- 著者: Sophie L. Gibbings, Stacey M. Thomas, Shaikh M. Atif, Alexandra L. McCubbrey, A. Nicole Desch, Thomas Danhorn, Sonia M. Leach, Donna L. Bratton, Peter M. Henson, William J. Janssen, Claudia V. Jakubzick
- Corresponding author: Claudia V. Jakubzick (National Jewish Health, Department of Pediatrics, Denver, CO); jakubzickc@njhealth.org
- 雑誌: American Journal of Respiratory Cell and Molecular Biology
- 発行年: 2017
- Epub日: 2017-03-03
- Article種別: Original Article
- PMID: 28257233
背景
肺の単核食細胞系は、肺胞マクロファージ (AM)、樹状細胞 (DC)、単球、そして間質マクロファージ (IM) で構成される。AMは胎生期起源の胚性マクロファージとして詳細に解析されてきたが、IMについてはその同定・分離における技術的困難さから、包括的な特性解析がこれまで不足していた。特に、肺内におけるIMの正確な局在(気管支間質か肺胞間質か)についても議論があり、controversialな点であった。先行研究では、肺にAMとは異なるマクロファージ集団が存在することが示唆されていたが (Bedoret et al. 2009)、その詳細な表現型や機能は未解明であった。
生体防御において、自然免疫系は外部からの侵襲や内因性の損傷の除去、および組織恒常性の維持に極めて重要な役割を果たす。肺は常に環境に曝露される臓器であるため、その恒常性の維持にはIMの機能が不可欠であると考えられる。しかし、定常状態におけるIMの表現型、機能、およびターンオーバーに関する明確な情報は不足しており、健康状態および疾患状態におけるIMの役割を理解するためには、これらの特性を包括的に定義することが喫緊の課題であった。例えば、Gautier et al. (2012) は様々な臓器のマクロファージの遺伝子発現プロファイルを解析したが、肺IMの多様性については十分に解明されていなかった。また、Scott et al. (2014) は腸、皮膚、肺の単核食細胞について概説したが、肺IMのサブタイプに関する詳細な情報は提供されていなかった。
本研究は、MerTKとCD64を組み合わせた新しいゲーティング戦略を用いることで、定常状態のマウス肺からIMを効率的に分離・同定し、その表現型、局在、転写プロファイル、貪食能、自己更新能、およびCX3CR1依存性を包括的に特性解析することを目的とした。さらに、IM集団が肺以外の臓器(皮膚、心臓、腸)でも同様に存在するかを評価し、その臓器間保存性を検証することも目的とした。これにより、肺の単核食細胞系の全体像をより詳細に描き出し、今後の肺免疫学研究の基盤となる情報を提供することが期待された。
目的
本研究の目的は、MerTKとCD64を軸とした新たなフローサイトメトリーゲーティング戦略を用いて、ナイーブなC57BL/6マウス肺から間質マクロファージ (IM) を高純度で分離し、その包括的な特性解析を行うことである。具体的には、IMの表現型、肺内局在、転写プロファイル、貪食能、自己更新能、およびCX3CR1依存性を詳細に評価する。
さらに、以下の点を明らかにすることを目指した。
- 定常状態の肺において、複数のIMサブタイプが存在するかどうかを同定し、それぞれのサブタイプの細胞表面マーカー発現パターンを確立する。
- 各IMサブタイプが互いに、また肺胞マクロファージ (AM) と比較して、どのような転写プロファイルの違いを持つかをRNAシーケンス解析により明らかにする。
- IMが肺内のどの解剖学的部位に局在するかを免疫組織化学的手法を用いて特定する。
- 各IMサブタイプが細菌や粒子に対する貪食能において機能的な違いを示すかどうかをin vivoおよびex vivoで評価する。
- IMのターンオーバー率と、骨髄由来細胞からの補充、および自己更新の寄与を骨髄キメラマウスとパラバイオーシスモデルを用いて解析する。
- IMの生存がフラクタルカイン受容体CX3CR1に依存するかどうかをCX3CR1欠損マウスを用いて評価する。
- 肺で同定されたIM集団が、皮膚、心臓、腸といった他の非リンパ性臓器においても同様の表現型パターンで存在するかどうかを検証し、臓器間での機能保存性の可能性を探る。 これらの解析を通じて、肺の単核食細胞系の全体像を再定義し、今後の肺免疫学研究におけるIMの役割解明のための基盤を確立することを目指す。
結果
3つのIMサブタイプの同定と分布: 定常状態のC57BL/6マウス肺において、MerTK+CD64+CD11b+CX3CR1+でLy6C-Ly6G-Siglec F-を共通マーカーとする3種類の新規IMサブタイプが初めて表現型的に区別された (Figure 1A)。これらのIMは、CD206、CD11c、MHCII、CCR2の発現レベルによってさらに細分化された。具体的には、IM1はCD206int/hi MHCIIhi、IM2はCD206int/hi MHCIIlo、IM3はCD206lo CCR2+ CD11chiとして定義された (Figure 3)。肺の血管外骨髄細胞に占める割合は、AMが75.8% ± 3.75%、IM総計が9.3% ± 1.48%であり、Ly6C+MHCII+単球は0.82% ± 0.24%であった (Figure 1B)。IMサブタイプの内訳は、IM1が26.38% ± 1.45%、IM2が27.63% ± 1.53%、IM3が44.50% ± 1.93%を占めた (Figure 1C)。肺1個あたりの総IM数は約3.95 × 10^5 cells/lungであった。
転写プロファイル上の明確な分離: RNAシーケンス解析の結果、主成分分析 (PCA) により、AM、IM1、IM2、IM3は第1主成分 (Comp 1) で78.5%の分散を説明し、明確に分離された (Figure 2A)。この結果は、3つのIMサブタイプが互いに、またAMとも異なる転写プロファイルを持つことを強く示唆する。MerTK、C1qa、C1qc、C4b、Mafbなどのマクロファージシグネチャー遺伝子は全てのIMで共通して高発現していた (Figure 2B)。一方、Ccl2、Ccl3、Ccl4、Ccl24などのケモカインおよびTLR2/TLR4、SOCS3、M1/M2分極マーカーの発現パターンはサブタイプ間で異なり、機能的な分業の存在が示唆された (Figure 2C)。例えば、IM1とIM2はCCL7、CCL8、CCL12といった修復機能に関与するケモカインリガンドをIM3よりも高レベルで発現しており、これは約2.5-foldの差であった。
気管支間質への特異的局在: 免疫組織化学的解析により、全てのIMは気管支血管束の間質に密集して局在し、肺胞壁(肺胞間質)には存在しないことが明らかになった (Figure 6B, 6C)。AMは肺胞腔を占拠しており、IMは気管支周囲を監視するという明確な解剖学的分業が示された。CX3CR1-GFPレポーターマウスを用いた解析では、IMはCX3CR1とMerTKの二重陽性細胞として同定され、気管支間質に局在することが確認された (Figure 6A)。Lyve-1陽性リンパ管近傍でのIMの分布も観察され、Lyve-1陽性および陰性のIMが混在していた。
貪食能のサブタイプ選択性: E. coli、ザイモサン、ラテックスビーズに対する貪食能はIMサブタイプ間で異なり、粒子やリガンドの種類に応じた選択性が存在することが示された (Figure 4)。In vivoアッセイでは、IM1とIM2がIM3よりも微生物粒子を効率的に取り込む傾向が認められた。しかし、ex vivoアッセイでは、肺の構造的制約を取り除いた場合、AMとIMの間でビーズの取り込みに明確な差はなかった。一方、ザイモサンバイオ粒子はIM1、IM2、AMと比較してIM3によってより活発に貪食されることが示され (p<0.0005)、機能分業のさらなる証拠が提供された。
緩徐なターンオーバーと自己更新能: BrdU取り込み実験では、Ly6C+単球が3日目と6日目でそれぞれ約78%と94%と高い標識率を示したのに対し、IMのBrdU取り込みは6日目でも約15〜30%とAMと同様に緩やかであった (Figure E5)。これは、定常状態においてLy6C+単球がIMを急速に補充しているわけではないことを示唆する。骨髄キメラマウスを用いた解析では、IMのキメリズム蓄積は緩徐であり、IM3がIM1およびIM2と比較してより多くのドナー細胞による補充を示した (p<0.005) (Figure 5A)。IM1は最も低い補充レベルであった。パラバイオーシスモデルでも同様に、IM3がIM1およびIM2よりもパートナー由来細胞の寄与率が高く (p<0.0005)、IM3が循環前駆細胞からより容易に補充されることを支持した (Figure 5B)。全てのIMサブタイプにおけるパートナー由来細胞の寄与はAMと同程度であり、間質性肺単球よりも有意に低かった。これらの結果は、IMが長寿命であり、部分的に自己維持されるか、または循環単球によって散発的に補充されることを示唆する。この実験にはn=4 miceが各グループで用いられた。
CX3CR1非依存性: CX3CR1-GFP/GFP (機能的ノックアウト) マウスを用いた解析では、IMの総数および各サブタイプの比率は野生型C57BL/6マウスと同等であった (Figure E5)。このことは、フラクタルカイン-CX3CR1経路がIMの生存に必須ではないことを示しており、腸管マクロファージとは対照的な結果である。この実験ではn=3 miceが各グループで評価された。
多臓器における保存性: 皮膚(耳介真皮)、心臓、大腸においても、肺と同様のMerTK+CD64+陽性で3つのサブタイプパターンを持つIM様集団が観察された (Figure 7B)。これは、IMの三元的な組織化が肺特異的な現象ではなく、非リンパ性組織に広く保存された特徴であることを示唆する。ただし、心臓IMはCD11cの発現レベルが低く、皮膚IMはCX3CR1の発現レベルが中程度から低レベルであるなど、臓器間でわずかな違いも認められた (Figure 7C)。
考察/結論
本研究は、定常状態のマウス肺における単核食細胞系を、1種類の肺胞マクロファージ (AM)、3種類の新規間質マクロファージ (IM)、2種類の樹状細胞 (DC)、および少数の単球からなる7つの集団として再定義した画期的な特性解析である。これにより、以後の肺マクロファージ研究における表現型解析の標準が確立された。
先行研究との違い: 従来のCD11c/CD11b軸によるゲーティングではIMとDCが重複する問題があったが、本研究ではMerTKとCD64を軸としたゲーティング戦略を標準化することで、マクロファージ集団をDCから明確に分離することに成功した。これは、従来の分類法と異なり、より純粋なIM集団の解析を可能にした点で画期的である。また、これまで肺IMの局在は「肺胞間質」とされてきたが、本研究の顕微鏡観察により、IMが「気管支血管束の間質」に特異的に局在し、肺胞壁には存在しないことが明確に示された点で、これまでの報告と対照的な知見である。
新規性: 本研究で初めて、CD206、MHCII、CCR2、CD11cの組み合わせに基づいてIM1、IM2、IM3という3つの異なるIMサブタイプを定義し、それぞれが独自の転写プロファイルを持つことを明らかにした。この3サブタイプ間の機能分業の存在は、これまで報告されていない新規の発見である。さらに、肺だけでなく、皮膚、心臓、腸といった他の非リンパ性組織においても類似のIM三元構造が存在することを初めて示し、IMの組織横断的な保存性を示唆した。
機能的含意と臨床応用: IM1 (CD206int/hi MHCIIhi) は高い抗原提示能力を持つ可能性があり、IM3 (CCR2+ CD11chi) は単球由来の成分を含む可能性が示唆された。これらの機能分化は、炎症カスケードの選択的誘導や、特定の病原体に対する免疫応答において重要な役割を果たすと考えられる。IMの自己更新能の存在は、放射線照射後の肺保護や移植生物学に直接関与する臨床的意義を持つ。また、CX3CR1非依存性は、腸管ラミナプロプリアマクロファージがCX3CR1依存的に生存するのと異なり、臓器特異的なシグナル伝達要件の存在を示唆しており、将来的な臓器特異的治療戦略の開発に繋がる可能性がある。本知見は、慢性閉塞性肺疾患 (COPD)、特発性肺線維症 (IPF)、肺がんの腫瘍微小環境、アレルギー性喘息、感染症など、IMの機能不全が関与する疾患のメカニズム解明に直接的な臨床応用が期待される。
残された課題: 本研究はIMの多様性を明らかにしたが、各IMサブタイプが特定の機能(例:IM1とIM3の免疫寛容誘導能)をどのように担うかについては、さらなるloss-of-function検証が残された課題である。また、加齢、感染、アレルギー性炎症などの病態時における各IMサブタイプの動態は本研究の範囲外であり、今後の検討が必要である。ヒト肺IMへの本知見の翻訳も重要な課題であり、ヒト検体を用いた検証が求められる。3サブタイプ分類がマウス以外の種(ラット、非ヒト霊長類、ヒト)でも保存されているかを確認する必要がある。
今後の研究の方向性: 今後の研究では、シングルセルRNAシーケンスによるIMサブタイプのさらなる詳細な分類(従来の3種からより多様なヘテロジェニティの発見)が期待される。Cx3cr1-CreERT2やMs4a3-Creを用いた運命追跡実験により、IMの発生学的起源(卵黄嚢、胎児単球、成人単球の寄与)を解明することも重要である。高酸素曝露、ブレオマイシン、LPS、インフルエンザ、腫瘍などの疾患モデルにおけるIMサブタイプ特異的な応答の解析も、病態生理の理解に不可欠である。さらに、ヒトの気管支肺胞洗浄液 (BAL) や肺摘出組織を用いたMERTK+CD64+IMの同定と、その臨床検体への応用が求められる。IMと上皮細胞、内皮細胞、神経細胞間の空間的相互作用(Xenium/MERFISHなど)を解析することで、IMのニッチ環境における機能的役割がさらに明らかになるだろう。
方法
試験デザイン: 本研究は、定常状態のマウス肺における単核食細胞系の包括的な表現型解析を目的とした観察的基礎科学研究である。対象は6〜10週齢のC57BL/6マウス(CD45.1/CD45.2コンジェニック)を使用し、さらにCCR2-/-, CX3CR1-GFP, Zbtb46-GFP, IL-4-GFP (4Get), MaFIA (Csfr1-GFP) などのレポーターマウス系統を併用した。すべての動物実験はNational Jewish HealthのInstitutional Animal Care and Use Committeeの承認を得て実施された。
単核食細胞の同定と分離: 肺組織はLiberase酵素で消化し、単一細胞懸濁液を調製した。フローサイトメトリーにより、まずCD45陽性細胞をゲーティングし、MerTKとCD64の共発現を指標としてマクロファージ分画を同定した。このMerTK+CD64+マクロファージ集団から、CD11c、CD11b、MHCII、CD206、CCR2、Lyve-1などの細胞表面マーカーの発現パターンに基づいて、肺胞マクロファージ (AM) と3種類のIMサブタイプ(IM1、IM2、IM3)を識別した。AMはSiglecF+CD11c+CD11b-として、IMはSiglecF-CD11b+として定義された。IMサブタイプは、IM1 (CD206int/hi MHCIIhi), IM2 (CD206int/hi MHCIIlo), IM3 (CD206lo CCR2+ CD11chi) と定義された。細胞の生存率確認のため、4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール (DAPI) を用いて死細胞を除外した。
転写プロファイル解析: FACSソーティングされたAM、IM1、IM2、IM3細胞(各サブタイプ3連)からRNAを抽出し、SMART-Seq v4 Ultra Low Input RNA Kit for Sequencingを用いてライブラリを構築した。RNA品質はBioanalyzer pico chipで評価され、RINスコアは9.2から10.0であった。シーケンスはIon Proton P1チップで行われた。リードはSTAR (version 2.5.1b) を用いてマウスゲノム (mm10) にマッピングされ、遺伝子へのリードカウントはLiao et al. Bioinformatics 2014 (version 1.5.0p-1) で定量された。差次的遺伝子発現解析はLove et al. GenomeBiol 2014 (version 1.8.1) を用いて行われ、主成分分析 (PCA) およびKEGGパスウェイ濃縮解析も実施された。RNA-seqデータはGene Expression Omnibus (GEO) に accession no. GSE94135 として登録された。
局在解析: CX3CR1-GFPレポーターマウスの肺凍結切片を調製し、MerTK抗体またはLyve-1抗体で共染色した。蛍光顕微鏡を用いて、IMの肺内における正確な局在(気管支間質、肺胞間質、リンパ管近傍)を観察した。
貪食能評価: In vivo貪食アッセイでは、マウスにE. coliバイオ粒子 (10^8粒子/マウス)、ザイモサンバイオ粒子 (4×10^6粒子/マウス)、またはカルボキシル化ラテックスビーズ (10^9粒子/マウス) を鼻腔内投与し、3時間後に肺を採取してフローサイトメトリーで粒子取り込みを評価した。Ex vivo貪食アッセイでは、Percoll勾配遠心分離で濃縮した肺マクロファージに粒子を添加し、37℃で1時間培養後に取り込みを評価した。細胞外蛍光粒子のクエンチングにはトリパンブルーが用いられた。
ターンオーバー率の評価:
- 骨髄キメラマウス: CD45.1レシピエントマウスに、肺を鉛で遮蔽した状態で9 Gyの全身放射線照射を行い、CD45.2ドナー骨髄細胞を移植した。移植後5週間で、ドナー由来細胞のIMへの補充率を評価した。
- パラバイオーシス: CD45.1とCD45.2のコンジェニックマウスを外科的に結合させ、15週間後にパートナーマウス由来の循環細胞のIMへの寄与率を評価した。
- BrdU取り込み: 野生型C57BL/6マウスにBrdUを毎日腹腔内投与 (1 mg/day) し、3日目と6日目にIMおよびLy6C+単球のBrdU取り込み率をフローサイトメトリーで測定した。
CX3CR1依存性の評価: CX3CR1-GFP/GFP (機能的ノックアウト) マウスを用いて、IMの数およびサブタイプ比率が野生型C57BL/6マウスと比較して変化するかどうかを評価した。
臓器間比較: 肺と同様のゲーティング戦略を用いて、皮膚(耳介真皮)、心臓、大腸から単一細胞懸濁液を調製し、MerTK+CD64+IM様集団の存在とサブタイプパターンをフローサイトメトリーで解析した。
統計解析: 統計解析はPrismソフトウェア (GraphPad Software, Inc.) を用いて行われた。データは平均値 ± 標準誤差 (SEM) で表され、2群間比較には両側Studentのt検定、多群間比較にはANOVAが用いられた。p値が0.05未満を有意差ありと判断した。