- 著者: Mélanie Demers, Siu Ling Wong, Kimberly Martinod, Maureen Gallant, Jessica E. Cabral, Yanming Wang, Denisa D. Wagner
- Corresponding author: Denisa D. Wagner (Division of Hematology/Oncology, Boston Children’s Hospital, Department of Pediatrics, Harvard Medical School, Boston, MA, USA; denisa.wagner@childrens.harvard.edu)
- 雑誌: OncoImmunology
- 発行年: 2016
- Epub日: 2016-05-04
- Article種別: Original Article
- PMID: 27467952
背景
好中球はがん微小環境において、腫瘍促進的なTAN (tumor-associated neutrophil) N2表現型と抗腫瘍的なTAN N1表現型という二面性を持つことが知られている。好中球が放出するNETs (neutrophil extracellular traps:好中球細胞外トラップ) は、Brinkmann et al. Science 2004によって細菌を死滅させる自然免疫機構として初めて発見された。その後、Fuchs et al. JCellBiol 2007により、NETsの放出を伴う能動的な細胞死プロセスであるNETosis (ネトーシス) の分子機構が明らかにされた。NETsは感染症や自己免疫疾患、血栓症などの病態において重要な役割を果たすことが示されてきたが、腫瘍生物学における機能的役割については長い間未解明であった。近年、Cools-Lartigue et al. JClinInvest 2013が、敗血症モデルにおいて循環腫瘍細胞をNETsが捕捉することで転移を促進することを報告したが、原発腫瘍の増殖におけるNETsの直接的な寄与や、腫瘍微小環境内でのNETs形成を制御する宿主側の分子機構は未解明のままであった。特に、多くのがん種から分泌されるG-CSF (granulocyte colony-stimulating factor:顆粒球コロニー刺激因子) が好中球の動員や分化を促進するだけでなく、好中球をNETosisへとプライミング (活性化準備状態に) する作用を持つことが示唆されていたが、これが実際の生体内での腫瘍増殖にどのように関与しているかについての知見は不足していた。また、NETosisに必須の酵素であるPAD4 (peptidylarginine deiminase 4:ペプチジルアルギニンデイミナーゼ4) を欠損したPAD4欠損マウスを用いた、腫瘍増殖におけるNETsの機能的検証はこれまで行われておらず、腫瘍由来因子による好中球のプライミングとPAD4依存的なNETs形成が原発腫瘍の増殖を直接促進するかどうかという学術的ギャップが残されていた。このように、原発腫瘍の局所増殖における好中球の質的変化とNETsの役割を実証するための研究は極めて不足しており、その因果関係の解明が強く求められていた。
目的
本研究の目的は、腫瘍由来のG-CSF (granulocyte colony-stimulating factor) による好中球のプライミングと、PAD4 (peptidylarginine deiminase 4) 依存的なNETs (neutrophil extracellular traps) 形成が原発腫瘍の増殖を促進するという機構的因果関係を明らかにすることである。具体的には、以下の4つの課題を検証することを目的とした。第一に、G-CSFを自律的に分泌するLLC (Lewis lung carcinoma) 皮下移植モデルを用いて、WT (wild-type) マウスとNETs形成能を欠損したPAD4欠損マウスにおける腫瘍増殖速度および腫瘍重量を比較検証する。第二に、腫瘍組織内における好中球の浸潤度と、H3Cit (citrullinated histone H3) やMPO (myeloperoxidase) の共局在によるNETsの形成を免疫組織化学的に証明する。第三に、G-CSFを分泌しないB16F10 (B16 melanoma F10) モデルを用いて、外因性のG-CSF投与が好中球のプライミングを介して腫瘍内NETs形成と腫瘍増殖を促進するかどうかを検証し、G-CSF-PAD4-NETs軸の因果関係を確定する。第四に、ヒトがん患者におけるG-CSF分泌、好中球増加、および予後不良との相関関係を考察し、本研究の知見がヒト臨床においても治療標的としての有用性を持つかを検討する。
結果
LLC腫瘍由来G-CSFによる好中球の全身的プライミング: ELISA解析の結果、48時間培養したLLC細胞の培養上清中には 14.17 ± 0.88 pg/mL のG-CSFが検出されたのに対し、B16F10細胞の培養上清中では検出感度 (5 pg/mL) 以下であった。LLC担癌WTマウスの血漿中G-CSF濃度は、腫瘍の成長に伴って経時的に著明に上昇し、day 8の約50 pg/mLからday 13には約1,500 pg/mL、day 17には約3,500 pg/mLへと著明に上昇した。これに比例して末梢血中の好中球数も増加した。さらに、LLC担癌マウスから単離した末梢血好中球 (n=4 mice) は、非刺激状態およびLPS (10 μg/mL) 刺激下のいずれにおいても、B16F10担癌マウス (n=20 mice) 由来の好中球と比較して有意に高いNETs形成能を示した (p<0.05、約2.0-foldの上昇) (Figure 3)。この結果は、LLC腫瘍が分泌するG-CSFが循環好中球をNETosisへと全身的にプライミングする主要因子であることを示している。また、好中球の核形態をWright-Giemsa染色で観察したところ、両モデル間で典型的な分葉核に差は認められなかったが、機能的なNETs放出能においてLLC担癌マウス由来の好中球が圧倒的に優位であった。
PAD4欠損によるLLC腫瘍増殖の抑制と腫瘍内NETsの消失: WTマウス (n=17 mice) およびPAD4欠損マウス (n=16 mice) にLLC細胞を皮下接種したところ、PAD4欠損マウスではWTマウスと比較して、接種後17日目における腫瘍体積および腫瘍重量が約35%有意に減少した (p<0.05) (Figure 1)。day 17におけるLLC腫瘍の重量は、WTマウスで平均約0.8 gであったのに対し、PAD4欠損マウスでは平均約0.5 gであった。共焦点顕微鏡解析により、WTマウスのLLC腫瘍内にはLy6G陽性好中球とH3Cit陽性のNETs構造が豊富に観察されたが、PAD4欠損マウスの腫瘍内ではH3CitのシグナルおよびNETs構造が完全に消失していた。ウエスタンブロット解析およびFACS解析 (n=4 mice) では、腫瘍内に浸潤したLy6G陽性好中球の総数自体には両ジェノタイプ間で有意差が認められなかった (p>0.05、WTで約6.3%、PAD4欠損で約6.1%)。このことは、PAD4欠損による腫瘍増殖抑制効果が、好中球の動員障害ではなく、腫瘍微小環境におけるNETs形成能の特異的な欠損に起因することを示している。さらに、腫瘍組織のライセートを用いたウエスタンブロット解析では、腫瘍の進行に伴ってH3Citの量がWTマウスでのみ経時的に増加することが確認された。
G-CSF非分泌性B16メラノーマにおけるPAD4依存性の消失: G-CSFを分泌しないB16F10メラノーマをWTマウス (n=20 mice) およびPAD4欠損マウス (n=22 mice) に移植した実験では、両群間で腫瘍増殖速度および腫瘍重量に有意な差は認められなかった (p>0.05) (Figure 2)。day 17におけるB16F10腫瘍の重量は、WTマウスで平均約0.65 g、PAD4欠損マウスで平均約0.62 gであった。WTマウスのB16F10腫瘍組織内を解析したところ、LLC腫瘍と同程度の好中球浸潤が認められたにもかかわらず、H3Cit陽性のNETs構造は極めて稀にしか検出されなかった。また、B16F10細胞自体はLLC細胞と比較して高いPAD4 mRNA発現を示し (約3.0-fold)、PAD4欠損マウスに移植されたB16F10腫瘍内でもがん細胞由来のH3Citがわずかに検出されたが、これは腫瘍増殖には影響しなかった。これらの結果は、腫瘍由来のG-CSFによる好中球のプライミングが存在しない環境下では、好中球の浸潤があってもNETsは形成されず、PAD4欠損による腫瘍増殖抑制効果も発揮されないことを示している。
外因性G-CSF投与によるB16メラノーマのNETs形成と腫瘍増殖の促進: G-CSF非分泌性のB16F10担癌マウスに対し、外因性G-CSF (Neupogen、10 μg/日) を連日投与したところ、WTマウス (n=11 mice) では腫瘍内への活性化好中球 (CD11b high) の浸潤が促進され、H3Cit陽性のNETs形成が著明に誘導された。FACS解析において、G-CSF投与を行ったWTマウスのB16F10腫瘍内では、CD11b highの活性化好中球の割合が未治療群の約10.6%から約14.8%へと有意に上昇した (p<0.05)。これに伴い、G-CSF投与を受けたWTマウスのB16F10腫瘍は、同様にG-CSF投与を受けたPAD4欠損マウス (n=12 mice) と比較して有意に増殖が促進された (p=0.008、非線形回帰分析) (Figure 4)。Neupogen投与開始時 (day 9) からday 17の腫瘍体積比 (V1/V0) は、WTマウスで約55倍に達したのに対し、PAD4欠損マウスでは約35倍にとどまった。G-CSF投与による末梢血好中球数の増加レベルは両群間で同等であった (p>0.05)。このレスキュー実験により、G-CSFによる好中球のプライミングが、腫瘍微小環境におけるPAD4依存的なNETs形成を誘導し、原発腫瘍の増殖を促進する直接的な因果関係が実証された。
考察/結論
先行研究との違い: 好中球が放出するNETs (neutrophil extracellular traps) ががんの転移を促進することは、Cools-Lartigue et al. JClinInvest 2013などの先行研究によって示されていた。しかし、それらの報告が主に循環腫瘍細胞の捕捉や転移播種の局面に焦点を当てていたのとは異なり、本研究は原発腫瘍の局所増殖におけるNETsの直接的な促進効果を、遺伝学的および薬理学的手法を用いて実証した点でこれまでと大きく異なる。また、従来の知見では腫瘍内好中球の単なる数(浸潤度)が予後因子として注目されていたが、本研究は好中球の「数」ではなく、G-CSF (granulocyte colony-stimulating factor) によるプライミングを介した「NETs形成能(質的変化)」が腫瘍増殖の真の駆動因子であることを明らかにした。この点で、これまでの好中球生物学のパラダイムと一線を画している。
新規性: 本研究は、腫瘍由来 of G-CSFが好中球をNETosisへとプライミングし、腫瘍微小環境内でのPAD4 (peptidylarginine deiminase 4) 依存的なNETs蓄積を介して原発腫瘍の増殖を促進するという、一連の「G-CSF-PAD4-NETs-腫瘍増殖」軸の因果関係を本研究で初めて明らかにした。特に、G-CSF非分泌性のB16F10メラノーマモデルにおいて、外因性G-CSFの投与がPAD4依存的に腫瘍内NETs形成と腫瘍増殖を誘導することを示したレスキュー実験は、G-CSFによる好中球プライミングがNETsを介した腫瘍促進作用の十分条件であることを示す、これまで報告されていない極めて新規性の高い発見である。
臨床応用: 本研究の知見は、がん治療における複数の臨床応用の可能性を提示している。第一に、G-CSFを自律分泌する腫瘍(Ewing肉腫、膵腺癌、一部の非小細胞肺癌など)や、がん化学療法に伴う好中球減少症の支持療法として外因性G-CSF(Neupogenなど)を投与されている臨床現場において、NETs形成を阻害するPAD4阻害薬(GSK484やCl-amidineなど)や、DNase IによるNETs分解療法を併用することの臨床的有用性が示唆される。第二に、血中H3Cit (citrullinated histone H3) やNETs関連マーカーを測定することで、がん患者における腫瘍の進展リスクやがん関連血栓症(Trousseau症候群)の発症リスクを予測するバイオマーカーとしての臨床的意義が期待される。
残された課題: 本研究における今後の課題(limitation)として、第一に、NETsが具体的にどのような分子機構(直接的な成長因子の提示、血管新生の促進、あるいはCD8陽性T細胞などの抗腫瘍免疫の抑制など)を介して腫瘍細胞の増殖を促進しているのか、その詳細な下流シグナル経路が未解明である点が挙げられる。第二に、本研究で使用されたPAD4欠損マウスは全身性欠損モデルであり、好中球以外のPAD4発現細胞(マクロファージやTh17細胞など)の機能変化が腫瘍増殖に与える影響を完全には排除できていないため、好中球特異的PAD4欠損マウスを用いたさらなる検証が必要である。第三に、本研究は皮下移植モデルを主としており、より臨床に近い自発性がんモデルや同所性移植モデルにおけるNETsの役割の検証が今後の検討課題として挙げられる。
方法
実験動物: 6から8週齢のC57BL/6J背景のWT (wild-type) 雌性マウス、およびPAD4 (peptidylarginine deiminase 4) 欠損マウスを使用した。すべての動物実験はボストン小児病院の動物実験委員会の承認を得て実施された。
腫瘍モデルの構築: LLC (Lewis lung carcinoma) 細胞 (5 × 10⁵ cells) または B16F10 (B16 melanoma F10) 細胞 (2 × 10⁵ cells) をマウスの右側腹部に皮下接種した。腫瘍体積は、電子ノギスを用いて測定し、公式 V = l × w² × 0.4 (lは長径、wは短径) を用いて算出した。接種後17から21日目にマウスを安楽死させ、腫瘍を摘出して重量を測定した。
外因性G-CSF投与実験: B16F10細胞を接種したマウスにおいて、腫瘍体積が30から50 mm³に達した9日目から、遺伝子組み換えヒトG-CSF (granulocyte colony-stimulating factor) 製剤であるNeupogen (10 μg/日) を連日皮下投与した。
G-CSFの定量: 48時間培養したLLCおよびB16F10の培養上清、ならびに担癌マウスから採取したクエン酸血漿中のG-CSF濃度を、マウスG-CSF特異的ELISA (enzyme-linked immunosorbent assay) キット (R&D Systems) を用いて測定した。
免疫組織化学的解析: 摘出した腫瘍組織をOCT (optimal cutting temperature) コンパウンドに包埋し、凍結切片 (厚さ40 μm) を作成した。亜鉛固定液で固定後、抗H3Cit (citrullinated histone H3) 抗体および抗Ly6G抗体を用いて二重染色を行い、Hoechst 33342で核染色を施した。共焦点レーザー顕微鏡であるIX81 (Olympus IX81) を用いて、腫瘍内での好中球浸潤およびNETs (neutrophil extracellular traps) 構造を可視化した。
フローサイトメトリー解析: 摘出した腫瘍組織をコラゲナーゼ (1 mg/mL)、ヒアルロニダーゼ (100 μg/mL)、およびDNase I (20 μg/mL) を含むRPMI (Roswell Park Memorial Institute) 培地中で37℃、2から3時間振盪して単一細胞懸濁液を調製した。抗Ly6G抗体および抗CD11b抗体で染色後、FACSCanto IIを用いて好中球の浸潤割合および活性化マーカーの発現を解析した。
好中球の単離と体外NETs形成アッセイ: 担癌マウスの末梢血からPercoll密度勾配遠心法により好中球を単離した。LPS (lipopolysaccharide、10 μg/mL) 刺激の有無におけるNETs形成率を、Hoechst 33342染色による蛍光顕微鏡観察下で、PBS (phosphate-buffered saline) 中に回収された全細胞数に対するNETs形成細胞の割合として算出した。
ウエスタンブロット解析: 腫瘍組織ライセートの等量タンパク質を4-20% SDS-PAGE (sodium dodecyl sulfate-polyacrylamide gel electrophoresis) で分離し、PVDF (polyvinylidene fluoride) 膜に転写した。抗Ly6G抗体、抗H3Cit抗体、およびGAPDH (glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase) 抗体を用いて検出を行った。
統計解析: 2群間の比較には、ノンパラメトリック検定であるMann-WhitneyのU検定 (Mann-Whitney test) を適用した。腫瘍増殖曲線の比較には非線形回帰分析を用いた。すべての統計解析において、p<0.05を統計学的有意差ありと判定した。