- 著者: Juwon Park, Robert W. Wysocki, Zohreh Amoozgar, Laura Maiorino, Miriam R. Fein, Julie Jorns, Anne F. Schott, Yumi Kinugasa-Katayama, Youngseok Lee, Nam Hee Won, Elizabeth S. Nakasone, Stephen A. Hearn, Victoria Küttner, Jing Qiu, Ana S. Almeida, Naiara Perurena, Kai Kessenbrock, Michael S. Goldberg, Mikala Egeblad
- Corresponding author: Mikala Egeblad (Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY, USA)
- 雑誌: Science Translational Medicine
- 発行年: 2016
- Epub日: 2016-10-19
- Article種別: Original Article
- PMID: 27798263
背景
好中球は循環白血球で最多の分画であり、感染防御機構として phagocytosis、脱顆粒、Neutrophil extracellular traps (NETs) の3様式で機能する。NETsはクロマチンDNAと好中球エラスターゼ (NE)、ミエロペルオキシダーゼ (MPO) 等の顆粒タンパクからなるメッシュ状構造体で、細菌やウイルスを捕捉・殺傷する。これらのNETsは、感染症や炎症反応において重要な役割を果たすことが知られている Brinkmann et al. Science 2004。
近年、NETsが癌の進行、特に転移において重要な役割を果たす可能性が示唆されている。先行研究では、実験的全身細菌感染や外科的ストレスによって誘導されたNETsが循環腫瘍細胞 (CTC) を捕捉し、肝臓への転移seedingを促進することが示されていた Cools-Lartigue et al. JClinInvest 2013。また、γδT細胞、IL-17、G-CSF、好中球を介する軸が乳癌肺転移を促進することも報告されている Coffelt et al. Nature 2015。さらに、好中球が転移開始乳癌細胞の肺への定着を支援することが示されている Wculek et al. Nature 2015。しかし、これらの研究では、癌細胞自体が感染や外科的ストレスを必要とせず好中球にNETsを形成させうるかについては未検証であった。また、NETs形成が腫瘍から転移先臓器への癌細胞到達後の初期seeding過程でどのように機能するかは不明な点が残されていた。
化学療法による好中球減少 (neutropenia) に対する予防的G-CSF投与は多くの化学療法レジメンで推奨されているが、好中球増加がNETs介在性転移リスクを増悪させる懸念があり、その臨床的意義の解明が急務であった。NETsが癌細胞の浸潤や遊走を直接促進するメカニズム、およびDeoxyribonuclease I (DNase I) による治療的NETs分解が転移抑制に有効であるかどうかの検証は、新たな治療戦略を開発する上で重要な知識ギャップを埋めるものとなる。本研究は、これらの未解明な点を明らかにし、NETsが転移促進における新たな治療標的となる可能性を評価することを目的とした。特に、癌細胞が自律的にNETsを誘導する機構、およびその転移促進における役割については、これまで詳細な解析が不足していた。
目的
本研究の目的は、転移性乳癌細胞が感染非依存的に肺でNETsを誘導するかを新規開発した共焦点intravital lung imaging (CILI) で検証することである。加えて、NETsが癌細胞のinvasion(浸潤)およびmigration(遊走)を促進する機構を詳細に解明し、DNase Iによる治療的NETs分解が転移抑制に有効かどうかをマウスモデルとヒト臨床検体で評価することを目指した。具体的には、以下の点を明らかにすることを目的とした。
- 転移性乳癌細胞 (4T1) が非転移性乳癌細胞 (4T07) と比較して、より多くの好中球浸潤とCXCL1発現を誘導するかを評価する。
- CXCL1が好中球動員とNETs形成、および肺転移に寄与するかを、shRNAによるCxcl1ノックダウン細胞株を用いて検証する。
- CILIを用いて、転移性癌細胞が肺に到達した際にNETsをリアルタイムで形成するかを可視化し、その形成がDNase I感受性であるかを確認する。
- In vitroにおいて、NETsが癌細胞のMatrigel invasionおよびTranswell migrationを直接促進するか、またその効果がNETsのDNA成分に依存するかを評価する。
- DNase Iコートナノ粒子 (DNase I-NP) または遊離DNase Iが、マウスの肺転移病巣数に与える影響を評価し、NETs分解が転移抑制の治療標的となりうるかを示す。
- ヒトトリプル陰性乳癌 (TNBC) 患者の臨床検体において、NETsの存在を確認し、マウスモデルで得られた知見の臨床的妥当性を支持する。
結果
転移性4T1腫瘍での好中球高浸潤とCXCL1依存的NETs誘導: 4T1原発腫瘍は、非転移性4T07腫瘍と比較して有意に高い好中球浸潤を示した (Ly6G陽性細胞数: 4T1で約50/視野 vs 4T07で約10/視野、p=0.0009、unpaired t-test)。CXCL1タンパク発現も4T1で有意に高く (p<0.01)、Ly6G陽性好中球密度と正の相関を示した (Figure 1, A-C)。4T1細胞の生着後19日時点で、ルシフェラーゼ標識細胞の肺への播種が4T07と比較して顕著に多く確認された。Cxcl1 shRNAノックダウン株 (shCxcl1.559およびshCxcl1.914) は、ヌードマウスでの原発腫瘍増殖に影響しなかったが (n=5 mice/群、腫瘍体積曲線に有意差なし)、BALB/cマウスでのルシフェラーゼ標識細胞の肺転移数 (19日後) を有意に減少させた (p=0.0008、one-way ANOVA + Dunnett’s multiple comparison; shLuci.1309対照 vs shCxcl1.559でp<0.01、vs shCxcl1.914でp<0.01) (Figure 1D)。また、Cxcl1ノックダウン4T1をヌードマウスに移植した場合も肺転移数は有意に減少した (t-test、p=0.03) (Figure 1F)。これらの結果は、CXCL1が好中球動員、NETs誘導、そして転移seedingの上流シグナルとして機能することを定量的に確立した。
CILIによる肺内NETsの初リアルタイム可視化とDNase I感受性: 新規開発した共焦点intravital lung imaging (CILI) をLysM-EGFPマウス(好中球・単球がGFP陽性)に適用した。4T1 (転移性) 細胞を静脈注射後30〜60分において、4T1細胞周囲にextracellular DNAとNEの共局在を示すNET様構造が観察され、静脈内投与されたDNase Iによりこの構造が消失した (Figure 1, G-H)。非転移性4T07細胞ではNET様構造は確認されなかった (p=0.002、Fisher’s exact test)。MPOとcitrullinated histone H3 (cit-H3) の二重免疫染色による肺内NETsの定量では、4T1注入後の肺でNETs数が有意に増加した (n=3 mice/群、4T07 vs 4T1: p=0.002、4T1 vs 4T1 + DNase I: p=0.005、one-way ANOVA) (Figure 1, K-L)。DNase I投与後に肺内NET数が4T07レベルまで低下したことは、観察されたDNA構造がNETsに由来することを確認した。これは、転移性癌細胞が感染非依存的に肺内で急性NETs誘導を引き起こすことを初めてリアルタイムで可視化した知見である。
NETsが癌細胞invasion/migrationを直接促進し、可溶性成分では効果なし: 精製好中球をPMA刺激して得たNETs存在下での4T1細胞のMatrigel invasionおよびTranswell migrationが対照と比較して有意に増強した (Figure 3C)。DNase I添加(NETs DNA分解)またはCI-amidine(PAD4阻害、NETs形成阻止)添加により、この増強は完全に消失した (Figure 3, D-F)。重要な点として、好中球エラスターゼ (NE)、MPO、histone (H2A、H2B、H3、H4) の単独添加では4T1細胞のinvasionもmigrationも増強しなかった。この結果は、NETs-DNA足場上に構造化されたタンパク複合体全体が機能単位であり、個別の可溶性タンパク質成分では機能を再現できないことを示した。また、抗Ly6G抗体による好中球枯渇 (in vivo) でも4T1転移数が減少した。これらを合わせ、NETs→癌細胞運動性亢進→肺転移seedingという因果関係がin vitroおよびin vivoの両レベルで確立された。CM (conditioned medium) を用いた実験では、NETs形成を誘導した好中球のCMが癌細胞浸潤を促進したが、DNase I処理または熱変性によりその効果は消失した (Figure 5F, Figure S6)。これは、DNAメッシュに結合したタンパク質因子が浸潤促進に重要であることを示唆する。
DNase I-NPによる転移抑制と原発腫瘍増殖への影響なし: DNase I表面コートナノ粒子 (DNase I-NP) をBALB/c 4T1担持マウスに静脈注射すると、対照ナノ粒子群と比較して肺転移病巣数が約60%減少した (p<0.05) (Figure 6, C-D)。遊離DNase Iと比較して、ナノ粒子製剤は血中循環半減期が延長され (遊離DNase Iの約3倍)、肺でのNETs持続分解が可能となった (Figure 6B)。実験的肺転移モデルにおいて、DNase I-NP投与群では9匹中3匹のマウスで転移が検出されなかったのに対し、対照群の10匹全てで転移が検出された。DNase I-NPは、検出可能な個別の転移巣の数を有意に減少させ (p=0.0003)、転移巣の平均サイズも減少させた (p=0.01) (Figure 6, E-F)。原発腫瘍体積は、対照ナノ粒子群、DNase I-NP群、遊離DNase I群のいずれでも有意差がなく (Figure 6G)、NETs阻害が原発腫瘍制御ではなく転移特異的に作用することが示された。この治療結果は、NETs-転移seeding軸が独立した治療標的となりうることを示すproof-of-conceptとして重要である。
NETsが4T1腫瘍内・周辺血管内にも観察される: CILIにより、4T1原発腫瘍内でも細胞外DNAとNEの共局在を示す構造が確認された。血管内好中球が4T1細胞と接触した際にNET様構造を形成する様子も観察され、癌細胞と好中球の直接細胞接触がNET形成を誘導しうることが示唆された。
ヒトTNBC臨床検体でのNETs検出: トリプル陰性乳癌 (TNBC) 患者の手術切除検体(ミシガン大学、複数症例)でMPOとcit-H3の二重免疫染色を実施したところ、腫瘍内のストローマ領域においてMPOとcit-H3が共局在するNETs構造が同定された (Figure 2A)。Yellow arrow (intact好中球) とwhite arrow (NETs) を免疫染色画像で区別し、NETs形成が感染や外科的ストレスが存在しないヒト乳癌組織内でも自律的に起こっていることを示した。マウスモデルの知見がヒト乳癌の病理に存在することが確認され、本研究の臨床的妥当性が支持された。NETsの数は、原発腫瘍と肺転移病変間で有意差はなかったが (Figure 2B)、トリプル陰性乳癌で最も多く検出された (Figure 2C, p=0.04)。
考察/結論
本研究は、癌細胞自体がCXCL1を介して好中球を肺に動員しNETs形成を誘導し、NETsが癌細胞のinvasion/migrationを直接増強することで転移seedingを支援するという、これまで知られていなかった腫瘍-宿主間相互作用をintravital imagingで初めて可視化した点で画期的な意義を持つ。これは、先行するCools-Lartigue et al. JClinInvest 2013 (感染/外科ストレス依存のNETs-転移) の知見を「感染非依存・癌細胞自律的なNETs誘導」へと拡張し、NETs-転移軸の普遍性を示した点で新規性が高い。
先行研究との違い: 先行研究であるCoffelt et al. Nature 2015 (γδT/IL-17/G-CSF/好中球軸) は好中球が全身的に転移を促進することを示したが、本研究はNETsという具体的な構造体が肺での転移seedingの分子的足場になることを初めて直接証明した点で対照的である。また、Granot et al. CancerCell 2011 は好中球が転移を抑制する可能性を示唆したが、本研究は転移性癌細胞がNETsを誘導して転移を促進するという異なるメカニズムを明らかにした。
新規性: 本研究で初めて、転移性乳癌細胞が感染非依存的に肺内でNETsを誘導する様子をCILIでリアルタイムに可視化した。また、NETs-DNA足場上に構造化されたタンパク複合体全体が癌細胞の浸潤・遊走を直接促進する機能単位であり、個別の可溶性タンパク質成分ではその機能を再現できないことを新規に示した。
臨床応用: CXCL1→好中球動員→NETs形成→癌細胞invasion促進→転移seedingという経路は、化学療法と予防的G-CSF投与を受けている患者において好中球増加がNETs誘導を増悪させ、転移リスクを高める懸念を示唆する。DNase I-NPは原発腫瘍非依存的に転移特異的標的として機能することが示され、化学療法中のG-CSF投与を行う患者における転移予防アジュバントとしての開発が合理的に見える。また、PAD4阻害薬 (CI-amidine) もNETs形成阻止という別のアプローチを提供する。本研究で初めて、ヒトトリプル陰性乳癌組織内でもNETsが検出されたことは、マウスモデルの知見がヒト乳癌の病理に存在することを確認し、本研究の臨床的意義を強く支持する。
残された課題: 今後の検討課題として、(1) NETs介在転移抑制がヒトで実際に機能しているかを示す前向き臨床データ、(2) ヒト乳癌でのNETs量と転移再発・予後の相関の大規模コホート検証、(3) DNase I-NPとG-CSF以外の好中球動員抑制 (CXCR2拮抗薬等) の組み合わせ最適化、(4) NETs-cancer cell axisにおける下流機構 (EMT誘導・血管透過性亢進・cancer stem cell再活性化) の解明、(5) 他のがん種 (膵癌・肺癌・肝癌) での同様機序の検証が挙げられる。特に、DNase Iの短い血中半減期というlimitationを克服したDNase I-NPの開発は、NETsを標的とした治療戦略の実現可能性を示す重要な一歩である。
方法
本研究では、転移性4T1乳癌細胞と非転移性4T07乳癌細胞のorthotopic移植モデルをBALB/cマウスに用いた。好中球浸潤は、Ly6G免疫染色により定量的に比較した (4T1 vs 4T07)。CXCL1のNET誘導への寄与を評価するため、shRNAによるCxcl1ノックダウン細胞株 (shCxcl1.559およびshCxcl1.914) を作製し、ヌードマウスおよびBALB/cマウスでの原発腫瘍増殖と肺転移数への影響を評価した。
肺でのNET形成のリアルタイム可視化のため、新規に共焦点intravital lung imaging (CILI) を開発した。LysM-EGFPマウス(好中球がGFP陽性)に4T1または4T07細胞を静脈注射後30〜60分で観察を行った。NETsの確認には、細胞外DNAとNEの共局在、およびMPOとcitrullinated histone H3 (cit-H3) の二重免疫染色を用いた (n=3 mice)。
In vitro実験では、PMA (phorbol 12-myristate 13-acetate) 刺激好中球由来NETs存在下での4T1細胞のMatrigel invasionおよびTranswell migrationアッセイを実施した。このアッセイでは、DNase I(NETs DNA分解)およびCI-amidine(PAD4阻害、NETs形成阻害)の効果を評価した。また、NE、MPO、histone等のNET構成成分の単独添加も実施し、その効果を比較した。好中球はマウス骨髄から単離し、Matrigelコート膜の上部に癌細胞を加えて共培養した。
治療実験として、DNase Iコートナノ粒子 (DNase I-NP) または遊離DNase Iを4T1担持マウスに静脈内注射し、肺転移病巣数に対する効果を定量した。DNase I-NPは、DNase Iを表面に固定化したナノ粒子であり、血中安定性の向上が期待された。DNase I-NPは、遊離DNase Iと比較して血中濃度が有意に高く維持された (Figure 6B)。自発転移モデルにおいてもDNase I-NPの効果を評価し、毎日腹腔内注射で投与した。
ヒト臨床検体として、トリプル陰性乳癌 (TNBC) 患者の手術検体(ミシガン大学提供)を使用し、MPOとcit-H3の共染色によるNETs検出を実施した。これにより、ヒト乳癌組織内でのNETs形成の有無を確認した。
統計解析はGraphPad Prismソフトウェアバージョン5および6を使用し、両側t検定または一元配置分散分析 (ANOVA) を用いて行った。α値は0.05とした。転移病巣数および病巣サイズの解析では、分散の有意な差 (p=0.007およびp=0.0003) のため、平方根変換後にt検定を実施した。CILI画像の解析者は、介入群について盲検化された。