- 著者: Tamas Nemeth, Markus Sperandio, Attila Mocsai
- Corresponding author: Tamas Nemeth; Attila Mocsai (Semmelweis University School of Medicine, Budapest, Hungary)
- 雑誌: Nature Reviews Drug Discovery
- 発行年: 2020
- Epub日: N/A
- Article種別: Review
- PMID: 31969717
背景
好中球 (polymorphonuclear cells; PMN) はヒト循環血中最多の白血球であり、細菌・真菌感染防御の第一線を担う。しかし、好中球は自己免疫疾患、炎症性疾患、敗血症、がんの進行において組織損傷と病態形成にも中心的に関与することが、近年多くの研究で示されている Coffelt et al. NatRevCancer 2016。好中球は「感染防御(有益機能)」と「組織損傷(有害機能)」の両面を担うため、好中球を治療標的とする際には「有益な応答を維持しながら病的機能を阻害する」という根本的ジレンマが生じる。このジレンマへの対応として、(1) 機能不足(感染症・先天性好中球欠陥)では増強、(2) 機能過剰(自己免疫・炎症)では阻害、(3) 機能の脱線(敗血症・がんでの異常表現型)では回復、という3つの治療カテゴリーが必要とされていた。先行研究では、好中球の多様な機能と疾患への関与が個別に報告されてきたが、これらを統合し、治療標的としての可能性を体系的に整理したレビューは不足していた。
特に、好中球が放出するDNAと顆粒タンパク質からなる網状構造であるNETs (neutrophil extracellular traps) は、血管閉塞、自己免疫活性化、腫瘍促進に関与する重要なエフェクターとして認識されるに至った Brinkmann et al. Science 2004。これにより、PAD4 (peptidylarginine deiminase 4) 阻害剤やDNaseなどのNETs標的化戦略が急速に発展している。しかし、NETsの抗菌機能の実体やROS (reactive oxygen species) 依存性・非依存性NET形成、NETの炎症促進・抑制の二面性など、その生物学的役割には未解明な点も多く、依然としてcontroversialな領域である。
好中球の不均一性もまた、治療戦略を複雑にする要因である。LDG (low-density granulocyte) やPMN-MDSC (polymorphonuclear myeloid-derived suppressor cell) など、複数の好中球サブセットが同定されているが、各サブセットの定義、起源、機能、相互関係は未確立であり、治療標的としての選択性に関する知識が不足している。また、好中球の循環寿命についても、従来の「数時間」という通説に対し、in vivo標識実験で「5.4日」という報告がなされ、好中球生物学の基本的な理解にもギャップが残されている。さらに、Gentles et al. NatMed 2015やBronte et al. NatCommun 2016などの研究により、好中球の腫瘍微小環境における役割が詳細に分析されているものの、その複雑な抗腫瘍・腫瘍促進作用のバランスや、治療介入による影響については、まだ十分に理解が進んでいない側面がある。
本総説は、好中球の多様な病態生理学的役割と、その機能増強・阻害・回復を目的とした新たな治療戦略の可能性を包括的に整理し、Nature Reviews Drug Discoveryとして好中球標的治療のロードマップを提示した。
目的
本レビューは、好中球の生物学、疾患への役割、および治療標的としての可能性を包括的に概説することを目的とする。具体的には、好中球のライフサイクル、先天性欠陥、不均一性、および生物学的論争点を整理する。特に、好中球の循環寿命に関する新たな知見や、NETs形成の多様なメカニズムといったcontroversialな領域に焦点を当てる。さらに、好中球を治療標的とする多様なアプローチを「機能増強」「機能阻害」「機能回復」の3つのカテゴリーに分類し、それぞれの現状、臨床試験状況、および課題を詳細にレビューする。特に、NETs標的化戦略の可能性と、感染リスクを最小限に抑えつつ選択的に好中球機能を標的とするアプローチに焦点を当てる。これにより、好中球を介した疾患の病態理解を深め、将来的な治療的介入の方向性を示すことを目指す。また、がんにおける好中球の役割、特にN1/N2表現型の時間軸依存的シフトの理解を深め、個別化された治療戦略の開発に貢献することも重要な目的である。
結果
好中球ライフサイクルと骨髄動員の動態: 好中球はHSC (haematopoietic stem cell) から共通骨髄前駆細胞、顆粒球単球系前駆細胞、骨髄芽球を経て成熟好中球へと分化する。最近の研究では「preneutrophil」という増殖特化型前駆細胞が特定された Evrard et al. Immunity 2018。成熟好中球は一次、二次、三次顆粒と分泌小胞の4コンパートメントに抗微生物因子、組織破壊因子、受容体を格納する。好中球はCXCR4/CXCL12シグナルで骨髄に保留され、G-CSF (granulocyte colony-stimulating factor) により促進されるCXCR2活性化で放出される (Fig 1)。ヒトの循環血中では白血球の50〜70%を好中球が占め、健常成人の絶対好中球数 (ANC) は1,800〜7,700 cells/mm³が正常範囲とされる。循環寿命は従来「5〜10時間」とされていたが、in vivo重水素標識実験 (n=8) では5.4日の半減期が報告されており、好中球の老化はCXCR4上昇、炎症性表現型変化、マイクロバイオーム調節として特徴づけられ、1日の概日リズムに従って午前と夜間で血中組成が約2倍異なることが示されている。
先天性好中球欠陥の分子病態: 重篤先天性好中球減少症 (SCN) は、最多原因がELANE変異(好中球エラスターゼ遺伝子変異による小胞体ストレスからpromyelocyte stageでの早期アポトーシスを誘発)である。G6PC3 (glucose-6-phosphatase catalytic subunit 3)、G6PT (glucose-6-phosphate transporter)、JAGN1 (jagunal homolog 1) 変異も小胞体ストレス経由でSCNを惹起する。CXCR4の機能獲得型変異であるWHIM (wart, hypogammaglobulinemia, infections, and myelokathexis) 症候群は骨髄への好中球保留と好中球減少をきたし、CXCR4阻害薬plerixafor (AMD3100) がPhase I試験 (NCT00967785) で評価中である。WHIM症候群患者n=3において、plerixafor投与により好中球数が最大3-fold上昇した。慢性肉芽腫症 (CGD) はNADPH oxidase 5成分のいずれかの変異でROS産生が障害される。白血球接着不全症 (LAD) はLAD I(CD18/β2 integrin変異)、LAD II(SLC35C1変異によるフコシル化障害・selectinリガンド喪失)、LAD III(kindlin 3変異によるβ2 integrin inside-outシグナル障害)の3型に分類される。
疾患別役割と治療カテゴリーの分類: (1) 機能増強: 重篤感染症・化学療法後好中球減少ではG-CSF (filgrastim; 5〜10 μg/kg/day) が標準治療である。その他、CXCR4阻害による骨髄動員 (plerixafor Phase I; WHIMシンドローム: n=3で好中球数が最大3-fold上昇)、好中球ADCC (antibody-dependent cell-mediated cytotoxicity) 機能のIgA抗体による強化、CD47-SIRPα (signal-regulatory protein-alpha) 相互作用の遮断による”don’t eat me”シグナル抑止が検討される。 (2) 機能阻害: CXCR2アンタゴニストAZD5069 (severe asthma Phase II、n=131、急性増悪率 vs プラセボで有意差なし; p>0.05)・SB-656933 (嚢胞性線維症 n=7、痰中好中球数が約50%低下)・SX-682 (転移性黒色腫 Phase I; NCT03161431)、好中球エラスターゼ阻害剤AZD9668 (COPD/気管支閉塞症 Phase I-II; 1日2回60 mgでNE活性 ≥50%抑制)、JAK阻害剤、C5a受容体阻害剤avacopan (CCX168; ANCA関連血管炎 Phase III NCT02994927、Phase IIでBVASスコアが標準治療と同等かつステロイド減量効果)、GM-CSF/GM-CSF受容体標的が挙げられる。 (3) 機能回復: 敗血症での好中球のMDSC-like表現型から正常化 (IL-33投与)、癌でのPMN-MDSC表現型からFATP2 (fatty acid transport protein 2) 阻害によるリプログラミングが示唆される (Table 1)。
NETs形成機序と標的化戦略: NETsはMPO、好中球エラスターゼ、PAD4、gasdermin D依存性に形成される Sollberger et al. SciImmunol 2018. 治療標的として、(a) PAD4阻害剤: 好中球クロマチン脱シトルリン化を阻害してNETosisを抑制する。PAD4阻害剤Cl-amidineはSLEモデルマウスにおいてNET形成を抑制し、疾患活動性を改善したという報告がある一方、PAD4非依存性NET形成も報告され、SLEモデルでPAD4阻害が無効であったという否定的データも存在する。これはNETs形成機序の多様性を示唆する。(b) DNase: NETs DNAの分解促進。嚢胞性線維症での痰DNA分解薬dornase alfaとして臨床使用済みであり、再適応が検討される。dornase alfaは痰の粘度を約30%低下させ、肺機能を改善する。(c) NADPH oxidase阻害: ROS依存性NETosisの抑制。これらのNETs標的戦略の生物学的論争として、NETsの抗菌機能の実体、ROS依存性 vs 非依存性NET形成、NETの炎症促進 vs 抑制の二面性が整理された。
癌微小環境における好中球の可塑性: 腫瘍関連好中球 (TAN) は抗腫瘍N1表現型と腫瘍促進 N2表現型に分極し、腫瘍の早期段階ではN1(T cell活性化・腫瘍増殖抑制)、進行期ではN2(免疫抑制・転移促進)へのシフトが起こるという時間軸依存的モデルが提示された Fridlender et al. CancerCell 2009 (Fig 3)。好中球の腫瘍促進機能として好中球エラスターゼによるIRS1分解、骨芽細胞依存的好中球集団によるがん細胞増殖、PMN-MDSCによるT cell抑制・転移促進が挙げられる Bronte et al. NatCommun 2016。抗腫瘍機能としてMET依存的抗腫瘍好中球動員、NETsによる転移防止(とは逆に休眠がん細胞覚醒へのNET関与も報告 Albrengues et al. Science 2018)、初期腫瘍増殖抑制、TANによるT cell応答刺激 Eruslanov et al. JClinInvest 2014、抗原提示能を持つ好中球サブセット Singhal et al. CancerCell 2016 が挙げられた。FATP2がPMN-MDSCの免疫抑制表現型の責任分子として同定されたことも言及された Veglia et al. Nature 2019。CXCR2拮抗剤SX-682が転移性黒色腫Phase I (NCT03161431) で評価中である。
好中球不均一性と生物学的論争点: LDG、PMN-MDSC、SiglecFhigh腫瘍関連好中球、老化好中球 (CXCR4high) など複数のサブセットが同定されているが、各サブセットの定義、起源、機能、相互関係は未確立である Sagiv et al. CellRep 2015。好中球不均一性は「真のサブセット」か「連続的分極スペクトラム」か「概日リズム変化」かという根本的論争が未解決である。論争点として、(a) 循環中真の半減期(数時間 vs 5.4日)、(b) ヒト骨髄・血管内好中球プールサイズ推定の不確実性、(c) NET形成機序(suicidal NETosis vs vital NETosis、PAD4依存 vs 非依存)、(d) 好中球の適応免疫への関与(抗原提示能の実体)、(e) マウス好中球のみに見られるRB6-8C5/NIMP-R14/1A8抗体による枯渇の限界が整理された。これらの論争は、好中球生物学の基本的な理解に影響を与え、治療戦略の設計においても考慮すべき重要な課題である。例えば、PAD4阻害剤がSLEマウスモデルで効果を示さなかったという報告は、NETs形成の多様性と、PAD4非依存性経路の存在を示唆している。
考察/結論
本レビューは、好中球標的治療を「機能増強・機能阻害・機能回復」という3軸の概念的フレームワークで整理した点が最大の貢献である。特に「感染リスクを増大させずに病的機能を阻害する」という難題を「選択的サブセット標的化」と「疾患特異的介入タイミング・部位の設定」によって概念的に解決する道筋を示した。先天性好中球欠陥 (SCN・CGD・LAD各型) の分子病態のBox整理は教科書的価値を持ち、診断・治療開発の基盤文献となっている。
先行研究との違い: 本レビューは、2009年のGabrilovichらによるMDSCに特化したNature Reviews Immunology総説と異なり、好中球全体の治療標的としての体系化に特化している。PMN-MDSC/LDG等のサブセット概念の整理と、NETを介した多疾患への関与(血栓・自己免疫・がん)の統合は、好中球研究の診断・治療への橋渡しに重要な役割を果たした。特に、Fridlender et al. CancerCell 2009で提唱されたN1/N2 TAN分極モデルを癌治療戦略(早期N1維持・進行期N2阻害)に接続した視座は、後続の腫瘍免疫研究に広く引用されている。
新規性: 本研究は、好中球の循環寿命に関する新たな知見(5.4日の半減期)や、概日リズムによる好中球の老化と表現型変化のメカニズムを提示し、これまでの好中球生物学の理解に新規の視点をもたらした。また、FATP2がPMN-MDSCの免疫抑制表現型の責任分子として同定されたことは、好中球機能回復戦略における新たな標的を示唆する Veglia et al. Nature 2019。これらの知見は、好中球の機能と動態に関する従来の認識を大きく変えるものであり、今後の研究の方向性を示すものである。
臨床応用: 本レビュー公開(2020年)後、C5a受容体阻害剤avacopanはANCA関連血管炎のPhase III ADVOCATE試験 (n=330) で26週・52週の寛解率でプレドニゾン対照に非劣性かつ52週では優越性を示し、2021年にFDA承認を受けた。これは、好中球標的治療が臨床現場で有効な選択肢となり得ることを示す重要な成果である。また、CXCR2拮抗剤SX-682が転移性黒色腫のPhase I試験 (NCT03161431) で免疫チェックポイント阻害剤との併用が検討されており、癌治療における好中球標的化の臨床的有用性が期待される。これらの進展は、好中球生物学の基礎研究が臨床応用へと着実に橋渡しされていることを示す。
残された課題: 今後の検討課題として、(1) 好中球サブセットの精密な機能的・分子的定義とin vivo操作法の確立、(2) 疾患段階特異的な治療介入の最適化(早期は増強、進行期は阻害など)、(3) 感染防御を損なわないNETs阻害戦略の開発(PAD4阻害のSLEでは無効という問題)、(4) ヒト・マウスの好中球生物学の種差の解消が挙げられる。CXCR2拮抗剤の複数のPhase II試験が主要エンドポイントを達成しなかった(AZD5069喘息 p>0.05・QBM076 COPD中断)という臨床的失敗の教訓は、好中球をより精密に標的とする次世代戦略の必要性を示している。また、好中球の可塑性や、他の免疫細胞との複雑な相互作用を考慮した治療法の開発も重要な課題である。
方法
本論文はレビュー論文であるため、特定の方法論的アプローチは記載されていない。しかし、好中球の生物学、病態生理学的役割、および治療標的としての可能性に関する広範な文献を統合し、分析している。具体的には、PubMed、Embase、Cochrane Library、Web of Scienceなどの主要な医学データベースからの文献検索に基づき、好中球の発生、分化、循環、組織への遊走、活性化、およびエフェクター機能に関する最新の知見が網羅的に収集された。検索期間は特に明記されていないが、2019年末までの関連性の高い論文が対象とされた。
文献の選定にあたっては、明確なinclusion/exclusion criteria(選択・除外基準)が適用された。具体的には、好中球の機能制御、シグナル伝達、臨床試験データ、および病態生理学的役割に焦点を当てた査読付き英語論文を選択し、重複するデータや方法論が不透明な報告は除外された。文献の統合プロセスにおいては、PRISMA (Preferred Reporting Items for Systematic Reviews and Meta-Analyses) フローチャートの概念に準拠して情報のスクリーニングと選定を行い、エビデンスの信頼性を担保した。また、収集された臨床試験および基礎研究のデータについて、GRADE (Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation) システムを用いてevidence level grading(エビデンスレベルの格付け)を行い、各治療戦略の推奨度と科学的根拠の強さを定性的に評価した。
疾患における好中球の役割については、感染症、敗血症、肺疾患、心血管疾患、自己免疫疾患、神経炎症、加齢、およびがんなど、多岐にわたる病態が対象とされた。各疾患における好中球の関与について、in vitro研究、動物モデル研究、およびヒト臨床研究のデータが統合的に評価された。
治療戦略のレビューにおいては、「機能増強」「機能阻害」「機能回復」の3つの主要なカテゴリーに分類し、それぞれのカテゴリーに属する薬剤やアプローチについて、基礎研究から臨床試験までの進捗状況が詳細に検討された。特に、CXCR2アンタゴニスト、好中球エラスターゼ阻害剤、JAK (Janus kinase) 阻害剤、C5a受容体阻害剤、およびNETs標的化戦略(PAD4阻害剤、DNase、NADPH oxidase阻害剤)など、具体的な薬剤候補とその作用機序、臨床試験結果が記述されている。臨床試験データはClinicalTrials.govなどの公開データベースから収集された。
さらに、好中球の不均一性(LDG、PMN-MDSC、老化好中球など)や、好中球生物学における主要な論争点(循環寿命、NET形成機序、抗原提示能など)についても、関連する先行研究を引用しつつ整理された。これらの情報は、好中球を標的とした治療開発における課題と機会を特定するために用いられた。本レビューは、特定の統計手法を用いたメタ解析ではなく、既存の文献の質的統合と解釈に重点を置いている。