• 著者: Cristina Valero, Mark Lee, Douglas Hoen, Kate Weiss, Daniel W. Kelly, Prasad S. Adusumilli, Paul K. Paik, George Plitas, Marc Ladanyi, Michael A. Postow, Charlotte E. Ariyan, Alexander N. Shoushtari, Vinod P. Balachandran, A. Ari Hakimi, Aimee M. Crago, Kara C. Long Roche, J. Joshua Smith, Ian Ganly, Richard J. Wong, Snehal G. Patel, Jatin P. Shah, Nancy Y. Lee, Nadeem Riaz, Jingming Wang, Ahmet Zehir, Michael F. Berger, Timothy A. Chan, Venkatraman E. Seshan, Luc G. T. Morris
  • Corresponding author: Luc G. T. Morris (Memorial Sloan Kettering Cancer Center, New York, NY, USA)
  • 雑誌: Nature Communications
  • 発行年: 2021
  • Epub日: 2021-01-29
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 33526794

背景

免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) は、様々ながん種において臨床的効果を示すが、その奏効患者は一部に限定されるため、治療前予測バイオマーカーの最適化が重要な課題となっている。現在承認されているバイオマーカーとしては、PD-L1発現や腫瘍変異負荷 (TMB) が挙げられるが、これらにはいくつかの制約が存在する。具体的には、(1) 腫瘍組織を必要とするため侵襲的であること、(2) 解析に時間とコストを要すること、(3) アッセイ間で結果にばらつきがあること、(4) がん種間での予測能が一定でないこと、などが指摘されている。これらの制約は、ICI治療の恩恵を受ける可能性のある患者を効率的かつ広範に特定する上での障壁となっている。

一方、末梢血から簡便かつ低コストで測定可能な好中球/リンパ球比 (NLR) は、様々ながん種における全般的予後因子として広く認識されている。NLRは、腫瘍促進的な炎症状態と抗腫瘍免疫応答のバランスを反映する指標と考えられており、その変動は患者の免疫状態の変化を示唆する。しかし、ICI治療におけるNLRの「予測的」価値(治療効果の予測)と「予後的」価値(治療に関わらず疾患の自然経過を予測)の明確な区別、TMBなどの他のバイオマーカーとの独立性、および大規模・多がん種コホートにおける汎用性については、これまで十分に検証されていなかった。これまでの研究は、小規模な患者集団や特定のがん種に限定されることが多く、NLRとICI奏効との関連性に関する包括的な理解は不足していた。例えば、Capone et al. (2018) やFukui et al. (2019) は、NLRがメラノーマや非小細胞肺がんにおけるICI治療の予後因子となる可能性を示唆しているが、その予測的価値の汎用性やTMBとの相補性については、大規模な検証が必要であった。特に、Samstein et al. NatGenet 2019Cristescu et al. Science 2018 がTMBのpan-cancer予測能を示した一方で、NLRの同様の包括的評価は未開拓であった。

本研究は、これらの知識のギャップを埋めることを目的としている。特に、NLRがICI治療の予測バイオマーカーとして機能するかどうか、また、TMBと組み合わせて使用することで、ICI治療の奏効予測能をさらに向上させることができるかどうかを、大規模な多がん種コホートで評価することが喫緊の課題であった。末梢血NLRは、PD-L1やTMBのような組織ベースのバイオマーカーと比較して、侵襲性が低く、迅速かつ安価に測定できるという大きな利点を持つ。そのため、NLRがICI治療の予測バイオマーカーとして確立されれば、多様な医療環境、特にリソースが限られた状況においても、より多くの患者が適切な治療選択の恩恵を受けられるようになる可能性がある。本研究は、NLRの臨床的有用性を確立し、ICI治療の個別化医療を推進するための重要な一歩となることが期待される。

目的

本研究の主要な目的は、Memorial Sloan Kettering (MSK) における大規模なICI治療患者コホートを用いて、治療前NLRの臨床的有用性を包括的に評価することである。具体的には、以下の3つの主要な目的を設定した。

  1. 治療前NLRの予測能評価: ICI初回投与前のNLRが、全生存期間 (OS)、無増悪生存期間 (PFS)、および奏効率 (ORR) に対してどのような予測能を持つかを評価する。これにより、NLRがICI治療の「予測的」バイオマーカーとして機能するかどうかを明らかにする。
  2. NLRとTMBの独立性および相補性の検証: NLRとTMBが、ICI治療に対する奏効予測において互いに独立した予測因子であるか、また、両者を組み合わせることで予測能が相補的に向上するかどうかを検証する。NLRは宿主の免疫状態を、TMBは腫瘍の抗原性を反映すると考えられるため、異なる生物学的基盤を持つこれら2つのバイオマーカーの統合的評価は、ICI奏効メカニズムのより深い理解にも繋がる。
  3. NLR×TMBによる患者層別化の可能性検討: NLRとTMBを組み合わせた統合バイオマーカーが、ICI治療を受ける患者の層別化を可能にし、治療奏効予測能をさらに向上させる可能性を検討する。これにより、ICI治療の恩恵を最大限に引き出すための個別化医療戦略の構築に貢献することを目指す。

これらの目的を達成することで、NLRが低侵襲かつ費用対効果の高いICI治療の予測バイオマーカーとして、TMBと相補的に機能し、臨床現場での患者選択や治療戦略の最適化に貢献できるかを検証する。

結果

NLR高値とOS/PFS不良の強い関連: 本研究の主要解析コホートである1714例のICI治療患者において、治療前NLR高値(各がん種内での上位20%)の患者は、NLR低値群と比較して有意に不良な全生存期間 (OS) を示した (ハザード比 (HR) 2.17; 95%信頼区間 (CI) 1.89-2.50; P<0.001)。同様に、無増悪生存期間 (PFS) もNLR高値群で有意に不良であった (HR 1.60; 95% CI 1.41-1.81; P<0.001)。これらの関連性は、年齢、性別、がん種、ECOGパフォーマンスステータス、治療ライン、TMBなどの共変量で調整した後も独立した予測能として保持された。この結果は、NLRがICI治療における重要な予後および予測バイオマーカーとして機能することを示唆する (Fig. 1a, b)。

ICI奏効率および臨床的有用性の低下: NLR高値群では、ICI治療に対する奏効率 (ORR) が18%であったのに対し、NLR低値群では29%と有意に低かった (P<0.001)。また、臨床的有用性 (clinical benefit rate) もNLR高値群で21%と、NLR低値群の35%と比較して明瞭な差が認められた (P<0.001)。これらのデータは、高NLRがICI治療の奏効を妨げる免疫抑制的な宿主環境を反映している可能性を示唆する。高NLRは、骨髄系細胞優位の炎症環境とリンパ球減少を反映しており、ICI奏効に必要なエフェクターT細胞の機能が抑制されている状態を示すマーカーとして機能すると考えられる (Fig. 1c, d)。

NLRとTMBの独立した予測能: NLRとTMBの間の相関はSpearmanの相関係数で0.048と極めて弱く、統計的に独立した予測因子であることが確認された (P=0.05)。多変量ロジスティック回帰解析においても、NLR (OR 0.93; 95% CI 0.91-0.96; P<0.001) とTMB (OR 1.03; 95% CI 1.02-1.04; P<0.001) はそれぞれ独立して臨床的有用性の可能性を予測した。この独立性は、NLRが宿主の免疫状態(全身性炎症やリンパ球減少)を反映するのに対し、TMBは腫瘍の抗原性(ネオアンチゲン生成能)を反映するという、異なる生物学的基盤に基づいていることを示唆する。

NLR×TMB統合による層別化の有効性: NLRとTMBをそれぞれ低値/高値で層別化し、患者を4つのカテゴリーに分類したところ、NLR低値/TMB高値群はNLR高値/TMB低値群と比較して、ICI奏効のオッズ比が3.22 (95% CI 2.26-4.58; P<0.001) と3倍以上有意に高かった (Table 1)。この結果は、両指標の統合が単独使用よりも優れた予測能を提供することを示している。4つの群(NLR低値/TMB高値、NLR低値/TMB低値、NLR高値/TMB高値、NLR高値/TMB低値)間で、OS、PFS、奏効率、および臨床的有用性において段階的な層別化が達成された (Fig. 3)。例えば、NLR低値/TMB高値群のOS HRはNLR高値/TMB低値群と比較して約0.2倍であり、生存期間において顕著な差が認められた。

独立検証コホートでの再現性: 独立検証コホート323例を用いた解析でも、主要解析コホートと同様の結果が確認された。NLR高値はOS不良 (HR 1.83; 95% CI 1.33-2.52; P<0.001) およびPFS不良 (HR 1.63; 95% CI 1.22-2.18; P=0.001) と一貫して関連していた。また、奏効率もNLR高値群で17% vs 低値群28% (P=0.0052)、臨床的有用性も26% vs 41% (P=0.018) と有意な差が認められた (Supplementary Fig. 10)。多変量解析では、連続変数としてのNLR高値はICI治療の臨床的有用性の可能性と有意に関連していた (OR 0.92; 95% CI 0.85-0.99; P=0.035)。これらの結果は、本研究の発見の頑健性と一般化可能性を強く支持する。

がん種横断的汎用性: 16種類のがん種(メラノーマ、非小細胞肺がん、腎細胞がん、膀胱がん、頭頸部扁平上皮がんなど)の大部分で、NLRの予測能が一貫して観察された (Fig. 2)。これは、NLRがpan-cancerバイオマーカーとして幅広いがん種に適用可能であることを示唆している。ただし、一部の症例数の少ないがん種では統計的有意性は認められなかったものの、HRの方向性はほぼ全てのがん種で一貫していた。例えば、メラノーマにおけるOSのHRは2.05 (95% CI 1.57-2.67, P<0.001) であり、非小細胞肺がんではHR 2.21 (95% CI 1.70-2.88, P<0.001) であった。

考察/結論

本研究は、ICI治療を受けた2000例以上の患者を対象とした大規模なpan-cancerコホート研究であり、治療前NLRがICI治療の予測バイオマーカーとして重要な臨床的有用性を持つことを確立した。本研究の主要な知見は、NLRが(1) 低侵襲・低コストで即時測定可能であること、(2) 腫瘍変異負荷 (TMB) とは独立した予測能を持つこと、そして(3) TMBと組み合わせることで患者の層別化精度がさらに向上することである。

先行研究との違い: これまでの研究では、NLRが様々ながん種の予後因子として報告されてきたが、ICI治療における「予測的」価値、特に大規模なpan-cancerコホートにおけるOS、PFS、奏効率、臨床的有用性との関連性を包括的に評価した研究は不足していた。本研究は、Samstein et al. NatGenet 2019Cristescu et al. Science 2018がTMBのpan-cancer予測能を示したのと同様に、NLRがICI治療の奏効予測に寄与することを大規模データで初めて実証した点で、これまでの知見を大きく拡張するものである。本研究は、NLRが単なる予後因子ではなく、治療効果を予測する独立したバイオマーカーとして機能することを明確に示した点で、先行研究と異なる。

新規性: 本研究で初めて、NLRとTMBが互いに独立した予測因子であり、両者を組み合わせることでICI治療の奏効予測能が有意に向上することを明らかにした。NLRは宿主の免疫状態(全身性炎症とリンパ球減少)を反映し、TMBは腫瘍の抗原性(ネオアンチゲン生成能)を反映するという異なる生物学的基盤を持つため、この2軸統合モデルは、ICI奏効の複雑なメカニズムをより包括的に捉える新規のアプローチである。高NLRは、好中球の腫瘍促進的炎症作用(骨髄由来抑制細胞 (MDSC) やG-CSF駆動性の免疫抑制)とリンパ球減少によるエフェクターT細胞の不足を反映し、免疫抑制的な腫瘍微小環境を形成すると考えられる。これはSzczerba et al. Nature 2019が示した好中球の腫瘍細胞転移促進作用とも関連する。

臨床応用: 本知見は、ICI治療の個別化医療を推進する上で重要な臨床的意義を持つ。NLRは一般的な血液検査で測定可能であり、低侵襲性、低コスト、迅速性という点で、PD-L1発現やTMBのような組織ベースのバイオマーカーと比較して大きな優位性を持つ。臨床現場では、NLR単独でICI治療の即時的なリスク層別化が可能となる。さらに、高NLR患者に対しては、ICIに加えて骨髄系細胞を標的とする治療法(例:抗IL-6R抗体、CXCR1/2阻害剤など)の併用療法を検討する根拠となり得る。また、NLRはICI治療の臨床試験における層別化因子として、あるいは治療効果のモニタリング指標としても有用である可能性がある。

残された課題: 今後の検討課題として、本研究の後方視的性質に起因する限界が挙げられる。NLRは感染症、ステロイド治療、その他のストレス因子によって影響を受ける可能性があり、これらの交絡因子は本研究では詳細に評価されていない。また、NLRおよびTMBの分布はがん種によって異なるため、普遍的なカットオフ値を設定することの難しさも残されている。各がん種における最適なカットオフ値の確立には、さらなる前向き検証データが必要である。さらに、治療中のNLR変化のダイナミックなモニタリングが、治療効果や耐性獲得の予測に役立つ可能性があり、今後の研究で検討すべきである。PD-L1発現、マイクロサテライト不安定性 (MSI) LeDung et al. Science 2017、ネオアンチゲン質などの他のバイオマーカーとの多軸統合解析も、より精度の高い予測モデル構築に繋がるだろう。本研究は、NLRをICI治療の実用的なバイオマーカーとして臨床応用段階へ前進させる決定的エビデンスを提供した。

方法

本研究は、Memorial Sloan Kettering (MSK) において2015年から2018年の間に免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) 治療を受けた固形がん患者を対象とした後方視的コホート研究である。主要な解析コホート (discovery cohort) は16種類のがんタイプにわたる1714例の患者で構成された。さらに、結果の再現性を検証するため、独立した検証コホートとして323例の患者データを用いた。

患者選択とデータ収集: 当初、2015年から2018年にMSKでICI治療を受けた固形がん患者2827例が特定された。このうち、複数の癌の既往がある患者、ICI初回投与前30日以内に血球算定 (CBC) データがない患者、盲検化された臨床試験に登録されていた患者、および症例数が25未満のがん種の患者を除外した。最終的に、1714例の患者が主要解析コホートに組み入れられた (Supplementary Fig. 1, Supplementary Table 1)。全患者はCheng et al. JMolDiagn 2015により報告されたMSK-IMPACT (Memorial Sloan Kettering-Integrated Mutation Profiling of Actionable Cancer Targets) と呼ばれる次世代シーケンシングプラットフォームを用いてゲノムプロファイリングを受けていた。MSK-IMPACTは、410遺伝子パネル (n=482) または468遺伝子パネル (n=1232) を使用し、腫瘍組織DNAから体細胞変異を検出する。本研究では、1714例中1623例 (95%) でICI開始前に採取されたサンプルがMSK-IMPACTで解析されており、サンプル採取からICI開始までの期間中央値は6ヶ月 (IQR 1-12ヶ月) であった。

バイオマーカーの定義: NLRは、ICI初回投与前30日以内に採取された末梢血のCBC (complete blood count) データから、好中球絶対数とリンパ球絶対数の比として算出された。TMBは、MSK-IMPACTシーケンシングデータから、体細胞非同義変異の総数をMSK-IMPACTパネルのエキソンカバレッジ (メガベース単位) で正規化した値 (変異数/メガベース) として定義された。NLRおよびTMBのカットオフ値は、各がん種内での上位20パーセンタイルを「高値」と定義した。これは、がん種間でNLRおよびTMBの分布が異なることを考慮したものである。

主要評価項目: 主要評価項目は、全生存期間 (OS)、無増悪生存期間 (PFS)、Eisenhauer et al. EurJCancer 2009基準に基づく奏効率 (ORR)、および臨床的有用性 (clinical benefit rate) であった。奏効は完全奏効 (CR) または部分奏効 (PR) と定義された。臨床的有用性は、CR、PR、または6ヶ月以上の安定病変 (SD) と定義された。OSはICI初回投与日からあらゆる原因による死亡までの期間、PFSはICI初回投与日から病勢進行またはあらゆる原因による死亡までの期間と定義された。

統計解析: NLRとTMBの分布は密度プロットを用いて解析された。NLRとTMB間の相関はSpearmanの相関係数を用いて評価された。NLRとTMBの弁別能を評価するため、受信者操作特性 (ROC) 曲線と曲線下面積 (AUC) 解析が実施された。生存期間の比較にはKaplan-Meier法とログランク検定が用いられた。ハザード比 (HR) はCox比例ハザード回帰モデルを用いて算出された。奏効率と臨床的有用性の群間比較にはPearsonのχ2乗検定またはFisherの正確検定が用いられた。オッズ比 (OR) はロジスティック回帰を用いて算出された。多変量解析では、年齢、性別、がん種、ECOGパフォーマンスステータス、ICI治療ライン、がん病期、治療開始年など、単変量解析で有意であったすべての共変量を調整した。統計的有意水準はP値0.05未満と設定され、すべての仮説検定は両側検定であった。