- 著者: Zhou Tian, Jinchao Zhao, Yueyang Wang, Shaomin Zou, Junkang Ding, Tangye Zeng, Yizhao Zhou, Bo Zhang, Honghe Zhang, Zhe Tang
- Corresponding author: Honghe Zhang, Zhe Tang (Zhejiang University, China)
- 雑誌: Journal for ImmunoTherapy of Cancer
- 発行年: 2026
- Epub日: 2026-06-24
- Article種別: Original Article
- DOI: 10.1136/jitc-2026-014851
背景
熱焼灼療法 (thermal ablation、代表的に radiofrequency ablation: RFA とマイクロ波焼灼) は肝癌に対する低侵襲かつ効果的な局所療法として広く施行されているが、治療後の局所腫瘍再発・転移が長期成績を損なう主因となっている。過去の研究では、焼灼による組織損傷が免疫原性細胞内成分の放出と炎症性サイトカイン分泌を惹起し、pro-inflammatory かつ免疫抑制的な腫瘍微小環境を形成することが報告されており (Tohme et al. CancerRes 2016)、臨床的には好中球−リンパ球比 (NLR) の上昇が予後不良と関連するとされてきた。好中球は炎症・組織傷害における最速の応答細胞であり、好中球細胞外トラップ (neutrophil extracellular traps: NETs)—クロマチン繊維にヒストンと細胞傷害性酵素を装飾した網目状構造物—を形成することで腫瘍進展に複雑な影響を与えることが知られている (Adrover et al. CancerCell 2023)。NETs はがんの増殖・浸潤・免疫回避・血管新生・転移前ニッチ形成を促進する一方、一部の文脈では抗腫瘍効果を発揮するという双方向性の役割を持つ (He et al. AnnuRevCancerBiol 2022)。化学療法誘発性 NETs が治療抵抗性をもたらすことも示されているが (Mousset et al. CancerCell 2023)、熱焼灼療法が NETs を誘導するか、またその NETs が焼灼後の局所腫瘍進展に関与するかは未解明のままであった。本研究は、熱焼灼療法後の NETs 誘導とその腫瘍促進機序、および NETs を標的とした治療戦略の翻訳的可能性を解明することを目的とした。
目的
熱焼灼療法後の好中球活性化と NETs 形成の実態を患者・マウスモデルで確認し、熱ストレス下での NETs 誘導機序 (CXCL1-CXCR2 軸・NF-κB 経路) および NETs による局所腫瘍進展促進機序 (TLR9 依存性炎症フィードバック・CD8+ T 細胞抑制) を明らかにすること。また、NF-κB と CXCR2 の併用阻害による治療的可能性を前臨床モデルで検証すること。
結果
熱焼灼療法後の好中球活性化と NETs 形成:患者コホートにおける証拠。肝癌患者 (n=40) を対象とした paired analysis では、熱焼灼療法後 24 時間で好中球割合が 62.51% から 77.89% へと顕著に増加し、全白血球数の増加を主導した (Fig 1A, B)。NETs マーカーの citrullinated histone H3 (H3Cit) は術後に 1.8 倍増加し (n=20、Fig 1K, L)、MPO-DNA 複合体は 1.5 倍増加した (n=40、Fig 1M)。局所腫瘍進展を来した患者群 (n=8) では、来さなかった群 (n=25) と比較して MPO-DNA 複合体の増加幅が有意に大きかった (Fig 1N, O)。さらに文献ベースのメタ解析では、術前後の高 NLR が局所再発リスク増加 (HR=1.54、95% CI 1.30-1.82) および死亡リスク増加 (HR=1.56、95% CI 1.29-1.88) と有意に関連することが示された (Fig 1E)。これらの知見は、熱焼灼療法後の NETs 形成と局所腫瘍進展との臨床的連関を強く示唆する。
NETs の空間的分布と局所腫瘍進展への機能的貢献:in vivo モデルの解析。同所移植肝癌マウスモデルで RFA 後 1〜5 日の時点を解析すると、焼灼部位周囲に幅約 800〜1,000 μm のバンド状 NETs 濃縮帯 (MPO/Cit-H3/DNA 三重染色陽性) が形成された (Fig 2B-D)。この NETs 濃縮帯は 7 日目までに消退し、残存腫瘍の増殖帯と空間的に一致していた。機能実験として抗 Ly6G 中和抗体による好中球除去 (n=6)、PAD4 阻害薬 GSK484 による NET 形成阻害 (n=5)、DNase I による NETs 分解 (n=5) をそれぞれ実施したところ、いずれも局所腫瘍進展が有意に抑制され (肝重量・腫瘍体積の減少)、自然発症肺転移も有意に減少した (Fig 2F, G, I, J)。これらの一致した結果は、熱焼灼療法誘発性 NETs が局所腫瘍進展を促進する直接的な寄与を示す。
熱ストレス誘発 NF-κB→CXCL1→CXCR2 軸が NET 形成を駆動する:肝癌細胞 (Hepa1-6, Huh7) に熱ストレスを与えた conditioned medium (CM) で好中球を刺激すると、NET 形成が誘導された。CM 中の 31 種サイトカイン・ケモカインを Luminex アッセイで測定したところ、CXCL1 が最も顕著な NET 誘導因子として同定された (対照比 3 倍超、n=3)。CXCL1 中和抗体または CXCR2 アンタゴニスト前処置で CM 誘発 NET 形成が有意に阻害され (Fig 3F)、in vivo でも同様の NET 抑制が確認された (Fig 3G、n=8)。CXCL1 上流機序の解析では、40〜44°C の亜致死的熱処理で CXCL1 mRNA 発現と分泌が有意に増加し (n=4、Fig 4B, C)、RNA-seq の GSEA では NF-κB シグナルが CXCL1 調節経路中で最高の normalized enrichment score を示した (Fig 4D)。p65 ノックダウン実験で熱ストレス誘発 CXCL1 転写が有意に減弱し (n=4)、ChIP-qPCR では熱ストレス後に CXCL1 プロモーターへの p65 結合が増強した (n=3、Fig 4H)。さらに N-アセチルシステイン (NAC) による ROS 消去が NF-κB 活性化と p65 核移行を減弱させたことから、熱ストレス→ROS→NF-κB→CXCL1→CXCR2→NETs という経路が同定された。患者血漿中 CXCL1 も熱焼灼後に有意に上昇した (n=35、Fig 4C)。
NETs が TLR9 依存性炎症フィードバックを確立して腫瘍悪性度を増強する:精製 NETs で熱ストレス処置がん細胞を刺激すると、増殖・移動・浸潤が有意に促進され、DNase I による NETs 分解でこれらの効果が消失した (n=3)。受容体解析では NETs 処置により TLR9 発現が選択的に上昇し (他の TLR1-8 は変化なし)、in vivo でも RFA 後の腫瘍辺縁部で TLR9 発現増加が NETs 分布と一致した (Fig 5E, F、n=6)。TLR9 下流では STAT3・p65・JNK・p38 のリン酸化が亢進し CXCL1 さらに誘導された。TLR9 アンタゴニストまたは TLR9 ノックダウン細胞を用いた実験では、NETs 誘発の移動・浸潤促進が有意に抑制された (n=3)。in vivo でも TLR9 ノックダウン腫瘍 + RFA 群で局所腫瘍進展が有意に減弱した (n=5)。この結果は、熱焼灼後の NETs が TLR9 を介して NF-κB/STAT3/MAPK 経路を活性化し CXCL1 をさらに誘導する正帰還ループ (NETs→TLR9→NF-κB/MAPK→CXCL1→CXCR2→NETs) を形成することを示す。
NETs による CD8+ T 細胞抑制と免疫抑制的腫瘍微小環境の形成:RFA 後の DNase I による NETs 除去により、CD8+ T 細胞浸潤が有意に増加した (n=9〜21、Fig 6A)。フローサイトメトリーでは total T 細胞と CD8+ T 細胞の腫瘍浸潤数、グランザイム B (GZMB)+CD8+ T 細胞比率、IFN-γ+CD8+ T 細胞比率がいずれも有意に上昇し、他の免疫細胞サブセットには変化がなかった (n=6、Fig 6B, C)。精製 NETs で処置した脾臓由来 CD8+ T 細胞では、Ki-67+・GZMB+・IFN-γ+ 比率がいずれも有意に低下し、DNase I で NETs を分解すると回復した (n=4、Fig 6D, E)。さらに、NETs がヒト T リンパ球細胞株 (Jurkat) の p65 核移行を著明に抑制したことから、NETs が T 細胞活性化の中心機序を直接阻害することが示された (Fig 6G)。
NF-κB + CXCR2 併用阻害による治療的シナジー:NF-κB 阻害薬 BAY 11-7082 (2.5 mg/kg) と CXCR2 阻害薬 SB225002 の併用投与 (n=4〜5) は、単剤と比較して局所腫瘍進展と自然発症肺転移をより強力に抑制した (Fig 7B-D)。免疫細胞フローサイトメトリー解析では、CD11b+ 骨髄系細胞と G-MDSC (顆粒球系骨髄由来抑制細胞) が減少し、樹状細胞・CD8+ T 細胞・NK 細胞比率が増加した。GZMB+CD8+ T 細胞および GZMB+NK 細胞比率は単剤群より組み合わせ群で高く (Fig 7I, J)、Ki-67 解析でも腫瘍増殖抑制効果が確認された (n=8〜10、Fig 7K)。
考察/結論
① 先行研究との違い:化学療法や放射線療法による NETs は全身性・びまん性に分布するのと異なり、本研究で明らかにした熱焼灼療法誘発性 NETs は焼灼部位周囲の 800〜1,000 μm の幅に高度に局在化するバンド状構造を形成する点が対照的である。この空間的特殊性は CD8+ T 細胞の腫瘍浸潤を物理的・機能的に阻害する「バリア」として機能し、従来の拡散型 NETs とは異なるがん進展様式をとる。また、NETs が TLR9 を介して腫瘍細胞 intrinsic な NF-κB/STAT3/MAPK 活性化と CXCL1 再誘導を起こすという炎症正帰還ループは、外科的ストレス後の NETs 促進性肝転移 (Tohme et al. CancerRes 2016) や化学療法誘発 NETs (He et al. CancerCell 2025) とは異なる、焼灼特有の自己増幅的炎症機序として新規性がある。
② 新規性:本研究で初めて、熱焼灼療法後に NETs が形成されること、その NETs がバンド状の空間的特徴を持ちながら TLR9 依存性の炎症正帰還ループを確立すること、そして同ループが腫瘍細胞の TLR9→NF-κB/STAT3/MAPK 活性化を介して CXCL1 をさらに誘導し好中球を追加動員するという新規な機序が示された。腫瘍細胞が熱ストレス下で自ら NETs を誘導するシグナル (ROS→NF-κB→CXCL1) を産生し、その NETs が今度は腫瘍細胞の TLR9 を活性化して炎症を増幅するという双方向フィードバックは、これまでにない概念である。
③ 臨床応用:臨床応用の観点では、NF-κB 阻害薬 (低用量 BAY 11-7082 2.5 mg/kg) と CXCR2 阻害薬の併用が post-ablation の腫瘍進展・転移を抑制しつつ抗腫瘍免疫 (CD8+ T 細胞・NK 細胞) を強化する結果は、熱焼灼療法の有効性を高める局所補助療法としての可能性を示す。既承認薬としてはプロテアソーム阻害薬 (ボルテゾミブ等) や IKK 阻害薬が NF-κB 経路に働くことから、将来の臨床試験への展開が期待される。DNase I による NETs 分解や PAD4 阻害も前臨床では有効であり、これらの NETs 標的戦略が熱焼灼療法の post-treatment 管理を改善しうる。
④ 残された課題:今後の検討として、熱焼灼療法後の患者組織における NETs の空間分布と持続性を直接評価した研究が不足しており、バンド状 NETs 帯の臨床的意義検証が必要である。TLR9 の腫瘍細胞 intrinsic な役割が局所腫瘍進展を部分的にしか抑制しなかった点は、NETs が TLR9 非依存的な機序 (HMGB1 等の DAMPs 放出・ROS 産生) でも腫瘍微小環境を改変する可能性を示唆し、多経路標的の必要性がある。また、本研究で用いた低用量 NF-κB 阻害薬戦略の安全性と選択性についての臨床前最適化が求められる。
方法
後ろ向き解析 + 前向き患者血液採取 (倫理委員会承認 K2025011、書面同意取得)。患者末梢血サンプル (肝癌患者、熱焼灼前・術翌日、EDTA チューブ採取) から好中球・NETs・CXCL1 を定量 (ELISA、フローサイトメトリー、Cit-H3 n=20、MPO-DNA n=40、NETosis n=11、CXCL1 n=35)。マウス同所移植肝癌モデル (Hepa1-6 細胞の肝内投与)、tumor 径 6〜8 mm 時に RFA 実施 (単極電極)。bone marrow-derived neutrophil (BMDN) および peripheral blood neutrophil (PBN) を熱ストレス処置 CM と共培養して NET 形成を評価。NETs 精製は細胞死プログラム活性化 + DNase I で純化。Luminex アッセイ (31 サイトカイン・ケモカイン、n=3)。ChIP-qPCR で CXCL1 プロモーター p65 結合解析 (n=3)。デュアルルシフェラーゼレポーターアッセイ (n=3)。RNA-seq (RFA 処置マウス腫瘍組織) + GSEA。フローサイトメトリー (腫瘍浸潤免疫細胞解析)。IHC (TLR9・CXCL1・CD8・Ki-67・CD31)。Western blot (NF-κB 経路:p-IKKα/β, p-IκBα, p-p65)。抗 Ly6G 中和抗体 (好中球除去)、PAD4 阻害薬 GSK484 (NET 形成阻害)、DNase I (NETs 分解)。細胞株:Hepa1-6 (マウス)、Huh7 (ヒト)。統計:GraphPad Prism V.9.3、mean±SEM 表記、両側 t 検定・一元配置 ANOVA・Wilcoxon signed rank test、*p<0.05, **p<0.01, ***p<0.001, ****p<0.0001。