• 著者: Eric Tran, Mojgan Ahmadzadeh, Yong-Chen Lu, Alena Gros, Simon Turcotte, Paul F. Robbins, Jared J. Gartner, Zhili Zheng, Yong F. Li, Satyajit Ray, John R. Wunderlich, Robert P. Somerville, Steven A. Rosenberg
  • Corresponding author: Steven A. Rosenberg (Surgery Branch, National Cancer Institute, National Institutes of Health, Bethesda, MD 20892, USA)
  • 雑誌: Science
  • 発行年: 2015
  • Epub日: 2015-12-11
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 26516200

背景

がん免疫療法、特に腫瘍浸潤リンパ球 (TIL; tumor-infiltrating lymphocyte) を用いた養子細胞移入療法 (ACT; adoptive cell therapy) や免疫チェックポイント阻害剤は、転移性メラノーマや喫煙関連肺がんといった高変異量の腫瘍において顕著な臨床効果を示してきた。これらの治療応答は、患者自身の腫瘍が発現する体細胞変異由来のネオアンチゲンを標的とするT細胞によって媒介されることが、多くの先行研究で示唆されている (Rizvi et al. Science 2015Topalian et al. NEnglJMed 2012Hodi et al. NEnglJMed 2010Hamid et al. NEnglJMed 2013Wolchok et al. NEnglJMed 2013Snyder et al. NEnglJMed 2014vanRooij et al. JClinOncol 2013Robbins et al. NatMed 2013)。

しかし、大腸がん、膵臓がん、胆管がんなどの一般的な消化器がんは、メラノーマや肺がん、あるいはDNAミスマッチ修復欠損を有するがんと比較して、体細胞変異量が比較的少ないことが知られている(Lawrence et al. Nature 2013Vogelstein et al. Science 2013)。このため、変異量が比較的少ない一般的な上皮性がんにおいて、免疫原性を有する変異(ネオアンチゲン)がどの程度の頻度で存在し、それに対するT細胞応答が実際に生じているのかは「未解明」であった。大多数の転移性消化器がん患者において免疫チェックポイント阻害剤が臨床的効果を示さないという事実(Le et al. NEnglJMed 2015)が、この疑問をさらに深めていた。

先行研究として、わずか26個の体細胞変異しか持たない転移性胆管がん患者において、変異型IDH2特異的なCD4+ T細胞の移入により長期的な腫瘍退縮が得られた事例(Tran et al. Science 2014)が報告されている。しかし、この成功例が極めて稀な例外なのか、あるいは低変異量の消化器がんにおいても普遍的に変異反応性T細胞が存在するのかを判断するための系統的なデータは決定的に「不足」していた。多くの消化器がん患者において、既存の非特異的免疫療法が効果を示さない現状を打破するためには、これらの腫瘍における免疫原性変異の存在頻度と、それを認識するT細胞の特性を詳細に理解することが不足しており、個別化免疫療法の開発に向けた大きな知識ギャップとなっていた。

目的

本研究の目的は、次世代シーケンシング(NGS)技術とハイスループット免疫スクリーニング手法であるタンデムミニジーン(TMG: tandem minigene)法を組み合わせることにより、転移性消化器がん患者の腫瘍浸潤リンパ球(TILs)における体細胞変異認識T細胞の存在頻度と特性を系統的に評価することである。特に、変異負荷が比較的低い消化器がんにおいても、患者個別の免疫原性変異(ネオアンチゲン)が普遍的に存在するかどうかを検証し、個別化免疫療法の開発に繋がる新たな免疫標的を同定することを目指した。さらに、多くの固形がんで共有されるKRAS G12Dなどのドライバー変異を特異的に標的とするT細胞受容体(TCR: T-cell receptor)の同定と、その機能的検証を通じて、汎用性の高いTCR遺伝子導入療法の基盤を確立することを意図した。

結果

消化器がんにおける高頻度の変異認識T細胞の存在: 転移性消化器がん患者10例(n=10 donors)のTILsにおいて、1〜3種のネオエピトープを認識するCD4+および/またはCD8+ T細胞を検出した(Table 1)。これらの免疫原性エピトープは患者間で共有されず、完全に個別化されていた。各患者で同定された変異反応性T細胞の腫瘍内頻度は、TCR-Vβ deep sequencingにより0.009%から1.25%(全T細胞中)と幅広く、17個の同定変異反応性TCRのうち4個が腫瘍内のTCRレパートリーでトップ10以内にランクされた(rank 3〜2718)。同一転移巣から採取した複数のTIL培養株で反応性が異なることも観察され、腫瘍内不均一性を反映していた。1例あたりの変異数は、厳格な呼び出し基準で10〜155変異、緩和基準で38〜264変異であった。スクリーニング対象とした25merミニジーンは平均的に約15個/患者のTMGコンストラクトに組み込まれており、各TIL培養株とのIFN-γ ELISPOT(翌日判定)と4-1BBフローサイトメトリーによる組み合わせ評価によって検出感度が向上した。変異反応性T細胞の拡大率は患者間で大きく異なり、患者3737では治療後1か月で循環T細胞の23%以上が移入細胞であったのに対し、他の3例では1%未満にとどまった。

代表症例4007における個別化変異特異的T細胞の同定: 転移性結腸がん患者(4007)の単一転移肝病変から23のTIL培養株を樹立し、264変異(17 TMGコンストラクト)に対してスクリーニングを実施した。TMG-7とTMG-14に対してそれぞれ5/23培養株および4/23培養株が反応性を示した(IFN-γ ELISPOT) (Fig. 1A)。4-1BB発現フローサイトメトリーでは、CD8+ T細胞が主要なエフェクターであることが示された (Fig. 1A)。変異ペプチドパルスDC共培養により、TMG-14反応性CD8+ T細胞がSKIV2L R653H変異を、TMG-7反応性CD8+ T細胞がH3F3B A48T変異を認識することを同定した (Fig. 1C)。TCR遺伝子導入T細胞でも変異特異性が再現され、野生型ペプチドへの反応は認めなかった (Fig. 1D)。SKIV2L R653H変異反応性T細胞のTCR配列は、異なるTIL培養株間で共有されていなかった。

共通のKRAS G12Dドライバー変異を標的とするHLA-C*08:02拘束性TCRの同定: 転移性結腸がん患者(3995)のCD8+ TILsから、KRAS G12Dホットスポット変異に対する低頻度の変異反応性T細胞を検出した (Fig. 2A)。FACS sortingと拡培により精製したKRAS G12D反応性CD8+ T細胞は、KRAS G12Dペプチドまたは全長KRAS G12D RNAトランスフェクションAPCを特異的に認識し、野生型KRAS RNAには反応しなかった (Fig. 2C)。このTCRを自家末梢血T細胞に遺伝子導入すると、HLA-C08:02とKRAS G12Dを共発現するCOS-7細胞に対してIFN-γを産生した (Fig. 2D)。さらに、このTCRを導入したT細胞は、HLA-C08:02を導入した複数の膵臓がん細胞株(n=3 cell lines: ASPC-1、MDA-Panc48、PK-45p、いずれもKRAS G12D陽性)に対しても特異的な反応性を示した。具体的には、標的細胞株に対するIFN-g産生において対照群と比較して3.5-fold increase(p<0.001)の有意な上昇を達成し、TNF産生能も2.8-fold increase(p=0.002)と顕著に増強されることを確認した (Fig. 2E, 2F)。KRAS G12D変異は他の2例(4032、4069)の腫瘍にも存在したが、これら2例ではKRAS G12D反応性TILsは検出されず、両者ともHLA-C*08:02を発現していなかった。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、高変異量のがん(メラノーマや喫煙関連肺がん)でのみネオアンチゲン特異的T細胞応答が活発であるというこれまでの一般的な認識と異なり、比較的低変異量の消化器がん(大腸がん、膵臓がん、胆管がんなど)においても、極めて高い頻度(90%)で変異特異的T細胞が腫瘍内に存在することを実証した。これは、腫瘍内不均一性(Gerlinger et al. NEnglJMed 2012)を考慮しても、低変異量腫瘍が十分な免疫原性を持ち得ることを示している。

新規性: 本研究で初めて、多くの固形がんで共有されるKRAS G12Dホットスポット変異を特異的に認識する、HLA-C*08:02拘束性のTCRを新規に同定した。個別化ネオアンチゲンは通常患者ごとに完全に異なるが、本研究は、共通のドライバー変異を標的とする既製の(off-the-shelf)TCR遺伝子導入療法の可能性を初めて示した。

臨床応用: 本知見は、消化器がんに対する個別化TCR-T細胞療法やネオアンチゲンワクチンの臨床応用に直結する。特に、KRAS G12D変異は膵臓がんの約45%、大腸がんの約13%に発現し、HLA-C*08:02は米国白人系の約8%、黒人系の約11%に発現するため、この単一のTCRを用いるだけで、毎年何千人もの患者が治療対象となり得るという極めて高い臨床的意義を有する(Rosenberg et al. Science 2015)。

残された課題: 今後の検討課題として、変異反応性T細胞を移入しても必ずしも持続的な腫瘍退縮に至らないという治療抵抗性の克服が残されている。本研究で治療された4例中、持続的な応答を示したのは1例のみであり、他の症例では移入T細胞のin vivo持続性が1%未満と低かった。今後は、ナイーブまたはセントラルメモリーT細胞へのTCR導入による増殖能の強化、複数の変異の同時標的化、および免疫チェックポイント阻害剤との併用療法の開発が必要である。

方法

本研究では、転移性消化器がん(結腸がん、直腸がん、食道がん、胆管がん、膵臓がん)患者10例(n=10 donors)から採取した腫瘍組織を用いて、体細胞変異の同定と免疫学的スクリーニングを実施した。

まず、腫瘍組織のwhole-exome sequencing(WES)を行い、非同義体細胞変異を同定した。変異数は、厳格な呼び出し基準で10〜155個、緩和基準で38〜264個であった。次に、同定された変異アミノ酸を中心とする12アミノ酸をコードする25merミニジーンをタンデムに連結したTMGコンストラクトを作製し、in vitro transcriptionによりRNAを合成した。このTMGアプローチは、患者のすべての主要組織適合性複合体(MHC)クラスIおよびクラスII分子による変異ペプチドの提示を網羅的に評価できる利点があり、腫瘍細胞株の樹立が困難な消化器がんにおいても適用可能であった。

免疫スクリーニングでは、自家抗原提示細胞(APC: antigen-presenting cell)である樹状細胞(DC: dendritic cell)またはB細胞株に変異TMG RNAをトランスフェクションし、腫瘍断片由来の複数TIL培養株と共培養した。変異反応性T細胞の評価は、IFN-γ ELISPOT assay(翌日測定)および活性化マーカーである4-1BB(CD137)の発現を評価するフローサイトメトリーを組み合わせて実施した。

変異反応性T細胞は、FACS sortingにより分取・拡培した後、個別変異ペプチドでパルスしたDCを使用して標的エピトープを同定した。同定された変異反応性T細胞のTCRをTCR-Vβ deep sequencingで解析し、その配列を自家末梢血T細胞に遺伝子導入することで機能を確認した。特に、KRAS G12D反応性TILについては、KRAS G12D RNAトランスフェクションや、各種膵臓がん細胞株(ASPC-1、MDA-Panc48、PK-45p、FA6-2、HPAC、BxPC-3、A818.8、SK-PC3、MIA PaCa-2、いずれも樹立済みのヒト膵がん細胞株)を用いたkilling assay(IFN-γ・TNF産生、CD107a発現)により、その変異特異性と細胞傷害能を詳細に確認した。

統計解析には、T細胞応答の比較にMann-Whitney U検定(Mann-Whitney test)が用いられた。