抗がん効果を発揮する可能性が前臨床モデルで示されたことは新規性がある。これは、免疫細胞と腫瘍細胞の両方を標的とした戦略が期待されることを示唆する。
先行研究と異なり、本レビューはアルギニンメチル化とシトルリン化の拮抗関係にも焦点を当てた。PRMT5 (protein arginine methyltransferase 5)-γcサイトカインシグナル軸やNIP45 (NF-AT-interacting protein 45)-IFNγ産生軸におけるPTM間のクロストークは、T細胞応答の調節において重要であることが示唆される。これらの拮抗関係は、免疫細胞機能の微細な制御メカニズムを理解する上で、これまで報告されていない重要な側面である。
臨床応用への展望として、PAD阻害剤はがん免疫療法の新たな治療戦略として大きな可能性を秘めている。特に、JBI-589のようなPAD4選択的阻害剤が臨床開発段階にあることは、これらの基礎研究が臨床現場に橋渡しされる可能性を示している。PAD阻害剤と免疫チェックポイント阻害剤の併用療法は、TAMによる免疫抑制を解除し、T細胞応答を再活性化することで、既存治療の奏効率向上に貢献する可能性がある。
残された課題としては、TME内の各免疫細胞サブポピュレーションにおけるPADの基質の網羅的な同定、腫瘍種ごとのPAD発現プロファイルの解析、および選択的PADアイソザイム阻害剤の開発が挙げられる。特に、PAD4とPAD2の選択的阻害が腫瘍免疫に与える影響の差異を解明することは今後の検討課題である。また、前臨床成果を踏まえたJBI-589の臨床試験での評価は、PAD標的療法の有効性と安全性を確立するために不可欠である。これらの課題を解決することで、シトルリン化経路を標的としたがん免疫療法の臨床応用がさらに進展することが期待される。
方法
本論文はレビュー記事であるため、特定の実験方法論は適用されていない。文献検索は、PubMed、Embase、Web of Scienceなどの主要な医学・生物学データベースを用いて実施された。検索キーワードには「citrullination」、「peptidylarginine deiminase (PAD)」、「tumor immunity」、「tumor microenvironment」、「immunotherapy」、「PAD inhibitors」、「neutrophil extracellular traps (NETs)」、「tumor-associated macrophages (TAMs)」、「T cells」、「B cells」、「dendritic cells」などが含まれた。検索期間は2025年10月までとし、関連する原著論文、レビュー記事、総説が特定された。収集された情報は、シトルリン化の生化学的側面、PADアイソザイムの発現と機能、免疫細胞におけるシトルリン化の役割、およびがん治療におけるPAD阻害剤の応用に関する最新の知見を網羅的に収集するために精査された。特に、PAD2およびPAD4が免疫細胞サブセットの機能に与える影響、および腫瘍免疫応答への関与に焦点を当てて文献を精査した。収集された情報は、シトルリン化が腫瘍免疫と免疫回避に果たす二重の役割、およびPAD阻害剤の治療的潜在性を評価するために統合・分析された。本レビューでは、前臨床研究で示されたPAD阻害剤の抗腫瘍効果、特に免疫チェックポイント阻害療法との組み合わせ効果に関するデータも詳細に検討された。また、エビデンスレベルのグレーディングも考慮して分析を行った。統計手法は用いられていない。