- 著者: Robbins PF, Lu YC, El-Gamil M, Li YF, Gross C, Gartner J, Lin JC, Teer JK, Cliften P, Tycksen E, Samuels Y, Rosenberg SA
- Corresponding author: Paul F. Robbins (Surgery Branch, National Cancer Institute, NIH, Bethesda, MD)
- 雑誌: Nature Medicine
- 発行年: 2013
- Epub日: 2013-05-05
- Article種別: Original Article
- PMID: 23644516
背景
米国国立がん研究所 (NCI) 外科部門のRosenbergらが実施した自家腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) 養子移入の第2相臨床試験では、転移性メラノーマ患者の最大70%に腫瘍退縮が観察され、最近の試験では40%の患者が5年以上持続する完全退縮を達成したことが報告されている (Dudley et al, Dudley et al. Science 2002, Rosenberg et al. 2011)。この高い有効性を裏付けると考えられる変異腫瘍抗原(ネオアンチゲン)の同定は、個別化免疫療法の基盤として極めて重要である。しかし、従来の抗原同定法であるcDNA発現ライブラリースクリーニングは、膨大な作業量と時間を要し、その煩雑さが臨床応用への大きな障壁となっていた。
近年、全エクソームシーケンシング (WES) の技術が急速に普及し、腫瘍特異的体細胞変異の包括的同定が技術的に可能となった。この技術革新は、T細胞が認識する変異エピトープの高効率な同定に新たな道を開くものと期待された。先行するマウスモデル研究では、WESと免疫原性変異ペプチド同定の組み合わせがその有効性を実証していた。具体的には、Matsushita et al. Nature 2012はメチルコラントレン誘発肉腫モデルにおいて、Castle et al. (2012) はB16F10マウスメラノーマモデルにおいて、WESを用いた変異抗原の同定とその免疫原性を報告している。しかし、これらの研究はマウスモデルに限定されており、ヒト腫瘍およびヒトTILを用いた臨床関連性の検証は未解明なままであった。
ヒトの臨床検体において、WESとMHC結合予測アルゴリズムを組み合わせたアプローチが、実際に養子免疫療法で腫瘍退縮を示した患者のTILが認識する変異抗原を効率的に同定できるか否かは、依然として重要な知識ギャップとして残されていた。特に、長期的な腫瘍退縮を達成した患者において、TILが認識する変異抗原がどのような特性を持ち、それが治療効果にどのように寄与しているのかは、さらなる研究が不足していた。本研究は、この知識ギャップを埋め、個別化がん免疫療法の発展に貢献することを目指した。
目的
本研究の目的は、腫瘍と正常細胞の全エクソームシーケンシング (WES) データおよび主要組織適合遺伝子複合体 (MHC) 結合予測アルゴリズムを組み合わせた新規スクリーニング法を開発し、その有効性を実証することである。具体的には、養子TIL移入療法後に客観的腫瘍退縮を示した転移性メラノーマ患者3例のTILsが認識する変異抗原を同定し、従来のcDNAライブラリー法に代わる、より簡便かつ迅速な汎用的手法としての本アプローチの有用性を検証する。これにより、個別化がん免疫療法の基盤となるネオアンチゲン同定の効率化と、その臨床的意義の解明を目指した。
結果
Patient 1 (TIL 2098): CSNK1A1、GAS7、HAUS3変異エピトープの同定: HLA-A0201高親和性結合候補55ペプチドを評価した結果、4つのペプチドで再現性のあるTIL反応性を確認した (IFN-γ産生量 約10,000 pg/mL; 自家腫瘍細胞刺激値と同程度; n=4ペプチド反応性/55候補)。予測ランク5位のnonamerとランク18位のdecamerは、CSNK1A1 (カゼインキナーゼ1α1) のS27L変異 (CC→TA dinucleotide置換) 由来の重複エピトープであった。変異nonamerの最小認識濃度は1 nMであり、野生型ペプチドは100〜10,000倍高濃度が必要であった (予測結合親和性は>1 μMから約10 nMへ向上)。ランク19位はGAS7変異由来ペプチドで、これは従来法で既に同定済みの既知エピトープであった (最小認識濃度: 1 nM; 変異アミノ酸はHLA-A0201結合アンカーを改善し予測結合親和性が39 nMから12 nMに向上)。ランク38位のHAUS3 (HAUSオーグミン様複合体サブユニット3) 変異エピトープは最小認識濃度0.1 nMを示したが、フルレングス遺伝子では認識されず、免疫プロテアソーム (β1i・β5iサブユニット発現HEK293細胞) でのみ内因性プロセシングが確認された (Figure 1g)。TIL 2098の自家腫瘍細胞への応答はpolyclonal activator (PMA/ionomycin) 刺激に対する応答の約60%に達し (n=7,300 spots per 10^5 cells vs. 約4,400)、2098 mel細胞が強力なTIL活性化刺激を提供することが確認された。
Patient 2 (TIL 2369): PLEKHM2、PPP1R3B変異エピトープの同定: HLA-A0101候補53ペプチドの評価 (n=53; うち3ペプチドは既存ペプチドと重複のため未評価) では、PLEKHM2 (プレクストリンホモロジー領域含有ファミリーMメンバー2) 変異decamer (予測ランク2位) とPPP1R3B (プロテインホスファターゼ1調節サブユニット3B) 変異nonamer/decamer重複ペプチド (予測ランク17・23位) が高量のIFN-γを刺激した (TIL 2369のPMA/ionomycin刺激応答値21,800 spots/10^5細胞に匹敵する自家腫瘍刺激値約21,000 pg/mL)。PLEKHM2変異ペプチドの最小認識濃度は1.0 μM、PPP1R3Bは0.1 μMであった。両エピトープとも変異遺伝子導入細胞では認識されたが野生型では認識されなかった (Figure 2d)。HLA-A2601結合候補46ペプチド (予測親和性4〜259 nMの範囲) には反応性は認められなかった。Subject 2は初回TIL移入 (非骨髄破壊的化学療法前処置なし) では臨床反応なしであったが、骨髄破壊的前処置後の2回目移入で完全退縮を達成し、2回目移入後の末梢血 (n=11,000 spots/10^5 PBMCs; PBMC for PMA/I) でPLEKHM2・PPP1R3Bエピトープ反応性T細胞の増加が確認された (Figure 4b)。
Patient 3 (TIL 3309): MATN2、CDK12変異エピトープの同定: HLA-A0101結合候補29ペプチドには反応性なし。HLA-A1101候補46ペプチド評価では、MATN2 (マトリリン2) (von Willebrand factor A domain含有細胞外マトリックス蛋白質) のnonamer/decamer (予測ランク2・4位) とCDK12 (サイクリン依存性キナーゼ12) (DNA損傷応答遺伝子発現調節) のnonamer/decamer (予測ランク24・36位) がTIL 3309を強く刺激した (自家腫瘍刺激値4,600 pg/mLのIFN-γ)。MATN2変異nonamer/decamerの最小認識濃度は1 nM (野生型: 1 μMでも不認識)、CDK12変異nonamer/decamerは1 nM / 100 nMであった。TIL 3309移入1か月後の末梢血 (CD8+ T細胞が全CD3+の約90%を占有) でCDK12・MATN2反応性が検出されたが、移入前の末梢血では検出されず、TIL移入によりネオアンチゲン特異的T細胞が末梢に出現・拡大したことが確認された (Figure 4c)。
エクソームアプローチの汎用性と精度: 3例すべてのメラノーマTILsでWES由来の候補から変異エピトープを同定できた。エクソーム上の非同義変異のうちnonamer/decamerが実際のT細胞標的となる比率: Subject 1では55候補中4ペプチドが反応性 (7.3%)、同様の比率がSubject 2・3でも観察された。変異遺伝子発現確認のためRT-PCR+サンガーシーケンシングを実施し: 2098 mel細胞株では候補62ペプチドの遺伝子のうち19を増幅成功 (ただし3つはWTのみ発現)、2369 mel細胞株では56候補中27を増幅 (1つWTのみ)、3309 mel細胞株では46候補中28を増幅 (1つWTのみ)。いずれの症例でも最終的に同定された変異エピトープは発現確認された遺伝子由来であった。全5例 (3例の反応者+2例の非反応者) の評価から、4例でWESアプローチにより変異エピトープを同定でき (計8エピトープ)、非反応者の1例で単一エピトープのみ検出された。これらの結果は、WESとMHC結合予測アルゴリズムを組み合わせたアプローチが、メラノーマ患者におけるT細胞反応性変異抗原の同定において高い汎用性と精度を持つことを強く示唆する。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究は、全エクソームシーケンシング (WES) と計算機的MHC結合予測を組み合わせることで、従来の煩雑なcDNAライブラリースクリーニング法を置き換えうる効率的な変異抗原同定法を確立した初めてのヒト臨床研究である。先行するCastle et al. (2012) のB16F10マウスモデルでの変異ペプチド免疫原性確認や、Matsushita et al. Nature 2012のメチルコラントレン誘発肉腫モデルでのWES-T細胞免疫学の統合とは異なり、本研究は実際に長期完全退縮を達成した患者由来のTILおよび腫瘍細胞を用いて変異エピトープを同定した。さらに、その認識が養子移入後の末梢血 (n=3例すべてで1か月後に検出) に持続することを実証した点で、臨床的意義が極めて高い。
新規性: 本研究で初めて、WESとMHC結合予測を組み合わせたアプローチが、ヒトの臨床検体において、養子TIL移入療法後の腫瘍退縮に関連する変異抗原を効率的かつ網羅的に同定できることを新規に示した。CSNK1A1 S27Lエピトープが予測ランク5位のペプチドとして効率的に発見されたこと、またGAS7エピトープが従来法で同定済みだったにもかかわらず本法でも独立に再発見されたこと (予測ランク19位) は、本アプローチの妥当性を直接的に証明するものであった。これにより、個別化がん免疫療法の開発におけるネオアンチゲン同定のボトルネックを解消する画期的な手法が確立された。
臨床応用: 本知見は、TIL療法の有効性の中核がネオアンチゲン反応性T細胞クローンにあることを強く支持する。変異腫瘍抗原が個別のT細胞クローン頻度においてメラノサイト分化抗原やがん精巣抗原よりも優位な標的であるという先行データ (Kvistborg et al. 2012) と組み合わせると、本研究で同定されたネオアンチゲンは、個別化TCR-T細胞療法やネオアンチゲンワクチン開発の理論的根拠となりうる。実際に、本論文のアプローチはその後のネオアンチゲンワクチン開発 (Ott et al. 2017、Sahin et al. 2017: mRNA/ペプチドワクチンで各約10名の悪性メラノーマで長期免疫応答確認) や個別化TCR-T細胞療法の理論的根拠となり、ゲノム医療と細胞免疫療法の融合という個別化がん免疫療法の新分野の発端として、その臨床的有用性は非常に高い。
残された課題: 今後の検討課題として、本研究の患者数が3例と少数であり、「変異エピトープ認識が腫瘍退縮の主要機序である」という因果関係を確定するにはさらなる大規模な検証が必要である。また、HAUS3エピトープの認識に免疫プロテアソームが必須であった知見は、プロテアソーム組成の腫瘍内差異がネオアンチゲン提示の可変性を生む可能性を示唆しており、このメカニズムのさらなる解明が求められる。さらに、変異エピトープ選択においてHLA-A*0201高発現という偏りがあり、他のHLAアリルや異なる腫瘍種への一般化には追加検証が必要である。これらのlimitationを克服し、本アプローチの適用範囲を広げることが今後の研究の方向性となる。
方法
対象患者: 本研究では、養子TIL移入療法後に客観的腫瘍退縮を示した転移性メラノーマ患者3例を対象とした。
- Subject 1: 53歳女性。TIL 2098の移入後に全転移巣の完全退縮を達成し、6年間持続した(その後、卵巣癌で死亡)。HLA-A*0201陽性であった。
- Subject 2: 32歳男性。脳、肝臓、傍門脈リンパ節に転移を有する症例で、TIL 2369の移入後に完全退縮を達成し、記事執筆時点で6.5年間持続していた。HLA-A0101およびHLA-A2601陽性であった。
- Subject 3: 27歳女性。脳、肺、大腿、膝窩部に転移を有する症例で、TIL 3309の移入後にほぼ完全退縮を達成したが、6か月後に大腿および胸壁に再発を認めた。HLA-A0101およびHLA-A1101陽性であった。 全ての患者は臨床試験への同意を取得済みであり、米国国立がん研究所の治験審査委員会によって承認されたインフォームドコンセントフォームに署名している。
変異同定のための全エクソームシーケンシング (WES): 各患者の腫瘍細胞株(2098 mel、2369 mel、3309 mel)と正常細胞からDNAを抽出し、Personal Genome Diagnostics社(メリーランド州ボルチモア)にてWESを実施した。イルミナ HiSeq 2000を用いて、各サンプルから80億塩基以上のシーケンスデータを取得し、標的コーディング領域4300万塩基以上を解析した。正常および腫瘍DNAの各部位で平均42〜51リードの深度を確保した。シーケンスデータはヒト参照ゲノム配列 (hg18) にマッピングされ、既知の一塩基多型 (SNP) を除去した後、非同義体細胞変異を特定した。2098 mel細胞株では264個、2369 mel細胞株では574個、3309 mel細胞株では278個の非同義体細胞変異が同定された。これらの変異の80〜90%はC/GからT/Aへのトランジションであり、非末端部メラノーマにおける紫外線誘発変異のパターンと一致した。
エピトープ予測と検証: 同定された非同義体細胞変異部位を中心とした19アミノ酸のポリペプチドをNetMHCPan2.4アルゴリズム (Nielsen et al. 2007) で走査し、各患者のHLA-Aアリルに高親和性で結合すると予測されるnonamerおよびdecamerの候補ペプチドを選定した。
- Subject 1 (HLA-A0201): 55個のHLA-A0201結合候補ペプチドを選定した。
- Subject 2 (HLA-A0101, HLA-A2601): 53個のHLA-A0101結合候補ペプチドと46個のHLA-A2601結合候補ペプチドを選定した。
- Subject 3 (HLA-A0101, HLA-A1101): 29個のHLA-A0101結合候補ペプチドと46個のHLA-A1101結合候補ペプチドを選定した。 合成された候補ペプチドは、T2細胞 (HLA-A*0201陽性) または293-A1/COS-A11細胞に負荷し、自家TILsとの一夜共培養によりインターフェロン-γ (IFN-γ) 放出を酵素結合免疫吸着測定法 (ELISA) で評価した。自家腫瘍細胞刺激値に匹敵するIFN-γ産生が得られたペプチドをヒット候補とし、野生型ペプチドとの反応性比較、遺伝子導入による内因性プロセシング確認、およびELISPOTアッセイ(PMA/ionomycin刺激での最大値との比較)で検証した。ELISPOTアッセイでは、TIL 2098は2,000細胞/ウェル、TIL 2369およびTIL 3309は1,000細胞/ウェル、PBMCは100,000細胞/ウェルで播種された。PMA/ionomycin刺激群は全て1,000細胞/ウェルで播種された。統計解析には、IFN-γ放出量の比較にStudent t-testが用いられた。