• 著者: Hoon Kim, Nam-Phuong Nguyen, Kristen Turner, et al.
  • Corresponding author: Paul S. Mischel (UC San Diego); Vineet Bafna (UC San Diego); Roel G. W. Verhaak (Jackson Laboratory for Genomic Medicine)
  • 雑誌: Nature Genetics
  • 発行年: 2020
  • Epub日: 2020-08-17
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 32807987

背景

染色体外DNA (ecDNA) によるがん遺伝子増幅は、細胞が特定の増殖促進遺伝子のコピー数を急速に増加させる機構として古くから知られていたが (Alt et al. J Biol Chem 1978, Kohl et al. Cell 1983)、その全がん種における頻度、がん遺伝子との関連、および臨床的意義は体系的に解析されていなかった。ecDNAは染色体に組み込まれておらず、有糸分裂時に非均等に分配されるため、腫瘍内の遺伝的不均一性を急速に生成する独自の特性を持つことが報告されている Turner et al. Nature 2017Verhaak et al. NatRevCancer 2019

先行研究では膠芽腫 (GBM) 等の一部のがん種でecDNA増幅が報告されていたが deCarvalho et al. NatGenet 2018、低スループットの細胞遺伝学的手法 (FISH等) が主体であり、大規模がんコホートでの頻度調査は実施されていなかった。AmpliconArchitect (AA) ツールによるWGSデータからのecDNA計算解析が2019年に報告されたが (Deshpande et al. Nat Commun 2019)、その大規模な臨床応用は本研究が初めてであり、ecDNAの広範ながん種における役割は未解明な点が多かった。特に、ecDNAががんの発生と進行にどのように寄与し、患者の予後にどのような影響を与えるかについては、包括的な理解が不足していた。

目的

TCGAおよびPCAWGコホートの3,212がん患者の全ゲノムシークエンシング (WGS) データにAmpliconArchitectを適用し、ecDNA (円形アンプリコン) 増幅の頻度、がん遺伝子含有、遺伝子発現、クロマチンアクセシビリティ、転写融合、および患者予後への影響を多角的に解析すること。本研究は、ecDNA増幅が複数のがん種にわたるがんの攻撃的挙動と予後不良にどのように寄与するかを明らかにすることを目的とした。

結果

ecDNA増幅の高頻度検出: 3,212腫瘍のうち460例 (14.3%) に1つ以上の円形アンプリコンが検出され、ecDNA増幅ががんで広く認められた (Fig. 1c)。解析した29がん種中25がん種でecDNAが検出され、特に攻撃的な組織型 (膠芽腫、肉腫、食道癌) で高頻度であった。一方、正常組織・血液サンプルではecDNAはほぼ検出されなかった (Fig. 1c)。AmpliconArchitectの円形分類の陽性的中率は85% (FISH検証、n=44細胞株)、感度は83%であり、CIRCLE-seqとの一致率も高かった (神経芽腫: 4/4 ecDNAがCIRCLE-seqで確認)。

がん遺伝子濃縮と高コピー数増幅: 24種の最頻出増幅がん遺伝子のうち38%が最多で円形アンプリコンに存在し、個別遺伝子ではCDK4 (62%)、PDGFRA、EGFR等が高頻度で円形構造上に増幅していた (Fig. 2b)。コピー数8以上の高度増幅がん遺伝子では53.5%が円形アンプリコン由来であった。円形アンプリコンがん遺伝子は同じ遺伝子の非円形増幅と比較して有意に高いCNを達成し、高コピー数獲得の効率的な機構であることが示された。例えば、CDK4の平均CNは円形アンプリコン上で約16.6であったのに対し、非円形アンプリコン上では約8.2であった (Extended Data Fig. 2c)。

ecDNA増幅の転写活性とクロマチンアクセシビリティの向上: DNAコピー数を補正したうえで、円形アンプリコンがん遺伝子は非円形増幅がん遺伝子より有意に高い発現量を示した (1.2倍、P < 0.0007; Tukey’s range test) (Fig. 3a)。36サンプルのATAC-seq解析では、円形増幅領域は線形・高度再配列増幅より有意にクロマチンアクセシビリティが高く (1.2倍、P < 1 × 10⁻¹⁶)、エンハンサーハイジャッキングや転写因子アクセシビリティの向上がコピー数非依存的な発現上昇に寄与していることが示された (Fig. 3b)。転写融合の頻度は円形増幅で非円形増幅の5倍高かった (P < 1 × 10⁻¹⁴) (Fig. 3c)。これは、ecDNAががん遺伝子の高発現を多角的に駆動するメカニズムを持つことを示唆する。

ecDNA増幅と予後不良の関連: ecDNA円形増幅を持つ腫瘍の患者は、非円形増幅または増幅なしの患者と比較して有意に短い5年生存期間を示した (log-rank test: P < 0.02 vs linear、P < 1 × 10⁻¹⁵ vs no focal amplification) (Fig. 4a)。がん種を共変量に含むCox比例ハザードモデルでも、円形増幅は有意に高いハザード比 (HR 1.48、P < 0.001) と関連した (Fig. 4b)。ecDNA増幅腫瘍は細胞増殖スコアが有意に高く (P < 1 × 10⁻¹⁵、n=460 ecDNA陽性患者)、免疫浸潤スコアが低い傾向があり (P < 1 × 10⁻⁴)、生物学的攻撃性との一致を示した (Extended Data Fig. 6)。リンパ節転移の有無を調べたところ、ecDNA増幅を持つ腫瘍は、非増幅腫瘍と比較して有意に高いリンパ節転移率を示した (P < 1 × 10⁻⁵) (Extended Data Fig. 5)。

ecDNA形成機構 (chromothripsis関連): 円形アンプリコンの36%はchromothripsisのシグネチャーを示し、円形アンプリコン例の約半数 (n=233患者) にchromothripsisが認められた (他クラスより有意に高頻度、P = 2.2 × 10⁻¹⁶)。非相同末端結合 (NHEJ) がecDNA関連切断修復の主要機構であることも示された (微小相同配列が少ない: P < 1 × 10⁻¹⁵)。これにより、chromothripsisがecDNA形成の主要な開始イベントの一つであることが強く示唆された。

考察/結論

本研究は3,212例の大規模がんコホートにAmpliconArchitectを適用し、ecDNA増幅が特定のがん種に限られた稀なイベントではなく、複数のがん種における主要ながん遺伝子増幅機構であることを初めて包括的に示した。ecDNAがコピー数に依存しない転写活性上昇、クロマチンアクセシビリティ向上、転写融合頻度増加という複数の分子機構で腫瘍促進に寄与することが明らかになった。

先行研究との違い: これまで、ecDNAの存在は一部のがん種や細胞株で報告されてきたが Nathanson et al. Science 2014deCarvalho et al. NatGenet 2018、本研究は大規模なヒトがんコホートを用いて、その広範な癌種における頻度と臨床的意義を体系的に解析した点で、これまでの研究とは異なる。特に、ecDNAが染色体増幅とは異なる独自の転写調節機構を持つことを示した点は新規性が高い。

新規性: 本研究で初めて、ecDNA上の癌遺伝子が、コピー数一致の線形DNAと比較して1.2倍高い転写活性と5倍高い遺伝子融合頻度を示すことを新規に同定した。また、ecDNA増幅がクロマチンアクセシビリティの向上を介して遺伝子発現を促進するという知見は、Wu et al. Nature 2019Morton et al. Cell 2019の報告と一致し、ecDNAの機能的特性を裏付けるものである。さらに、ecDNAがchromothripsisによって形成される主要な機構の一つであることも示された Cortes et al. NatGenet 2020

臨床応用: 本知見は、ecDNA状態 (円形増幅の有無) ががん種横断的な予後バイオマーカーとなる可能性を示唆し、臨床応用に直結する。ecDNA増幅がん遺伝子 (EGFR、CDK4、PDGFRA等) は標準的な染色体増幅より高発現であり、治療抵抗性に寄与しうるため、ecDNAを標的とした複製阻害や、liquid biopsyによるecDNA検出が治療戦略・モニタリングに応用されることが期待される。

残された課題: 今後の検討課題として、ecDNA形成の分子メカニズム (chromothripsis-ecDNA軸の詳細)、ecDNA阻害薬の開発、および経時的ecDNA変動と治療抵抗性の関係の解明が必要である。また、Davoli et al. Science 2017が示したように、腫瘍の異数性が免疫回避と関連する可能性があり、ecDNAと免疫応答の関連性についてもさらなる研究が残されている。

方法

TCGA (n = 3,731) およびPCAWG (n = 1,291) 由来の腫瘍・正常ペアWGSデータにAmpliconArchitectを適用し、コピー数 (CN) > 4かつ10 kb超の増幅領域を検出した。増幅領域は4カテゴリ (circular, BFB (breakage-fusion-bridge), heavily rearranged, linear) に分類した。円形増幅の特異度・感度は、44がん細胞株 (例えば、GBM細胞株 U87MGなど) のFISH (81プローブ組み合わせ) と15神経芽腫のCIRCLE-seq (circularization for in vitro reporting of cleavage effects by sequencing) 法で検証した。3,212腫瘍 (29がん種) と1,810非腫瘍サンプルを対象に増幅頻度を評価した。36サンプルのAssay for Transposase-Accessible Chromatin using sequencing (ATAC-seq) によりクロマチンアクセシビリティを評価した。RNAシークエンシング (RNA-seq) データを用いて、がん遺伝子の発現量と転写融合の頻度を解析した。患者予後はKaplan-Meier法とCox比例ハザードモデル (がん種補正済み) で解析した。ゲノム不安定性については、染色体腕レベルの異数性、全ゲノム重複、DNAセグメント数、およびbreakpointの相同性を評価した。ChromothripsisのシグネチャーはShatterSeekソフトウェアを用いて検出した。統計解析にはWilcoxon rank-sum test、Fisher’s exact test、Pearson’s Chi-squared testを用いた。