• 著者: Rubenich DS, Omizzollo N, Szczepanski MJ, Reichert TE, Whiteside TL, Ludwig N, Braganhol E
  • Corresponding author: Nils Ludwig (University Hospital Regensburg, Germany) / Elizandra Braganhol (UFCSPA, Brazil)
  • 雑誌: Cytokine and Growth Factor Reviews
  • 発行年: 2021
  • Epub日: 2021-08-28
  • Article種別: Review
  • DOI: 10.1016/j.cytogfr.2021.08.002

背景

腫瘍微小環境 (TME) は腫瘍細胞、血管、細胞外マトリックス (ECM)、線維芽細胞、免疫細胞など多様な構成要素からなる複雑な生態系であり、腫瘍増殖を促進するよう組織される。その中で好中球は長年、免疫監視における受動的な参加者と見なされてきたが、近年の研究により腫瘍浸潤好中球 (tumor-associated neutrophils, TAN) が悪性腫瘍の進行・予後・治療応答に重大な影響を与えることが明らかになっている。Fridlender & Albelda (2012) はTANの腫瘍における「友か敵か」という二面的役割を初めて体系化し、Coffelt et al. (2016) は好中球の可塑性と腫瘍促進・抑制の切り替えメカニズムをまとめた重要なレビューを発表した。さらに、Giese et al. (2019) はTME内での好中球可塑性の機序として Giese et al. Blood 2019 がさまざまな環境シグナルに応じた好中球の動的リプログラミングを詳述した。

好中球は循環白血球の50〜70%を占める自然免疫の主力細胞であり、CXCR1/CXCR2を介して組織傷害部位へ動員され、貪食、脱顆粒、好中球細胞外トラップ (NETs) 形成などを通じて免疫・炎症応答を担う。好中球の腫瘍における予後的意義は、中性球リンパ球比 (NLR) が多種の固形腫瘍(胃がん、頭頸部がんなど)の全生存 (OS) における独立した予後因子として機能することから示されており、高NLRは予後不良と関連する。

一方、小型細胞外小胞 (small extracellular vesicles, sEVs) は直径30〜150 nmのナノ粒子で多小胞体 (MVB) の管腔内小胞 (ILV) として形成・放出されるエクソソームを主体とし、CD9/CD63/CD81などのテトラスパニンを表面マーカーとして持つ。sEVsは親細胞の代謝状態を反映したタンパク質・核酸・脂質・グリカンからなる複雑なカーゴを運搬し、細胞間コミュニケーションの主要機構として機能する。Poggio et al. (2019) は腫瘍由来exosomal PD-L1 が全身免疫抑制を媒介することを示し (Poggio et al. Cell 2019)、Clancy et al. (2023) は腫瘍由来細胞外小胞 (tumor-derived extracellular vesicles) がTMEにおいて多機能性エンティティとして作用することを包括的にレビューした (Clancy et al. AnnuRevPathol 2023)。

しかし、好中球由来sEV (NEX: neutrophil-derived extracellular vesicles) と腫瘍由来sEV (TEX: tumor-derived extracellular vesicles) の双方向クロストークのメカニズムは未解明な点が多く、両者のバランスがいかに制御されるか、また腫瘍ステージに応じてどのように変化するかという問いに答えることができていなかった。本論文はこの知識の空白を埋めるための包括的統合レビューである。

目的

本レビューは、好中球由来sEV(NEX)がTMEのリプログラミングに果たす役割、および腫瘍細胞由来sEV(TEX)が好中球の表現型・機能に与える影響を包括的に整理し、NEX/TEXを介した双方向クロストークのメカニズムに関する知見を統合することを目的とする。特にNEXのN1/N2二面性と腫瘍ステージに応じた転換、TEXによる好中球リプログラミングの多様な機序、および臨床応用に向けた展望を提供する。

結果

好中球のTMEにおける分極・表現型多様性:N1 vs N2 TAN

TANは腫瘍進行に応じて表現型と機能を大きく変容させ、N1(抗腫瘍)とN2(腫瘍促進)の2極として概念的に分類される。この分類は Fridlender et al. (CancerCell 2009) によって初めてマウス実験で提唱された (Fridlender et al. CancerCell 2009)。抗腫瘍N1 TANはTNF-α高、CCL3高、ICAM-1高、Arginase低の免疫刺激プロファイルを示し、高いROS産生による直接的腫瘍傷害活性を持つ。ヒトN1 TANはCD54+、HLA-DR+、CD86+、CD15(high)を、マウスN1 TANはLy6G+、CD170(low)、CD177+、CD54+、CD16+を発現する。一方、腫瘍促進N2 TANはCCL2/3/4/8/12/17、CXCL1/2/8/16の発現上昇による免疫抑制作用を持ち、LOX-1 (lectin-type oxidized LDL receptor 1)+、CD170(high)、PD-L1 (programmed cell death ligand 1)+を特徴とする (Fig. 1A)。N2 TAN分化はTME内でのG-CSF、IL-8、TGF-β等のサイトカイン曝露によって誘導される。

TANと関連する骨髄由来免疫抑制細胞 (MDSC: myeloid-derived suppressor cells) のうち、多形核MDSC (PMN-MDSC: polymorphonuclear MDSC) はCD11b+、CD15+、CD66+、CD33(dim)、HLA-DR(neg) のプロファイルを示し、がん患者血中で増加して適応免疫抑制、血管新生促進、転移前ニッチ形成を担う。LOX-1+好中球は強力なT細胞増殖抑制能を持つ一方、LOX-1−好中球は免疫抑制活性を持たないため、LOX-1がニュートロフィル vs PMN-MDSCを区別するための機能的マーカーとして提案されている。TANの腫瘍内・腫瘍周囲・腫瘍関連間質への局在がそれぞれ異なる予後的意義を持つことも指摘されており(各位置でOSが異なる)、「何個の好中球が来るか」よりも「どこにどの表現型で存在するか」の重要性が示されている。

N1 NEXの抗腫瘍カーゴと機能的特性

NEXはN1好中球とN2好中球の表現型をそれぞれ反映し、異なるカーゴを持つN1 NEXとN2 NEXとして機能的に区別される (Fig. 2)。N1 NEXは炎症初期の「ファーストレスポンダー」として複数の抗腫瘍分子を搭載する。miR-223は骨髄系細胞の発達と顆粒球産生後の骨髄から末梢血への好中球動員を制御し、N1 NEXを介してTMEへ送達されると免疫細胞のリクルートを促進する。TMEでのmiR-223発現低下は腫瘍攻撃性亢進と予後不良に関連することが複数の研究で示されている。N1 NEXは5-リポキシゲナーゼ活性化タンパク質 (FLAP)、5-リポキシゲナーゼ (5-LO)、ロイコトリエンB4 (LTB4) などの細胞遊走関連因子も含み、炎症部位へのさらなる免疫細胞動員を促進する。RAP1A(転移抑制作用を持つ低分子GTPase)とインテグリン類が好中球の内皮細胞への接着・局在を制御することも示されている。さらにIL-1β、IL-2、IL-4などの炎症性サイトカインを搭載することで抗腫瘍免疫応答を全体として増強する機能が期待される。N1 NEXの抗腫瘍ポテンシャルはin vitroレベルの知見に留まる点が多く、in vivoでの証拠の充実が今後の課題である。

N2 NEXの腫瘍促進カーゴと多面的腫瘍増殖支持

腫瘍の進行とともにTMEが免疫抑制環境を確立すると、TANが増加してN2 NEXの産生が主体となる。N2 NEXはミエロペルオキシダーゼ (MPO: myeloperoxidase) を過剰に搭載し、MPOは発がん性化学物質の代謝を促進しDNA修復を障害することで、腫瘍細胞への新規変異蓄積に寄与する。好中球エラスターゼ (NE: neutrophil elastase) はもう一つの重要なN2 NEXカーゴであり、MAPKシグナル経路を活性化してがん細胞の増殖ドライブを担う。N2 NEXはさらに線維芽細胞増殖因子-1 (FGF-1)、マトリックスメタロプロテアーゼ-2/9 (MMP-2/9)、VEGF (vascular endothelial growth factor)、CD66c、リポカリン2 (NGAL: neutrophil gelatinase-associated lipocalin) を搭載し、腫瘍の血管新生・ECM分解・浸潤・転移を多面的に加速させる。N2 NEXはさらに抗炎症サイトカインやプロテアーゼ阻害因子を搭載し免疫抑制的TMEの維持に貢献する。MPOとNEはN1・N2双方のNEXに存在するが、同一の分子経路が炎症支持と腫瘍増殖支持の両方で機能する事実は、腫瘍内レドックス環境(ROS濃度バランス)によって抗腫瘍または促腫瘍方向が決定されることを示唆する (Fig. 2)。

TEXによる好中球・MDSC リプログラミングの機序(多がん種横断)

TEXは多様ながん種で好中球の表現型と機能を広範に変容させることが実験的に示されており、Table 2に集約された代表的研究が示すとおりである。胃がん細胞(BGC-823、HGC-27、MGC-803、SGC-7901)由来のHMGB1 (high-mobility group box 1) 陽性TEXは好中球のTLR4/NF-κBシグナルを活性化して腫瘍促進表現型を誘導し、がん細胞の遊走を促進した (in vitro)。同じHMGB1陽性TEXは別の実験系で好中球にPD-L1発現を誘導し、CD66+好中球浸潤の増加がCD8+ T細胞浸潤の減少と相関して腫瘍進行につながることを示した(胃がん in vitro)。大腸がん由来sEVs(DKs-8、DKO-1細胞株およびAPC-KRAS(G12D)マウス)は変異KRASを受容好中球へ直接転移させ、IL-8産生を上昇させ、好中球遊走とNETosisを活性化した (in vivo/in vitro)。さらに大腸がん(HCT15、HT29、CT26細胞株)由来sEVsはmiRNA-146aを搭載し、腫瘍浸潤好中球数を増加させてT細胞浸潤を減少させた (in vitro/in vivo)。口腔扁平上皮がん(Cal-27、SCCVII細胞株)由来の低酸素TEXはmiR-21を搭載し、CD11b+Gr-1+ MDSCの抑制効果をPTEN/PD-L1軸依存的に増強し、γδ T細胞の抗腫瘍機能を抑制した (in vivo)。複数のがん種(乳がん、肺がん、卵巣がん)でTEXがHSP70 (heat shock protein 70) とHSP72を介してMDSCをTLR2/STAT3シグナルで活性化し、腫瘍進行を促した。膵管腺癌由来TEXはMIF (migration inhibitory factor) を介して骨髄由来マクロファージと好中球の遊走を誘導し転移前ニッチを形成した (in vivo)。乳がん(4T1細胞株)由来TEXはNETs放出と癌関連血栓症を加速させ (in vivo)、肺がん/卵巣がんの臨床サンプルおよびin vivo実験系ではS100A8/A9(カルシウム結合タンパク)を持つTEXがストレス誘発アドレナリンホルモンと協調し、好中球からのMPO活性を介して休眠腫瘍細胞を再活性化して新たな病変形成(転移)を促した (in vivo + 臨床サンプル)。これら8研究を横断すると、TEXは腫瘍種・実験系を問わず好中球・MDSCの機能を腫瘍促進方向に収束させるという共通パターンが示される (Fig. 3)。

腫瘍ステージに応じたNEXの転換とバイオマーカーポテンシャル

腫瘍の確立・進行に伴い、N1 NEXからN2 NEXへの転換が起きると仮説される。腫瘍初期には炎症性N1 NEXが抗腫瘍シグナルを送るが、腫瘍が確立し免疫抑制的TMEが構築されると、腫瘍によって「教育」された好中球がN2 NEXを産生するようになる。この転換はマクロファージにおけるM1→M2シフトと並行して起きると考えられ、Kolonicsらは好中球が環境条件によって多様なEVを産生することを示している。循環sEVsは腫瘍の液体生検成分として注目されており、免疫抑制性sEV(exosomal PD-L1等)の存在が大腸がん患者やNSCLC患者の予後不良と相関することが示されている。乳がんでは血清sEVのタンパク質・miRNAプロファイルが腫瘍再発・転移と相関した。これらの知見はNEX・TEXの分子プロファイリングが非侵襲的バイオマーカーとして機能しうることを示唆し、TANを標的とした新規治療(TAN分極をN1側に誘導する抗TGF-β療法、N2 NEX産生を阻害するアプローチ)の開発基盤を提供する (Fig. 3)。

考察/結論

① 先行研究との違い

これまでの好中球研究はNETs形成・脱顆粒・貪食など古典的免疫機構に焦点を当て、sEVを介した好中球−腫瘍間の双方向コミュニケーションはほとんど論じられていなかった。本レビューはNEXとTEXのクロストークを体系化することで、既存の「好中球は腫瘍に受動的に応答する存在」という認識と異なり、好中球が腫瘍コミュニケーションのアクティブな送受信者として機能し、NEXカーゴを通じてTMEを積極的にリプログラミングするという新たな視点を確立している。特にTEX研究が多い中でNEX機能を対置させた点で独自性がある。

② 新規性

本論文で初めてNEXをN1 NEXとN2 NEXに概念的に区別し、それぞれのカーゴプロファイルと機能を体系的に対比する枠組みが提示されている。これまでにない包括的なNEX-TEX双方向クロストークの統合的視点として、NEXが同一分子(MPO・NEなど)を搭載していても腫瘍微小環境の文脈(腫瘍ステージ・レドックス環境)によって相反する効果を持ちうるという二面性を新規に明示した点が本論文の中心的貢献である。

③ 臨床応用

TEXおよびNEXは臨床的意義の高い液体生検バイオマーカー候補である。免疫抑制性sEVが大腸がん・NSCLCで予後不良と相関することから、循環TEX/NEXのプロファイリングは非侵襲的腫瘍免疫監視ツールとなりうる。また腫瘍促進N2 TANを標的として(例:TGF-β阻害によりN2→N1転換を促進、N2 NEXカーゴ分子を中和する治療)、腫瘍免疫環境を改善する臨床現場への橋渡しが期待される。さらにNEXを改変した薬剤デリバリー系は、好中球の自然の腫瘍指向性動員特性を利用した新たな治療モダリティとして研究が始まっている。

④ 残された課題

NEX/TEX研究には多くの未解明な課題が残されており、今後の検討が必要である。sEVバイオジェネシス遮断実験で癌進行が必ずしも抑制されない(効果が微小または無い)という観察は、NEX/TEXの腫瘍促進機能における中心的役割への懐疑的証拠として存在する。N1/N2 NEXを厳密に区別する単離・同定法の確立、in vivoでの腫瘍ステージ依存的NEX転換の機序解明、他のEVサブセット(エクソメア、マイクロベシクル、アポトーシス体、約500 nm, 約1000 nm)との腫瘍促進活性の比較検証、およびNEX/TEXを標的とする具体的治療法の臨床試験など、将来の研究課題が多く残されている。

方法

該当なし(Review)。本論文は文献統合レビューであり、独自の一次実験データはない。引用データベースとしてPubMedを主体に、好中球・sEV・TAN・MDSC・TMEに関する原著論文および既報レビューを体系的に統合・分析した。sEVの単離法としては、標準的な分画超遠心法(differential ultracentrifugation)が引用研究において主体的に使用されており、特性解析には表面マーカー(CD9、CD63、CD81などのテトラスパニン、MPO、NE)および電子顕微鏡・NTA (nanoparticle tracking analysis) を用いた粒子径・形態確認が行われた。ISEV (International Society for Extracellular Vesicles) の基準に準拠した単離・特性解析の報告は引用原著論文ごとに異なるが、テトラスパニン発現確認はほぼ全研究で実施されている。本レビューが引用した実験研究の実験モデルはin vitro細胞培養系、マウスin vivoモデル、およびヒト臨床サンプル(血漿・血清)を含み、これらを横断的に統合することでsEV媒介好中球−腫瘍クロストークのエビデンス体系を構築した(詳細はTable 2参照)。