• 著者: Luciana P. Tavares, Thayse R. Brüggemann, R. Elaine Cagnina, Robert Nshimiyimana, Ana B. Villaseñor-Altamirano, Rafael M. Rezende, Toby B. Lanser, Xiaoli Liu, Marjorie E. Bateman, Nandini Krishnamoorthy, Stephanie Pons, Melody G. Duvall, Raja-Elie E. Abdulnour, Alexander Tavares, Kathleen J. Haley, Rajesh K. Krishnan, Charles N. Serhan, Bruce D. Levy
  • Corresponding author: Bruce D. Levy; Luciana P. Tavares (Brigham and Women’s Hospital / Harvard Medical School)
  • 雑誌: Science Immunology
  • 発行年: 2025
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 41417925

背景

好中球は組織傷害・感染に対する急性炎症応答の最前線を担う細胞であり、従来は均一で短命な炎症促進細胞と考えられてきた。しかし近年、好中球の高い不均一性が明らかになりつつある。Ballesteros et al. Cell 2020 は組織環境による好中球のリプログラミングを包括的に示し、炎症促進以外の調節的役割が存在することを提示した。さらに、好中球減少が組織治癒と疾患回復を障害することは知られているが、特定の好中球サブセットが炎症解消 (resolution of inflammation) に能動的に関与する精密なメカニズムは不十分にしか解明されていなかった。

炎症の解消は受動的な消退ではなく、SPMs (specialized proresolving mediators: 特殊化解消促進メディエーター) などを介した能動的プロセスである。17-HDHA (17-hydroxydocosahexaenoic acid) やD-シリーズレゾルビンなどのSPMsは炎症解消を積極的に推進し、組織恒常性の回復を担う。脂質メディエーターのクラススイッチングが好中球の流入・退縮を時間的に制御することが示されているが、組織内好中球がSPM産生源として能動的な解消役割を担うかどうかという点には大きな gap in knowledge が存在した。

他の炎症疾患モデルでSiglec-F+ (sialic acid-binding immunoglobulin-like lectin F陽性) 超分葉好中球が報告されていた。Engblom et al. Science 2017 は腫瘍促進性のSiglecFhigh好中球を骨芽細胞が供給することを示しており、腎傷害・心筋傷害モデルでも同様のサブセットが線維化促進的な役割を持つと報告されていた。しかし、急性肺損傷の解消期において解消促進的に機能するSiglec-F+好中球サブセットが存在するかどうかは不明であった。好中球の炎症関連機能については、Krishnamoorthy et al. SciImmunol 2018 が好中球細胞質体による免疫調節作用を示しているが、解消促進サブセットの存在とその分子機序は手薄なままであった。

このように、ALI (acute lung injury: 急性肺損傷) の解消期に組織内好中球がSPMを産生して上皮修復を積極的に促進するか、その分化を誘導するシグナル経路は何か、ヒトARDS (acute respiratory distress syndrome: 急性呼吸窮迫症候群) での臨床的意義はあるかという問いが未解決のままであった。

目的

HCl誘発ALIマウスモデルの解消期に肺内に出現するSiglec-F+好中球サブセットを同定し、形態・転写・機能的特性を解析するとともに、マクロファージ分化促進・AT2 (alveolar type II epithelial cells: II型肺胞上皮細胞) 上皮修復・SPM産生を介した組織修復機序を明らかにすること。さらに、このサブセットの分化を誘導するサイトカインシグナル経路を同定し、ヒトARDS患者における臨床的意義を評価すること。

結果

Siglec-F+好中球が解消期に傷害肺実質に特異的に出現する:HCl誘発ALIでは24時間後にBAL好中球が著明に増加しマクロファージが減少したが (炎症期)、48〜72時間後に逆転した (解消期)。BALF (bronchoalveolar lavage fluid) 総タンパク (バリア破壊の指標) は24時間後に増加し、48〜72時間後に減少した (Fig. 1C)。この解消期に特異的なSiglec-F+好中球サブセットが出現し、48〜72時間後にはBAL全好中球の多数を占めた (Fig. 1D, 1E)。血管内・肺実質区別実験 (CD45 BV421を傍静脈内注射) では、Siglec-F-好中球が血管内・実質両方に存在したのに対し、Siglec-F+好中球は傷害肺実質に特異的に局在し (n=7)、血液・脾臓・骨髄には認められなかった (Fig. 1F, 1G)。S. pneumoniae肺炎の解消期 (48〜72時間後) にもSiglec-F+好中球がBALに増加し、BAL細菌数の減少と並行していた。

Siglec-F+好中球は形態・転写・機能的に独自の特性を持つ:Siglec-F+好中球はSiglec-F-好中球と比較して核分葉数≥6の超分葉核比率が有意に高く (p<0.01)、Ki67陰性 (非増殖性) であった (Fig. 2B, 2C)。ΔdblGATAマウス (n=4) でもSiglec-F+好中球が確認され、GATA-1・CCR3陰性・Ly6G陽性から好酸球でないことが明示された。フローサイトメトリーでは、MPOとLy6CはSiglec-F-好中球で高く、CD73・P2X7R (purinergic P2X7 receptor)・ADORA1 (adenosine A1 receptor) はSiglec-F+好中球で高発現していた (n=4、p<0.05) (Fig. 2F)。NanoString解析で9遺伝子が有意に抑制・29遺伝子が有意に上昇し (P<0.05)、TNF産生・細胞遊走経路が亢進し免疫活性化経路が抑制されていた (Fig. 2G)。PDBu (phorbol 12,13-dibutyrate、1 μM) 刺激によるROS (reactive oxygen species) 産生とE. coli生菌貪食能 (pHrodo標識) はSiglec-F+好中球で有意に高かった (n=3、p<0.05) (Fig. 2H-2J)。

Siglec-F+好中球はM-CSFを介してマクロファージ分化を促進し、AT2修復を加速する:NanoString解析でSiglec-F+好中球はCsf1 (M-CSF [macrophage colony-stimulating factor] コード) を2.0-fold高発現しており (n=3、p<0.05) (Fig. 3A)、単球 (40,000個/well) と好中球 (80,000個/well) の5日間共培養実験でF4/80+マクロファージへの分化を著明に促進した (p<0.001)。この効果は抗CSF1中和抗体 (10 μg/mL) で部分的に抑制された (n=3) (Fig. 3B, 3C)。共培養5日後のマクロファージはKgf/Fgf7を高発現し (n=4、p<0.05)、上皮成長因子産生型マクロファージへの分化が示された (Fig. 3E)。AT2の免疫蛍光法・フローサイトメトリー解析では24時間後に減少し72時間後に基準値へ回復するパターンを示し、Siglec-F+好中球の出現と時間的に並行した (n=3〜5) (Fig. 3F-3I)。好中球除去 (αLy6G抗体) では72時間後のAT2回復が有意に障害され (n=3〜4、p<0.01)、SP-C+細胞の減少と組織学的肺障害スコアの増加が確認された (Fig. 4E-4I)。Siglec-F+好中球の養子移入 (8時間後、n=6) ではSiglec-F-移入群と比較してKi67+AT2の頻度 (p<0.05) とAT2総数 (p<0.05) が増加し、Sftpa・Sftpb・Sftpc・Sftpdの転写産物とKgf・Areg (amphiregulin)・Fgf10 (fibroblast growth factor 10) が有意に上昇した (n=4〜5、p<0.05) (Fig. 5D-5L)。

TGFβ+GM-CSF/AP-1軸がSiglec-F+好中球への分化を誘導する:ALI後24時間の肺組織でTGFβおよびGM-CSFが一過性に上昇し (p<0.05)、Siglec-F+好中球の出現に先行した。マウス骨髄Siglec-F-好中球をTGFβ+GM-CSF (各10 ng/mL) で一晩培養するとSiglec-F+細胞への変換が誘導されたが (n=4〜6)、単独刺激では誘導されなかった (Fig. 6A)。NanoString解析でSiglec-F+好中球においてJun (AP-1サブユニット) が有意に上昇しており (p<0.05) (Fig. 6B)、AP-1阻害剤SR11302 (20 μMおよび40 μM) の前処理でTGFβ+GM-CSFによるSiglec-F誘導が濃度依存的に抑制された (p<0.05) (Fig. 6C)。ヒト健常者末梢血好中球 (n=6) へのTGFβ+GM-CSF刺激でも、CSF1・TGFBR1・CEBPB・IL1RNの上昇とITGB2・TLR8・CXCR1の低下が確認され (paired t検定、p<0.05)、超分葉核の増加 (≥6 lobes、p<0.05) が認められた (Fig. 6D, 6E)。14,942共通遺伝子を用いたPCA (principal component analysis) でヒトとマウスの転写プロファイルが類似したシフトを示した。

ALOX15発現・17-HDHA産生と臨床的意義:NanoString解析でSiglec-F+好中球はAlox15を強発現し (p<0.01)、免疫ブロット法でALOX15タンパク質増加が確認された (n=4〜5) (Fig. 7B)。ヒト好中球へのTGFβ+GM-CSF刺激でもALOX15発現の増加が確認された (n=4、p<0.05) (Fig. 7C)。Siglec-F+好中球にDHA (1 μM) + zymosan A刺激を加えたLC-MS/MS解析 (MRM m/z 343→245、TR=16.83 min) では、Siglec-F-好中球と比較してS/N比484.8対120.3と4倍超の高い17-HDHA産生が確認された (n=20〜25マウス分プール) (Fig. 7L, 7M)。Alox15-/-マウスおよびMrp8cre;Alox15fl/flマウスでは、72時間後のBAL好中球数増加・AT1 (alveolar type I epithelial cells) 細胞数減少 (p<0.05)・BALF総タンパク・アルブミン上昇 (p<0.05) が認められ、ALI解消の遅延が示された (n=7〜10) (Fig. 7E-7J)。17-HDHAおよびRvD3の外因性投与 (各100 ng、静脈内、傷害24・36時間後) は48時間後のAT2数を増加させ (p<0.05)、RvD3はBALマクロファージCD206発現を増加させ (p<0.05)、BALF総タンパクを有意に低下させた (p<0.05) (Fig. 8B, 8E, 8J)。ICU ARDS患者BAL (n=8、Berlin基準診断) ではALOX15+好中球頻度がPaO2/FiO2比と有意に正相関した (Spearman相関、p<0.05) (Fig. 7D)。

考察/結論

本研究は、ALI解消期の肺実質に出現するSiglec-F+ALOX15+好中球サブセットが、SPM産生 (17-HDHA)・Csf1産生による単球→マクロファージ分化促進・AT2上皮再生という複合的な解消促進プログラムを担うことを本研究で初めて示した。これは好中球を「炎症を引き起こすだけでなく積極的に解消を駆動する多機能的エフェクター」として捉え直す新規な概念的転換を提示するものである。

先行研究との違いと独自性: これまでの研究では、腫瘍・腎傷害・心筋傷害においてSiglec-F+超分葉好中球が報告されていたが、それらはいずれも線維化と関連した病的な役割を持つと示されていた。これに対照的に、本研究のALI解消期Siglec-F+好中球は一過性のコラーゲン蓄積後に増加し、TNF関連経路を活性化しながら線維化なく解消を促進した。また、既報ではSiglec-F+好中球のSPM産生能は不明であったが、本研究ではLC-MS/MSによりSiglec-F+好中球が17-HDHAを直接産生することを実証した。TGFβ+GM-CSFの「組み合わせ」 (単独では不十分) がJun/AP-1を介してSiglec-F+好中球への分化を誘導するという分子機序の解明も新規の知見である。ヒト好中球で類似した転写変化と超分葉核形成が再現されたことから、種を超えた保存された生物学的プログラムである可能性が示された。

臨床的意義: ARDSのBAL中ALOX15+好中球頻度がPaO2/FiO2比と正相関するという知見は、解消促進好中球サブセットがARDSの疾患経過・予後予測の臨床的意義のあるバイオマーカーとなる可能性を示唆する。17-HDHAおよびRvD3の外因性投与がAT2回復を加速し肺バリア障害を改善するという知見は、解消促進メディエーターを活用したbench-to-bedside的なALI/ARDS治療の橋渡し研究の根拠となる。TGFβ+GM-CSF経路の調節や解消促進好中球の誘導・養子移入療法も将来の臨床応用として探索に値する。

残された課題: 本研究にはいくつかのlimitationが存在する。まず、ヒト好中球にSiglec-Fが発現しないという種差があり、ヒト組織内の解消促進好中球サブセットの完全な同定には追加マーカーの探索が必要である。ARDS患者サンプル (n=8) が少数であり、future researchとして大規模縦断的臨床研究が必要である。17-HDHAとRvD3の受容体はいまだ同定されておらず、更なる検討により受容体とその下流シグナルの解析が求められる。Siglec-F+ALOX15+好中球が慢性炎症疾患 (喘息・COPDなど) や全身性炎症状態においても解消的役割を担うかどうかも今後の研究課題として残されている。

方法

動物実験とALIモデル: BALB/c (JAX #000651) およびC57BL/6Jマウス (JAX #000664、8〜10週齢雄) を主に使用した。左肺気管支へのHCl (0.1 mol/L, pH 1.1, 50 μL) 選択的注入によりALIを誘発し、0・24・48・72時間後に安楽死させてBAL (bronchoalveolar lavage: 気管支肺胞洗浄) 液・肺・脾臓・骨髄・血液を回収した。Siglec-F+細胞の好酸球との区別には好酸球欠損マウス (ΔdblGATAマウス: GATA-1 [GATA binding protein 1] プロモーター欠損により好酸球系統を選択的に欠く) を使用した。遺伝子改変マウスとして全身Alox15 (arachidonate 15-lipoxygenase) 欠損マウス (B6.129S2-Alox15tm1Fun/J, JAX #002770: Alox15-/-) および好中球特異的Alox15欠損マウス (Mrp8 [myeloid-related protein 8]-Cre;Alox15fl/fl [fl: loxP-flanked exon]: B6.Cg-Tg(S100A8 [calgranulin A]-cre,-EGFP)1IlwとB6.CgAlox15tm1.1Nadl/Jの交配) を使用した。細菌性肺炎モデルとしてS. pneumoniae (ATCC 6303, 5×10^4 CFU [colony-forming units]) 経鼻接種も実施した。

フローサイトメトリーとソーティング: 好中球はCD45+F480-CD11c-CD11b+Ly6G+で定義し、Siglec-F+およびSiglec-F-に層別化した。FACSAria Fusionでソーティングを行い、転写解析 (NanoString Inflammation CodeSet: マウス248免疫遺伝子・ヒト579免疫遺伝子) および機能実験に供した。bulk RNA-seq (Illumina 2×150, 6 Gb, 40M paired-end読み取り) をTrimmomatic・SortMeRNA・Salmonで前処理し、DESeq2 v1.36.0で差次発現解析 (変動遺伝子基準: P<0.05、|log2 fold change|>0.25) を実施した。統計はStudent t検定・Mann-Whitney U検定・一元配置ANOVA (post hoc: Tukey/Šidák/Dunnett多重比較)・二元配置ANOVA・Spearman相関を使用し、GraphPad Prism v10で解析した。全結果はmean ± SEMで示した。

機能・介入実験: 単球 (40,000個) -好中球 (80,000個) 5日間共培養で抗CSF1中和抗体 (10 μg/mL) を使用してM-CSF依存性を確認した。養子移入実験ではFACSソート済みSiglec-F+またはSiglec-F-好中球 (2×10^5個) をALI 8時間後に気管内投与した (n=6)。好中球除去には抗Ly6G抗体 (1A8、400 μg、傷害24時間前に腹腔内、以後270 μg/日) を使用した。TGFβ+GM-CSF誘導実験ではrecombinant TGFβおよびGM-CSF (各10 ng/mL) で一晩培養し、AP-1 (activator protein-1) 阻害剤SR11302 (20 μMおよび40 μM) で阻害実験を実施した。

SPM代謝脂質解析: Siglec-F+好中球 (5×10^5個) をDHA (1 μM) + zymosan A (1 mg/mL) で2時間刺激し、LC-MS/MS (liquid chromatography-tandem mass spectrometry: QTRAP 6500+、MRM [multiple reaction monitoring] モード m/z 343>245) により17-HDHAを定量した。外因性17-HDHAまたはRvD3 (resolvin D3) 各100 ngを傷害24・36時間後に静脈内投与して解消促進効果を評価した。ヒトARDSサンプル: ICU (intensive care unit) 患者8名のBAL (Berlin基準でARDS診断) でALOX15+好中球頻度とPaO2/FiO2比の相関をSpearman相関で解析した。