- 著者: Sílvia Pires, Wei Yang, Sofia Frigerio, Cynthia Louis, Chloe Scott, Yu Lin Zhou, Tracy L. Putoczki, Ian Wicks, Randy S. Longman
- Corresponding author: Sílvia Pires (Weill Cornell Medicine, New York); Randy S. Longman (Weill Cornell Medicine, New York)
- 雑誌: Immunity
- 発行年: 2026
- Epub日: 2025-12-01
- Article種別: Original Article
- PMID: 41576959
背景
炎症性腸疾患 (IBD) は散発性大腸がんと比較して若年発症・低生存率の大腸がんリスクを著しく高める。CAC (colitis-associated colorectal cancer; 結腸炎関連大腸がん) はリスクが炎症期間・範囲と密接に相関し、散発性大腸がんとは異なる分子プロファイルを示す。IBDに対する生物学的治療が進歩したにもかかわらず、免疫介在性治療がCACリスクを低下させる可能性は長らく gap in knowledge のままであった。
TNFファミリーサイトカインであるTL1A (TNF-like cytokine 1A) は、単一の受容体 DR3 (death receptor 3) を介してのみシグナルを伝達する。TNFSF15遺伝子多型が重症IBDや進行 CRC (colorectal cancer) と関連すること、TL1Aが活動期大腸炎で高発現することは既知であり、最近の第2相臨床試験 (Danese et al. Clin Gastroenterol Hepatol 2021、Sands et al. NEJM 2024) でTL1A阻害が中等症〜重症 UC (ulcerative colitis) の炎症を改善することが示された。TL1AはIBD腸管組織の単球・DC (dendritic cell) サブセットから主に産生され、ILC3 (type 3 innate lymphoid cell) やT細胞を介した免疫応答を増強する。しかし、TL1AがCACを促進する具体的な細胞・分子機構は何が足りなかったかという問いに答えられておらず、特にILC3との連関は不明であった (Coffelt et al. NatRevCancer 2016)。
好中球は活動期大腸炎の病理学的特徴であり、CRC腫瘍微小環境において多面的な役割を持つ (Ng et al. NatRevImmunol 2019)。空間トランスクリプトーム解析によりIBDにおける好中球不均一性が示され、炎症環境による組織特異的適応が想定されている。TAN (tumor-associated neutrophil; 腫瘍関連好中球) も腫瘍促進性・抗腫瘍性の両方の性質を示す不均一な集団であり (Gungabeesoon et al. Cell 2023)、炎症がどのようにTAN様好中球を誘導するかは手薄な研究領域であった。炎症・がんにおける末梢好中球需要の増大は骨髄での緊急顆粒球産生 (emergency granulopoiesis) によって充足されるが、大腸炎がこのプロセスを誘導するシグナル経路は不足した知見であった。
目的
TL1AシグナルがILC3を介した緊急顆粒球産生の誘導とTAN様好中球の産生を連結する機序を解明し、TL1A-ILC3-GM-CSF軸の各コンポーネントがCACの促進に必要かつ十分かどうかを遺伝子改変マウスモデルで検証する。さらにIBD関連大腸炎性異形成組織でのTAN様シグネチャーの存在とTL1A阻害療法によるその抑制を臨床データで確認する。
結果
TL1A-ILC3シグナルがT細胞非依存的にCACを促進する:
TCGA大腸がんデータ (n=448) でTNFSF15高発現が低長期生存と相関することを確認し (Fig 1A)、UC単細胞RNA-seqでTNFSF15がDC・単球サブセットに高発現し、TNFRSF25 (DR3) がILC・T細胞に高発現することを示した (Fig 1B)。AOM/DSSモデルにおいて、DR3全身欠損マウスはヘテロ対照と比較して大腸腫瘍数が有意に減少した (Het n=16, KO n=13, p<0.05; Fig 1D)。CD11c+細胞特異的TL1A欠損マウスでも同様に腫瘍数が有意に減少した (Het n=9, KO n=8, p<0.05; Fig 1E)。これに対し、CD4+T細胞特異的DR3欠損マウスでは腫瘍数に差を認めず (Het n=5, KO n=5; Fig 1F)、TL1AのCAC促進がT細胞非依存的であることが示された。リンパ球欠損のRag1-/-マウスでもDR3欠損により腫瘍数が有意に減少し (Het n=15, KO n=16, p<0.01; Fig 1G)、適応免疫系に依存しない腫瘍促進機構が確認された。ILC3特異的DR3欠損マウス (DR3△ILC3, DR3△Rorc) では、大腸炎の重症度は維持されながらも腫瘍数が有意に減少した (Fig 1H, 1I)。以上よりILC3がCACにおけるTL1Aの主要標的細胞であることが遺伝的に証明された。
好中球がTL1A依存的CAC促進の必須エフェクターであること:
フローサイトメトリーにより、Rag1-/-DR3-/-マウスはAOM/DSS後の大腸Ly6G+好中球浸潤が有意に減少していた (Het n=7-10, KO n=9-10, p<0.01; Fig 2A)。CosMx空間分子イメージングで計103,332細胞を解析し、S100a8/S100a9を発現する好中球クラスターを同定した。Z score解析により、DR3+/好中球は大腸腫瘍ニッチ内で正常大腸上皮 (colonocytes) より腫瘍性上皮 (neoplastic epithelium) に選択的に共局在することが確認された (Fig 2D)。好中球枯渇実験では、抗Ly6G抗体投与によりWT (p<0.05) およびRag1-/- マウスで腫瘍数が有意に減少したが、DR3-/-マウスでは腫瘍数に変化なく (Fig 2E)、好中球がTL1A依存的CAC促進の主要エフェクターであることが示された。DR3アゴニスト抗体投与により腸炎非存在下でも大腸好中球浸潤が増加したが (Fig S2E)、この増加はDR3△ILC3マウスでは消失した (Fig 2F)。好中球自体はDR3を発現しないため (Fig S2F)、ILC3を介した間接的な好中球動員機構が証明された。
TL1A刺激ILC3がTAN様遺伝子シグネチャーを持つ好中球を誘導するメカニズム:
in vitro共培養系において、TL1A刺激ILC3上清を添加した骨髄好中球ではCD11bhi細胞 (全Ly6G+細胞の約40-60%、未処理群比約2-fold増加) およびCD177+細胞の頻度が有意に上昇し (Fig 3B、n=10回再現実験)、平均蛍光強度も有意増加した。RNA-seqでは、TL1A刺激ILC3上清曝露好中球で腫瘍関連好中球 (TAN) マーカーおよびCAC促進遺伝子が有意に上昇した — Cd14、Siglecf、Cebpb (転写因子、がん進行促進)、Il1b、Osm、Ptgs2 (COX-2)、Ccl2、Mpo (Fig 3C)。in vivoでのDR3アゴニスト投与後の大腸好中球でもSiglec-F、PD-L1、CD14発現が上昇した (n=4 per group, p<0.05; Fig 3D)。DSP解析では、IBD関連大腸炎性異形成 (n=9) のCD45+細胞は、非IBD散発性異形成 (n=3) と比較してTAN遺伝子シグネチャー (CD14、CEBPB、MPO、OSM、CCL2、ICAM1、IL1B) の複合mean Zスコアが有意に高く (p<0.05; Fig 3F)、特にCEBPB、OSM、CD14が著明に高値であった。さらに中等症〜重症UCへのTL1A阻害療法14週後の大腸生検では、OSM、MPO、IL1B、CCL2、PTGS2 (COX2)、CD14、CEBPBおよびCSF2がベースライン比で有意に低下し (p<0.05〜p<0.0001; Fig 3G)、TL1A依存的なTANシグネチャーの臨床的制御が確認された。
TL1A-ILC3-GM-CSF軸による緊急顆粒球産生の誘導と腫瘍促進能の証明:
Rag1-/-DR3-/-マウスへのTL1A刺激ILC3上清で前処理した好中球 (TL1A-Neu、各100,000個を7日毎4週間静注) の輸注により、未刺激好中球 (Neu) 投与群と比較して腫瘍数が有意に増加した (control n=4, Neu n=4, TL1A-Neu n=3, p<0.05; Fig 4B)。DSS大腸炎後大腸好中球50,000個とMC38細胞の共皮下投与ではMC38単独比で腫瘍体積が有意に増大した (MC38 n=4 vs MC38+Neutrophils n=7, p<0.05; Fig 4D)。DR3-/-大腸好中球はDR3+/好中球と比較してMC38異所性腫瘍成長を促進しなかった (Het n=5, KO n=5, p<0.05; Fig 4F)。
DSS誘発急性大腸炎 (6日間) マウスの骨髄ではGMP (granulocyte-monocyte progenitor; 顆粒球単球前駆体) と好中球が拡大したが (Fig 5A)、同様の拡大はRag2-/-マウスでも保持され、Rag2-/-Il2rg-/- (ILC欠損) マウスでは消失した (Fig 5B)。DR3アゴニスト抗体投与でも骨髄GMPと好中球が有意に増加し (α-IgG n=6, α-DR3 n=6, p<0.05; Fig 5D)、GMPではCebpb (緊急顆粒球産生の転写制御因子) が有意に上昇しCebpaが低下した (α-IgG n=4, α-DR3 n=5, p<0.05; Fig 5E)。骨髄LSK (lineage-Sca1+c-Kit+ hematopoietic progenitor) ・GMPはDR3を発現せず (Fig 5F)、KikGRマウスを用いた追跡実験でも腸管ILC3の骨髄への遊走は検出されず、TL1AはILC3から産生される液性因子を介して全身的に骨髄に作用することが示された。
DR3アゴニスト処置後のWT血清および骨髄細胞外液中のGM-CSF濃度は有意に上昇した (血清 α-IgG n=9, α-DR3 n=9, p<0.001; BM α-IgG n=6, α-DR3 n=6; Figs 6D, 6E)。腸管ILC3はT細胞と比較して著明に多量 (約5-fold以上) のGM-CSFを産生した (Fig 6C)。Csf2△Rorc (ILC3・T細胞特異的GM-CSF欠損) マウスでは、DR3アゴニストによる骨髄好中球拡大 (Het n=7-8, KO n=7-9, p<0.001; Fig 6G) およびGMP拡大 (Fig 6H) が完全に消失し、ILC3由来GM-CSFが緊急顆粒球産生に必須であることが証明された。TNFSF15リスクSNPを保有するIBD患者では、ヘテロ接合体と比較して循環GMP頻度 (Het n=12, Risk n=14, p<0.05; Fig 5I) および末梢血好中球数 (Het n=6, Risk n=10, p<0.05; Fig 5J) が有意に高く、ヒトにおける臨床的関連性が確認された。
Csf2△ILC3マウスはAOM/DSSモデルで腫瘍数が著明に減少し (Het n=7, KO n=6, p<0.05; Fig 7D)、Csf2△Rorcマウスでも同様の腫瘍数減少を示した (Het n=8, KO n=6, p<0.05; Fig 7E)。Csf2△Rorc大腸好中球はMC38異所性腫瘍成長を促進せず (Fig 7G)、ILC3由来GM-CSFによって誘導された大腸好中球こそが腫瘍促進能を担うことが最終的に証明された。
考察/結論
本研究は、TL1A-ILC3-GM-CSF軸が大腸炎と緊急顆粒球産生・TAN様好中球誘導を連結するという新規メカニズムを明らかにした。先行研究との比較では、TL1Aがおもに腸管T細胞の活性化を増強し炎症を増悪させることが先行研究で注目されていたが、本研究ではT細胞を介さず、ILC3が主要な標的細胞として機能する腫瘍促進機構を発見した点でこれまでの研究と異なる。Rag1-/-マウス (B・T細胞欠損) でもDR3欠損によって腫瘍数が有意に減少したことが、T細胞非依存的なTL1A効果を遺伝的に証明した核心的データである。
本研究において初めて明らかにされた新規の発見として、腸管組織常在性ILC3が局所作用にとどまらず、GM-CSFの全身循環を介して骨髄LSK・GMP前駆体の転写プログラムを緊急顆粒球産生モードに切り替えるという「腸-骨髄軸」が挙げられる。骨髄LSK・GMPがDR3を発現しないこと、KikGR実験でILC3の骨髄遊走が検出されなかったこと、そしてCsf2△Rorc でDR3アゴニスト誘導性GMP拡大が完全に消失したことの三重証拠から、GM-CSFが液性因子として骨髄造血を遠隔制御する経路が確立された。骨髄由来好中球ではなく腸管炎症環境で適応した大腸好中球のみが腫瘍促進能を発揮するという知見も、組織微小環境による好中球機能的リプログラミングという重要な原則を示している。
臨床応用の観点では、現在臨床試験中のTL1A阻害薬 (tulisokibart、PF-06480605等) が単に大腸炎症状を抑制するだけでなく、OSM・CEBPB・MPO・CSF2等のTAN遺伝子シグネチャーを低下させることをヒト生検データで実証したことは大きな臨床的意義を持つ。TNFSF15リスクSNP保有IBD患者での末梢血GMP高頻度という観察は、遺伝子リスク変異が全身の造血レベルでも腫瘍微小環境を不利に形成する可能性を示す橋渡し (bench-to-bedside) 知見であり、将来のバイオマーカー研究への起点となる。
残された課題として、腫瘍促進性好中球がCACをどの具体的エフェクター機能 (血管新生支持・DNA損傷誘発・免疫抑制等) によって進展させるかは今後の検討が必要である。ILC3由来GM-CSFと大腸炎重症度・罹病期間との定量的関係、また腸管ディスバイオシスがTL1Aを介した好中球動員に連結する分子的メカニズムも重要なfuture researchの課題である。さらに、抗TL1A療法がIBD患者のCAC発症リスクを実際に低下させるかは、長期前向き試験または既存臨床試験のsubgroup解析による検証が必要なlimitationとなっている。本研究のヒトデータはTNFSF15 SNP保有者における末梢血GMP・好中球との相関関係に限られており、TL1Aタンパク直接測定データと抗TL1A療法でのCAC転帰データを組み合わせた解析が今後の更なる検討として求められる。
方法
動物モデルと遺伝子改変マウス: DR3全身欠損マウス (DR3-/-)、CD11c+細胞特異的TL1A欠損マウス (Itgax-Cre Tnfsf15fl/fl)、CD4+T細胞特異的DR3欠損マウス (Cd4-Cre Tnfrsf25fl/fl)、ILC3特異的DR3欠損マウス (Rorc-Cre Tnfrsf25fl/fl / Rag2-/- background = DR3△ILC3; lymphocyte-sufficient background = DR3△Rorc)、ILC3・T細胞特異的GM-CSF欠損マウス (Rorc-Cre Csf2fl/fl = Csf2△Rorc) およびRag2-/- background上のILC3特異的GM-CSF欠損 (Csf2△ILC3) を作製した。AOM/DSSモデルでは、AOM (azoxymethane; アゾキシメタン) 1回腹腔内投与後にDSS (dextran sodium sulfate) を3サイクル (各5日間) 投与してCACを誘発した。好中球枯渇は抗Ly6G抗体を5日毎 (4週間) に投与して実施し、最終投与24時間後に枯渇効率を確認した。ILC3の骨髄遊走追跡にはKikGR (Kikume Green-Red) 蛍光タンパク質発現マウスを用い、大腸への局所UV照射後に骨髄中の光変換 (Red+) 細胞頻度を計測した。
細胞・分子解析: CosMx空間分子イメージング (spatial molecular imaging) をFFPE (formalin-fixed paraffin-embedded) 組織切片 (DR3 Het n=5, KO n=5) に適用し、計103,332細胞を解析して11種の細胞クラスターを同定した。腸管ILC3を単離してTL1Aで刺激し、その上清を骨髄由来好中球に添加するin vitro共培養系を確立した。骨髄由来好中球のRNA-seq解析 (STARアライナーを使用) により転写プロファイルの変化を解析した。DSP (digital spatial profiling; デジタル空間プロファイリング) をIBD関連大腸炎性異形成 (n=9) および非IBD散発性異形成 (n=3) のCD45+細胞領域に適用した。異所性腫瘍モデルではDSS大腸炎後の大腸好中球をMC38マウス大腸がん細胞株と共に皮下投与し、腫瘍成長を2週間モニタリングした。サイトカイン測定にはELISA法を用い、血清および骨髄細胞外液中のGM-CSF (granulocyte-macrophage colony-stimulating factor)、IL-1β、IL-6濃度を定量した。TNFSF15 SNP遺伝子型判定を実施し、IBD患者末梢血循環 GMP (granulocyte-monocyte progenitor) 頻度 (Het n=12, Risk n=14) と好中球数 (Het n=6, Risk n=10) を解析した。
統計解析: 2群間比較にはunpaired Student’s t検定を用い、多重比較にはone-way ANOVAおよびtwo-way ANOVAを用いた。データはすべてmean ± SEMで提示し、p<0.05を統計的有意とした。