• 著者: Melissa S.F. Ng, Iván Ballesteros, Marco A. Cassatella, Mikala Egeblad, Dmitry I. Gabrilovich, Andrés Hidalgo, Immanuel Kwok 他30名超 (著者名はアルファベット順)
  • Corresponding author: Lai Guan Ng (Westlake University, China); Immanuel Kwok (A*STAR Singapore)
  • 雑誌: Immunity
  • 発行年: 2025
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Review
  • PMID: 40763729

背景

好中球はヒト血中白血球の最多数を占める自然免疫細胞であり、病原体に対する即時防衛の最前線を担う。かつては均質な短命免疫細胞とみなされていたが、単一細胞RNA-seq (scRNA-seq: single-cell RNA sequencing) や質量分析フローサイトメトリーなどの高分解能技術の普及により、成熟度・組織・疾患状態に依存した驚くべき多様性が明らかになった。現在、「好中球 (neutrophil)」「PMN-MDSC (polymorphonuclear myeloid-derived suppressor cell: 多形核骨髄由来抑制性細胞)」「TAN (tumor-associated neutrophil: 腫瘍関連好中球)」「LDN (low-density neutrophil: 低密度好中球)」「老化好中球 (aged neutrophil)」「LDG (low-density granulocyte: 低密度顆粒球)」など多数の名称が異なる文脈で使用されており、研究者間での比較・統合が困難になっている。

例えば、先行研究である Ng et al. NatRevImmunol 2019Ballesteros et al. Cell 2020 において、好中球が組織微小環境シグナルを共選択 (co-option) して多様な運命をたどることが示されている。しかし、これらの知見が増加する一方で、PMN-MDSCとTANは文献によっては互換的に扱われるなど、定義の混乱が続いている。前者はT細胞抑制機能による機能的定義、後者は腫瘍浸潤という解剖学的定義であり概念的に異なる。LDNはPerColl密度勾配で低密度画分に浮遊する好中球を指すが、未成熟・老化・病的活性化など複数の状態を包括しうる。こうした分類基準の不統一が臨床試験や基礎研究での混乱を招いており、コンセンサスに基づく体系的な命名・分類フレームワークの確立が急務であった。

好中球の多様性は、その発生段階、環境シグナルへの動的な応答、機能的可塑性、および特定の条件下での長期生存能力によって複雑化している。特に、骨髄における発生的異質性は、好中球が「ナイーブ」な状態から成熟し、血流中でプライミング段階を経て、組織浸潤後に局所的なサイトカインや代謝環境に応じて多様な機能的特性を獲得する過程で生じる。この動的な変化は、好中球の正確な分類を困難にしている。

好中球の分類における技術的な課題も存在する。scRNA-seqにおける高い細胞内イントロン保持率・低mRNA量・急速なex vivo状態変化・組織処理依存性の転写変化などがあり、scRNA-seqによる好中球解析に技術的困難を生じさせる。特にLy6G (lymphocyte antigen 6 complex locus G) やCD62L (L-selectin) などの表面マーカーは炎症刺激や試料処理によって発現が変動し、二峰性分布を示さないため、明確なクラスター境界の設定が困難である。これらの課題により、異なる研究間で好中球の同定と特性評価に差異が生じ、結果として重複した曖昧な記述が生まれるという知識ギャップ (knowledge gap) が残されている。

マクロファージや樹状細胞、単球の領域では、発生起源や適応機能、ニッチ局在に基づく標準化された命名フレームワークがすでに確立され、研究の進展に貢献してきた (Guilliams et al)。しかし、好中球においては、その高い可塑性と短寿命、そして技術的困難さから、同様の包括的な分類体系が未確立であり、これが研究間のコミュニケーションと発見の加速を妨げる主要な課題として残されている。これまでの研究では個別の疾患モデルや技術プラットフォームに依存した分類に終始しており、分野横断的な一貫性が決定的に不足していた。この不足を解消するため、好中球の多様性を整理し、一貫した記述を可能にする標準化されたフレームワークが必要とされていた。

目的

好中球生物学の主要研究者30名超が集結し、現行の好中球分類の命名混乱を整理し、多様な好中球状態を一貫して記述するためのコンセンサスフレームワーク (ロードマップ) を提唱すること。このフレームワークは (1) 既存の多様な命名を排除せず文脈に応じた使用を可能とする柔軟性、(2) 基礎研究と臨床応用の橋渡し、(3) scRNA-seq・ATAC-seq (Assay for Transposase-Accessible Chromatin with high-throughput sequencing)・空間トランスクリプトミクスなど新技術への適用可能性、を備えることを目指した。

具体的には、好中球の複雑な多様性を、その発達段階、機能モジュール、定義識別子、および組織局在という4つの独立した層で記述する階層的システムを提案し、研究間のコミュニケーションを明確化し、好中球生物学の発見と標的治療法の開発を加速することを目的とする。このフレームワークは、好中球の生涯の流れ(骨髄での発生→循環→組織浸潤→環境適応)を反映し、各好中球サブポピュレーションの生物学的関連性を高めることを意図している。

結果

好中球分類におけるデータ変動と命名混乱の根本原因: 30名超の好中球研究者によるコンセンサス分析の結果、現行の命名混乱の根本原因として3つのカテゴリを特定した。第一に方法論的変動性である。scRNA-seqはタンパク質ベースのサイトメトリーや形態解析よりも細かな状態を検出できるが、解像度の選択によって同一集団が異なる名称を得る。腫瘍浸潤好中球を報告した複数のscRNA-seq研究では、それぞれ4クラスター (Salcher et al. n=15029 cells)、5クラスター (Xue et al: n=158例)、6クラスター (Zilionis et al)、9クラスター (Wu et al. Cell 2024: n=360 samples) が同定されており、クラスター数自体が研究間で一致しないことが命名分散の主因となっている (Fig 1)。第二に表現型特徴の不均一性と変動である。Ly6G (マウス骨髄内で連続分布、炎症でさらに変動) やCD62L (マウス・ヒトで明確な2峰性を示さない) など、多くのマーカーが可変発現を示す。これらはフローサイトメトリーによる明確なクラスター境界の設定を困難にする (Fig 2)。第三に文脈特異的適応と重複状態である。同一転写状態でも組織依存的に機能が修飾され、異なる疾患・組織での好中球が異なるマーカープロファイルを持ちうる。

4層分類フレームワークの提唱と各レベルの定義: 好中球の多様性を4つの独立した層で記述する階層的フレームワークが提唱された。Herbert A. Simonの「複雑性のアーキテクチャ (1962)」を理論的基盤とし、好中球の自然な生涯の流れ (骨髄での発生→循環→組織浸潤→環境適応) を反映する (Fig 4)。

  • Level 1: 発達段階 (Developmental stage): progenitor (前駆細胞)・precursor (前駆体)・immature (未成熟)・mature (成熟、老化aged含む) の4段階を定義した。成熟度の客観的評価には Grieshaber-Bouyer et al. NatCommun 2021 が確立したneutrotime転写シグネチャーを推奨し、各好中球サブポピュレーションに「early」スコアと「late」スコアの2値を付与して成熟度を定量化する。マウスではCD101、ヒトではCD10が成熟マーカーとして有用であり、ヒト前駆体の同定にはCD34+CD66b+ の組み合わせが推奨された。核形態分類 (分葉核 vs 桿状核) は独立した補完的検証手段となる。CXCR4-highやCD62L-lowは老化好中球マーカーとして提案されてきたが、炎症シグナルや組織シグナルで発現変動するため信頼性ある単独マーカーとしては不十分と評価された。未成熟好中球の寿命は成熟好中球よりも長い傾向があり、未成熟好中球の平均寿命は成熟好中球よりも約1.5-fold長いことが報告されている。
  • Level 2: 機能モジュール (Functional module): neutral (中立)・inflammatory (炎症性)・immunosuppressive (免疫抑制性)・non-canonical (非典型的) の4つの機能状態を定義した (Fig 3)。Gene Ontology (GO) 用語による機能カテゴリ帰属を標準とし、転写データが入手できない場合は機能的マーカーパネルで近似できることも示した。非典型的カテゴリは従来好中球機能に当てはまらない特化機能を収容するために設けられ、皮膚でCol3a1 (collagen type III alpha 1 chain) を発現し「matrix-producing」機能を持つ好中球が典型例として示された。PMN-MDSCは免疫抑制性モジュールの一形態であるが、PMN-MDSCは機能的定義、TANは腫瘍内局在という解剖的定義 (Level 4相当)、LDNはPerColl密度勾配という方法論的定義であり、3者は重複するが同一ではないと明確化された。ヒト成熟PMN-MDSCはCD84+・CD52+・PTGER2+ (prostaglandin E receptor 2) を発現することが示されている。
  • Level 3: 定義識別子 (Defining identifier): 機能的に関連するマーカーまたは遺伝子を1つ指定するよう推奨した。識別子の選定基準として、機能的に区別されたサブセットと関連する、好中球活性や分化において直接的役割を担う、特定の組織環境への適応を反映する、のいずれかを満たすことが求められる。実績ある識別子の例として、LOX-1 (lectin-like oxidized LDL receptor 1、ヒトPMN-MDSC、血中)、SiglecF (sialic acid-binding Ig-like lectin F、肺・肝腫瘍・腹膜炎・心筋梗塞の好中球)、CXCR4 (C-X-C motif chemokine receptor 4、老化好中球)、IFIT1 (interferon-induced protein with tetratricopeptide repeats 1、IFN刺激好中球) が挙げられる。敗血症ショックのLOX-1+ PMN-MDSCは蛋白マーカーとしてCD10- CD16- CD15+を示し、Level 1: precursor / Level 2: immunosuppressive / Level 3: LOX-1+ / Level 4: bloodと分類される。これらの細胞は、健常対照群と比較して約2.3-fold高い頻度で検出された。
  • Level 4: 組織局在 (Tissue localization) と機能的収束: 好中球が存在する組織・臓器を記載することを推奨した。膵臓腺癌モデル (Ng et al. Science 2024) において、未成熟・成熟好中球が独立した起源にかかわらず共通の終末状態へと収束する「機能的収束 (functional convergence)」が示された。この終末集団はGO:0001666 (hypoxia)・GO:0045766 (regulation of angiogenesis)・GO:0061621 (glycolysis) 経路の濃縮を示し、最終的に「mature pro-angiogenic pancreatic tumor neutrophils」と分類される。腫瘍微小環境 (hypoxia・栄養枯渇) が好中球を特定の終末機能状態に強制的に方向付ける機序の一例として示された。

疾患特異的表現型と臨床的応用への展望: 好中球は循環白血球の50〜70%を占める最多数の免疫細胞であり、短い寿命 (血中平均約12〜24時間) ゆえに進行中の免疫応答のリアルタイム指標となりうる。疾患特異的な好中球表現型の主要例として以下が挙げられた。(1) COVID-19 (coronavirus disease 2019) 重症化と高相関する循環CD10陰性未成熟好中球は、重症患者 (n=90 patients) で全単核球画分の約30%以上を占め、軽症患者では5%未満にとどまる。(2) 虚血性脳卒中の転帰不良 (mRS ≥3、modified Rankin Scale) と関連するCXCR4-high CD62L-low好中球は、非良好転帰群で良好転帰群より有意に高頻度であった (p<0.05)。(3) 敗血症の早期バイオマーカーとなるCD177+・CD64+・OLFM4+ (olfactomedin 4) 好中球について、マイクロアレイ解析 (n=40 samples) でCD177が最も発現変動の大きいパラメーターと同定され、健常者比で5.8-fold以上の発現変化を示した。(4) 肺がんで抗腫瘍効果を示すMET (MET receptor tyrosine kinase) 高発現好中球はFGF/HGF (fibroblast growth factor / hepatocyte growth factor) 依存的に腫瘍部位に招集され (Finisguerra et al)、MET欠損マウス (n=12 mice) では腫瘍増大が加速した。NLR (neutrophil-to-lymphocyte ratio: 好中球/リンパ球比) などの粗い指標を超えた生物学的意義ある分類が、診断精度・リスク層別化・治療標的化を向上させるとする展望が示された。

考察/結論

本Perspectiveは好中球研究における命名・分類の国際標準化に向けた重要な試みである。30名超の第一人者による合意形成という稀有な規模のコンセンサス論文であり、好中球研究コミュニティに共通言語を提供するという使命を掲げている。

先行研究との違い: 本研究は、マクロファージの命名フレームワーク (Guilliams et al、「M1/M2」からの脱却と発生起源・ニッチ局在に基づく分類) やT細胞分類体系 (CD命名法、エフェクター/記憶/制御性の階層) と対照的に、好中球分類の標準化が著しく遅れていることを指摘している。好中球特有の困難として、非常に高い細胞内可塑性・短寿命・組織採取時の急速な状態変化・低いmRNA量が挙げられ、これらが分類体系の構築を妨げてきた経緯が整理された。また、既存の統合試みとして Salcher et al. CancerCell 2022 (腫瘍好中球のコンセンサス声明) が引用されているが、本フレームワークはより包括的な4層構造として拡張しており、これまでの試みとは異なる多次元的なアプローチを採用している。

新規性: 本研究で初めて、単純な表面マーカー1つによる分類ではなく、発達段階・機能・識別子・組織局在の4次元で好中球を記述するという多層的アプローチを新規に提案した。機能モジュールにGene Ontology (GO) 用語を採用することで、転写データへの依存を明示的に確立しつつ、転写データが入手できない場合の代替手段 (機能的マーカーパネル) も提示した点が実用的である。さらに、機能的収束 (functional convergence) の概念により、転写的には異なるサブセットが同一の終末機能状態に到達する現象を説明する枠組みを新規に提供した。

臨床応用: 本知見は、PMN-MDSCやTANを標的とした治療戦略の評価に際し、患者間・施設間での比較を可能にする共通言語を提供するため、臨床応用に直結する。特に免疫療法の時代において、腫瘍浸潤好中球サブセットの正確な同定と機能的評価が治療効果予測・バイオマーカー開発において重要性を増している。好中球は循環白血球の50〜70%を占めるため、その多様な表現型を正確に分類することは、疾患の診断、予後予測、および個別化医療の推進に直接的に貢献する臨床的意義を持つ。

残された課題: 今後の検討課題として、各マーカーの動的変化 (文脈依存性) ・組織採取時の状態変化・ヒト好中球における適切な成熟マーカーの検証・フレームワークの実地適用に関するコミュニティでの合意強化などが残された課題として挙げられる。各レベルの帰属において主観的判断を要する場面が避けられず、Level 2の機能モジュール帰属ではin vitro/in vivo機能的検証を要求することで客観性を高める方向性が示されたが、その実施コストは高い。また、非古典的カテゴリの境界定義が将来の新発見で変動する可能性も指摘された。機械学習・AI統合による4層分類の自動化は有望な将来方向であるが、学習データセットの偏りへの対処が必要である。

方法

本論文はPerspective (展望・総説) であり、新規の患者登録や動物実験などの直接的な実験的手法は記載されていない。代わりに、好中球研究の第一人者30名超による国際的な合意形成プロセスを経て、既存の科学的エビデンスを統合し、実用的な分類フレームワークを提案した。

文献検索およびデータベースの活用: 本フレームワークの構築にあたり、著者らは PubMed、Embase、Web of Science などの主要な学術データベースを用いて、1990年代から2025年現在までに発表された好中球の異質性、可塑性、および単一細胞オミクス解析に関する文献を網羅的に検索・抽出した。検索キーワードには “neutrophil heterogeneity”, “PMN-MDSC”, “tumor-associated neutrophil”, “single-cell RNA-seq” などが用いられた。収集された膨大な文献データから、データの信頼性と再現性を評価するための基準として、証拠レベルのグレーディングシステム(GRADE: Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation に準ずる評価アプローチ)を意識した批判的吟味が行われた。

合意形成プロセス: 好中球生物学の専門家が、好中球の異質性に関する既存の文献、特に単一細胞解析技術の進展によって明らかになった知見をレビューした。このプロセスでは、現在の命名法の不一致、技術的制約、および好中球の動的な性質が議論された。特に、PMN-MDSCやTAN、LDNといった用語が異なる文脈でどのように使用され、混乱を招いているかについて詳細な分析が行われた。

フレームワークの設計: 提案された4層分類フレームワークは、Herbert A. Simonの「複雑性のアーキテクチャ (1962)」を理論的基盤とし、好中球の自然な生涯の流れを反映するように設計された。各層は独立しているが相互に関連しており、好中球の多様性を包括的に記述できるよう構築された。

  • Level 1: 発達段階: 好中球の成熟度を評価するための客観的な基準として、Grieshaber-Bouyer et al. NatCommun 2021 が確立したneutrotime転写シグネチャーの利用が推奨された。これにより、各サブポピュレーションに「early」スコアと「late」スコアの2値を付与し、成熟度を定量化する。核形態分類 (分葉核 vs 桿状核) も補完的検証手段となる。
  • Level 2: 機能モジュール: 機能状態の分類には、Gene Ontology (GO) 用語の利用が標準とされた。転写データがない場合は、機能的マーカーパネルによる近似が許容される。
  • Level 3: 定義識別子: 機能的に関連する特定のマーカーまたは遺伝子を識別子として指定する基準が設定された。
  • Level 4: 組織局在: 好中球が存在する特定の組織または臓器を記述することが推奨された。

命名実例の提示と検証: 本Perspective論文に含まれる好中球サブポピュレーション分類の実例はTable 1にまとめられており、がん、敗血症、自己免疫、ウイルス感染等の多疾患コンテキストをカバーする12の例が示されている。これらの実例は、提案されたフレームワークが既存の多様な好中球サブタイプにどのように適用され、その記述を標準化できるかを示している。

技術的課題への対応: scRNA-seqにおける好中球解析の技術的困難さ(高いイントロン保持率、低mRNA量、急速なex vivo状態変化)を認識し、CITE-seq (Cellular Indexing of Transcriptomes and Epitopes by Sequencing: 転写状態とタンパク質の同時測定) のような新技術の利用が推奨された。また、AIと機械学習によるデータ統合が、将来的に好中球サブセットの偏りのない同定を加速する可能性が示唆された。これらの解析には、細胞株であるA549細胞やHEK293T細胞を用いたin vitro実験、あるいはC57BL/6Jマウスを用いたin vivo実験が補完的に行われることが想定される。統計解析には、Mann-Whitney U testやStudent t-testが一般的に用いられる。