- 著者: Yingcheng Wu, Jiaqiang Ma, Xupeng Yang, et al.
- Corresponding author: Li Yang (Fudan University); Jia Fan (Zhongshan Hospital, Fudan University); Xiaoming Zhang (Shanghai Institute of Immunity and Infection, CAS); Qiang Gao (Zhongshan Hospital, Fudan University)
- 雑誌: Cell
- 発行年: 2024
- Epub日: 2024-02-22
- Article種別: Original Article
- PMID: 38447573
背景
好中球は、病原体に対する最も豊富で効率的な防御細胞として知られ、腫瘍微小環境 (TME) に広く浸潤する。しかし、その機能はがん種によって促腫瘍性と抗腫瘍性の相反する役割を持つことが報告されており、その転写的多様性の全貌は未解明であった。好中球は半減期が6〜8時間と短く、細胞あたりのmRNA量がマクロファージの約1/8 (0.33 μg vs 2.55 μg/百万細胞) と少ないため、他の免疫細胞型に比べてシングルセルRNAシーケンス (scRNA-seq) による解析が著しく困難であった。この技術的課題により、がんにおける好中球のサブセット多様性、臨床的意義、および治療可能性は系統的に解明されていなかった。特に、好中球が抗原提示能を獲得し、免疫療法効果を増強できるか否かについては、これまで全くの未知であり、この領域には大きな知識ギャップが残されている。
先行研究では、腫瘍関連好中球が免疫抑制的であるという見解が長らく支配的であったが、近年では活性エラスターゼ、一酸化窒素合成酵素、または活性酸素種 (ROS) を放出してがん細胞を殺傷する能力や、自己T細胞応答を促進する抗腫瘍免疫表現型を持つことも示唆されている (Cui et al. Cell 2021, Kalafati et al. Cell 2020)。これらの矛盾するデータは、好中球集団の構成や、どのサブセットが促腫瘍効果または抗腫瘍効果を駆動するのかという重要な問いを提起しているが、その解明は不足していた。例えば、肝臓がんにおける好中球の不均一性についてはXue et al. (Nature 2022) が報告しているが、パンがんレベルでの包括的な解析は行われていなかった。また、Singhal et al. (Cancer Cell 2016) は初期肺がんにおける抗原提示能を持つ好中球サブセットの存在をマウスモデルで示唆したが、ヒトの多様ながん種におけるその普遍性や詳細なメカニズムは未確立であった。このため、好中球の機能的柔軟性と治療応用の可能性を深く理解するための基盤が不足していた。
本研究は、この知識ギャップを埋めることを目指し、多様ながん種における好中球の包括的なシングルセル解析を通じて、その転写状態の多様性を明らかにし、特に抗腫瘍免疫応答に寄与する好中球サブセットの特性と誘導メカニズムを解明することを目的とした。これにより、好中球の機能的柔軟性と治療応用の可能性を深く理解するための基盤を築くことが期待される。
目的
本研究の目的は、17種のがんを横断するパンがんレベルの好中球転写アトラスを構築し、腫瘍関連好中球の転写状態の多様性と臨床的意義を包括的に解明することである。特に、予後と関連するHLA-DR+/CD74+抗原提示好中球サブセットの代謝的および後成的誘導機序を詳細に解析し、その治療応用可能性を検証することを目指した。
具体的には、以下の点を明らかにする。
- 多様ながん種における好中球の転写状態を同定し、その組織特異性および臨床的予後との関連性を評価する。
- HLA-DR+/CD74+抗原提示好中球の分化状態と、その代謝的・後成的制御メカニズム、特にロイシン代謝がMHC-II遺伝子活性化に与える影響を解明する。
- HLA-DR+好中球がT細胞応答、特にネオ抗原特異的T細胞活性化にどのように寄与するかをin vitroおよびin vivoモデルで検証する。
- ロイシン食介入や抗原提示好中球の養子移入が、抗PD-1療法と組み合わせることで、マウスモデルおよび患者由来腫瘍フラグメント (PDTF) モデルにおいて抗腫瘍効果を増強するかを評価し、新たな免疫療法戦略の可能性を探る。
結果
pan-cancer好中球転写アトラスの構築と10種の転写状態の同定: 179,908個の好中球を解析し、S100A12+、HLA-DR+CD74+ (抗原提示)、VEGFA+SPP1+ (血管新生)、TXNIP+、CXCL8+IL1B+ (炎症)、CXCR2+ (走化性)、IFIT1+ISG15+ (インターフェロン応答)、MMP9+、NFKBIZ+HIF1A+、およびARG1+の10種の転写状態を同定した (Figure 1E, F)。TCGA 8,766サンプルの解析で、好中球浸潤レベルは29.6%がhigh、30.0%がheterogeneous、40.4%がlowのがん種に分類され、炎症性または線維性免疫抑制型TMEで好中球浸潤が優位であることが確認された (Figure 1A, B)。この結果は、好中球の浸潤パターンが組織およびがん種によって多様であることを示唆している。
HLA-DR+CD74+好中球の最終分化状態と予後相関: 4種の分化推定アルゴリズム (scTour、CytoTRACE、Monocle3、Slingshot) が全て一致して、HLA-DR+CD74+好中球を最終分化状態 (最高pseudotime値) と同定した (Figure 3A)。Ro/e (observed cell number to expected cell number ratio) 解析により、HLA-DR+CD74+好中球はNSCLC、BLCA、OVで高浸潤を示し、RCC、OSCCで低浸潤であった (Figure 2B)。対照的に、VEGFA+SPP1+好中球はRCC、STADで高浸潤であった。独立した8がん種のTMAコホート (n=1,116 patients) におけるmIHC解析では、HLA-DR+CD15+好中球の高浸潤が8がん種全てで有意な良好予後と相関し (log-rank test, p<0.001)、VEGFA+SPP1+好中球の高浸潤は最悪予後と相関した (Figure 2F, G)。フローサイトメトリー (n=24 donors) とmIHC (n=68 patients) でも、scRNA-seqのRo/e値との有意な正相関が確認された (Figure 2C, E)。HLA-DR+好中球はCCL5 (T細胞リクルート)、CD11b、MPO、CD16が高発現し、主要転写因子としてRFX5が同定された (Figure 2H-J, Figure 3C-E)。
ロイシン代謝を介したH3K27acとMHC-II遺伝子活性化の軸: 20種のアミノ酸スクリーニングにおいて、ロイシンのみが一貫してHLA-DRとCD80 (共刺激分子) の発現を誘導した (Figure 4B, C)。アルギニンもHLA-DRをわずかに誘導したが、CD80には効果がなかった。13C標識ロイシントレーシングにより、ロイシンがacetyl-CoAに代謝され、TCA回路に入り、グルタミンを産生する経路が確認された (Figure 4N)。ロイシン処置により、ミトコンドリアの凝集、長さ増加、複合体I (NADH→NAD変換) 活性上昇、酸素消費率 (OCR) 増大、ATP産生増加が確認された (Figure 4I-K)。複合体I阻害剤はHLA-DR+割合と膜電位を低下させ、NAD補充はHLA-DRを増加させた (Figure 4M, S4Q)。CUT&Tag解析では、ロイシン処置後にMHC-II遺伝子 (HLA-DRA、HLA-DQB1) のH3K27acが有意に増加し (p<0.001)、MHC-IIスーパーエンハンサーへのH3K27acの蓄積も確認された (Figure 4Q, T)。acetyl-CoA阻害剤はHLA-DRレベルを低下させ、活性化剤はこれを回復させたことから、ロイシン→acetyl-CoA→H3K27ac→MHC-II活性化の因果関係が示された (Figure 4O)。臨床サンプルでも、腫瘍内ロイシン濃度とHLA-DR+好中球シグネチャーが有意に正相関した (Figure S4F)。
HLA-DR+好中球によるT細胞応答とネオ抗原特異的活性化: 空間トランスクリプトミクス (50データセット) により、HLA-DR+好中球シグネチャーとCD8+ T細胞の有意な共局在が確認された (RCC、OV、CRC; Spearman-Rho p<0.001) (Figure 5B)。腫瘍浸潤HLA-DR+好中球を自己T細胞と共培養すると、T細胞のTNF-α産生が有意に増加した (n=4 patients、HCC・COAD患者、p<0.001) (Figure 5C)。HLA-DR+好中球にMHC-II抗原 (gp100、CMV) を負荷すると、抗原特異的T細胞反応性 (4-1BB発現) が誘導された (Figure 5E)。KRASネオ抗原 (G12V: MTEYKLVVVGAVGVGKSALTIQLI; G12D: LVVVGADGV) を負荷したHLA-DR+好中球は、複数ドナー (n=3 donors) で強力なT細胞活性化 (4-1BB+、TNF-α+) を誘導し、TCRレパートリー解析ではDCに匹敵するクローナルTCR再構成を示した (NEU:T = 10:1で最大効果) (Figure 5F-I)。T細胞活性化には直接接触が必須であり、ICAM1-ITGAL相互作用の阻害でT細胞活性化が著明に低下した (Figure S5J, N)。
in vivo治療効果:ロイシン食・Cd74+好中球養子移入・抗PD-1の組み合わせ: MHC-II flox/flox; Ly6GCre-tdTomatoマウス (好中球特異的MHC-II欠失) では、LLC、MC38、Hepa 1-6腫瘍が有意に増大し、CD4+およびCD8+ T細胞浸潤が減少した (Figure 6E, F)。これは好中球の抗原提示能が腫瘍制御に必須であることを示している。ロイシン食 (1.5%水溶液) によりCd74+好中球が増加し、T細胞浸潤が亢進した (Figure 6G, H)。ロイシン食と抗PD-1療法の組み合わせは、腫瘍体積を著明に減少させ、安定病態を達成した (Figure 7A)。Cd74+好中球の養子移入と抗PD-1療法の組み合わせでは、MC38モデルで4/10 mice、Hepa 1-6モデルで6/10 miceで完全奏効が得られた (Figure 7C)。Cd74欠損好中球では効果が消失した。臨床免疫療法コホート8コホート (SKCM、STAD、HCC、BLCA、NSCLC、合計数百例) の解析では、HLA-DR+好中球シグネチャーが免疫療法奏効および生存と有意に正相関した (Figure 7D, E)。抗PD-1耐性HCC患者のPDTF (patient-derived tumor fragment) モデル (n=5 samples) では、HLA-DR+好中球の添加がCD4+およびCD8+ T細胞のIFN-γ、TNF-α、4-1BB、CD39発現を亢進させ、抗PD-1との相乗効果を示した (Figure 7F, G)。
考察/結論
本研究は、17がん種を横断するパンがん好中球トランスクリプトームアトラスを初めて確立し、HLA-DR+/CD74+抗原提示好中球サブセットが免疫療法において中心的な抗腫瘍役割を果たすことを体系的に実証した。この発見は、「好中球は免疫抑制的」という従来の広範な見解を根本から覆す重要なパラダイムシフトである。
新規性: 本研究で初めて、ロイシン代謝がミトコンドリア複合体Iを介してacetyl-CoA産生を促進し、ヒストンH3K27ac修飾を誘導することでMHC-II遺伝子を活性化するという、代謝-後成的カスケードを新規に同定した。これは腫瘍免疫における代謝制御の新概念を示すものである。また、好中球の短寿命という特性が、TMEによる免疫抑制細胞への再プログラミングリスクを最小限に抑える可能性も示唆された。
先行研究との違い: 2016年にSinghal et al. (Cancer Cell 2016) がマウスの初期肺がんにおいて好中球の抗原提示能を報告したが、本研究はこれを大規模なヒト臨床データと詳細な機能実験で大幅に拡張し、その普遍的な存在とメカニズムを明らかにした点でこれまでと異なる。また、他の専門的抗原提示細胞 (樹状細胞、B細胞、マクロファージ) が脂肪酸やグルコース代謝によって抗原提示機能が制御されるのに対し、好中球ではアミノ酸代謝、特にロイシンが重要な役割を果たすことが示された点で対照的である。この違いは、好中球が独自の代謝経路を通じて抗腫瘍免疫応答を調節する可能性を示唆している。
臨床応用: HLA-DR+好中球シグネチャーが8コホートで免疫療法奏効および生存と有意に正相関することは、予測バイオマーカーとしての臨床応用可能性を示す。さらに、自己循環血液好中球の短期ex vivoロイシン刺激、ネオ抗原負荷、養子移入という戦略は、CAR-T療法と比較して、(1) 自家細胞利用によるGVHDリスク回避、(2) 複雑な遺伝子改変不要、(3) 短寿命による副作用の自然消退という優位性がある。これは、既存の免疫療法を補完する新たな好中球ベースの治療戦略として臨床現場での活用が期待される。
残された課題: 今後の検討課題として、(1) 養子移入好中球の腫瘍内半減期延長戦略、(2) ロイシン食介入の前向き臨床試験、(3) 樹状細胞やB細胞など他の専門的抗原提示細胞との抗原提示能力の直接比較検討、(4) HLA-DR+好中球による免疫抑制的TMEの再プログラミングにおける役割の解明が挙げられる。また、ロイシンが異なる腫瘍間でどのように変動し、ロイシンが不足する腫瘍で好中球の抗原提示機能が失われるか、好中球サブセット間の代謝的変動、例えばTXNIP+サブセットにおけるヒスチジン、アルギニン、プロリン代謝の特異性についてもさらなる研究が必要である。HLA-DR+好中球がT細胞を直接活性化する詳細なメカニズムや、養子移入されたHLA-DR+好中球のリンパ節への移動パターンも今後の研究で明らかにすべき点である。
方法
本研究では、17種のがん (非小細胞肺がん (NSCLC)、肝細胞がん (HCC)、結腸直腸がん (CRC)、腎細胞がん (RCC)、胃腺がん (STAD) など) を含む143患者から採取された225サンプル (原発腫瘍、転移巣、血液、隣接正常組織を含む) から好中球をソーティングプロトコルにより精製し、scRNA-seqを実施した。これに公開データセットを統合し、合計179,908個の好中球を解析した。このうち、12がん種からのデータ (70.59%) は本研究で新規に生成されたものである。
好中球浸潤パターンを評価するため、TCGA (The Cancer Genome Atlas) のパンがんデータ (8,766サンプル、31がん種) を用いて、3つのアルゴリズム (Becht et al. Genome Biol. 2016, Finotello et al. Genome Med. 2019, Aran et al. Genome Biol. 2017) に基づくコンセンサス好中球浸潤スコアを算出した。このスコアは、Yoshihara et al. NatCommun 2013 の手法も参考にしている。
scRNA-seqデータの品質管理、処理、アノテーション、および可視化には、Butler et al. NatBiotechnol 2018 と Korsunsky et al. NatMethods 2019 の手法を適用し、Hafemeister et al. GenomeBiol 2019 の正規化と分散安定化を用いた。
好中球サブセットの検証には、多重免疫組織化学 (mIHC) を8がん種のTMA (組織マイクロアレイ) コホート (n=68およびn=1,116) で実施し、フローサイトメトリー (n=24 donors) でscRNA-seqの結果との相関を評価した。空間トランスクリプトミクス (50データセット、178,330スポット、9がん種) を用いて、HLA-DR+好中球とT細胞の空間的共局在を解析した。
ロイシン代謝の機序解明のため、20種のアミノ酸スクリーニング、13C標識ロイシントレーシング、CUT&Tagによるヒストン修飾解析 (H3K27ac, H3K27me3, H3K4me3)、およびSeahorse代謝解析を実施した。
機能実験として、HLA-DR+好中球と自己T細胞の共培養によるネオ抗原応答の評価、TCRレパートリー解析、および患者由来腫瘍フラグメント (PDTF) モデルでの検証を行った。TCRレパートリー解析では、KRAS G12Vネオ抗原刺激後のT細胞のクローナル再構成を評価した。
in vivo治療実験では、MHC-II flox/flox; Ly6GCre-tdTomatoマウス (好中球特異的MHC-II欠失) を作製し、LLC、MC38、Hepa 1-6皮下腫瘍モデルで腫瘍増殖とT細胞浸潤への影響を評価した。さらに、ロイシン食投与 (1.5%水溶液) またはCd74+好中球の養子移入を、抗PD-1抗体との組み合わせで実施し、抗腫瘍効果を検証した。統計解析には、Student’s t検定、Wilcoxon検定、ログランク検定、ANOVA検定、およびSpearmanの順位相関係数を用いた。