• 著者: Samer Tohme, Hamza O. Yazdani, Ahmed B. Al-Khafaji, Alexis P. Chidi, Patricia Loughran, Kerri Mowen, Yanming Wang, Richard L. Simmons, Hai Huang, Allan Tsung
  • Corresponding author: Allan Tsung (University of Pittsburgh Medical Center, Pittsburgh, PA, USA)
  • 雑誌: Cancer Research
  • 発行年: 2016
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 26759232

背景

大腸がん (CRC) は米国で3番目に多い癌であり、癌関連死の主要な原因の一つである (Siegel et al. 2015)。特に、肝転移病変はCRC患者の死亡原因の主因であり、その治療は依然として大きな課題である。肝転移切除術は、化学療法単独と比較して患者の生存率を改善する唯一の治療法であるが (Kopetz et al. 2009)、術後の肝内再発は50%から60%の患者に発生し、治療失敗の主要な原因となっている (Wolpin et al. 2008)。外科的切除が長期的な腫瘍再発リスクを高める可能性は数十年前から認識されていたが (Murthy et al. 1989)、その分子機序は依然として不明な点が多く、臨床的介入が不足していた。

外科的ストレスは、生体内の免疫応答を活性化させ、これが腫瘍再発や全身性転移を促進しうると考えられている (van der Bij et al. 2009)。特に肝臓手術においては、出血制御のために肝血流を一時的に遮断する虚血と、その後の血流再開による再灌流 (I/R) 損傷が避けられない。このI/R損傷は、肝臓の機能不全や炎症経路の過剰な活性化を引き起こし、術後の合併症や死亡率の主要な原因となる (Rahbari et al. 2008)。先行研究では、動物モデルにおける肝I/Rによって引き起こされる炎症が、肝微小転移の増殖を加速させることが明確に示されていたが (Nicoud et al. 2007, van der Bilt et al. 2005)、その正確なメカニズムは未解明であった。

好中球は、微生物に対する生体防御の最前線に立つ細胞であり、外科的ストレスや肝I/R損傷に伴う免疫応答において重要な役割を担う (Peralta et al. 2013)。好中球はまた、癌の炎症という特徴を腫瘍進行のほぼすべての段階、特に転移と結びつける重要な細胞であると考えられている (De Larco et al. 2004, Fridlender et al. 2012)。近年、好中球がDNAと様々なタンパク質からなる網状構造体である好中球細胞外トラップ (NETs) を放出して細菌を捕捉する新しい生物学的側面が報告された (Brinkmann et al. Science 2004)。NETsは当初、抗菌防御機構として認識されていたが、自己免疫疾患や他の無菌性炎症性疾患の病態形成にも関与する可能性が示唆されている (Kessenbrock et al. NatMed 2009, Pinegin et al. 2015)。本研究グループは以前、肝I/RがNETs形成を誘導し、NETsを標的とすることで肝臓および全身性のI/R誘発性炎症が改善されることを報告した (Huang et al. 2015)。しかし、NETsが腫瘍進行、特に外科的ストレス後の転移促進にどのように関与するかは、依然として不明な知識ギャップが残されていた。先行研究では、NETsが循環腫瘍細胞を捕捉し、腫瘍関連血栓症や全身感染症下での腫瘍進行を促進することが示唆されていたが (Cools-Lartigue et al. JClinInvest 2013, Demers et al. 2012)、外科的ストレスという特定の文脈におけるNETsと肝転移の直接的な関連性は未解明であった。

目的

本研究の目的は、外科的ストレス(特に肝虚血再灌流、I/R)によって誘発される好中球細胞外トラップ (NETs) 形成が、大腸がんの肝転移の発生および進行を促進するかどうかを、ヒト患者コホートおよびマウスモデルを用いて検証することである。さらに、NETsが転移を促進する具体的な分子機序、特に高移動度群ボックス1 (HMGB1) とToll様受容体9 (TLR9) 経路の関与を詳細に解明することを目的とする。具体的には、以下の点を明らかにすることを目指した。

  1. 大腸がん肝転移切除術後の患者において、術後NETs形成の増加が無病生存期間に与える影響を評価する。
  2. マウス肝転移モデルにおいて、肝I/RがNETs形成を誘導し、それが肝転移の発生と既存微小転移の増殖を促進するかを検証する。
  3. NETs形成の阻害剤(DNase Iおよびペプチジルアルギニンデイミナーゼ (PAD4) 阻害剤 YW4-03)が、外科的ストレス誘発性の肝転移を抑制できるかを評価する。
  4. 腫瘍微小環境における低酸素がNETs形成に与える影響、およびNETsと腫瘍浸潤好中球との関連性を検討する。
  5. NETsが腫瘍細胞の接着、増殖、遊走、浸潤といった転移関連行動に直接的に与える影響をin vitroで解析する。
  6. NETsによる転移促進効果が、HMGB1放出を介した腫瘍細胞のTLR9経路活性化によって媒介される分子機序を同定する。

結果

患者コホートにおけるNETs形成と臨床的意義: 大腸がん肝転移患者50例 (n=50 patients) を対象とした解析では、大手術群 (3区域以上の肝切除、n=35 patients) の術後1日目の血清MPO-DNA値は、小手術群 (n=15 patients) および健常対照 (n=20 healthy controls) と比較して有意に高値であった (図1A)。大手術群の患者をMPO-DNA中央値 (fold change 1.75) で高値群 (n=18 patients) と低値群 (n=17 patients) に分けると、高値群の無病生存期間中央値は5.5ヶ月であり、低値群の31.0ヶ月と比較して著明に短縮した (p<0.001)。高MPO-DNA群の再発リスクは低値群の4.22倍であった (95% CI 1.39-12.81, p=0.011)。Harrell c統計量は0.717と中等度の識別能を示した。多変量Cox回帰分析では、MPO-DNAは年齢、腫瘍数、最大病変径、CEAを補正後も独立した予後不良因子であった (HR=2.13, 95% CI 1.43-4.17, p<0.01)。また、術前HMGB1レベルは健常対照と比較してmCRC患者で有意に高値 (中央値41.1 ng/mL vs. 1.4 ng/mL) であり、大手術後にさらに約3倍上昇した (術後中央値11.3 ng/mL, p<0.001)。術後MPO-DNAとHMGB1の間には強い正の相関関係が認められた (Spearman係数0.7, p<0.001)。高術後HMGB1レベルも無病生存期間の短縮と関連した (p<0.01)。

マウスモデルにおけるNETs誘導と転移促進: 肝I/Rは、シャム手術群と比較して、肝組織におけるcit-H3 (NETsマーカー) の有意な増加を誘導し、循環MPO-DNAレベルも有意に上昇した (図1C, D, F)。I/Rモデルでは、14日時点で肝表面転移巣がシャム群より有意に多く (I/R群平均11結節 vs. シャム群2結節, p<0.0001)、DNase Iの毎日投与によりI/R誘発転移巣を68%有意に減少させた (図3D)。既に微小転移が形成されたマウス (n=6 mice/group) では、I/R後のDNase I投与により肝臓/体重比が45%減少し (p<0.001)、肝実質の腫瘍置換率もI/R群78%に対しI/R+DNase群44%と有意に低下した (p=0.02) (図4E, F)。PAD4-/-マウスおよびPAD4阻害剤YW4-03投与マウスでは、I/R後の腫瘍増殖が有意に抑制され、WTマウスのI/R群と比較して約73%の腫瘍成長減少が認められた (p<0.001) (図5A, B)。シャム群ではYW4-03による腫瘍成長の有意な減少は認められなかった。

低酸素によるNETs形成の促進と正のフィードバックループ: 転移腫瘍内部において、HIF-1α陽性細胞の有意な増加が認められ、腫瘍浸潤好中球数はI/R群でシャム群の約12倍に増加した (平均258 Ly6G+ cells/10^6 μm^2 vs. 20 Ly6G+ cells/10^6 μm^2, p<0.001) (図2A, B)。低酸素下で培養したMC38細胞の条件培地や壊死細胞条件培地は、好中球のNETs形成を有意に促進した (図2D, E)。これは、腫瘍内の低酸素環境が好中球のNETosisを誘発し、さらなる転移増殖を促進する正のフィードバックループの存在を示唆している。ヒトmCRC組織サンプルでも、HIF-1αとcit-H3の発現が非腫瘍肝組織と比較して再発腫瘍で高かった。

in vitroにおけるNETs-HMGB1-TLR9経路の解明: PMA刺激WT好中球の条件培地は、MC38細胞の増殖を24時間で60%、48時間で97%促進した (p<0.0001)。この効果は、DNase I、YW4-03、またはPAD4-/-好中球の条件培地では有意に抑制された (p<0.0001) (図5F, G)。NETs条件培地処理MC38細胞ではTLR9の発現が有意に増加した (図6B)。TLR9 shRNAによるノックダウンまたはPAD4-/-好中球条件培地は、MAPKリン酸化 (p38、Stat3、JNK、p65/NFκB) の活性化を有意に抑制した (図6C, F)。HMGB1中和抗体の添加は、NETs誘発性のMC38細胞増殖、遊走、浸潤を有意に減少させ、MAPK経路活性化も対照レベルに戻した (図7C, D, E)。NETsの直接的な細胞接着促進効果も確認され、PMA刺激好中球単層へのMC38細胞接着は平均19.1 cells/hpfと非刺激の5.7 cells/hpfやPAD4-/-の6.2 cells/hpfと比較して有意に増加し (p<0.0001)、DNase IやYW4-03添加で8.1および7.2 cells/hpfと対照レベルに戻った (図5D)。また、NETs条件培地はMC38細胞の遊走を3.5-fold、浸潤を7-fold増加させ (p<0.001)、これらもNETs阻害により有意に抑制された (図5E)。さらにin vivoでTLR9ノックダウンMC38細胞を用いたI/Rモデル (n=6 mice/group) では、WT MC38と比較して3週時点の腫瘍増殖が有意に減少し (肝臓/体重比で有意差, p<0.01)、MAPKリン酸化亢進も認められず、TLR9がNETs誘発性転移増殖の必須メディエーターであることがin vivoでも確認された (図6G, H, I)。

考察/結論

本研究は、外科的ストレスによって誘発される好中球細胞外トラップ (NETs) 形成が、大腸がんの肝転移の発生と進行を促進するメカニズムを、患者コホートとマウスモデルの両方で詳細に解明した先駆的な研究である。術後NETs形成の増加が無病生存期間の著明な短縮と関連するという臨床的知見は、外科的ストレスが腫瘍再発リスクを高めるという長年の臨床的課題に対し、具体的な分子メカニズムを提示した点で新規性が高い。

先行研究との違い: これまでの研究では、NETsが循環腫瘍細胞を捕捉し、腫瘍関連血栓症や全身感染症下での転移を促進することが示唆されていたが (Cools-Lartigue et al. JClinInvest 2013)、本研究は、外科的切除という標準治療に伴う無菌性炎症環境下でのNETs-腫瘍細胞相互作用と、そのin vivoでの転移増殖促進効果を確立した点で対照的である。特に、肝虚血再灌流という外科的ストレスがNETs形成を誘導し、それが肝転移の発生と既存微小転移の増殖の両方を促進することを示した点は、これまでの報告と異なる。また、腫瘍内低酸素環境がNETs形成を促進し、さらなる転移増殖を誘発するという正のフィードバックループの発見は、腫瘍進行メカニズムの新しい概念を提供する。

新規性: 本研究で初めて、術後NETs形成が直接的にがん細胞のTLR9経路を介してMAPK/NFκBシグナル伝達を活性化し、接着、増殖、遊走、浸潤という4つのがん細胞行動様式すべてを促進するという知見を新規に同定した。さらに、NETsが放出するHMGB1が、TLR9経路活性化の主要なメディエーターであることを明らかにした点も新規である。これらの発見は、炎症と転移を結ぶ全く新しい接点を提示し、外科的ストレスによる腫瘍再発という長年の未解明の臨床課題に対し、NETs-HMGB1-TLR9というDAMP (damage-associated molecular pattern) シグナル伝達経路を具体的な分子機序として明示した。

臨床応用: 本研究の知見は、大腸がん肝転移患者の術後管理において重要な臨床的意義を持つ。術後MPO-DNA測定は、周術期リスク層別化のバイオマーカーとして使用可能であり、高値患者には強化補助療法の検討が示唆される。さらに、DNase I (嚢胞性線維症で既承認の組み換えヒトDNase) の周術期投与は既に安全性が示されており、高リスク患者への腫瘍再発予防介入として有力な候補である。PAD4阻害剤YW4-03も同様の抑制効果を示したことから、これらの薬剤が将来的に臨床現場で活用される可能性が考えられる。

残された課題: 今後の検討課題として、NETs-TLR9軸における他のNETs構成成分 (MMP-9、好中球エラスターゼ、カテプシンG、カテリシジンなど) による効果への寄与を詳細に解析する必要がある。また、DNase投与が抗菌宿主防御を損なわずに腫瘍再発を抑制できるかを前向き臨床試験で検証する必要がある。本研究グループのその後の研究 (Yazdani et al. 2019) では、NETsが腫瘍細胞のミトコンドリア生合成を促進するという追加機序も解明されており、本研究が提供したNETs-転移の概念的基盤が発展的に進化している。本研究は、外科的ストレスが引き起こす炎症性微小環境が転移促進に果たす役割を理解するための重要な一歩であり、新たな治療戦略の開発に貢献すると考えられる。

方法

患者コホート研究: 2010年から2012年にかけてピッツバーグ大学医療センターで大腸がん肝転移 (mCRC) に対し根治的肝切除術を受けた患者50例を対象とした。術後1日目の血清サンプルを採取し、NETsのバイオマーカーであるMPO-DNA複合体とHMGB1のレベルをELISAにより定量した。これらのバイオマーカー値と、無病生存期間 (DFS) および全生存期間 (OS) との相関を、Kaplan-Meier法およびCox比例ハザード回帰モデルを用いて解析した。Harrell c統計量を用いてモデルの予測能力を評価した。全てのヒト検体は承認された施設内倫理委員会プロトコルに基づき、書面によるインフォームドコンセントを得て使用された。

動物実験: マウス大腸がん細胞株MC38またはルシフェラーゼ発現MC38 (MC38/Luc) を使用した肝転移モデルを構築した。細胞は8〜10週齢のC57BL/6J野生型 (WT) マウスまたはPAD4ノックアウト (PAD4-/-) マウスの脾臓内に注射され、10分間循環させた後、脾臓摘出術を行った。肝虚血再灌流 (I/R) モデルでは、70%の肝セグメントに60分間の温虚血を適用し、その後15分間の再灌流を行った。実験群は、シャム (sham) 群、I/R群、DNase I投与群 (50 μg/mouse、腹腔内、毎日投与)、PAD4阻害剤YW4-03 (10 mg/kg、週3回、腹腔内投与)、およびPAD4-/-マウス群に分けた。DNase IおよびYW4-03の初回投与は腹部閉鎖直前に行われた。既存の微小転移に対する効果を評価するため、一部の実験では腫瘍細胞注入から5日後にI/Rまたはシャム手術を行い、その後DNase Iを投与した。腫瘍の増殖は、肉眼的観察、肝臓/体重比、肝実質の腫瘍置換率、およびMC38/Luc細胞を用いたバイオイメージングにより評価した。肝組織中のNETs形成は、citrullinated-histone H3 (cit-H3) のウェスタンブロット解析および免疫蛍光染色 (Ly6G、H2AX、DNA染色) により確認した。腫瘍内の低酸素状態はHIF-1αの免疫蛍光染色で評価した。

好中球の単離とin vitro NETs形成: マウスの脛骨および大腿骨骨髄から好中球を単離した (純度96%以上)。単離した好中球をPMA (100 nmol/L) で4時間刺激し、NETs形成を誘導した。その条件培地 (conditioned media, NM) を収集し、MC38細胞との共培養実験に用いた。

in vitro腫瘍細胞アッセイ: MC38細胞をNETs条件培地と共培養し、細胞接着、増殖 (MTTアッセイ)、遊走 (トランスウェルアッセイ)、浸潤 (マトリゲル浸潤アッセイ) を評価した。これらのアッセイにおいて、DNase I、YW4-03、HMGB1中和抗体、TLR9阻害剤ODN2088、またはTLR9 shRNAを用いたMC38細胞を用いて、NETsによる効果の分子機序を解析した。MAPK経路 (p38、Stat3、JNK、p65/NFκB) の活性化はウェスタンブロット解析により評価した。

統計解析: 動物実験では、結果は平均±SEMまたは平均±SDで示され、群間比較には一元配置ANOVAとTukeyのHSD事後検定、およびStudentのt検定を用いた。ヒト被験者のデータ解析では、MPO-DNA複合体レベルを中央値で二分し、各群のベースライン特性をχ2検定またはFisherの正確検定 (カテゴリ変数) およびStudentのt検定またはWilcoxon順位和検定 (連続変数) で比較した。無病生存期間はKaplan-Meier推定量を用いてプロットし、Cox比例ハザード回帰を用いて術後MPO-DNAおよびHMGB1レベルが無病生存期間に与える影響を評価した。Harrell c統計量を用いてモデルの予測能力を評価した。全ての解析において、両側p値が0.05未満の場合を統計的に有意と判断した。