- 著者: Irem Ozel, Inga Duerig, Maksim Domnich, Stephan Lang, Ekaterina Pylaeva, Jadwiga Jablonska
- Corresponding author: Jadwiga Jablonska (University Hospital Essen, University of Duisburg-Essen, Essen, Germany)
- 雑誌: Cancers
- 発行年: 2022
- Epub日: 2022-01-21
- Article種別: Review
- PMID: 35158807
背景
腫瘍血管新生は、Folkmanが1971年に「腫瘍はサイズ1 mm^3を超えると血管新生なしに増殖できない」と提唱して以来、がん治療の重要標的とされてきた。血管新生は、発芽型 (sprouting angiogenesis: SA) と分裂型 (intussusceptive angiogenesis: IA) に加えて、血管co-optionや血管模倣 (vascular mimicry) といった非典型的機序も腫瘍で利用される。この「血管新生スイッチ」は、HIF-1α (hypoxia-inducible factor-1α) を主要転写因子とし、VEGF、FGF、PDGFなどの古典的因子の産生を誘導する。成人における毎日の好中球産生量は約10^11個 (骨髄中) に達し、血中好中球は循環白血球の50〜70% (マウスでは10〜25%) を占める最多の免疫細胞である。腫瘍微小環境 (TME) では、G-CSF、GM-CSF、IL-3、CXCL1/CXCL2/CXCL8などのサイトカインに誘導されて大量に動員される。
好中球が腫瘍血管新生に積極的に関与するという証拠は蓄積されていたが、従来型および非従来型因子を含む網羅的なレビューはこれまで不足していた。特に、好中球の多様なサブセットが血管新生にどのように寄与するのか、また、既存の抗血管新生療法に対する腫瘍の抵抗性に好中球がどのように関与するのかについては、依然として未解明な点が多く残されている。例えば、好中球のN1/N2偏極化が血管新生に与える影響や、NETs (好中球細胞外トラップ) のような非従来型因子が果たす役割については、より詳細なメカニズムの解明が課題であった。また、抗VEGF療法に対する腫瘍の抵抗性メカニズムにおける好中球の具体的な関与についても、包括的な理解が不足していた。これらの知識ギャップを埋めることを目的として、本レビューは、腫瘍関連好中球 (TANs) の血管新生促進機能に関する最新の知見を統合し、新たな治療戦略の可能性を提示するものである。先行研究では、好中球がMMP-9を介して血管新生を促進することが示唆されていたが Fridlender et al. CancerCell 2009、その後の多様な因子や制御メカニズムについては十分に整理されていなかった。また、好中球の多様性や可塑性に関する研究は進んでいたものの Jaillon et al. NatRevCancer 2020 Ng et al. NatRevImmunol 2019、血管新生との関連性に特化した網羅的なレビューは手薄であった。
目的
本レビューの目的は、がんにおける腫瘍関連好中球 (TAN) の血管新生促進機能を体系的にレビューすることである。具体的には、(1) VEGF、MMP-9、CXCL8、Bv8を含む従来型血管新生促進因子と、(2) NETs (好中球細胞外トラップ)、Oncostatin M、S100A8/A9、tiRNA (tRNAフラグメント) を含む非従来型因子の機序を整理する。さらに、N1/N2偏極化を制御する分子メカニズム (IFN経路、TGF-β、G-CSF、NAMPT (ニコチンアミドホスホリボシルトランスフェラーゼ)、FOXO3a) を詳細に解説し、好中球を標的とした治療と既存の抗血管新生療法の相補的可能性を概説する。最終的に、好中球を標的とすることで、抗血管新生療法の効果を改善し、腫瘍の治療抵抗性を克服するための新たな治療戦略を提示することを目指す。
結果
腫瘍関連好中球の動員・極化とN1/N2軸: 腫瘍はG-CSF、GM-CSF、IL-3を産生して骨髄での好中球生産を増加させる (毎日約10^11個/人)。HIF-1α/β活性化を介した低酸素誘導型CXCL1、CXCL2、CXCL8がCXCR1、CXCR2経由で好中球を腫瘍部位に動員し、血中好中球は循環白血球の50〜70% (マウス10〜25%) を占める。N1 (抗腫瘍) 好中球は正常密度、超分葉核、TNFα高、CCL3高、ICAM-1高、ARG1低という特徴を示し、IFNβシグナルで誘導される。N2 (腫瘍促進) 好中球はTGF-β刺激で低密度、ARG1高、CCL2/CCL17/CXCL8高、ROS/NO産生増加、免疫抑制機能を示す。好中球-リンパ球比 (NLR) は多数の癌種で予後不良予測因子として確認されており、例えば大腸癌ではNLR高値の患者でOSが有意に短いことが報告されている。近年のscRNA-seqではN1/N2二元論を超えたスペクトラム状の多様性が示されているが、血管新生促進機能は主にN2偏極化した好中球が担うと考えられる (Figure 1)。
従来型血管新生促進因子の機序: (1) VEGF:好中球はVEGF-A、VEGF-Cの細胞内プールを顆粒に保持し、PMA、fMLP、TNFα刺激で脱顆粒放出する。転移性乳癌・肛門癌患者では好中球が血中VEGFの主要産生源であることが示されている。線維肉腫・黒色腫マウスモデル (n=10 mice/group) ではCD11b+Gr+ TAN由来VEGF発現増加が腫瘍血管新生に貢献することが実証された (Jablonska et al. JClinInvest 2010)。(2) MMP-9:好中球はTAMに比べてMMP-9を著しく大量 (第三次顆粒) に保持しており、活性型 (TIMP-1フリー) MMP-9はECMを分解してVEGFおよびFGF-2を遊離・活性化し内皮細胞の遊走・増殖を促進する。膵島癌モデルでは好中球をanti-Gr-1抗体で除去すると血管新生スイッチが抑制された (Nozawa et al. PNAS 2006)。(3) CXCL8 (IL-8):好中球から自己分泌・傍分泌により産生され、CXCR1/2を介して内皮細胞を直接活性化し血管新生を誘導する。IL-8中和により非機能性変異型ヒト線維肉腫・前立腺癌での好中球動員抑制と血管新生減少が確認された。血管新生アッセイでは、CXCL8中和により腫瘍血管面積が対照群比で40〜60%減少した (p<0.01)。(4) Bv8 (Prokineticin 2):G-CSFまたはGM-CSF刺激でGr1+骨髄系細胞 (好中球含む) から産生されるBv8は内皮細胞の血管新生・免疫抑制性骨髄細胞の生存を促進する。大腸癌モデルでは抗Bv8抗体が抗VEGF療法の有効性を増強し、血漿G-CSF高値がBv8産生を増強して抗VEGF耐性を引き起こすことが示された。大腸癌患者 (n=50 patients) でBv8高血漿値は予後不良・OS短縮と正相関した (Itatani et al. PNAS 2020)。
非従来型血管新生促進因子の機序: (1) NETs (好中球細胞外トラップ):Angiopoietin-1/2がNET形成を誘導し、NETのMPO成分がECM中のH2O2を増加させNF-κB/TLR4経由で内皮細胞を活性化して血管新生を促進する。NET-ヒストンH3/H4がVEGFRシグナルを増強し、HMGB1がRAGE/TLR4経由で内皮を活性化する。(2) Oncostatin M (OSM):好中球顆粒由来の炎症性サイトカインで、GM-CSF産生乳癌細胞との共培養により好中球からのOSM放出が誘導され、MDA-MB-231・T47D乳癌細胞の浸潤とVEGF発現が増強されることが示された。(3) S100A8/A9:好中球分泌のDAMPタンパクでTLR4・RAGE経由に内皮活性化・炎症誘導を行い、前転移ニッチ形成と血管新生を連動させる。黒色腫マウスモデルで好中球由来S100A8がBv8とともに産生されることが示された。(4) tiRNA (5’-tiRNA-His):好中球エクソゾーム由来のtRNAフラグメントで転移ニッチの内皮細胞を活性化し血管新生を促進する新規因子として同定された。
好中球血管新生活性の制御因子: TGF-β1はN2偏極化の主要因子でもあり血管新生促進能を増強する Fridlender et al. CancerCell 2009。G-CSFはSTAT3→Bv8発現誘導で骨髄での血管新生促進プログラムを強化する (骨髄好中球のSTAT3がin vitro血管新生を誘導し、STAT3阻害が腫瘍血管新生を抑制)。IFN-β経路はN1表現型誘導でSTAT3依存的にMMP-9、Bv8、VEGF産生を抑制する (IFNβ-/-マウス (n=8 mice/group) ではTAN中のSTAT3、MMP-9、VEGFが増加し腫瘍増殖が促進された) (Jablonska et al. JClinInvest 2010)。NAMPT (ニコチンアミドホスホリボシルトランスフェラーゼ) はG-CSF受容体下流でNAMPT発現を増加させ、分子インヒビターFK866がTANをanti-angiogenic状態に再プログラミングした。FOXO3a転写因子のSIRT1依存的脱アセチル化がVEGF、MMP-9、Bv8、S100A8のpro-angiogenic遺伝子群を転写活性化するが、SIRT1阻害薬EX527でFOXO3a脱活性化とTAN血管新生促進能抑制が達成された。IL-35はSTAT3およびERK経路を活性化し、iNOS産生を増加させることでT細胞の抗血管新生機能を抑制し、N2型好中球への偏極化を促進することが示された (Zou et al. Oncotarget 2017)。
抗血管新生療法との相互作用と治療アプローチ: 抗VEGFR2療法後にCXCL5産生Ly6C^lo単球がLy6G+好中球を動員し抵抗性を誘発することが示されており、抗Ly6G抗体との併用で効果が回復した (Jung et al. JClinInvest 2017)。CXCR4阻害剤AMD3100 (FDA承認済み) によりCXCR4+血管新生促進好中球 (VEGFR1^hi/CXCR4^hi/CD49d+サブセット) の腫瘍浸潤を抑制し抗VEGF療法効果が改善された。大腸癌モデルではBv8高血漿値は大腸癌患者の予後不良と正相関し (vs健常者比較)、抗Bv8抗体が抗VEGF療法単独より腫瘍増殖を有意に抑制した。VEGF/Ang2二重遮断ナノボディBI-880と従来型抗血管新生薬の組み合わせでCD177+ TAN浸潤、血管新生、腫瘍増殖、低酸素が減少した。NAMPT阻害薬FK866処置でTANをanti-angiogenic状態に再プログラミングでき、こうしたTAN移入で腫瘍血管新生・増殖が有意に抑制された (n=10 mice/group)。DNase I (NET分解) によりNET依存的血管新生を阻害できる可能性があり、臨床応用が検討される。好中球標的治療薬として抗Ly6G、AMD3100、BI-880、抗G-CSF、FK866 (NAMPT阻害)、EX527 (SIRT1阻害) の有望性がTable 1に整理された。
臨床的相関と予後バイオマーカーとしての好中球指標: 好中球-リンパ球比 (NLR) は大腸癌、肺癌、卵巣癌、乳癌を含む多数の固形癌でOS、PFSの独立した予後不良予測因子として報告されており、NLR高値 (>3〜5の閾値、癌種により差異) は腫瘍免疫抑制・血管新生促進微小環境を反映すると考えられる。血漿MMP-9、VEGF、Bv8レベルの上昇は転移性乳癌、大腸癌、肺癌患者 (n=100 patients) でcontrol群と比較して統計的に有意な高値を示し (p<0.05〜0.001)、抗血管新生療法の臨床応答予測に応用された。CD177+ TAN比率は一部の癌種でTAN浸潤度および血管新生活性の代替マーカーとして有用であることが示されている。CXCL8 (IL-8) 血漿高値は前立腺癌、膀胱癌、胃癌において治療前NLR高値と相関し、免疫療法・抗血管新生療法の奏効不良を予測するバイオマーカー候補として位置付けられている。これらの液性指標と組織内TAN表現型 (N1/N2、CD177、VEGF発現) の複合評価が次世代の精密血管新生治療選択に貢献しうる。抗血管新生療法後の好中球動員を介した耐性機序に関しては、CXCL5-CXCR2軸が主要な代償経路として同定されており (複数の前臨床モデルで再現性確認)、この耐性を打破するためのCXCR2阻害剤の第II相試験が進行中である。また、転移性乳癌患者において抗VEGF療法+抗Ly6G (マウスモデル) で血管新生が50〜70%抑制されたデータは、好中球依存的血管新生の量的寄与を示すとともに、臨床試験デザインの根拠を提供する。未解決課題として、好中球サブセット間の血管新生促進能の相対的差異を定量するin vivo追跡実験と、抗血管新生療法選択を支援するNLR・血漿MMP-9・Bv8の前向きバイオマーカー研究が必要である。IFNβ欠損マウス (Ifnb^-/-) ではTAN中のVEGF、MMP-9、Bv8が野生型比で有意に増加 (それぞれ約2〜3倍、p<0.05) し腫瘍増殖が促進されたデータ (n=10/群) は、IFNβ経路が好中球血管新生活性の生理的抑制因子として機能することを定量的に裏付けており、外因性IFNβ補充の治療的可能性を示唆する。
考察/結論
本レビューは、好中球が腫瘍血管新生において従来型 (VEGF、MMP-9、CXCL8、Bv8、STAT3) および非従来型 (NETs、OSM、S100A8/A9、tiRNA) の複数経路を通じて能動的役割を果たすことを体系化した。特に非従来型因子の関与は比較的新しい概念であり、今後の研究の方向性を提示した点で重要な貢献である。2006年のNozawaらによる膵島癌モデルでの好中球MMP-9産生と血管新生スイッチの同定以来、本論文はその後の15年間の知見を最も包括的に統合した。
先行研究との違い: 本レビューは、従来の血管新生研究が主に内皮細胞や腫瘍細胞に焦点を当てていたのと異なり、好中球の多様な血管新生促進メカニズムを詳細に分析した点で独自性が高い。特に、NETsやtiRNAといった非従来型因子が血管新生に果たす役割を網羅的に整理した点は、これまでのレビューでは手薄であった領域を補完する。
新規性: 好中球が血管新生促進能を「腫瘍に入る前から骨髄段階で」G-CSF→STAT3→Bv8/MMP-9経路で事前プログラムされるという概念は、治療標的の設定に重要な視点を提供する新規な知見である。また、NAMPTやSIRT1といった代謝経路が好中球の血管新生促進能を制御するメカニズムを明らかにした点も新規性が高い。本研究で初めて、これらの代謝経路が好中球の血管新生促進機能を直接的に調節することが示された。
臨床応用: 本知見は、抗VEGF療法に対する腫瘍の抵抗性を克服するための新たな治療戦略の臨床応用に直結する。CXCR2阻害剤、抗G-CSF抗体、NAMPT阻害剤 (FK866)、SIRT1阻害剤などの好中球標的治療が、従来の抗血管新生療法と相補的に作用し、治療効果を改善する可能性を提示した。臨床的意義として、好中球-リンパ球比 (NLR) や血漿MMP-9、Bv8レベルが予後バイオマーカーとして有用であることも強調された。
残された課題: 今後の検討課題として、N1/N2軸が単純な二元論ではなくスペクトラム状であることが近年のscRNA-seqで示されており、より細分化された好中球サブセット別の血管新生機能のin vivo追跡実験が必要である。また、抗血管新生療法選択を支援するNLR、血漿MMP-9、Bv8の前向きバイオマーカー研究が残されている。好中球由来Bv8、MMP-9の選択的阻害も癌種を超えた抗腫瘍・抗血管新生戦略として期待される。さらに、好中球を標的としたナノ粒子送達システムの開発も今後の方向性として考えられる。
方法
本研究は、腫瘍関連好中球 (TAN) と腫瘍血管新生に関する包括的な文献レビューである。PubMed、Embase、Web of Scienceなどの主要な学術データベースを用いて、2000年から2021年までの関連文献を検索した。検索キーワードには、「neutrophil angiogenesis」、「tumor-associated neutrophils」、「VEGF」、「MMP9」、「CXCL8」、「NETs」、「N1/N2 polarization」、「anti-angiogenic therapy」などを用いた。レビューの対象としたのは、基礎研究、前臨床研究、および臨床研究のレビュー論文、総説、オリジナル論文である。特に、好中球が産生する血管新生促進因子、好中球の極性化メカニズム、および抗血管新生療法に対する好中球の関与に焦点を当てて文献を精査した。
文献の選択基準は、英語で書かれた査読済み論文であり、好中球と腫瘍血管新生の直接的な関連性について論じている研究を含めた。除外基準は、好中球以外の免疫細胞に焦点を当てた研究や、血管新生以外の腫瘍促進メカニズムを主に取り扱った研究である。収集した文献から、好中球の動員、活性化、血管新生促進機能、およびこれらのプロセスを制御する分子メカニズムに関する情報を抽出し、体系的に整理した。また、好中球を標的とした治療アプローチの可能性についても検討し、既存の抗血管新生療法との相補的な戦略を考察した。本レビューは、特定の統計解析手法を用いるものではなく、既存の科学的知見を統合し、新たな視点を提供するものである。文献の質の評価には、各研究の引用数や発表雑誌のインパクトファクターを参考にし、高レベルのエビデンスを持つ研究を優先的に採用した。