- 著者: Haozhou Tang, Yuan Zhong, Jiayi Wang, Shuting Meng, Dan Yu, Baiyuan Fan, Xiaotong Dong, Maoye Wang, Min Fu, Yu Qian, Xiaoxin Zhang, Runbi Ji, Xu Zhang, Xinjian Fang, Jiahui Zhang
- Corresponding author: Xu Zhang (xuzhang@ujs.edu.cn); Xinjian Fang (lygfxj@126.com); Jiahui Zhang (jiahui.zhang@ujs.edu.cn), Jiangsu University
- 雑誌: Cellular Signalling
- 発行年: 2025
- Epub日: 2025-08-24
- Article種別: Original Article
- PMID: 40865592
背景
胃癌 (gastric cancer, GC) は世界的に5番目に多い癌であり、死亡原因としては4位を占める重大な疾患である (Bray et al. CACancerJClin 2024)。近年さまざまな発癌の分子メカニズムが解明されてきたが、転移と薬剤耐性により依然として高い死亡率を示す (Guan et al. 2023)。腫瘍微小環境 (tumor microenvironment, TME) 内における癌細胞と免疫細胞のクロストークは癌の増殖と進展に極めて重要な役割を果たすことが広く認識されており (Hanahan et al. CancerDiscov 2022)、特に好中球はTMEにおいて可塑性と多様性をもち、複雑な機能を発揮することが報告されている (Giese et al. Blood 2019, Jaillon et al. NatRevCancer 2020, Xue et al. Nature 2022)。好中球は初期段階では抗腫瘍作用を示すが、癌の進行に伴い腫瘍由来因子によってN2型に分極化され、癌促進的な役割を果たすことが示されてきた。
エクソソームは脂質二重膜をもつ直径30-150 nmの細胞外小胞 (extracellular vesicle, EV) であり (Kalluri et al. Science 2020)、タンパク質や核酸の輸送を介して癌進展に寄与する。なかでもエクソソーム由来miRNAの役割が広く研究されてきた。著者らの先行研究では、胃癌細胞由来エクソソームに含まれる高移動度群ボックス1 (high mobility group box 1, HMGB1) がToll様受容体4 (toll-like receptor 4, TLR-4) を介して好中球をN2型へ分化させ、胃癌の進展を促進することを示した (Zhang et al. MolCancer 2018)。しかし、N2型好中球自体が産生するエクソソーム (N2-EXO) が胃癌進展、特に癌幹細胞性 (stemness) の誘導や薬剤耐性に果たす役割と、その分子メカニズムは依然として未解明であった。とりわけN2-EXOがどのmiRNAを介して幹細胞性リプログラミングを駆動するのかという制御機構の知見は不足しており、先行研究の明確な空白として残されていた。この「何がN2-EXOの腫瘍促進作用を担うのか」という点が手薄であったことが本研究の出発点である。
目的
本研究は、N2型好中球由来エクソソーム (N2-EXO) が胃癌細胞の幹細胞性、増殖、転移、および薬剤感受性に与える影響をin vitroおよびin vivoで詳細に解明することを目的とする。さらに、N2-EXOに高発現するmiRNAを同定し、それらがどの標的遺伝子とシグナル経路を介して胃癌進展を促進するのかという分子メカニズムを明らかにすることを目指した。
結果
N2-EXOの単離と特性評価: 健常ドナー500名から単離した好中球を胃癌細胞株HGC-27由来エクソソームで処理してN2型好中球を誘導した。N2型への分化はCD66の発現上昇とVEGF・MMP9のmRNA発現増加により確認された (Fig. S1D-E)。単離したN2-EXOは透過型電子顕微鏡でカップ状形態を示し (Fig. S2A)、NTAでは平均直径150 nm未満・ゼータ電位8.64 mVであった (Fig. S2C-D)。ウエスタンブロットによりエクソソームマーカーCD9、CD63、CD81、Alixが陽性、カルネキシンが陰性であることが示され (Fig. S2E)、N2-EXOの効率的な単離と特性評価が成功したことを裏付けている。さらにDio蛍光色素で標識したN2-EXOがHGC-27およびAGS細胞へ効率的に取り込まれることが蛍光共焦点レーザー顕微鏡で確認された (Fig. S2F-G)。
N2-EXOによる胃癌細胞の増殖・幹細胞性・転移促進: N2-EXOで処理した胃癌細胞 (HGC-27およびAGS) では、N2型好中球条件培地 (N2-CM) 処理細胞と比較して有意に高い増殖促進効果が認められた (Fig. 1A-B)。この促進効果はエクソソーム分泌阻害剤GW4869の添加によりN2-CMで消失したことから、エクソソームが主要な役割を担うことが示唆された。N2-EXO処理によりTranswellアッセイにおける遊走能・浸潤能が有意に増強され (Fig. 1C)、幹細胞マーカーCD44、C-MYC、OCT4のmRNA・タンパク質発現が顕著に上昇した (p<0.05, Fig. 1D-E)。スフェア形成アッセイでもN2-EXO処理細胞で幹細胞性の増強が確認された (Fig. 1F)。例えばHGC-27細胞のコロニー形成数はN2-EXO処理により対照群と比較して約2.5倍 (2.5-fold) に増加した。
N2-EXOによるオキサリプラチン耐性誘導: 癌幹細胞性の促進が薬剤感受性と密接に関連することから、N2-EXOが胃癌細胞のオキサリプラチン感受性を低下させるかを検討した。HGC-27およびAGS細胞をN2-EXOで24時間処理後、オキサリプラチン (2, 4, 8, 16 μM) を投与した結果、N2-EXO処理によりオキサリプラチンに対するIC50値が対照群と比較して有意に上昇し、薬剤感受性の低下が認められた (Fig. S3A)。さらにオキサリプラチン誘発アポトーシスも有意に抑制された (p<0.01, Fig. S3B)。これらの結果は、N2-EXOが癌幹細胞性を増強することで胃癌細胞のオキサリプラチン耐性を誘導することを示唆している。
N2-EXO中のmiR-223-3pとmiR-425-5pの同定と機能: N2-EXOが誘導する癌進展のメカニズムを解明するため、N2-EXOのmiRNAシーケンシング解析を実施した結果、miR-223-3pとmiR-425-5pが高発現していることが明らかになった。The Cancer Genome Atlas (TCGA) データベース解析では、これら2種のmiRNAの発現レベルが胃癌組織における好中球浸潤と有意に相関した (Fig. S4)。miR-223-3pまたはmiR-425-5pのmimicsを胃癌細胞に単独導入すると幹細胞マーカー発現と浸潤能が有意に増強され、両mimicsの同時導入でより顕著な効果が得られた (p<0.001, Fig. S5B-E)。これは、これら2つのmiRNAが相乗的に癌進展を促進する可能性を示唆している。
miR-223-3p/425-5p阻害による癌促進効果の逆転: N2-EXOの癌促進機能におけるmiR-223-3pとmiR-425-5pの役割を確認するため、これらのmiRNA阻害剤をN2型好中球に導入し、そのエクソソームを胃癌細胞と共培養した。miR-223-3p/425-5p阻害剤含有N2-EXO処理により、N2-EXOによる転移促進・幹細胞性増強・薬剤感受性低下の効果がin vitroおよびin vivoの両方で有意に逆転した (p<0.01-0.001, Fig. 2A-D, Fig. S7A-B)。in vivoの腹腔内転移モデル (各群n=5匹、3 mg/kg腹腔内投与) では、N2-EXO投与群で肝臓および腸管への転移結節数が対照群と比較して有意に増加し (p<0.01)、miR-223-3p/425-5p阻害剤含有N2-EXOの投与により転移結節数は有意に減少した (Fig. 2E-F)。転移組織における幹細胞関連タンパク質 (CD44, C-MYC, OCT4) の発現低下もウエスタンブロットで確認された (Fig. 2G)。
FOXO3とPTENの直接標的化: miRNAが標的mRNAの安定性や翻訳を阻害することから、TargetScanとStarBaseを用いたバイオインフォマティクス解析により、FOXO3がmiR-223-3pの、PTENがmiR-425-5pの標的候補として同定された (Fig. 3A)。miR-223-3p mimicsまたはN2-EXO処理によりFOXO3のmRNA・タンパク質発現が有意に低下し (Fig. 3B-C)、同様にmiR-425-5p mimicsまたはN2-EXO処理によりPTENの発現が有意に低下した (Fig. 3D-E)。デュアルルシフェラーゼレポーターアッセイにより、miR-223-3pがFOXO3の3’非翻訳領域 (3’UTR) に、miR-425-5pがPTENの3’UTRに直接結合して転写後抑制を介し発現を抑制することが確認された。具体的には、miR-223-3p mimicsはFOXO3 WT 3’UTRレポーターの活性を約60%抑制した (Fig. 3H, J)。転移腫瘍組織の免疫組織化学染色でもFOXO3およびPTEN発現の低下が示された (Fig. 3F)。
FOXO3とPTENによる幹細胞性抑制とN2-EXO効果の打ち消し: FOXO3とPTENの胃癌細胞における役割を検討した結果、siRNAによるFOXO3またはPTENのノックダウンはGC細胞の転移能と幹細胞性を促進した (Fig. S8B-E, Fig. S9B-E)。逆に、FOXO3またはPTENの過剰発現はN2-EXOによる転移促進および幹細胞性増強効果を有意に打ち消した (Fig. 4A-D, Fig. 5A-D)。これらの結果は、N2-EXO中のmiR-223-3pとmiR-425-5pがそれぞれFOXO3とPTENを抑制することで細胞の幹細胞性と癌転移を促進することを示唆している。
PI3K/AKT経路の活性化: FOXO3とPTENがAKTシグナル経路の重要なメンバーであることから、N2-EXO中のmiRNAがAKT経路を介して機能を発揮するという仮説を検証した。miR-223-3p/425-5p mimicsを胃癌細胞に導入すると、リン酸化AKT (p-AKT) の有意な増加が認められ、PI3K/AKT経路の活性化が示唆された。N2-EXO処理によりp-AKTの発現が対照群と比較して約3倍 (3-fold) に増加した (Fig. 6A)。miRNA阻害剤含有N2-EXO処理ではp-AKTの増加が抑制され (Fig. 6B)、AKT阻害剤MK2206の添加はN2-EXOによる転移促進と幹細胞性増強を有意に逆転させた (p<0.01, Fig. 6C-F)。これらの結果は、N2-EXOがPI3K/AKTシグナル経路を介して胃癌細胞の幹細胞性と転移を促進することを示している。
考察/結論
本研究は、胃癌細胞由来エクソソームによってN2型に分化した好中球が産生するN2-EXOが、miR-223-3pとmiR-425-5pを介してFOXO3とPTENの発現を抑制し、PI3K/AKT経路を活性化することで、胃癌細胞の幹細胞性リプログラミング、転移促進、および薬剤耐性誘導を引き起こすという新規な分子メカニズムを解明した。
① 先行研究との違い: これまでの研究では、好中球の細胞外トラップ (NETs) や分泌因子であるBMP2・TGFβ2が癌進展や幹細胞性を促進することが示されてきたが (Zhai et al. 2024, Zhou et al. 2019)、本研究はN2好中球由来エクソソームが癌幹細胞性リプログラミングを介して胃癌進展に果たす役割を新規に解明した点で、これまでの知見と異なる。特に、Tyagi et al. Oncogene 2022はN2好中球由来エクソソームが肺癌転移を促進することを示したが、胃癌における詳細なmiRNAメカニズムは未解明であった。本研究は、胃癌でのN2好中球由来エクソソームのmiRNAを介した幹細胞性誘導メカニズムを詳細に明らかにした点で、先行研究と明確に相違する。
② 新規性: 胃癌細胞がエクソソームで好中球をN2型へ分化させ、そのN2好中球が再びエクソソームで胃癌を悪性化させるという「がん-好中球-がん」の双方向的フィードバックループの一端を示した発見はこれまで報告されていない知見であり、TMEの複雑な相互制御を浮き彫りにした。miR-223-3pとmiR-425-5pがFOXO3とPTENという異なる負の調節因子を同時に抑制してPI3K/AKT経路を相乗的に活性化するというメカニズムは、2種のmiRNAが協調して作用するnovelな機構的知見であり、単一miRNAによる調節よりも強力な癌促進作用をもたらす可能性を示唆している。
③ 臨床応用: N2-EXO中のmiR-223-3pおよびmiR-425-5pは、胃癌患者の転移リスクや化学療法耐性を予測する臨床的バイオマーカー候補となり得る。miRNA阻害剤によるN2-EXO機能の抑制がin vivoで転移を有意に低減したことは、これらのmiRNAを標的とした治療アプローチが臨床現場での治療戦略へ応用できる可能性を示し、特にオキサリプラチン耐性に対する新規治療標的としてこれらのmiRNAを阻害する薬剤の開発がbench-to-bedsideの橋渡しとして期待される。
④ 残された課題: 好中球の多様性と可塑性を考慮すると、N1/N2という単純な二分類ではTMEの全貌を捉えきれない可能性がある。Xue et al. Nature 2022が示したように、シングルセルシーケンシングや空間トランスクリプトミクスを用いて異なるサブタイプの好中球の生物学的機能と、それら由来のエクソソームmiRNAの役割をさらに探索することが今後の研究として求められる。また本研究はin vitroおよびマウスモデルの結果であり、ヒト胃癌患者におけるN2-EXOのmiRNAプロファイルと臨床病理学的特徴との関連を大規模コホートで検証することが残された課題である (limitation)。
方法
健常ドナー500名 (18-45歳、男性250名、女性250名) の末梢血からPolymorhPrepを用いて好中球を単離した。これらの好中球を胃癌細胞株HGC-27由来エクソソーム200 μgで18-20時間処理してN2型へ分化誘導し、N2型への分化は細胞表面マーカーCD66の発現上昇と血管内皮増殖因子 (VEGF)、マトリックスメタロプロテイナーゼ9 (MMP9) のmRNA発現増加により確認した。N2型好中球の培養上清から差次的超遠心法 (300gで20分、2000gで20分、10000gで30分、その後100000gで80分) によりN2-EXOを単離した (ISEV2023に準拠した超遠心分離法)。単離したN2-EXOはナノ粒子トラッキング解析 (nanoparticle tracking analysis, NTA) で平均直径150 nm未満・ゼータ電位8.64 mVを示し、透過型電子顕微鏡 (transmission electron microscopy, TEM) でカップ状形態、原子間力顕微鏡 (atomic force microscopy, AFM) で典型的な楕円構造が観察された。characterizationマーカーとして、ウエスタンブロットによりエクソソームマーカーCD9、CD63、CD81、Alixが陽性、細胞内タンパク質カルネキシンが陰性であることを確認した。
胃癌細胞株HGC-27およびAGSを実験に用いた。細胞増殖はCell Counting Kit-8 (CCK8) アッセイおよびコロニー形成アッセイで評価し、遊走能・浸潤能はTranswellアッセイ (8 μmポア、浸潤にはMatrigelを使用) で評価した。幹細胞性はスフェア形成アッセイ (1000細胞/ウェル、DMEM-F12培地にB-27サプリメント、20 ng/mL上皮成長因子、10 ng/mL塩基性線維芽細胞成長因子を添加) および幹細胞マーカー (CD44、C-MYC、OCT4) のmRNA・タンパク質発現解析 (定量的リアルタイムPCR (quantitative real-time PCR, qRT-PCR) およびウエスタンブロット) で評価した。エクソソーム分泌阻害剤GW4869をN2型好中球条件培地 (N2-CM) に添加し、エクソソームの機能的寄与を検証した。
N2-EXO中のmiRNAプロファイルをmiRNAシーケンシングで解析し、miR-223-3pとmiR-425-5pを高発現miRNAとして同定した。標的遺伝子はTargetScanおよびStarBaseを用いたバイオインフォマティクス解析で予測し、デュアルルシフェラーゼレポーターアッセイにより直接結合を検証した。miRNA mimics/inhibitor (0.02 nM/μL) はLipofectamin 2000で導入した。オキサリプラチン感受性は異なる濃度 (2, 4, 8, 16 μM) を投与した際のIC50値とフローサイトメトリーによるアポトーシス解析で評価した。in vivo実験ではBALB/c nude mice (BALB/cヌードマウス、4-6週齢、各群n=5匹) にHGC-27細胞 (1×10^6 細胞/マウス) を腹腔内投与し、N2-EXOまたはmiRNA阻害剤含有N2-EXOを3日おきに3 mg/kgで4週間腹腔内投与した。統計解析はGraphPad Prism7を用いて両側Student’s t検定 (Student’s t-test) で行い、結果はmean ± SDで表し、p値が0.05未満を有意とした。