- 著者: Arvind Ravi, Matthew D. Hellmann, Monica B. Arniella, Mark Holton, Samuel S. Freeman, Vivek Naranbhai, Chip Stewart, Ignaty Leshchiner, Jaegil Kim, Yo Akiyama, Aaron T. Griffin, Natalie I. Vokes, Mustafa Sakhi, Vashine Kamesan, Hira Rizvi, Biagio Ricciuti, Patrick M. Forde, Valsamo Anagnostou, Jonathan W. Riess, Don L. Gibbons, Nathan A. Pennell, Vamsidhar Velcheti, Subba R. Digumarthy, Mari Mino-Kenudson, Andrea Califano, John V. Heymach, Roy S. Herbst, Julie R. Brahmer, Kurt A. Schalper, Victor E. Velculescu, Brian S. Henick, Naiyer Rizvi, Pasi A. Jänne, Mark M. Awad, Andrew Chow, Benjamin D. Greenbaum, Marta Luksza, Alice T. Shaw, Jedd Wolchok, Nir Hacohen, Gad Getz, Justin F. Gainor
- Corresponding author: Nir Hacohen (Broad Institute, Cambridge, MA, USA); Gad Getz (Broad Institute); Justin F. Gainor (Massachusetts General Hospital)
- 雑誌: Nature Genetics
- 発行年: 2023
- Epub日: 2023-04-06
- Article種別: Original Article
- PMID: 37024582
背景
進行非小細胞肺癌 (NSCLC) の治療において、PD-1/PD-L1阻害薬の導入は治療パラダイムを大きく変革した。しかし、未選択の患者における奏効率は約20%に留まっており、治療効果をより正確に予測するバイオマーカーの確立と、治療抵抗性メカニズムの解明が喫緊の課題である。これまでの研究では、PD-L1タンパク質発現と腫瘍変異負荷 (TMB) が主要な予測バイオマーカーとして確立されているものの、変異のクローン性、炎症性微小環境、EGFRやSTK11などの個別遺伝子変異の関与といった新たな知見が報告されつつある。例えば、Rizvi et al. Science 2015は、TMBがPD-1阻害薬への感受性を決定することを示し、Reck et al. NEnglJMed 2016はPD-L1発現が奏効と関連することを報告している。しかし、これらの多様な分子学的特徴を統合的に解析し、治療応答の包括的な理解を深めるための大規模かつ多次元的なNSCLC特異的コホートデータが不足していた。特に、PD-1/PD-L1阻害薬単独療法だけでなく、CTLA-4阻害薬や化学療法との併用療法を受けた患者群における、ゲノムおよびトランスクリプトームレベルでの詳細な解析は未解明な点が多かった。
本研究は、この知識ギャップを埋めることを目的とし、Stand Up To Cancer-Mark Foundation (SU2C-MARK) NSCLCコホートにおける大規模な統合解析を実施した。このコホートは、9つの施設から集められた393例の進行NSCLC患者を対象とし、治療前のホルマリン固定パラフィン包埋 (FFPE) 検体から得られた全エクソームシーケンス (WES) およびRNAシーケンス (RNA-seq) データを統合的に解析した初の試みである。これにより、従来のバイオマーカーでは捉えきれなかった、新たな予測因子や抵抗性メカニズムの特定が期待された。特に、免疫プロテアソームの発現や腫瘍内在性サブタイプといった転写レベルでの特徴と、ゲノム変異やコピー数変異 (CNV) との関連性を包括的に評価することは、個別化医療の進展に不可欠であると考えられた。
目的
本研究の目的は、PD-(L)1阻害薬による治療を受けた進行NSCLC患者393例の治療前FFPE検体から得られたWES (n=309) およびRNA-seq (n=152) データを統合的に解析し、以下の点を包括的に明らかにすることである。(1) 治療奏効または抵抗性に関連する新規のゲノム変異およびコピー数変異 (CNV) を同定すること。(2) ネオアンチゲン負荷、HLA状態、およびT細胞・B細胞受容体レパートリーといった免疫認識関連因子と治療応答との関連性を評価すること。(3) 転写レベルでのバイオマーカー、特に差次的に発現する遺伝子、Hallmark遺伝子セット、および免疫プロテアソーム構成要素の発現パターンを特定すること。(4) 腫瘍の免疫微小環境 (M) サブタイプおよび腫瘍内在性 (TI) サブタイプを定義し、これらのサブタイプがチェックポイント阻害薬への応答にどのように影響するかを解明すること。最終的に、これらの多層的な分子学的特徴を統合し、NSCLCにおけるチェックポイント阻害薬応答の包括的な予測モデルを構築するための基盤データを提供することを目指した。
結果
ゲノム変異と奏効の関連: SU2C-MARKコホートの基礎解析では、非同義TMB (nonsynonymous TMB) が奏効カテゴリと強く関連することが示された (p=6×10⁻⁹)。奏効群 (PR/CR) の中央値TMBは14.0 mut/MB、安定疾患 (SD) 群では9.0 mut/MB、進行疾患 (PD) 群では7.4 mut/MBであった (Figure 1c)。また、EGFR変異やKRAS/STK11共変異は、先行研究と同様にチェックポイント阻害薬に対する抵抗性因子として確認された (Extended Data Fig. 1c,d)。49個の既知肺癌ドライバー遺伝子に対するロジスティック回帰解析では、ATM変異が奏効と最も有利に関連することが示された (FDR q=0.04, OR=3.5, 95% CI 1.5-8.0) (Figure 1d)。この関連性は、独立したMSK-IMPACTコホートでも検証され、ATM変異患者におけるPD-(L)1阻害薬治療後の全生存期間 (OS) の有意な延長が認められた (p=0.03) (Extended Data Fig. 2b)。これはATM変異が予後因子ではなく、予測的バイオマーカーとしての役割を持つことを示唆する。準有意な関連を示した遺伝子としては、EGFR (q=0.12, OR=0.29)、RBM10、ARID1A、KEAP1、SMARCA4が挙げられた。
コピー数変異 (CNV) と奏効の関連: コピー数変異の解析では、TERT遺伝子を含む5p15.33領域の局所的増幅がチェックポイント阻害薬への抵抗性と有意に関連することが明らかになった (q=0.07, OR=0.59, 95% CI 0.40-0.87) (Figure 1e)。この関連性は、MSK-IMPACTコホートでは再現されなかったが、これはパネルデータにおける増幅検出感度の限界に起因する可能性が考えられる (Extended Data Fig. 3c)。この解析では、n=309のWESサンプルが用いられた。
ネオアンチゲン負荷と変異シグネチャ: 総ネオアンチゲン負荷は奏効の強力な予測因子であった (q=4×10⁻⁵, OR=8.8, 95% CI 4.2-19) (Figure 1f)。クローン性ネオアンチゲン負荷も有意な関連を示したが (q=2×10⁻⁴, OR=5.4, 95% CI 2.7-11)、サブクローン性ネオアンチゲン負荷および総サブクローン数には有意な関連は認められなかった。変異シグネチャでは、喫煙関連シグネチャ (SBS4) が奏効と最も強く関連し (q=5×10⁻⁵)、次いでindel負荷 (q=2×10⁻⁵)、APOBEC関連シグネチャ (SBS13, q=0.01)、加齢関連シグネチャ (SBS5, q=0.05) が続いた (Figure 1f)。HLA-LOH、B2M変異、HLAアレル多様性については、本コホートでは奏効との関連は観察されなかった。ネオアンチゲン予測にはNetMHCPan-4.0が用いられ、n=309の患者データが解析された。
転写系予測因子と免疫プロテアソームの重要性: RNA-seqデータを用いたゲノムワイドな差次発現解析 (limma voom) では、PSME1、PSME2、PSMB9の3遺伝子が奏効と有意に関連することが示された (p_adj<0.05) (Figure 2a)。これらは全て免疫プロテアソームの構成要素である。さらに、IFN-γ誘導性転写産物 (TAP1, CD274, CXCL9/10/11) やリンパ球受容体遺伝子 (CD3D, CD7) も奏効群で高発現していた。抵抗性に関連する遺伝子としては、AUTS2、TCF7L1 (Wnt/β-cateninシグナル伝達経路に関与)、PDLIM3、KALRNが同定された。Hallmark GSEAでは、奏効群でALLOGRAFT_REJECTION、INTERFERON_GAMMA_RESPONSE、DNA_REPAIR経路が濃縮され、抵抗性群ではEPITHELIAL_MESENCHYMAL_TRANSITION、WNT_BETA_CATENIN_SIGNALING、TGF_BETA_SIGNALING経路が濃縮された (Figure 2b)。
特に、免疫プロテアソーム構成要素 (PSMB8, PSMB9, PSMB10, PSME1, PSME2) の発現は、従来のIFN-γターゲット遺伝子全体 (P=9×10⁻⁹) やプロテアソーム全体 (P=2×10⁻⁵) よりも奏効との関連性が有意に強かった (Figure 2c)。IFN-γとTNF-αの線形結合モデルは、免疫プロテアソーム発現をIFN-γ単独モデル (R²=0.19) よりもよく説明した (R²=0.31) (Figure 2d)。これは、免疫プロテアソームが複数のサイトカインカスケードの統合因子として機能し、HLAクラスI提示のためのペプチドエピトープ生成を効率化している可能性を示唆する。この解析にはn=152のRNA-seqサンプルが使用された。
免疫サブセットシグネチャと微小環境 (M) サブタイプ: 単一細胞RNAデータ由来の免疫細胞サブセットシグネチャの解析では、疲弊CD8+T細胞 (exhausted CD8+T cell) シグネチャが奏効と最も強い正の関連を示した (Figure 2e)。一方、単球/マクロファージおよび樹状細胞シグネチャは抵抗性と最も強い正の関連を示した。さらに詳細な解析では、hMono3 (S100A8高発現) およびhN3 (CXCR2高発現) の骨髄系サブタイプが抵抗性と関連することが示された (Extended Data Fig. 6)。B-NMFを用いた微小環境 (M) サブタイプ解析では、M-1 (創傷治癒/EMT)、M-2 (免疫活性化/allograft rejection/IFN-γ response)、M-3 (免疫砂漠/E2F targets) の3つのサブタイプが同定された (Figure 3a,b)。M-2サブタイプは最も高い奏効率を示した (P=0.06) (Figure 3e)。
腫瘍内在性 (TI) サブタイプ: 腫瘍内在性 (TI) 発現因子を特定するため、TCGA LUAD/LUSCおよびLCNEコホート (n=1,082) を用いてB-NMF解析を実施し、4つのTIクラスター (TI-1~TI-4) を同定した (Figure 4b)。TI-1は脱分化型 (dedifferentiated) と特徴づけられ、内胚葉系マーカーが高く、従来の腺癌/扁平上皮癌マーカーが低かった (Figure 4c)。このTI-1サブタイプは、SU2C-MARKコホートにおいてチェックポイント阻害薬への奏効と有意に関連することが示された (q<0.1) (Figure 5a)。TI-1サブタイプは、高いTMBと免疫活性化M-2サブタイプとの強い関連性も示した (Figure 5b)。TI-1とM-2の両方のシグネチャを持つ患者は、最も高い奏効率 (67% ORR) を示した (Figure 5c)。これは、TI状態と免疫Mシグナル伝達が独立して、かつ相加的にNSCLCにおける応答を制御する可能性を示唆する。
考察/結論
本研究は、SU2C-MARKコホートの統合解析を通じて、進行NSCLCにおけるチェックポイント阻害薬応答の生物学的決定因子が多層的であることを明らかにし、TMBやPD-L1発現といった既存のバイオマーカーを超える新規の予測因子群を提案した。
先行研究との違い: これまでの研究では、TMBやPD-L1発現が主要な予測因子とされてきたが、本研究では、Brahmer et al. NEnglJMed 2015やBorghaei et al. NEnglJMed 2015が示したような臨床試験結果を補完する形で、ゲノムおよびトランスクリプトームレベルでの詳細なメカニズムを解明した。特に、免疫プロテアソーム構成要素の発現が従来のIFN-γシグネチャよりも強力な予測因子であるという発見は、先行研究とは異なる新たな知見である。
新規性: 本研究で初めて、以下の4つの重要な発見がなされた。(1) ATM変異がPD-(L)1阻害薬への奏効と有利に関連する予測的バイオマーカーであること (FDR q=0.04, OR=3.5)。これは予後とは独立した予測的価値を持つ。(2) TERT増幅が抵抗性因子として機能すること (q=0.07, OR=0.59)。(3) 免疫プロテアソーム構成要素 (PSMB8, PSMB9, PSMB10, PSME1, PSME2) の発現が、IFN-γシグネチャ全体やプロテアソーム全体よりも強力な奏効予測因子であること (P=9×10⁻⁹)。(4) 脱分化型腫瘍内在性 (TI-1) サブタイプがチェックポイント阻害薬に高い感受性を示すこと。このTI-1サブタイプは、従来の組織学的分類では識別困難な、新規のチェックポイント阻害感受性サブタイプである。
臨床応用: これらの知見は、NSCLC患者の層別化と個別化医療の進展に大きく貢献する臨床的意義を持つ。免疫プロテアソームの発現は、IFN-γとTNF-αの両方の下流で誘導されるペプチド処理機構として、応答予測の最も鋭敏な指標となり得るため、将来的にRNA-seqパネルを用いた診断への応用が期待される。また、脱分化型TI-1サブタイプは転写プロファイルによって同定可能であり、PD-(L)1療法への高感受性患者を特定するための新たな層別化バイオマーカーとして利用できる可能性がある。ATM変異を有する患者は、DNA修復異常と免疫原性の関連性から、PD-(L)1療法の特に好適な対象となる可能性があり、治療戦略の最適化に繋がる。
残された課題: 今後の検討課題として、(1) 免疫プロテアソームを標的とした新規治療法の開発、(2) 脱分化型TI-1サブタイプの生物学的特徴 (例: EMTや神経内分泌分化転換との関連) およびチェックポイント阻害薬感受性機序のさらなる解明、(3) ATM変異やTERT増幅が免疫応答に影響を与える詳細なメカニズムの研究、(4) 本研究で同定された予測因子を統合した予測ノモグラムの構築と、独立した大規模コホートでの検証が挙げられる。本研究は、次世代のNSCLCチェックポイント阻害薬応答予測パネル設計のための強固な基盤と大規模なリソースを提供するものである。
方法
コホートと臨床データ: 本研究では、9つの施設から収集された進行NSCLC患者393例のSU2C-MARKコホートを解析対象とした。これらの患者は2009年から2019年の間にPD-(L)1阻害薬を含む治療を受けており、81%がPD-(L)1単剤療法、17%がCTLA4阻害薬併用療法、1%が化学療法併用療法であった。主要評価項目はRECIST v1.1基準に基づく最良総合効果 (BOR) であり、放射線科医による専門的なレビューによって決定された。組織型は腺癌が73%、扁平上皮癌が20%、大細胞神経内分泌癌 (LCNE) が2%、その他が4%であった。PD-L1発現データは224例で利用可能であり、TPS 1%未満が25%、1-49%が33%、50%以上が42%であった。
WES解析: FFPE腫瘍検体および対応する正常検体 (血液または隣接正常組織) からDNAを抽出し、WESを実施した。Broad Picardパイプライン (v2.2.1) を用いてhg19ゲノムにアラインメントし、MuTect、MuTect2、Strelkaを用いて体細胞変異 (SNVおよびindel) をコールした。ContEstによるサンプルコンタミネーション評価、Picard CrossCheckFingerprintsによるサンプルスワップ検出、DeTiN v1.7による腫瘍内正常細胞混入によるフィルタリング変異の回復、Oncotator v1.9によるアノテーションを行った。変異シグネチャ解析はSignatureAnalyzer Bayesian NMF (v1.2) を用いて実施し、TCGA LUAD、TCGA LUSC、およびSU2C-MARKコホートのサンプルを統合して7つのシグネチャを同定した。ネオアンチゲン予測はPOLYSOLVER (v1.0) でHLAクラスIアレルを同定後、NetMHCPan-4.0を用いて9merおよび10merペプチドの結合親和性を評価した。体細胞コピー数変異 (SCNA) 解析はGATK4 CNVパイプラインおよびGISTIC2.0を用いて実施し、再発性のコピー数変化領域を特定した。腫瘍純度とploidyはABSOLUTE (v1.5) を用いて推定し、PhylogicNDT (v1.0) でサブクローン構造を推測した。T細胞およびB細胞受容体レパートリーはMiXCR v3.0を用いてWESデータから同定した。
RNA-seq解析: RNA-seqデータはGTEx RNA-seqパイプラインを用いて処理し、GENCODE v19参照トランスクリプトームにアラインメントした。RNA-SeQC2 (v1.0) パイプラインで品質管理を行い、TPM (transcripts per million) 値として発現データを生成した。差次発現遺伝子解析はlimma voomを用いて、奏効群 (PR/CR) と非奏効群 (SD/PD) 間で実施した。Hallmark Gene Setsを用いた遺伝子セット濃縮解析 (GSEA) はfgseaパッケージ (v3.16) で行った。免疫微小環境 (M) サブタイプおよび腫瘍内在性 (TI) サブタイプは、Bayesian非負行列因子分解 (B-NMF) アルゴリズムを用いて同定した。Mサブタイプは差次発現遺伝子セットから3つのクラスター (M-1, M-2, M-3) を、TIサブタイプはTCGA LUAD/LUSCおよびGeorge et al.のLCNEコホート (n=1,082) を参照として4つのクラスター (TI-1~TI-4) を同定した。
統計解析: 各分子学的特徴とBORとの関連性は、奏効群 (PR/CR) 対非奏効群 (SD/PD) の二変量ロジスティック回帰モデルを用いて評価した。多重比較補正にはBenjamini-Hochberg法によるFDR (false discovery rate) を適用し、FDR q値が0.1未満を有意、0.25未満を準有意とした。生存解析にはKaplan-Meier曲線とログランク検定を用いた。