- 著者: Keith A. Lawson*, Cristovão M. Sousa*, Xiaoyu Zhang, Eiru Kim, Rummy Akthar, Joseph J. Caumanns, Yuxi Yao, Nicholas Mikolajewicz, Catherine Ross, Kevin R. Brown, Abdelrahman Abou Zid, Zi Peng Fan, Shirley Hui, Jordan A. Krall, Donald M. Simons, Chloe J. Slater, Victor De Jesus, Lujia Tang, Richa Singh, Joshua E. Goldford, Sarah Martin, Qian Huang, Elizabeth A. Francis, Andrea Habsid, Ryan Climie, David Tieu, Jiarun Wei, Ren Li, Amy Hin Yan Tong, Michael Aregger, Katherine S. Chan, Hong Han, Xiaowei Wang, Patricia Mero, John H. Brumell, Antonio Finelli, Laurie Ailles, Gary Bader, Gromoslaw A. Smolen, Gillian A. Kingsbury, Traver Hart, Charles Kung, Jason Moffat
- Corresponding author: Jason Moffat (j.moffat@utoronto.ca) (Donnelly Centre, University of Toronto, Toronto, Canada)
- 雑誌: Nature
- 発行年: 2020
- Epub日: 2020-09-23
- Article種別: Original Article
- PMID: 32968282
背景
がん細胞が細胞傷害性Tリンパ球(CTL)による破壊から逃れるための遺伝的回路は、これまで十分に理解されていなかった。患者の免疫療法耐性に関する先行研究では、B2M、JAK1、JAK2などの遺伝子変異が個々の免疫回避機構として解明されてきたが、遺伝的に多様ながん細胞株を横断するCTL回避遺伝子の網羅的な目録は存在しなかった。特に、インターフェロンガンマ(IFNγ)および腫瘍壊死因子(TNF)シグナル経路と、オートファジーや脂質滴などの代謝経路との相互作用によるCTL回避のメカニズムは未解明な点が多かった。例えば、Chen et al. Nature 2017やBinnewies et al. NatMed 2018は、腫瘍免疫微小環境の重要性を強調しているものの、がん細胞内因性のCTL回避を制御する遺伝的要素の体系的なカタログ化は不足していた。また、Hugo et al. Cell 2016やZaretsky et al. NEnglJMed 2016は、PD-1阻害に対する耐性メカニズムを報告しているが、これらは特定の遺伝的変化の検出に限定されており、より広範な遺伝的景観の理解には至っていなかった。
これまでの機能ゲノムスクリーニング研究は、個々のがん細胞株におけるCTL回避遺伝子の同定に焦点を当てており、複数のがん種に共通する普遍的なCTL回避メカニズムを特定する試みは手薄であった。例えば、Rooney et al. Cell 2015は腫瘍の免疫溶解活性に関連する分子・遺伝的特性を報告したが、これは特定の遺伝子セットの機能的役割を網羅的に解明するものではなかった。このような状況において、遺伝的に多様ながん細胞株を横断する機能ゲノム解析を実施し、CTL回避を制御するコア遺伝子セットを同定することは、がん免疫療法の新たな標的開発において重要な知識ギャップを埋めるものと考えられた。特に、IFNγやTNFなどのサイトカインが誘導する細胞傷害性に対するがん細胞の抵抗性メカニズム、およびオートファジー(Autophagy)や脂質滴関連遺伝子FITM2(Fat storage-inducing transmembrane protein 2)などの代謝経路がこれらの抵抗性にどのように関与するかの詳細な理解は未解明な点が多かった。したがって、このような包括的な機能ゲノム解析は、がん細胞が免疫系から逃れるための複雑な遺伝的配線を解明し、新たな免疫療法戦略の開発に資する重要な情報を提供するものと考えられた。
目的
本研究の目的は、ゲノムワイドCRISPR-Cas9スクリーニングを遺伝的に多様な6種のマウスがん細胞株に適用し、がん細胞内因性のCTL回避を制御する遺伝子を網羅的に同定することである。さらに、IFNγ、TNF、およびオートファジー経路の遺伝的相互作用を詳細に解析し、これらの経路がCTL回避にどのように寄与するかを解明することを目指した。特に、脂質滴形成に関わるFITM2がIFNγ応答に与える影響と、オートファジー経路がIFNγおよびTNF誘発細胞傷害に対する抵抗性を制御するメカニズムを明らかにすることを目的とした。最終的には、これらの知見に基づき、がん免疫療法の新たな標的候補を特定し、そのメカニズム的基盤を確立することを目的とした。
結果
182件のコアCTL回避遺伝子と遺伝的コシミラリティネットワークの同定: ゲノムワイドCRISPRスクリーニングにより、6細胞株全体で2,000件を超える遺伝子がCTL処置下で有意なフィットネス変化を示した(各細胞株平均約330遺伝子、FDR < 5%)。このうち、3つ以上の細胞株で有意な効果を示した182件の遺伝子をコアCTL回避遺伝子として同定した(Fig. 1f, Supplementary Table 10)。これらの遺伝子のうち、わずか18件のみが通常増殖条件下でも必須なフィットネス遺伝子であった(Extended Data Fig. 3b)。TCGAデータを用いた解析では、コアCTL回避遺伝子はIFNγ応答(p=5.05×10⁻⁸)、白血球分画(p=5.56×10⁻⁶)、およびPD-1内因性耐性(p=1.74×10⁻³)と有意に正の相関を示した(Extended Data Fig. 3c)。既知の免疫耐性遺伝子であるB2m、Jak1、Jak2、Ifngr1、Ifngr2が上位にランクインした(Extended Data Fig. 2c)。遺伝的共類似性解析により、IFNγシグナル伝達、抗原提示、mTOR(mammalian Target Of Rapamycin)、NF-κB(Nuclear Factor-kappa B)、オートファジー、ネクロプトーシス、GPI(Glycosylphosphatidylinositol)アンカーなどの機能的モジュールクラスターが同定され、CTL回避における遺伝子の階層的かつ協調的な作用が示唆された(Fig. 1d)。
IFNγ負の制御因子(SOCS1、PTPN2、ADAR1)の欠損がCTL感受性を増強: IFNγシグナル伝達の負の制御因子として、Socs1(Suppressor of Cytokine Signaling 1)、Ptpn2(Protein Tyrosine Phosphatase Non-receptor Type 2)、Adar1が同定された。これらの遺伝子の欠損は、Renca、B16を含む6細胞株においてCTL感受性を広範に増強した(Extended Data Fig. 4a)。例えば、Renca細胞ではSocs1欠損によりCTL感受性が約1.5-fold増加した。ただし、Renca細胞におけるAdar1欠損は、フィットネス遺伝子として機能し(Bayes Factor (BF) score = 173)、CTL感受性を増強しなかった(Extended Data Fig. 4b)。in vivo実験では、B16-Ova細胞においてshRNAによるAdar1ノックダウンが免疫能保持マウス(n=10 mice)で腫瘍退縮を誘導した(Extended Data Fig. 4c, d)。これらの結果は、IFNγシグナル伝達の負の制御因子がCTL回避に中心的な役割を果たすことを示している。
FITM2:IFNγ感受性の新規制御因子でER恒常性維持に必須: IFNγスクリーンのトップヒットとして、脂質滴関連遺伝子Fitm2が同定された(Fig. 2a)。Fitm2欠損細胞(Renca、CT26、ヒトA375細胞)は、CTL傷害およびIFNγ処置に対して著明に感受性が増強された(Extended Data Fig. 5b, c)。Renca Fitm2欠損細胞では、IFNγ処理後の細胞生存率が対照細胞と比較して約50%低下した(p < 0.0001)。この感受性増強はIFNγ経路依存的であり、抗IFNγ抗体処置によりFitm2欠損による感受性増強が消失した(Fig. 2b)。Fitm2欠損細胞では、脂質滴のER(Endoplasmic Reticulum)蓄積とERストレス応答(Xbp1スプライシングの増加、BiPの増加)が確認された(Extended Data Fig. 6a, c-e)。Fitm2の遺伝的相互作用マッピングにより、Trim32、Stub1、Parp10(K63ユビキチン化調節)との合成致死が示された。さらに、オートファジー遺伝子欠損(Atg7/Atg10/Atg12/Atg5/Atg3/Atg16l1 DKO)が逆説的にFitm2欠損の感受性を抑制することが明らかになり、Fitm2欠損によるERストレス解消がオートファジーに依存していることが示唆された(Fig. 2d, f)。
オートファジー-NF-κB軸がIFNγ・TNF誘発細胞傷害への抵抗を制御する: オートファジー遺伝子(Atg3, Atg5, Atg7, Atg10, Atg12, Atg14)は、CTL感受性を増強するコアCTLセンシタイザー遺伝子として同定された(Extended Data Fig. 7a)。TNFおよびNF-κBシグナル伝達関連遺伝子(Rela, Nfkbia, Ikbkb, Ripk1など)も強いセンシタイザー遺伝子として同定された(Fig. 3a)。オートファジー遺伝子のFitm2欠損感受性抑制効果はIFNγ条件に特異的であり、CTL条件では消失した(Fig. 2e)。これは、オートファジーがIFNγ誘導ERストレスへの対抗とTNF誘発毒性への対抗という異なるメカニズムで機能することを示唆している。in vivo CRISPRスクリーンでも、オートファジーとNF-κBモジュールが腫瘍内免疫回避に機能することが確認された(Fig. 4c, d)。後期腫瘍においてオートファジー遺伝子を標的とするgRNAの強い枯渇が観察され、FDR < 0.01であった。薬理学的阻害剤であるautophinibを用いたオートファジー阻害は、MC38およびヒトA375細胞においてTNF誘発細胞傷害に対する感受性を増強し、91種のヒトがん細胞株パネルの41細胞株で相乗効果が観察された(Extended Data Fig. 8a-c)。Atg12欠損細胞では、NF-κB経路の下流成分(Rela, Chuk)が負の遺伝的相互作用を示し、上流調節因子(Tbk1, Ikbkg, Ei24, Rbck1, Ripk1, Sharpin)が正の遺伝的相互作用を示した(Fig. 3d)。これは、NF-κBとオートファジー経路が並行して機能し、上流の調節遺伝子を共有している複雑な関係を示唆している。
考察/結論
本論文は、MoffatグループがmTKOライブラリーを用いた多細胞株ゲノムワイドCRISPRスクリーニングにより、がん細胞内因性CTL回避の最初の体系的な遺伝的地図を作成した重要な研究である。単一細胞株の知見を超えた182件のコアCTL回避遺伝子の同定は、治療標的として優先すべき「普遍的な免疫回避分子」の資源となった。
先行研究との違い: これまでの研究では、個々の免疫回避メカニズムに焦点が当てられていたが、本研究は遺伝的に多様ながん細胞株を横断する包括的なアプローチを採用し、より普遍的なCTL回避遺伝子セットを同定した点で先行研究と異なる。特に、オートファジーがIFNγおよびTNF誘発細胞死に対する保護経路として機能するという予想外の発見は、これまで報告されていない知見である。また、Gerlinger et al. NEnglJMed 2012が腫瘍内異質性を強調する一方で、本研究は複数のがん種にわたる共通の回避メカニズムを特定した。
新規性: 本研究で初めて、脂質滴関連遺伝子FITM2がIFNγ感受性の主要なレギュレーターであることを新規に同定した。FITM2の欠損がERストレスを誘導し、オートファジー経路がこのERストレス解消に依存するというメカニズムは、代謝とがん免疫の新たな接点として注目される。また、オートファジーとNF-κB経路がCTL回避において複雑な遺伝的相互作用を持つことも本研究で初めて示された。
臨床応用: SOCS1、PTPN2、ADAR1がin vivoでも重要なCTL回避遺伝子であることが検証され、特にSOCS1およびPTPN2はCAR-T細胞の改良(SHP1/2阻害)に応用されている。オートファジー阻害薬(ヒドロキシクロロキンなど)と免疫チェックポイント阻害剤(ICB)の組み合わせが、がん免疫療法の効果を増強する可能性を示唆しており、これは臨床応用への重要な含意を持つ。TNF-NF-κB経路の選択的操作戦略も、新たな治療アプローチとして期待される。
残された課題: 今後の検討課題として、同定されたコアCTL回避遺伝子のヒトがん細胞における検証が残されている。特に、Fitm2欠損によるERストレスとオートファジーの相互作用の分子メカニズムの詳細な解明、およびヒトがんにおけるその関連性をさらに深掘りする必要がある。また、オートファジー阻害とICBの最適な組み合わせ戦略、およびTNF-NF-κB経路を標的とした治療戦略の開発が今後の研究方向性として挙げられる。本研究は、がん免疫療法の開発に資する遺伝的回路の理解を深める重要な一歩である。
方法
本研究では、19,069遺伝子を標的とする94,528個のガイドRNA(gRNA)を含むmTKO(mouse Toronto KnockOut)ライブラリーを構築した。このライブラリーを用いて、6種のマウスがん細胞株(Renca、B16、4T1、EMT6、CT26、MC38)にHA(Haemagglutinin)またはOVA(Ovalbumin)をマーカー抗原として発現させ、活性化抗原特異的CTLと共培養するプールスクリーニングを実施した。CTL処理群と非処理群の細胞におけるgRNAの濃縮・枯渇をディープシーケンスにより解析し、drugZアルゴリズムを用いてCTL回避に影響を与える遺伝子を同定した。FDR < 5%で3つ以上の細胞株に共通して有意なフィットネス変化を示す遺伝子を「コアCTL回避遺伝子」と定義し、Daisyモデルを適用して182個の遺伝子を特定した。これらの遺伝子の二次バリデーションは、1,664個のgRNAを含むミニライブラリーを用いて同じ6細胞株で実施された。
遺伝的共類似性解析(genetic co-similarity analysis)により、CTL殺傷スクリーンのデータから遺伝子間の相関するdrugZプロファイルを解析し、パスウェイモジュール構造を明らかにした。IFNγ応答の遺伝的決定要因をさらに探るため、Renca細胞においてIFNγ存在下または非存在下でのゲノムワイドCRISPRスクリーンを実施し、特に脂質滴関連遺伝子Fitm2の遺伝的相互作用をマッピングした(Fitm2欠損細胞と野生型細胞の比較スクリーン)。
オートファジー(Autophagy)経路の役割を評価するため、オートファジー遺伝子(Atg3, Atg5, Atg7, Atg10, Atg12, Atg14)の欠損がCTL感受性に与える影響を解析した。また、TNF誘発細胞傷害に対する抵抗性におけるオートファジーの役割を検証するため、Renca細胞においてTNF存在下でのゲノムワイドCRISPRスクリーンを実施した。in vivoでのCTL回避におけるオートファジーの役割を評価するため、EMT6細胞モデルを用いたin vivo CRISPRスクリーンを免疫能保持BALB/cマウス(n=107 mice)および免疫不全NCGマウス(n=90 mice)で実施した。
さらに、ADAR1(Adenosine Deaminase Acting on RNA 1)のin vivoでの役割を検証するため、shRNAによるAdarノックダウンをB16メラノーマ細胞に導入し、免疫能保持マウスでの腫瘍退縮を評価した。TCGA(The Cancer Genome Atlas)の11,000以上の腫瘍データを用いて、同定されたコアCTL回避遺伝子と確立された抗腫瘍T細胞応答マーカーとの関連性を解析した。RNA-seq解析により、Fitm2欠損細胞におけるERストレス応答やXbp1スプライシングの変化、Atg12欠損細胞におけるNF-κBシグナル伝達の変化を評価した。RNA-seqリードはSTAR Dobin et al. Bioinformatics 2013を用いてアラインメントされた。統計解析には、drugZ、GSEA Subramanian et al. ProcNatlAcadSciUSA 2005、limma、edgeR、Wilcoxon順位和検定、Fisherの正確検定、Studentのt検定などが用いられた。