- 著者: Alex Marki, Klaus Ley
- Corresponding author: Klaus Ley (La Jolla Institute for Immunology / University of California, San Diego)
- 雑誌: Immunological Reviews
- 発行年: 2022
- Epub日: N/A
- Article種別: Review
- PMID: 35665941
背景
好中球はヒト血液中で最も豊富な免疫細胞であり、細菌・真菌感染に対する宿主防御の最前線を担うだけでなく、敗血症、自己免疫疾患、慢性閉塞性肺疾患 (COPD)、アテローム性動脈硬化、癌など多様な病態に深く関与することが知られている (Ley et al. 2018)。好中球は脱顆粒、好中球細胞外トラップ (NETs) 放出、サイトカイン分泌など多彩なカーゴ放出機構を有し、これらの機構を通じて局所の炎症、組織リモデリング、免疫調節を担う。特にNETsは、DNAとヒストン、顆粒タンパク質からなる網状構造を細胞外に放出し、病原体を捕捉・殺菌する重要な役割を持つことが Brinkmann et al. Science 2004 により報告されている。NETsの病態生理学的意義については、Papayannopoulos et al. NatRevImmunol 2018 や Warnatsch et al. Science 2015 など、多数の先行研究で詳細に検討されてきた。
近年、細胞外小胞 (EV: Extracellular Vesicles) は細胞間コミュニケーションの重要な媒体として注目を集めている。EVは、細胞膜に覆われ、自己複製能を持たない、親細胞よりも小さい構造体と定義される Thery et al. JExtracellVesicles 2018。好中球由来EVの研究は1998年以降55報以上が報告されているが、そのほとんどは従来のexosome (多胞体の細胞膜融合由来、直径50-150 nm) とectosome (細胞膜からの直接出芽、直径100 nm-1 μm) に焦点が置かれていた vanNiel et al. NatRevMolCellBiol 2018。エクソソームの生合成、分泌、細胞間相互作用については、Colombo et al. AnnuRevCellDevBiol 2014 が包括的にレビューしている。
しかし、近年、アポトーシス小胞 (apoptotic EVs)、細胞質体 (cytoplast)、ミグラソーム (migrasome)、ENDS (elongated neutrophil-derived structures) といった新興の好中球由来EVサブタイプが次々と発見された。これらのサブタイプは、従来のexo/ectosomeとは異なる形成機序、物理的特性、カーゴ、および機能を持つが、既存の命名規則では十分に捕捉されず、その全体像や相互関係については系統的な整理が不足していた。特に、各サブタイプのin vivoでの動態や疾患病態における役割については、未解明な点が多く残されており、好中球が放出する多様なEVの全体像を包括的に理解するためのギャップが存在した。
目的
本レビューは、好中球由来EVの全体像を俯瞰し、特に従来のexosome/ectosomeに留まらない新興サブタイプ—アポトーシス小胞、細胞質体 (cytoplast)、ミグラソーム (mitosomeを含む)、ENDS—を形成機序、物理的特性、カーゴ、機能、検出手法、および臨床的意義の観点から体系的に整理することを目的とする。これにより、好中球が放出する多様なEVが免疫応答や疾患病態にどのように関与するかを包括的に理解するための基盤を提供することを目指す。
結果
好中球由来エクソソーム/エクトソームの特性と機能: エクソソームは多胞体 (MVB) が細胞膜と融合して放出される直径50-150 nmの球状小胞であり、エクトソームは細胞膜から直接出芽し、直径100 nm-1 μmの範囲に分布する (Figure 1)。現在のサイズ差分離がexosome/ectosome比率推定に用いられているが、信頼できる分子マーカーによる区別は依然として困難である。Mathieu et al. NatCommun 2021 など、エクソソームとエクトソームの分泌特異性に関する研究も進められているが、その組成と機能の差異は未だ完全には解明されていない。定量的には、imaging cytometry (ImageStream-Amnis) が、Ly6G (マウス)/CD66b (ヒト) マーカーを用いた絶対定量、表面マーカー評価、形態情報取得の全てを可能にする最優秀な手法と評価される (Table 1)。健常者血漿では約100-1,000個/μlの好中球由来exo/ectosomeが検出されるが、敗血症患者では120,000個/μl以上に達し、健常者の約100倍に増加することが報告されている。好中球由来exo/ectosomeは、COPD病態への関与 (neutrophil elastaseをα1-antitrypsinから保護して肺胞障害を増悪)、血小板活性化 (アラキドン酸を転送)、好中球スウォーミング促進 (leukotriene B4: LTB4の放出時間延長)、アテローム性動脈硬化促進 (miR-155を内皮細胞に転送)、炎症性腸疾患への関与 (miR-26aとmiR-155を上皮細胞に転送)、および抗菌活性 (菌を凝集させて増殖阻害) など、多彩な機能を発揮する。これらの機能は、Mathieu et al. NatCellBiol 2019 が指摘するように、細胞間コミュニケーションにおけるEVの多様な役割を反映している。
アポトーシス小胞 (Apoptotic Extracellular Vesicles) の形成と検出: アポトーシス時、caspase-3によるRho kinase 1 (ROCK1) 活性化が細胞収縮を引き起こし、膜ブレビング (membrane blebbing) により直径1-5 μmの大型アポトーシス小体と50 nm-1 μmの小型アポトーシスEVが形成される (Figure 1)。また、Plexin-B2とPannexin-1チャネル制御下でapoptopodia (糸状突起) が形成され、beaded apoptopodiaから直径1-4 μmのアポトーシス小体が分離する場合もある。好中球は体重1 kg当たり毎日約10億個が産生され、数時間以内に大部分がアポトーシスしてマクロファージ・樹状細胞に捕食される (efferocytosis)。この定常的アポトーシスにより好中球由来アポトーシス小胞も恒常的に産生されると推測されるが、「eat me」シグナル (ホスファチジルセリン: PS露出) と「don’t eat me」シグナル (CD47) の変化により局所マクロファージに速やかに貪食されるため、循環血液中での検出は困難である。アポトーシス小体の同定では、Poon et al. (2014年) が導入したTO-PRO-3 Iodide染色法 (pannexin-1チャネルを通じたdye取り込み後、二本鎖DNAに結合) がフローサイトメトリーでの同定に有用だが、DNA非含有の小体では適用不可であり、PSの特異性もexo/ectosome上での露出が報告されているため問題となる。in vitroでは、培養後1日時点での好中球由来EVの>85%がAnnexin-5陽性となることが報告されている。しかし、Skotland et al. ProgLipidRes 2017 が指摘するように、PSはエクソソームにも存在し得るため、アポトーシス小胞の特異的マーカーとしての課題が残る。全身性エリテマトーデス (SLE) 患者の血液中のEVを解析した研究では、Annexin-5陽性かつアポトーシス修飾ヒストン陽性のEVのうち15%が好中球由来 (CD31+CD45+CD66b+) であることが示され、in vivoでの好中球由来アポトーシスEVの放出が示唆されている (Dieker et al. 2016)。
Cytoplast (細胞質体) の形成と機能: 好中球細胞質体 (cytoplast) は、NETs放出後にDNAを核ごと排出した後に残存する無核好中球体である (Figure 1)。直径3-5 μm、好中球表面マーカー (Ly6G、CD66b) 陽性、PS陰性、顆粒を保持する点でアポトーシス小体と識別可能である (Table 2)。歴史的にはin vitro作製が先行し (Roos et al. 1983)、遊走、食作用、LTB4産生、細菌殺菌能を保持することが確認されていた。凍結保存後でもこれらの機能が維持されることから治療応用の可能性も模索された。In vivoでのcytoplast形成は、Yipp et al. (2012年) により化膿性レンサ球菌感染皮膚モデルで初めて報告された。以降、深部静脈血栓 (DVT)、アテローム性動脈硬化プラーク、肺感染、肝臓、消化管など多様な部位でのNETs放出に伴うcytoplast形成が示唆されているが、これらの研究ではcytoplastの存在自体は直接的に調査されていない場合が多い。Krishnamoorthy et al. (2018年) は、house dust mite/リポ多糖 (LPS) マウスモデルで肺cytoplastが樹状細胞を活性化してCD4+T細胞からの抗原特異的インターロイキン-17 (IL-17)・インターロイキン-13 (IL-13) 産生を増強し、好中球性重症喘息を悪化させることを示した。この研究では、ペプチジルアルギニンデイミナーゼ4 (PAD4) 欠損マウスにおいてLPSによるNET放出とcytoplast形成が抑制されることが確認された。重症喘息患者の気管支肺胞洗浄液 (BALF) からもCD45+CD66b+CD16+DNA陰性のcytoplastが検出されており、臨床的意義が示唆される。Cytoplastはアポトーシス小体と類似したサイズ (3-5 μm) を持つが、PSの欠如と高い細胞内顆粒性によりフローサイトメトリーで識別可能である。
Migrasome (ミグラソーム) と Mitosome (ミトソーム) の特性と役割: ミグラソームは、遊走細胞のウロポドから伸びる牽引線維 (traction fiber) の先端や分岐点に形成される直径2-3 μmの球状小胞である (Figure 1)。テトラスパニン-4、コレステロール、活性化α5β1インテグリンが形成に必要であり、各ミグラソームは最大300個の小型小胞を内包できる。プロテオーム解析では、Kowal et al. ProcNatlAcadSciUSA 2016 が示したように、exosomeと27%しか重複せず、遊走・接着関連タンパク質に富むことが示されている。好中球ミグラソームの重要な機能として、Lim et al. (2015年) がマウス気管でのインフルエンザ感染モデルで、遊走好中球が残置するミグラソームがCXCL12を放出し、インフルエンザ特異的CD8+T細胞の気道への遊走を誘導することを示した。CXCR4阻害剤でこの現象が減衰することから、ミグラソームが好中球-T細胞間のクロストークを媒介する「道しるべ」として機能すると考えられる。Jiao et al. (2021年) は、マウス好中球で膜電位が低下した損傷ミトコンドリアを含有するミグラソーム (mitosome) が形成されることを発見した。このミトソーム形成プロセスをmitocytosisと命名した (Figure 1)。テトラスパニン-9欠損マウスではミトソーム産生が減少し、脾臓好中球のミトコンドリア膜電位が低下することから、mitocytosisが損傷ミトコンドリアの品質管理 (QC: Quality Control) 機構として機能する可能性が示唆される。
ENDS (Elongated Neutrophil-Derived Structures) の発見と機能: ENDSは、Markiらグループ自身 (Marki et al. J Exp Med 2021年) が敗血症マウスおよび患者血液で同定した細長い膜構造体である。ローリング好中球の微絨毛が血管内の壁ずり応力 (wall shear stress) によって引き伸ばされ、テザーが破断することで形成される (Figure 1)。ENDS数は壁ずり応力の大きさと正相関し、特定の約6%の好中球のみがENDS形成に寄与し、残りの94%は寄与しないことが示されている。ENDSは中央値7 μm長 (最長10 μm超)、115 nm厚の細長い管状膜構造であり、好中球マーカー (Ly6G、CD11a/b、CD66b、CD16) を発現し、機能的接着分子を保持する。細胞質を含むが、ミトコンドリア、小胞体、DNAは含まない (Table 2)。プロテオーム解析では、S100A8/S100A9 (MRP8/14) を高濃度に含有することが示された。ENDS内腔はカルシウム (Ca) を除外できる間、MRP8/14複合体を損傷関連分子パターン (DAMP: Damage-Associated Molecular Pattern) として保護・輸送し、分解後にToll-like Receptor 4 (TLR-4) リガンドとして放出することで炎症を増幅する可能性がある。MRP8/14はCaの存在下で急速に不活化されるため、ENDSが一過性にCaから保護することでその活性を維持したまま遠隔部位への輸送が可能になる。ENDS形成に関与する好中球の特性については未解明な点が多く、ENDSを放出した好中球がどのように循環を離れるのかも不明である。
EVサブタイプの比較と検出技術: 各サブタイプのサイズ、形状、形成機序、オルガネラ含有、in vivo分布、機能的特性はTable 2に詳細に整理されている。主要な鑑別点として、cytoplastは遊走、食作用、脱顆粒機能を保持するが、exosome、ectosome、ENDS、migrasomeは遊走しない。また、cytoplastは表面ホスファチジルセリン (PS) を露出しない点でアポトーシス小体と区別可能である (サイズは類似)。検出技術については、電子顕微鏡法、Nanoparticle Tracking Analysis (NTA)、Dynamic Light Scattering (DLS)、超高感度フローサイトメトリー、Imaging Cytometryの5種類が比較されている (Table 1)。Imaging Cytometryは、定量性、表面マーカー評価、形態情報の3要素を唯一組み合わせられる最優秀手法として位置づけられている。しかし、超遠心分離によるEVの凝集や凍結融解による膜完全性の低下など、サンプル調製における課題も指摘されており、これらの要因がEVの正確な定量および特性評価を妨げる可能性がある。
考察/結論
好中球由来細胞外小胞 (EV) ファミリーは、従来のexosome/ectosomeから、アポトーシス小胞、細胞質体 (cytoplast)、ミグラソーム (mitosomeを含む)、ENDSへと急速に拡大しており、各サブタイプが独自の形成機序、カーゴ、および機能を持つことが明らかになった。
① 先行研究との違い: これまでの好中球研究では、主に脱顆粒やNETs放出といった膜に覆われないカーゴ放出機構に焦点が当てられていたが、本レビューは、膜に覆われた多様なEVサブタイプが好中球の細胞間コミュニケーションにおいて果たす役割を詳細に整理した点で、従来の理解と対照的な、より複雑な好中球の生物学的役割を提示している。特に、各EVサブタイプが異なる時空間的文脈で機能を担うという知見は、単一のEVタイプでは説明できない好中球の多面的な影響力を示唆する点で、これまでの知見と大きく相違する。
② 新規性: 本レビューは、アポトーシス小胞、cytoplast、ミグラソーム/mitosome、ENDSといった比較的新規に発見された好中球由来EVサブタイプについて、その形成機序、物理的特性、カーゴ、機能、検出手法、および臨床的意義を包括的に統合・整理した点で新規な知見を提供する。特に、mitocytosisが損傷ミトコンドリアの品質管理 (QC) 機構として機能する可能性や、ENDSがMRP8/14複合体をカルシウムから保護しつつ遠隔部位へ輸送するメカニズムなど、本研究で初めて詳細に議論された機能的側面は、好中球生物学の新たな側面を切り開くものである。これらの知見は、これまで報告されていない好中球の細胞外小胞を介した多様な生理的・病理的役割を浮き彫りにする。
③ 臨床応用: 好中球由来EVの各サブタイプは、敗血症、COPD、アテローム性動脈硬化、喘息、全身性エリテマトーデス (SLE) など多様な疾患での関与が示唆されており、その疾患特異的な役割の解明は、将来的な診断バイオマーカーや治療標的としての臨床応用に向けて極めて重要な意義を持つ。例えば、敗血症患者における好中球由来exo/ectosomeの著しい増加 (健常者の約100倍) は、疾患重症度マーカーとしての可能性を示唆する。また、cytoplastが凍結保存後も機能維持するという特性は、治療的細胞surrogateとしての可能性を秘めており、bench-to-bedside研究の推進が期待される。これらのEVは、炎症性疾患の病態理解を深め、新たな治療戦略開発に繋がる臨床的有用性を持つと考えられる。
④ 残された課題: 各EVサブタイプのin vivoでの絶対定量、特異的表面マーカーの同定、および機能的追跡には、依然として技術的な課題が残されている。Imaging Cytometryの普及が鍵となるが、シングルEV解像度での質量分析との統合など、次世代技術の開発が今後の検討課題である。また、特定の好中球のみがENDS形成に寄与するメカニズムや、癌微小環境における好中球由来EVの腫瘍促進/抑制効果の解明など、各サブタイプの生物学的役割に関する詳細なメカニズムの解明も今後の研究方向性として重要である。さらに、EVのサンプル調製における課題 (例: 超遠心分離による凝集) を克服するための標準化されたプロトコルの確立も、残された重要な課題である。
方法
本論文は招待総説 (Invited Review) であり、特定の実験手法は用いられていない。好中球由来細胞外小胞 (EV) に関する既存の関連文献を網羅的にレビューし、国際細胞外小胞学会 (ISEV) の最新コンセンサスガイドラインである Thery et al. JExtracellVesicles 2018 を参照軸として、各EVサブタイプを形成機序、サイズ、形状、オルガネラ含有、表面マーカー、機能的特性、in vivo分布、および検出技術の観点から分類・整理した。文献検索は、好中球、細胞外小胞、エクソソーム、エクトソーム、アポトーシス小胞、細胞質体、ミグラソーム、ENDSなどのキーワードを用いて実施された。特に、各サブタイプの比較はTable 2に、主要な高感度EV解析技術の比較はTable 1にまとめられている。また、Figure 1では各サブタイプの形成機構、サイズ、オルガネラ含有が模式的に示されており、これらの図表を通じて、複雑なEVファミリーの特性を視覚的に統合し、読者の理解を促進するよう工夫された。本レビューでは、特に未解明な点が多いアポトーシス小胞、細胞質体、ミグラソーム、ENDSに焦点を当て、それらの生物学的意義を深く掘り下げて考察した。