• 著者: Barbara Maria Szczerba, Francesc Castro-Giner, Marcus Vetter, Isidro Ibàñez-Cabellos, Nicola Aceto 他
  • Corresponding author: Nicola Aceto (University of Basel, Basel, Switzerland)
  • 雑誌: Nature
  • 発行年: 2019
  • Epub日: 2019-02-06
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 30728496

背景

固形癌の遠隔転移は、原発腫瘍から分離し血流に乗って移動する循環腫瘍細胞 (CTC) を介して主に生じる。CTCは単一細胞として存在する場合と、他の癌細胞や非悪性細胞とクラスターを形成して存在する場合があり、これらのクラスターが単一CTCよりも高い転移能を持つことが複数の研究で示唆されていた Aceto et al. Cell 2014。特に、CTCと白血球のクラスターの存在は以前から報告されていたものの、どの白血球サブタイプが最も頻繁にCTCと共局在するのか、またその相互作用が転移能や患者の予後にどのような影響を与えるのかについては、これまで詳細に解明されていなかった。この点は、転移性疾患の治療標的を特定する上で重要な知識のギャップであった。

好中球は、腫瘍微小環境においてIL-6やIL-1βなどのサイトカインを産生し、癌細胞の増殖や転移を促進する機能を持つことが知られている Fridlender et al. CancerCell 2009。しかし、循環血液中におけるCTCと好中球の直接的な相互作用、特にそれがCTCの生物学的特性や転移プロセスに与える影響については、そのメカニズムが全く未解明であった。さらに、CTC-白血球クラスターの形成を媒介する分子メカニズムや、特定の遺伝子変異がこのクラスター形成にどのように寄与するのかについても、知識のギャップが残されていた。これらの未解明な点は、転移性疾患の新たな治療標的を特定する上で重要な課題であり、既存の治療法では転移抑制が不十分であるという問題意識があった。本研究は、これらの不足している知見を補完し、乳癌におけるCTC-好中球クラスターの役割を分子レベルから臨床的意義まで包括的に明らかにすることを目指した。

目的

本研究の目的は、乳癌患者の循環血液中に存在するCTC-白血球クラスターにおいて、好中球が果たす役割を定量的に評価することである。具体的には、好中球がCTCの細胞周期進行を促進する分子メカニズムと、それが転移能および患者の予後に与える影響を明らかにすることを目指した。さらに、CTCと好中球のクラスター形成を媒介する細胞接着分子、特にVCAM1 (Vascular Cell Adhesion Molecule 1) の寄与を同定し、VCAM1の阻害がクラスター形成を抑制する可能性を検証する。加えて、TLE1 (Transducin-Like Enhancer of Split 1) 遺伝子の変異が好中球の腫瘍浸潤とCTC-好中球クラスター形成に与える影響を評価し、転移プロセスにおける新たな治療標的となる脆弱点を提示することを目的とした。

結果

CTC-好中球クラスターの組成と高頻度: 乳癌患者70名中34名(48.6%)でCTCが検出され、平均22 CTC/7.5 ml血液であった。CTCの大部分は単一CTC(88.0%)、CTCクラスター(8.6%)、CTC-WBCクラスター(3.4%)で構成された (Fig. 1b)。CTC-WBCクラスター関連白血球のscRNA-seq reference component analysisでは、患者由来の75%およびマウスモデル由来の93%が骨髄系細胞の発現プロファイルを示した (Fig. 1d)。Ly6G+CD11b染色とWright-Giemsa核形態解析により、CTC-WBCクラスター関連白血球の85.5-91.7%が好中球(Ly6G+、多葉核)であり、8.3-14.5%が単球(CD11b+F4/80-Ly6G-)であることが確認された。F4/80+マクロファージは検出されなかった (Fig. 1e, f)。CTC関連好中球の発現解析では、ARG1、CXCL1、CXCL2、CXCL10、CCL2、CXCR2、VEGFAが多くの検体で発現しており、N2様pro-tumor好中球の遺伝子プロファイルと一致した。

CTC-好中球クラスターの転移能と予後: CTC-好中球クラスターを保有する患者(n=9 patients)は、5個以上のCTCを持つ患者(n=10 patients)と比較して、無増悪生存期間 (PFS) が有意に短縮した(log-rank test、p<0.05) (Fig. 1g)。CTC-好中球クラスター保有患者は、単一CTCのみの患者(n=48 patients)、CTCのみでCTC-好中球クラスターなしの患者(n=21 patients)、単一CTC vs CTCクラスターのいずれとの比較でもPFSが有意に短縮することがExtended Dataで確認された。マウス実験では、CTC-好中球クラスター由来CTC 100個をマウスに静脈注射した群は、単一CTC注射群と比較して肺転移の発生が有意に早く、生存期間が有意に短縮した(n=5 mice/群、p<0.05) (Fig. 1h)。

好中球によるCTCの細胞周期促進 (41遺伝子上昇):BALB/c-4T1GFPモデル(n=25 CTCs from CTC-neutrophil clusters vs n=4 single CTCs)でのscRNA-seq解析では、CTC-好中球クラスター由来CTCで51の示差発現遺伝子を同定し、そのうち41遺伝子が上昇、10遺伝子が低下した (Fig. 2b)。上昇遺伝子のKEGG pathway解析では、細胞周期 (cell cycle) とDNA複製 (DNA replication) 経路が最も有意に過剰表現された(p<0.05 by hypergeometric test) (Fig. 2c)。患者由来CTCでも同様の細胞周期・DNA複製経路のenrichmentがROAST gene set testで確認された(p<0.05)。免疫蛍光染色では、CTC-好中球クラスター由来CTCのKi67陽性割合が単一CTCより有意に高かった(n=3 replicates、p<0.05) (Fig. 2d, e)。EMTマーカー、癌幹細胞マーカー、血小板関連遺伝子には有意差がなかった。Ki67増加効果は原発腫瘍浸潤好中球や転移巣周囲では認められず、CTC-好中球クラスター(血中解離細胞)特有の現象であった。IL-6とIL-1β(25 ng/ml、24 h in vitro処置後静脈内注射)により、4T1GFP細胞の播種後転移発達が有意に早まり(NSGおよびBALB/cマウス、n=3-4 mice/群)、IL6STまたはIL1R1のCRISPR KOによりこの増殖優位性は消失した (Fig. 2f, g)。

VCAM1によるクラスター形成: In vivo CRISPR-Cas9ドロップアウトスクリーンでは、F11r、Icam1、Itgb2、Vcam1の4種各sgRNAのうち、Vcam1のsgRNA4本全てがCTC-好中球クラスター由来CTCで選択的にドロップアウトした(n=3 replicates) (Fig. 4c)。個別のVcam1 sgRNAを用いた検証実験でも、CTC-好中球クラスター形成が著明に阻害されることが確認された (Fig. 4d)。原発腫瘍でのsgRNA組成には変化がなく、VCAM1 KOは腫瘍増殖を障害しないことが示された。

TLE1変異とCTC-好中球クラスター頻度の33-41倍増加: コホート解析で、TLE1変異がCTC-好中球クラスター保有ドナーに選択的に認められることが示された。4T1GFP細胞にTLE1変異G1787AまたはG1509Cを導入すると、原発腫瘍サイズに差がないまま、CTC-好中球クラスター頻度が対照と比較して33-41倍増加した(n=3 replicates、p<0.05) (Fig. 3c)。TLE1の機能は骨髄系細胞の腫瘍への浸潤を調節することと一致しており、TLE1変異が好中球の腫瘍内リクルートメントを増強し、CTC-好中球クラスター形成を促進するという機序が示された。好中球との共培養では、TLE1ホットスポットと同じ変異は生じなかった。

G-CSF過剰発現の影響: G-CSF過剰発現4T1GFP細胞では、CTC-好中球クラスター割合が88倍以上増加し、CTCの放出が早まり、転移発達が加速した。一方、anti-Ly6Gによる好中球枯渇では、CTC-好中球クラスターが完全に消失し、CTC放出が遅延し転移発達が遅れた (Fig. 4a)。G-CSF投与を受けた乳癌患者コホートでは、CTC-WBCクラスター保有率が有意に高い傾向が認められた。

考察/結論

本研究は、乳癌患者の循環腫瘍細胞 (CTC) の大部分 (85.5-91.7%) が好中球とクラスターを形成し、このCTC-好中球クラスターが単独CTCよりも高い転移効率を持ち、患者の無増悪生存期間 (PFS) の有意な短縮と関連することを示した。これは、CTC-好中球クラスターが独立した予後因子となる可能性を初めて提示するものである。

新規性: 本研究で初めて、好中球由来のIL-6およびIL-1βが癌細胞の細胞周期関連遺伝子(51遺伝子中41遺伝子)の発現を亢進させ、増殖を促進するという特定の分子メカニズムを新規に同定した。さらに、VCAM1がCTCと好中球の結合を媒介することから、VCAM1の阻害がクラスター形成を抑制する可能性を示唆した。また、TLE1遺伝子の変異が好中球の腫瘍浸潤とCTC-好中球クラスター形成を33-41倍増加させるという知見は、遺伝子変異が免疫細胞の腫瘍リクルートメントを通じて転移ルートを決定するという「がん細胞固有のメカニズムによる腫瘍免疫ランドスケープの形成」という概念に合致する。これは、これまで報告されていない重要な発見である。

先行研究との違い: これまでの研究では、CTCクラスターの転移能が注目されてきたが、本研究は、CTC-白血球クラスター、特にCTC-好中球クラスターが転移において最も効率的なサブポピュレーションであることを明らかにした点で、先行研究とは異なる知見を提供する。また、好中球が単に腫瘍微小環境に存在するだけでなく、循環中にCTCと直接相互作用し、その生物学的特性を積極的に変化させるメカニズムを詳細に解明した点は、これまでの報告にはない新規性である。

臨床応用: 本知見は、転移性乳癌の新たな治療戦略開発に直結する臨床的意義を持つ。CTC-好中球クラスターが独立した予後因子となる可能性があり、抗IL-6抗体(トシリズマブなど)の転移抑制薬への応用、VCAM1/VLA-4を標的としたクラスター形成阻害が治療戦略として考えられる。G-CSF投与を受けた患者でのCTC-WBCクラスター増加傾向は、化学療法時のG-CSF予防投与が転移リスクに影響しうるという懸念と一致する重要な臨床的示唆を与える。

残された課題: 今後の検討課題として、(1) CTC-好中球クラスターが他癌種での予後因子となるかの検証、(2) TLE1変異の機能的意義の完全な解明、(3) In vivoでのクラスター形成動態の直接的可視化と定量、(4) VCAM1/IL-6阻害の臨床試験設計が挙げられる。これらの課題を解決することで、CTC-好中球クラスターを標的とした治療法の開発がさらに進展すると考えられる。

方法

本研究では、進行性乳癌のため治療を中断した患者70名から7.5 mlの血液サンプルを採取し、Parsortixマイクロ流体デバイスを用いてCTCを捕捉した。捕捉された細胞はEpCAM/HER2/EGFR(癌細胞マーカー)とCD45(白血球マーカー)で二重染色され、単一CTC、CTCクラスター、およびCTC-WBCクラスターが同定された。CTC-WBCクラスターはロボット式マイクロマニピュレーターを用いて単一細胞に解離され、CTC関連白血球のシングルセルRNAシーケンス (scRNA-seq) が実施された。Reference component analysisを用いて、これらの免疫細胞の組成が同定された。マウスモデル(n=5 mice)では、Ly6G/CD11b/F4/80染色とWright-Giemsa核形態解析により、好中球、単球、マクロファージが鑑別された。

患者コホートにおいて、CTC-好中球クラスターを保有する患者(n=9 patients)と、5個以上のCTCを持つ患者(n=10 patients)の無増悪生存期間 (PFS) をKaplan-Meier法で比較した。BALB/c-4T1GFPマウスモデル(n=25 CTC-好中球クラスター由来CTC vs n=4単一CTC)を用いて、CTC-好中球クラスター由来CTCと単一CTCの示差発現遺伝子解析をedgeR likelihood ratio test(q<0.05)で実施した。機能確認実験として、IL-6およびIL-1β中和抗体を用いた処理、ならびにIL6ST (Interleukin 6 Signal Transducer) およびIL1R1 (Interleukin 1 Receptor Type 1) のCRISPR-Cas9ノックアウト (KO) が行われた。

CTC-好中球クラスター形成に必須の分子を同定するため、in vivo CRISPR-Cas9ドロップアウトスクリーンが実施された。F11r (F11 Receptor)、Icam1 (Intercellular Adhesion Molecule 1)、Itgb2 (Integrin Subunit Beta 2)、Vcam1の各遺伝子に対して4本のsgRNAが設計され、その影響が評価された。さらに、4T1GFP細胞にTLE1遺伝子の変異(G1787AまたはG1509C)を導入し、CTC-好中球クラスター頻度への影響を評価した(n=3 replicates)。マウスモデルでは、CTC-好中球クラスター由来CTCと単一CTCをそれぞれ100個/マウスで尾静脈注射し(n=5 mice/群)、転移能を比較した。G-CSF (Granulocyte Colony-Stimulating Factor) 過剰発現4T1GFP細胞を用いた実験では、CTC-好中球クラスター割合の増加と転移発達の加速が評価され、抗Ly6G抗体による好中球枯渇実験では、CTC-好中球クラスターの消失と転移発達の遅延が観察された。